◇No.19◇ハートをください
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船長室に戻ったローは、なまえを自分のベッドの上に寝かせました。
タトゥーの彫り方なら知っていましたが、消したことはないので、消し方なんて、正直、知りません。
ですが、ローには、考えがありました。
ベッド脇に持ってきた椅子に座ったローは、メスを持ってなまえを見下ろします。
さっき、タク達に見えないように胸を隠したタオルは、もう外してあります。
タトゥーを入れやすいように、なまえにはつなぎを腰まで脱いで貰いました。
上半身だけですが、ローのベッドの上で、傷ひとつない白く綺麗な女性の肌が横たわっていました。
ですが、綺麗な肌に、ただ一箇所、左胸の辺りにだけ『コレは我々の所有物だ。』と主張するように世界政府のマークが刻まれています。
シャチの言い方には問題がありますが、確かに、ハートの海賊団の船員になったのに、このマークを残したままにするわけにはいきません。
「まずは、そのダセェのを消す。」
「はい、よろしくお願いします。」
なまえの返事を合図にして、ローは、左胸にメスを入れました。
そして、世界政府のマークが刻まれている部分を囲むように、メスを進めていきます。
そうやって、なまえの身体から、まずは世界政府のマークを切り取りました。
なまえの身体は、自ら修繕する機能が備わっています。
それを利用しようと、ローは考えたのです。
ローの考えた通り、胸元はすぐに修繕を始め、ポッカリと開いた左胸の肌が繋ぎ合わされていきました。
「まずは、これで問題ねぇ。」
修繕されたなまえの左胸から世界政府のマークが消え、右胸と同じように、傷ひとつない綺麗な胸になりました。
次に、ローは、自分の持っている簡易的なタトゥーを彫る道具を取り出しました。
タクのようなプロではないので、凝ったデザインや、ローの胸にあるような大きなタトゥーは彫れません。
「とりあえず、ハートがあればいいんだよな?」
「はい。ハートを描いてください。」
「言ったからな。」
「はい、私は言いました。」
「ハートでいいんだな。」
「はい、ハートでお願いします。」
念押しをして確認してから、ローは、タトゥーペンを持ちました。
失敗すれば、世界政府のマークを消したときのように切り取ればいいとは思っていても、どう見ても女性の身体にタトゥーを彫るのには緊張します。
傷ひとつない綺麗な白い肌ならば、尚更です。
「思ったんだが、世界政府のマークは消えたし、
ハートなんかなくてもいいんじゃ——。」
「ダメです。私は、ハートの海賊団の本物の仲間にならなくてはいけません。」
「…そうだな。」
面倒くせぇな——。
正直、そう思わなかったわけでもありませんが、自分がやると言い出したのはローです。
今さら、やらないとは言えません。
「今から描くぞ。」
「はい、よろしくお願いします。」
今回もなまえの返事を合図にして、ローは、タトゥーペンを左胸にそっと乗せるように置きました。
そして、慎重に、丁寧に、ハートを描きます。
どれくらい時間をかけたのかは分かりませんが、体感としては1時間は軽く超えています。
もちろんローは、こんなに時間を描けてハートを描いたのは初めてでした。
「・・・よし。」
最後の線を描き終えて、ローはそっとタトゥーペンを離します。
その途端に、肩から力が抜けて、大きく息を吐き出しました。
どれだけローが緊張しながらタトゥーを彫っていたのかなんて何も知らないなまえが、スクッと上半身を起こしました。
そして、なまえは、自分の左胸を見下ろし、ローが彫ったばかりのハートに触れました。
自分の左胸に刻まれたハートを見つめるなまえは、数秒間、ただじっと息を止めたように、動かなくなりました。
シンとした時間は、また消してやり直せと言われるのじゃないか、とローを不安にさせました。
器用な方のローですが、それでも、プロではないので、お世辞にも『綺麗なハート』と呼べるものではないことは自覚していました。
ところどころ、線が揺れている部分もあります。
それでも、確かにそれは——。
「ハートです。」
タトゥーを見ながら、漸く口を開いたなまえが言ったのは、ローの描いたソレをハートだと認める言葉でした。
ローは、ホッと胸を撫でおろします。
だって、ハートをひとつ描くだけで、全身が筋肉痛になりそうなほどに疲れる作業を、誰だって連続ではしたくありませんから。
なまえが顔を上げます。
そして、ローを見ました。
