◇No.23◇凍える島へやって来ました
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島に上陸したハートの海賊団の船員達は、中心街へ向かって歩いていました。
積もった雪を踏む度に、ジャリッジャリッと靴が鳴り、刺すような冷気が、着こんでいるコートを通り越して肌を刺します。
凍える彼らからは、悲鳴が途切れません。
それでも、1人残らず船を降り、中心街を目指しているのには、理由がありました。
実は、極寒の冬島のここは、有名なファッションブランドのショップや、五つ星レストラン、巨大カジノもある娯楽の島でもあるのです。
セレブが集うこの島に上陸することを船長のローに許されたのは、少し前に海上で襲ってきた身の程知らずの海賊船からがっぽりとお宝を手に入れることが出来たおかげでした。
思いがけず大金を手にした船員達は、この島に上陸する前から、初めてのカジノに胸を躍らせていました。
こんなチャンス、二度目があるかは分かりません。
ですから、寒さのせいにして、諦められるわけがないのです。
「ベポがセレブ島って言うから、もっとこう…ギラギラしてんのかと思ったら、
そうでもねぇって言うか、むしろ田舎だな~。」
「あぁ、何もねぇな。」
キョロキョロしながらシャチが言えば、ペンギンも大きく頷きました。
ハートの海賊団の船員達が歩いているのは、港から島の中心へと続く道でした。
20名以上のクルーが歩けるほどの広い道ですが、白い雪と道路脇に植えられている街路樹以外は、ポツリ、ポツリとこじんまりした商店がある程度です。
その店も、もうだいぶ前におりたっきり開いていなさそうな木製のシャッターで閉め切られていて、営業していないどころか、人の気配すらありません。
田舎町というよりも、廃村のようです。
「カジノがある中心街は、あの山のてっぺんだから。」
ベポが、遠くに見えている大きな山を指さしました。
この島の中心にそびえ立つそれは、島の面積のほとんどを占めているような大きな山です。
「ふもとのこの辺りは、もう誰も住んでねぇのかもしれねぇな。」
ジャンバールが、淋しい雰囲気の商店を見ながら言ったときでした。
街路樹の隙間から子供が飛び出してきました。
そして、ロー達の前に立ちはだかるように、ザザッと雪を滑るようにして足を止め、そこから微動だにしなくなりました。
10歳くらいの男の子です。
なぜか、錆の目立つ銀色のバケツを抱えていました。
思わず立ち止まったロー達を、少年の強い意志が宿っているような大きな瞳が、ギロリと睨みつけます。
シャチが、コートのポケットに両手をつっこんだままで腰を曲げて、上半身を前に出すようにして屈み、少年に声をかけました。
「なんだ、クソガキ?俺達に何か用が——。」
「駆逐してやる!!」
「は?」
ポカンとするシャチの視界の端で、長い髪が揺れるのが見えました。
その次の瞬間には、ローの前に両手を広げて立ったなまえが、少年が投げつけたバケツの水を、顔面から思いっきり浴びていました。
ザバーーンッと水がかかった大きな音と共に、ハートの海賊団の船員達の頭上にも、ほんの一瞬で小さな氷の結晶に変わった水飛沫が降ってきます。
ですが、なまえが身体を張って守ってくれたおかげで、この凍える冷気の中で、冷水まで浴びてしまった不憫過ぎる船員はいませんでした。
少年に狙われたらしいローも、頬に少し冷水がかかっただけで済みました。
ベポが慌ててなまえに声をかけました。
「なまえ!?大丈夫!?」
「はい、大丈夫です。私は暑くも寒くもありません。」
「そんな、痛くも痒くもないみたいに…!」
「はい、私は痛くも痒くもなりません。」
「そういうことじゃなくて…!」
この凍えるような寒さの中で水を浴びてしまったなまえの髪や顔には、多数の氷の結晶が出来ていました。
白く綺麗な肌の上で日光を浴びてキラキラと輝く氷の結晶は、ひどく幻想的です。
ですが、仲間が凍るのではないかと心配しているハートの海賊団の船員達には、そんな感想を抱く心の余裕はありません。
「なまえ、よくやった。こっち向け。顔を拭いてやる。」
「はい。」
なまえが素直に振り向きました。
