◇No.24◇三か月前の悲劇です
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重傷を負った海賊は、担架に乗せられて運ばれて行きました。
事情の説明は子供には無理だろうと判断され、エレンの父親であるグリシャが、海軍に説明をしていました。
その様子をただぼんやりと、エレンとミカサ、アルミンは眺めていました。
(どうしてこんなことになったんだっけ…?)
エレンは、まわらない頭でぼんやりと考えますが、一向に答えは見つかりません。
そもそも、見つかるわけがないのです。
だって、ミカサの両親が殺され、彼女がひとりぼっちになってもいい理由など、この世の中のどこを探してもないのですから。
「エレン!!」
海軍と話しを終えたグリシャが、エレンの元に駆け寄り、力強く抱きしめました。
彼は、震える腕で、痛いほどに抱きしめ、息子が無事に生きていることを確かめます。
ひとしきり抱きしめた後、グリシャは身体をそっと離すと、怖い顔をして息子を怒鳴りつけました。
「何てことを…!お前は…自分が何をしたのか分かっているのか…!?」
「有害な獣を駆除した!!たまたま人と格好が似てただけだ!!」
エレンは、目をカッと見開き、言い返します。
「エレン!!」
「こんな時間に海軍が来ても、奴らはとっくに移動してた!!
ミカサは連れ去られてたかもしれない!!」
「もしそうだとしてもだ!エレン!!お前は運が良かっただけだ!
私はお前が自分の命を軽々に投げ打ったことを咎めているんだ…!」
グリシャは、息子を怒鳴りつけます。
アルミンから最初にアッカーマン夫妻に起きた悲劇を聞かされたのは、自宅兼診療所で診察をしている途中だったグリシャでした。
血の跡を辿って、エレンが海賊を追いかけたとアルミンから聞いて、血の気が引いたのです。
アッカーマン夫妻を躊躇いなく殺した海賊に、自分の息子も奪われてしまうかもしれないと、そのとき、今まで感じたことのないほどの恐怖が、彼を襲いました。
何を叱られているのか、エレンも分かっていないわけじゃありません。
グッと唇を噛んだ後、エレンは小さく目を伏せました。
すると、大きな瞳に、じわっと涙が浮かびました。
「でも…。」
エレンは震える声で、言いました。
「早く…、助けて、やりたかった…。」
エレンの大きな瞳から涙が落ちて、ツーッと頬を伝っていきます。
グリシャは、もう何も言えませんでした。
彼が息子の命の心配をしていたとき、息子もまた、幼い頃からの大切な友人の命の心配をしていたのです。
エレンがしたことは、とても危険でしたし、決して褒められたことではありません。
それでも、エレンの勇気と正義感が、ミカサを救ったこともまた、事実なのです。
グリシャは、ミカサへ視線を這わせました。
涙を流すエレンの隣で、ミカサはただぼんやりと遠くを見ていました。
突然の両親の死、しかも殺害され、自分も危うく売り飛ばされるところだったのです。
ミカサの心はもう、死んでしまっているのかもしれない——。
グリシャは、そう感じました。
「ミカサ、帰ろうか。」
グリシャはゆっくりと立ち上がると、ミカサに手を差し伸べました。
少しだけ目線を下げて、ミカサが差し伸べられた手を見下ろします。
そして、ゆっくりと口を開きました。
「ここから…、どこに向かって、帰ればいいの?
寒い…。私には…、もう…、帰るところがない…。」
ミカサは、訊ねました。
差し伸べられた手を見下ろした目は灰色で、彼女は、グリシャや、幼馴染のエレンとアルミンの前にいても、ひとりぼっちでした。
父親とミカサのやりとりを見ていたエレンが、不意に自分が巻いていたマフラーを外しました。
「これ、やるよ。」
エレンは、そう言いながら、ミカサの首に外したばかりのマフラーを巻いてやりました。
不器用なエレンのやり方では、ミカサの口元まで隠れてしまいました。
「あったかいだろ?」
「・・・あったかい。」
マフラーに隠れた口から、漸く、生きている人間らしい声が返ってきました。
「ミカサ、私達の家で一緒に暮らそう。」
グリシャは、両膝に手を置き、身体を屈めてミカサと目線を合わせると、そう言いました。
「え…。」
「辛いことがたくさんあった…。
君には十分な休息が必要だ…。」
「…。」
ミカサは答えませんでした。
肯定も、否定もせず、ただ視線だけをエレンに向けます。
その視線に気づいたエレンが、口を開きました。
「なんだよ?ほら。」
エレンは、ミカサの手を握りました。
「早く帰ろうぜ。
———————俺達の家に。」
エレンが、ミカサの手を引きました。
その手が、壊れていたミカサの心に、温かさを思い出させました。
戻って来たばかりの心はまだ、悲しみで溢れていましたが、そのとき、ミカサにとってエレンの温もりがすべてになりました。
じんわりと温かくなった心のように、瞳からもじんわりと涙が溢れます。
「…うん、帰る…。」
ミカサが小さく頷くと、溢れた涙が零れて落ちます。
「行こう…!」
アルミンも、ミカサの反対の手をギュッと握りました。
大切な友人達に手を引かれて、ミカサは泣きました。
握り返せば、強く握り返してくれる彼らの手を何度も何度も握り返して、一緒に家までの道を歩きながら、ずっと、ずっと、泣いていました。
エレンが巻いてくれたえんじ色のマフラーの色が変わってしまうくらい、思いっきり声を上げて泣きました。
不思議なのは、エレンとアルミンも一緒に、泣いていたことでしょうか。
でも、幼い頃からずっと、楽しいことも悲しいことも一緒に分け合ってきた彼らにとって、ミカサの悲鳴と痛みも、自分達のものだったのかもしれません。
事情の説明は子供には無理だろうと判断され、エレンの父親であるグリシャが、海軍に説明をしていました。
その様子をただぼんやりと、エレンとミカサ、アルミンは眺めていました。
(どうしてこんなことになったんだっけ…?)