「ローが、私に命とハートをくれました。」
なまえはローを見つめて、柔らかく微笑みました。
いいえ、そんなはずはありません。
だから、ローは、目を疑いました。
それでも、驚きで僅かに見開いた自分の目に映っているなまえが、いつもの彼女に見えません。
まるで、天使のような、柔らかくて、純粋で、この世で最も美しく可愛らしい微笑みが、目の前にあるのです。
いいえ、まさか。
そんなことはありえません。
なまえは、整った綺麗な顔はしていますが、表情はいつも変わりません。
だって、心がない彼女は、感情を表情で表現することがないからです。
だから、微笑むなんてこと、するはずはないのに——。
「笑った、のか?」
「誰がですか?」
なまえが首を傾げます。
いつもの彼女の仕草、表情です。
「いや…、なんでねぇ。
慣れねぇことしたせいで目が疲れたみてぇだ。」
ローは小さく首を横に振ると、目と目の間の鼻根の部分を指でつまみました。
それから、シャチ達に報告しに行くとなまえが言うので、ローもついていきました。
もちろん、余計なことを言って、面倒な仕事を増やしたシャチの身体を、頭部と上半身、下半身の三分割にするためです。
シャチは、甲板にいました。
ペンギンとベポ、イッカクも一緒です。
今夜は波も穏やかなので、夜釣りを楽しんでいたようで、他にも数名の船員が船縁に座って釣り竿を垂らしていました。
ローと目が合った途端に三分割にされたシャチの頭部の横に立ったなまえが、夜釣りをしている船員達に声をかけました。
「皆さん、見てください。」
なまえに言われたからというよりも、隣でギャーギャー喚いているシャチの声が気になって、夜釣りをしていた船員達が揃って甲板の方を向きました。
正しくは、全員の視線が向かったのは頭部のみになったシャチでしたが、全員が振り向いたのを確認して、なまえはつなぎのチャックをへその辺りまでおろしました。
「ローが私にハートをくれました。
これで、私も本物のハートの海賊団の仲間です。」
広げられたつなぎから、綺麗な真っ白いまん丸の胸が、ポロリと零れ落ちました。
その途端に、鼻血を垂らした男達が、持っていた釣り竿を海に零れ落とします。
「Room。」
ローが右手の平を上に向けて、技名を唱えました。
この日から1週間、なまえの胸を見て鼻血を垂らし、釣り竿を無駄にした船員達は、右腕と左脚を入れ替えられて生活するという罰を与えられることになりました。
そして——。
「これは自由ですか?」
部屋に遊びに来てくれたイッカクに、なまえが訊ねました。
ベッドに座るなまえは、上半身を鎖でグルグル巻きにされていました。
巻いたのは、この船の船長のローです。
「・・・・自業自得だ。」
「ローもそう言いました。」
「アンタは女なんだから、男の前で簡単に服を脱ぐんじゃないよ。」
「私はロボットです。性別はありません。」
「見た目は女なんだよ。
ったく、そんな屁理屈言ってる間は、キャプテンに外してもらえねぇぞ。
お前のせいで、バカな男共が釣り竿なくして、食糧を手に入れる手段が減ったんだからな。」
「それは大変ですね。それで、私は自由ですか?」
「バカ。」
イッカクがため息を吐きました。
なまえが、何を叱られているのかを理解するまでには、もう少し時間が必要そうです。
タトゥーの彫り方なら知っていましたが、消したことはないので、消し方なんて、正直、知りません。
ですが、ローには、考えがありました。
ベッド脇に持ってきた椅子に座ったローは、メスを持ってなまえを見下ろします。
さっき、タク達に見えないように胸を隠したタオルは、もう外してあります。
タトゥーを入れやすいように、なまえにはつなぎを腰まで脱いで貰いました。
上半身だけですが、ローのベッドの上で、傷ひとつない白く綺麗な女性の肌が横たわっていました。
ですが、綺麗な肌に、ただ一箇所、左胸の辺りにだけ『コレは我々の所有物だ。』と主張するように世界政府のマークが刻まれています。
シャチの言い方には問題がありますが、確かに、ハートの海賊団の船員になったのに、このマークを残したままにするわけにはいきません。
「まずは、そのダセェのを消す。」
「はい、よろしくお願いします。」
なまえの返事を合図にして、ローは、左胸にメスを入れました。
そして、世界政府のマークが刻まれている部分を囲むように、メスを進めていきます。
そうやって、なまえの身体から、まずは世界政府のマークを切り取りました。
なまえの身体は、自ら修繕する機能が備わっています。