ローは、コートのポケットから厚手のハンカチを取り出し、あっという間に氷の膜が張ってしまった顔を優しく拭ってやりました。
船大工のダイ達から、濡れるのはご法度だと言われているロボットのなまえですが、今回に限っては、船長を守るためだったのでお咎めもなしのようです。
この凍えるような寒さの中、頭から浴びた冷水があっという間に凍ったお陰で、機械に水が染み込むようなこともなさそうだったことも、ローや船大工のダイ達が落ち着いている理由のひとつでしょう。
それでも、見ているだけで寒いその姿に、ロー達が心を痛めていないわけではありません。
「おい、ガキ。てめぇ、どういうつもりでこんなことしやがった。」
なまえの顔をひと通り拭いた後、ローは少年を見下ろし、ギロリと睨みつけます。
海賊としてすぐに頭角を現し、一時は己の野望のために七武海にまで上り詰めたローは、同職の海賊でさえ一目置き、恐れおののく海賊のひとりです。
殺気を孕んだ睨みに、少年はたじろいで、思わず一歩後ろに足を下げました。
でも、拳を握り唇を噛むと、恐怖を堪えて踏み留まり、ローを睨み返しました。
ローが僅かに眉を顰めます。
睨み返してくる大きな瞳に、少年なりの強い意志と覚悟、そして、復讐の炎が宿っているように見えたのです。
「エレン、ちょっと待ってよ!!」
「また問題を起こしたらおばさんに怒られてしまう。」
ローと少年が睨み合いを続けていると、街路樹の隙間から、また子供が飛び出してきました。
1人は黒髪の綺麗な女の子、もう1人は金髪に蒼い瞳の可愛らしい男の子でした。
少年を睨みつけているローを見つけた後の彼らの反応は、全く正反対のものでした。
少女は、エレンと呼ばれた少年の隣に立ち、仇でも見るような恐ろしい目でローを睨み返しました。
ですが、金髪の少年は、ローを見るなり、顔色を真っ青にしてガタガタと震え始めました。
「ト…、トラ…っ、トラ、トラ…ッ、トラ…ッっ。」
恐らく、金髪の少年は、トラファルガーと言いたいのでしょう。
恐怖で震え、口がうまく回らないという様子です。
ですが、それを理解してやれないのが、機械のなまえです。
「トラではありません。ローは、人間です。」
「ロー!!」
「そうです。彼は、トラファ——。」
「トラファルガー・ローだよ!!エレン…ッ!何しちゃったの!すごい睨んでるけど!?
この女の人、びしょびしょだけど!?コートも着てないけど!!見てるだけで寒いんだけど!!
そこにエレンが持ってたバケツが転がってるのは関係ないと言ってくれぇぇぇぇえ!!」
真っ青な顔の金髪の少年は、エレンの両肩を掴み前後に激しく揺さぶりました。
黒髪の少女が、パニックを起こしている金髪の少年の肩に片手を乗せて、声をかけました。
「アルミン、やめて。エレンの首が飛ぶ。」
「その前に僕達の首が吹っ飛ぶんだよ…!!」
「うるせぇな…!は…っ、なせよ!!アルミン!!」
エレンは、金髪の少年の手を強引に振りほどきました。
アルミンと呼ばれた金髪の少年が、その勢いに押されて数歩後ずさりました。
「そのクソ海賊野郎に水ぶっかけて凍死させてやろうとしたら
その女が庇ったんだよ。それにその女、最初から見てるだけで寒かった。
だから俺は悪くねぇ。」
エレンが、つまらなそうに言いました。
その答えを聞いて、真っ青だったアルミンの顔色は、真っ白に変わりました。
「終わった…。もうダメだ…。殺される…。短い…人生だった…。」
アルミンは、膝から崩れ落ち、白い雪の上に両手をつきました。
雪が降り積もっていく彼の背中には、悲壮感が溢れています。
すると、なまえが一歩前に出て、エレンの前に立ちました。
思わずビクッとしたエレンの隣で、黒髪の少女がなまえを睨みます。
なまえは、膝を折り曲げて屈むこみ、エレンと視線を合わせました。
「ローは優しい人です。悪い海賊ではありません。
そして、私の大好きな人です。
だから、傷つけないでください。」
「海賊なんて、俺が駆逐してやる!!」
エレンが怖い顔をして声高く宣言しました。
強い意志を持ったその瞳は、誰が何と言っても、受け入れそうにありません。
「エレン!!」
街路樹の隙間から、また誰かが飛び出してきました。
今度は子供ではなく、綺麗な女性でした。
