◇No.21◇夜が終わりました
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バーの明かりが天井の海に反射して、ユラユラと揺れる波を壁と床に作っていました。
まるで海底の中にいるような静かな空間で、時間はのんびりと流れていきました。
どれくらい経ったのでしょうか。
時計がないので分かりませんが、もう真夜中は過ぎているはずです。
楽な体勢を探した結果、なまえの膝に辿り着いたローは、いつの間にか眠っていました。
なまえの膝に頭を乗せ、所謂、膝枕の格好で、横向きになってぐっすりです。
ソファの上からダラリと落ちた手の下には、読みかけの医学本が転がっています。
そのすぐそばの床の上には、綺麗に食べきった夜食の皿が置いてありました。
なまえは、初めて見るローの寝顔を眺めていました。
長い睫毛と無防備に少し開いた口、見たことのないローの表情です。
頬に指で触れてみると、少しだけ眉間に皴が寄ったのですぐにやめました。
しばらくローの寝顔を眺めた後、なまえは視線を天井の海に向けました。
食べられることも知らずに、魚達が気持ちよさそうに泳いでいます。
そんな魚達を見ていると、眠っているローも気持ち良さそうだったことを思い出しました。
だから、またローの寝顔に視線を落としました。
ローの寝顔を眺めていると、バーの扉の向こうが騒がしくなってきました。
朝がやって来たようです。
いつもは、夜が朝になるまでには、もっともっと長い時間が必要だったはずでした。
ですが、ローと一緒にこのバーで過ごした夜は、あっという間に終わりました。
今まで過ごしたどんな夜よりも、短い夜でした。
なまえは天井の海を見上げます。
魚達だけは、朝になった今も変わらず、気持ちよさそうに泳いでいます。
まるで、彼らの時間だけは、夜のまま止まってしまったみたいに見えました。
「あ~…寝てた。」
膝のあたりからローの声がして、なまえが視線を下げました。
扉の向こうの騒がしい声が聞こえたのか、ローも目が覚めたようです。
「おはようございます。」
「あぁ…。」
掠れた声で言いながら、ローがもそもそと動きながら身体を起こしました。
「ずっと天井の海を見てたのか。」
欠伸を噛み殺したローは、膝に肘を乗せて少し前のめりになった格好で、寝癖のついた髪を雑に掻きます。
寝起きのせいなのか、普段よりもぼんやりとしている様子でした。
「はい。とても早く時間が過ぎました。」
「そりゃよかったな。」
フッと笑って言って、ローはソファの下に落ちている医学本を拾いました。
部屋に戻ろうと立ち上がったローを、なまえが引き留めます。
振り返るローに、ソファに座ったままでなまえが言いました。
「今夜もバーで夜を過ごしてもいいですか?」
「好きにすりゃいい。」
「ローも一緒に来ますか?」
なまえからの誘いに、ローは少し考えました。
ですが、断る理由もありません。
「今夜は、鮭おにぎりな。」
「はい、分かりました。」
なまえが頷いて立ち上がりました。
ローに続いてバーを出たなまえは、いつも通りの海賊の自由な生活を送りました。
対海賊用の殺人兵器として生まれてから、朝になるのをただひたすら待つ夜を幾つも過ごしてきました。
例えるのならばそれは、永遠のような時の中を、独りきりでただひたすら彷徨い続けるような感覚だと言えば、分かりやすいかもしれません。
心のない機械のなまえですから、正気でいられましたが、これを人間が続けていれば、きっと壊れてしまいます。
それほど、長い長い孤独な夜を、ひとりきりで過ごしてきたのです。
でもこの日、なまえは初めて、夜になるのをただひたすら待つ1日を過ごしました。
その姿は、クリスマスに幼い子供が、プレゼントを抱えたサンタクロースを待ち侘びる姿に似ていました。
孤独とは程遠い温かい時間の中で、なまえは、もっともっと長くあってもいいのに一瞬で終わってしまう夜を、ただひたすらに待ち侘びたのです。
——オマケ(船内のいたるところで。)——
「夜になりましたか?」
「・・・・・いや、まだ朝の10時だ。」
「そうですか。」
「夜になりましたか?」
「・・・・・・いや、さっき昼飯を食ったばかりだ。」
「夜ご飯ではありませんか?」
「違ぇ。」
「夜になりましたか?」
「・・・・・・・・・・・三時のおやつもまだだ。」
「おやつを食べたら夜ですか?」
「・・・・・・。」
「夜に——。」
「なってねぇ!!