エレンは、まわらない頭でぼんやりと考えますが、一向に答えは見つかりません。
そもそも、見つかるわけがないのです。
だって、ミカサの両親が殺され、彼女がひとりぼっちになってもいい理由など、この世の中のどこを探してもないのですから。
「エレン!!」
海軍と話しを終えたグリシャが、エレンの元に駆け寄り、力強く抱きしめました。
彼は、震える腕で、痛いほどに抱きしめ、息子が無事に生きていることを確かめます。
ひとしきり抱きしめた後、グリシャは身体をそっと離すと、怖い顔をして息子を怒鳴りつけました。
「何てことを…!お前は…自分が何をしたのか分かっているのか…!?」
「有害な獣を駆除した!!たまたま人と格好が似てただけだ!!」
エレンは、目をカッと見開き、言い返します。
「エレン!!」
「こんな時間に海軍が来ても、奴らはとっくに移動してた!!
ミカサは連れ去られてたかもしれない!!」
「もしそうだとしてもだ!エレン!!お前は運が良かっただけだ!
私はお前が自分の命を軽々に投げ打ったことを咎めているんだ…!」
グリシャは、息子を怒鳴りつけます。
アルミンから最初にアッカーマン夫妻に起きた悲劇を聞かされたのは、自宅兼診療所で診察をしている途中だったグリシャでした。
血の跡を辿って、エレンが海賊を追いかけたとアルミンから聞いて、血の気が引いたのです。
アッカーマン夫妻を躊躇いなく殺した海賊に、自分の息子も奪われてしまうかもしれないと、そのとき、今まで感じたことのないほどの恐怖が、彼を襲いました。
何を叱られているのか、エレンも分かっていないわけじゃありません。
グッと唇を噛んだ後、エレンは小さく目を伏せました。
すると、大きな瞳に、じわっと涙が浮かびました。
「でも…。」
エレンは震える声で、言いました。
「早く…、助けて、やりたかった…。」
エレンの大きな瞳から涙が落ちて、ツーッと頬を伝っていきます。
グリシャは、もう何も言えませんでした。
彼が息子の命の心配をしていたとき、息子もまた、幼い頃からの大切な友人の命の心配をしていたのです。
エレンがしたことは、とても危険でしたし、決して褒められたことではありません。
それでも、エレンの勇気と正義感が、ミカサを救ったこともまた、事実なのです。
グリシャは、ミカサへ視線を這わせました。
涙を流すエレンの隣で、ミカサはただぼんやりと遠くを見ていました。
突然の両親の死、しかも殺害され、自分も危うく売り飛ばされるところだったのです。
ミカサの心はもう、死んでしまっているのかもしれない——。
グリシャは、そう感じました。
「ミカサ、帰ろうか。」
グリシャはゆっくりと立ち上がると、ミカサに手を差し伸べました。
少しだけ目線を下げて、ミカサが差し伸べられた手を見下ろします。
そして、ゆっくりと口を開きました。
「ここから…、どこに向かって、帰ればいいの?
寒い…。私には…、もう…、帰るところがない…。」
ミカサは、訊ねました。
差し伸べられた手を見下ろした目は灰色で、彼女は、グリシャや、幼馴染のエレンとアルミンの前にいても、ひとりぼっちでした。
父親とミカサのやりとりを見ていたエレンが、不意に自分が巻いていたマフラーを外しました。
「これ、やるよ。」
エレンは、そう言いながら、ミカサの首に外したばかりのマフラーを巻いてやりました。
不器用なエレンのやり方では、ミカサの口元まで隠れてしまいました。
「あったかいだろ?」
「・・・あったかい。」
マフラーに隠れた口から、漸く、生きている人間らしい声が返ってきました。
「ミカサ、私達の家で一緒に暮らそう。」
グリシャは、両膝に手を置き、身体を屈めてミカサと目線を合わせると、そう言いました。
「え…。」
「辛いことがたくさんあった…。
君には十分な休息が必要だ…。」
「…。」
ミカサは答えませんでした。
肯定も、否定もせず、ただ視線だけをエレンに向けます。
その視線に気づいたエレンが、口を開きました。
「なんだよ?ほら。」
エレンは、ミカサの手を握りました。
「早く帰ろうぜ。
———————俺達の家に。」
エレンが、ミカサの手を引きました。
その手が、壊れていたミカサの心に、温かさを思い出させました。
戻って来たばかりの心はまだ、悲しみで溢れていましたが、そのとき、ミカサにとってエレンの温もりがすべてになりました。
じんわりと温かくなった心のように、瞳からもじんわりと涙が溢れます。
「…うん、帰る…。」
ミカサが小さく頷くと、溢れた涙が零れて落ちます。
「行こう…!」
アルミンも、ミカサの反対の手をギュッと握りました。
大切な友人達に手を引かれて、ミカサは泣きました。
握り返せば、強く握り返してくれる彼らの手を何度も何度も握り返して、一緒に家までの道を歩きながら、ずっと、ずっと、泣いていました。
エレンが巻いてくれたえんじ色のマフラーの色が変わってしまうくらい、思いっきり声を上げて泣きました。
不思議なのは、エレンとアルミンも一緒に、泣いていたことでしょうか。
でも、幼い頃からずっと、楽しいことも悲しいことも一緒に分け合ってきた彼らにとって、ミカサの悲鳴と痛みも、自分達のものだったのかもしれません。