彼女は、戸惑っている様子の海賊と、海賊を睨みつけるエレン、打ちひしがれるアルミンを見て、すべてを悟ったようでした。
積もった雪を踏む度に、ジャリッジャリッと靴が鳴り、刺すような冷気が、着こんでいるコートを通り越して肌を刺します。
凍える彼らからは、悲鳴が途切れません。
それでも、1人残らず船を降り、中心街を目指しているのには、理由がありました。
実は、極寒の冬島のここは、有名なファッションブランドのショップや、五つ星レストラン、巨大カジノもある娯楽の島でもあるのです。
セレブが集うこの島に上陸することを船長のローに許されたのは、少し前に海上で襲ってきた身の程知らずの海賊船からがっぽりとお宝を手に入れることが出来たおかげでした。
思いがけず大金を手にした船員達は、この島に上陸する前から、初めてのカジノに胸を躍らせていました。
こんなチャンス、二度目があるかは分かりません。
ですから、寒さのせいにして、諦められるわけがないのです。
「ベポがセレブ島って言うから、もっとこう…ギラギラしてんのかと思ったら、
そうでもねぇって言うか、むしろ田舎だな~。」
「あぁ、何もねぇな。」
キョロキョロしながらシャチが言えば、ペンギンも大きく頷きました。
ハートの海賊団の船員達が歩いているのは、港から島の中心へと続く道でした。
20名以上のクルーが歩けるほどの広い道ですが、白い雪と道路脇に植えられている街路樹以外は、ポツリ、ポツリとこじんまりした商店がある程度です。
その店も、もうだいぶ前におりたっきり開いていなさそうな木製のシャッターで閉め切られていて、営業していないどころか、人の気配すらありません。
田舎町というよりも、廃村のようです。
「カジノがある中心街は、あの山のてっぺんだから。」
ベポが、遠くに見えている大きな山を指さしました。
この島の中心にそびえ立つそれは、島の面積のほとんどを占めているような大きな山です。
「ふもとのこの辺りは、もう誰も住んでねぇのかもしれねぇな。」
ジャンバールが、淋しい雰囲気の商店を見ながら言ったときでした。
街路樹の隙間から子供が飛び出してきました。
そして、ロー達の前に立ちはだかるように、ザザッと雪を滑るようにして足を止め、そこから微動だにしなくなりました。
10歳くらいの男の子です。
なぜか、錆の目立つ銀色のバケツを抱えていました。
思わず立ち止まったロー達を、少年の強い意志が宿っているような大きな瞳が、ギロリと睨みつけます。
シャチが、コートのポケットに両手をつっこんだままで腰を曲げて、上半身を前に出すようにして屈み、少年に声をかけました。
「なんだ、クソガキ?俺達に何か用が——。」
「駆逐してやる!!」
「は?」
ポカンとするシャチの視界の端で、長い髪が揺れるのが見えました。
その次の瞬間には、ローの前に両手を広げて立ったなまえが、少年が投げつけたバケツの水を、顔面から思いっきり浴びていました。
ザバーーンッと水がかかった大きな音と共に、ハートの海賊団の船員達の頭上にも、ほんの一瞬で小さな氷の結晶に変わった水飛沫が降ってきます。
ですが、なまえが身体を張って守ってくれたおかげで、この凍える冷気の中で、冷水まで浴びてしまった不憫過ぎる船員はいませんでした。
少年に狙われたらしいローも、頬に少し冷水がかかっただけで済みました。
ベポが慌ててなまえに声をかけました。
「なまえ!?大丈夫!?」
「はい、大丈夫です。私は暑くも寒くもありません。」
「そんな、痛くも痒くもないみたいに…!」
「はい、私は痛くも痒くもなりません。」
「そういうことじゃなくて…!」
この凍えるような寒さの中で水を浴びてしまったなまえの髪や顔には、多数の氷の結晶が出来ていました。
白く綺麗な肌の上で日光を浴びてキラキラと輝く氷の結晶は、ひどく幻想的です。
ですが、仲間が凍るのではないかと心配しているハートの海賊団の船員達には、そんな感想を抱く心の余裕はありません。
「なまえ、よくやった。こっち向け。顔を拭いてやる。」
「はい。」
なまえが素直に振り向きました。
ローは、コートのポケットから厚手のハンカチを取り出し、あっという間に氷の膜が張ってしまった顔を優しく拭ってやりました。