夜になったら教えてやるから、ベポのとこで遊んどけ!!」
「はい、分かりました。」
「なまえ、夜になった。鮭のおにぎりを——。」
「わかりました。夜になりました。バーに行きましょう。」
「鮭のおにぎりを忘れるな。」
この日は、なまえにとって、夜になるまでが一番長い一日でした。
まるで海底の中にいるような静かな空間で、時間はのんびりと流れていきました。
どれくらい経ったのでしょうか。
時計がないので分かりませんが、もう真夜中は過ぎているはずです。
楽な体勢を探した結果、なまえの膝に辿り着いたローは、いつの間にか眠っていました。
なまえの膝に頭を乗せ、所謂、膝枕の格好で、横向きになってぐっすりです。
ソファの上からダラリと落ちた手の下には、読みかけの医学本が転がっています。
そのすぐそばの床の上には、綺麗に食べきった夜食の皿が置いてありました。
なまえは、初めて見るローの寝顔を眺めていました。
長い睫毛と無防備に少し開いた口、見たことのないローの表情です。
頬に指で触れてみると、少しだけ眉間に皴が寄ったのですぐにやめました。
しばらくローの寝顔を眺めた後、なまえは視線を天井の海に向けました。
食べられることも知らずに、魚達が気持ちよさそうに泳いでいます。
そんな魚達を見ていると、眠っているローも気持ち良さそうだったことを思い出しました。
だから、またローの寝顔に視線を落としました。
ローの寝顔を眺めていると、バーの扉の向こうが騒がしくなってきました。
朝がやって来たようです。
いつもは、夜が朝になるまでには、もっともっと長い時間が必要だったはずでした。
ですが、ローと一緒にこのバーで過ごした夜は、あっという間に終わりました。
今まで過ごしたどんな夜よりも、短い夜でした。
なまえは天井の海を見上げます。
魚達だけは、朝になった今も変わらず、気持ちよさそうに泳いでいます。
まるで、彼らの時間だけは、夜のまま止まってしまったみたいに見えました。
「あ~…寝てた。」
膝のあたりからローの声がして、なまえが視線を下げました。
扉の向こうの騒がしい声が聞こえたのか、ローも目が覚めたようです。
「おはようございます。」
「あぁ…。」
掠れた声で言いながら、ローがもそもそと動きながら身体を起こしました。
「ずっと天井の海を見てたのか。」
欠伸を噛み殺したローは、膝に肘を乗せて少し前のめりになった格好で、寝癖のついた髪を雑に掻きます。
寝起きのせいなのか、普段よりもぼんやりとしている様子でした。
「はい。とても早く時間が過ぎました。」
「そりゃよかったな。」
フッと笑って言って、ローはソファの下に落ちている医学本を拾いました。
部屋に戻ろうと立ち上がったローを、なまえが引き留めます。
振り返るローに、ソファに座ったままでなまえが言いました。
「今夜もバーで夜を過ごしてもいいですか?」
「好きにすりゃいい。」
「ローも一緒に来ますか?」
なまえからの誘いに、ローは少し考えました。
ですが、断る理由もありません。
「今夜は、鮭おにぎりな。」
「はい、分かりました。」
なまえが頷いて立ち上がりました。
ローに続いてバーを出たなまえは、いつも通りの海賊の自由な生活を送りました。
対海賊用の殺人兵器として生まれてから、朝になるのをただひたすら待つ夜を幾つも過ごしてきました。
例えるのならばそれは、永遠のような時の中を、独りきりでただひたすら彷徨い続けるような感覚だと言えば、分かりやすいかもしれません。
心のない機械のなまえですから、正気でいられましたが、これを人間が続けていれば、きっと壊れてしまいます。
それほど、長い長い孤独な夜を、ひとりきりで過ごしてきたのです。
でもこの日、なまえは初めて、夜になるのをただひたすら待つ1日を過ごしました。
その姿は、クリスマスに幼い子供が、プレゼントを抱えたサンタクロースを待ち侘びる姿に似ていました。
孤独とは程遠い温かい時間の中で、なまえは、もっともっと長くあってもいいのに一瞬で終わってしまう夜を、ただひたすらに待ち侘びたのです。
——オマケ(船内のいたるところで。)——
「夜になりましたか?」
「・・・・・いや、まだ朝の10時だ。」
「そうですか。」
「夜になりましたか?」
「・・・・・・いや、さっき昼飯を食ったばかりだ。」
「夜ご飯ではありませんか?」
「違ぇ。」
「夜になりましたか?」
「・・・・・・・・・・・三時のおやつもまだだ。」
「おやつを食べたら夜ですか?」
「・・・・・・。」
「夜に——。」
「なってねぇ!!
夜になったら教えてやるから、ベポのとこで遊んどけ!!」
「はい、分かりました。」
「なまえ、夜になった。鮭のおにぎりを——。」
「わかりました。夜になりました。バーに行きましょう。」
「鮭のおにぎりを忘れるな。」
この日は、なまえにとって、夜になるまでが一番長い一日でした。