船大工のダイ達から、濡れるのはご法度だと言われているロボットのなまえですが、今回に限っては、船長を守るためだったのでお咎めもなしのようです。
この凍えるような寒さの中、頭から浴びた冷水があっという間に凍ったお陰で、機械に水が染み込むようなこともなさそうだったことも、ローや船大工のダイ達が落ち着いている理由のひとつでしょう。
それでも、見ているだけで寒いその姿に、ロー達が心を痛めていないわけではありません。
「おい、ガキ。てめぇ、どういうつもりでこんなことしやがった。」
なまえの顔をひと通り拭いた後、ローは少年を見下ろし、ギロリと睨みつけます。
海賊としてすぐに頭角を現し、一時は己の野望のために七武海にまで上り詰めたローは、同職の海賊でさえ一目置き、恐れおののく海賊のひとりです。
殺気を孕んだ睨みに、少年はたじろいで、思わず一歩後ろに足を下げました。
でも、拳を握り唇を噛むと、恐怖を堪えて踏み留まり、ローを睨み返しました。
ローが僅かに眉を顰めます。
睨み返してくる大きな瞳に、少年なりの強い意志と覚悟、そして、復讐の炎が宿っているように見えたのです。
「エレン、ちょっと待ってよ!!」
「また問題を起こしたらおばさんに怒られてしまう。」
ローと少年が睨み合いを続けていると、街路樹の隙間から、また子供が飛び出してきました。
1人は黒髪の綺麗な女の子、もう1人は金髪に蒼い瞳の可愛らしい男の子でした。
少年を睨みつけているローを見つけた後の彼らの反応は、全く正反対のものでした。
少女は、エレンと呼ばれた少年の隣に立ち、仇でも見るような恐ろしい目でローを睨み返しました。
ですが、金髪の少年は、ローを見るなり、顔色を真っ青にしてガタガタと震え始めました。
「ト…、トラ…っ、トラ、トラ…ッ、トラ…ッっ。」
恐らく、金髪の少年は、トラファルガーと言いたいのでしょう。
恐怖で震え、口がうまく回らないという様子です。
ですが、それを理解してやれないのが、機械のなまえです。
「トラではありません。ローは、人間です。」
「ロー!!」
「そうです。彼は、トラファ——。」
「トラファルガー・ローだよ!!エレン…ッ!何しちゃったの!すごい睨んでるけど!?
この女の人、びしょびしょだけど!?コートも着てないけど!!見てるだけで寒いんだけど!!
そこにエレンが持ってたバケツが転がってるのは関係ないと言ってくれぇぇぇぇえ!!」
真っ青な顔の金髪の少年は、エレンの両肩を掴み前後に激しく揺さぶりました。
黒髪の少女が、パニックを起こしている金髪の少年の肩に片手を乗せて、声をかけました。
「アルミン、やめて。エレンの首が飛ぶ。」
「その前に僕達の首が吹っ飛ぶんだよ…!!」
「うるせぇな…!は…っ、なせよ!!アルミン!!」
エレンは、金髪の少年の手を強引に振りほどきました。
アルミンと呼ばれた金髪の少年が、その勢いに押されて数歩後ずさりました。
「そのクソ海賊野郎に水ぶっかけて凍死させてやろうとしたら
その女が庇ったんだよ。それにその女、最初から見てるだけで寒かった。
だから俺は悪くねぇ。」
エレンが、つまらなそうに言いました。
その答えを聞いて、真っ青だったアルミンの顔色は、真っ白に変わりました。
「終わった…。もうダメだ…。殺される…。短い…人生だった…。」
アルミンは、膝から崩れ落ち、白い雪の上に両手をつきました。
雪が降り積もっていく彼の背中には、悲壮感が溢れています。
すると、なまえが一歩前に出て、エレンの前に立ちました。
思わずビクッとしたエレンの隣で、黒髪の少女がなまえを睨みます。
なまえは、膝を折り曲げて屈むこみ、エレンと視線を合わせました。
「ローは優しい人です。悪い海賊ではありません。
そして、私の大好きな人です。
だから、傷つけないでください。」
「海賊なんて、俺が駆逐してやる!!」
エレンが怖い顔をして声高く宣言しました。
強い意志を持ったその瞳は、誰が何と言っても、受け入れそうにありません。
「エレン!!」
街路樹の隙間から、また誰かが飛び出してきました。
今度は子供ではなく、綺麗な女性でした。
彼女は、戸惑っている様子の海賊と、海賊を睨みつけるエレン、打ちひしがれるアルミンを見て、すべてを悟ったようでした。