それを利用しようと、ローは考えたのです。
ローの考えた通り、胸元はすぐに修繕を始め、ポッカリと開いた左胸の肌が繋ぎ合わされていきました。
「まずは、これで問題ねぇ。」
修繕されたなまえの左胸から世界政府のマークが消え、右胸と同じように、傷ひとつない綺麗な胸になりました。
次に、ローは、自分の持っている簡易的なタトゥーを彫る道具を取り出しました。
タクのようなプロではないので、凝ったデザインや、ローの胸にあるような大きなタトゥーは彫れません。
「とりあえず、ハートがあればいいんだよな?」
「はい。ハートを描いてください。」
「言ったからな。」
「はい、私は言いました。」
「ハートでいいんだな。」
「はい、ハートでお願いします。」
念押しをして確認してから、ローは、タトゥーペンを持ちました。
失敗すれば、世界政府のマークを消したときのように切り取ればいいとは思っていても、どう見ても女性の身体にタトゥーを彫るのには緊張します。
傷ひとつない綺麗な白い肌ならば、尚更です。
「思ったんだが、世界政府のマークは消えたし、
ハートなんかなくてもいいんじゃ——。」
「ダメです。私は、ハートの海賊団の本物の仲間にならなくてはいけません。」
「…そうだな。」
面倒くせぇな——。
正直、そう思わなかったわけでもありませんが、自分がやると言い出したのはローです。
今さら、やらないとは言えません。
「今から描くぞ。」
「はい、よろしくお願いします。」
今回もなまえの返事を合図にして、ローは、タトゥーペンを左胸にそっと乗せるように置きました。
そして、慎重に、丁寧に、ハートを描きます。
どれくらい時間をかけたのかは分かりませんが、体感としては1時間は軽く超えています。
もちろんローは、こんなに時間を描けてハートを描いたのは初めてでした。
「・・・よし。」
最後の線を描き終えて、ローはそっとタトゥーペンを離します。
その途端に、肩から力が抜けて、大きく息を吐き出しました。
どれだけローが緊張しながらタトゥーを彫っていたのかなんて何も知らないなまえが、スクッと上半身を起こしました。
そして、なまえは、自分の左胸を見下ろし、ローが彫ったばかりのハートに触れました。
自分の左胸に刻まれたハートを見つめるなまえは、数秒間、ただじっと息を止めたように、動かなくなりました。
シンとした時間は、また消してやり直せと言われるのじゃないか、とローを不安にさせました。
器用な方のローですが、それでも、プロではないので、お世辞にも『綺麗なハート』と呼べるものではないことは自覚していました。
ところどころ、線が揺れている部分もあります。
それでも、確かにそれは——。
「ハートです。」
タトゥーを見ながら、漸く口を開いたなまえが言ったのは、ローの描いたソレをハートだと認める言葉でした。
ローは、ホッと胸を撫でおろします。
だって、ハートをひとつ描くだけで、全身が筋肉痛になりそうなほどに疲れる作業を、誰だって連続ではしたくありませんから。
なまえが顔を上げます。
そして、ローを見ました。
「ローが、私に命とハートをくれました。」
なまえはローを見つめて、柔らかく微笑みました。
いいえ、そんなはずはありません。
だから、ローは、目を疑いました。
それでも、驚きで僅かに見開いた自分の目に映っているなまえが、いつもの彼女に見えません。
まるで、天使のような、柔らかくて、純粋で、この世で最も美しく可愛らしい微笑みが、目の前にあるのです。
いいえ、まさか。
そんなことはありえません。
なまえは、整った綺麗な顔はしていますが、表情はいつも変わりません。
だって、心がない彼女は、感情を表情で表現することがないからです。
だから、微笑むなんてこと、するはずはないのに——。
「笑った、のか?」
「誰がですか?」
なまえが首を傾げます。
いつもの彼女の仕草、表情です。
「いや…、なんでねぇ。
慣れねぇことしたせいで目が疲れたみてぇだ。」
ローは小さく首を横に振ると、目と目の間の鼻根の部分を指でつまみました。
それから、シャチ達に報告しに行くとなまえが言うので、ローもついていきました。
もちろん、余計なことを言って、面倒な仕事を増やしたシャチの身体を、頭部と上半身、下半身の三分割にするためです。
シャチは、甲板にいました。
ペンギンとベポ、イッカクも一緒です。
今夜は波も穏やかなので、夜釣りを楽しんでいたようで、他にも数名の船員が船縁に座って釣り竿を垂らしていました。
ローと目が合った途端に三分割にされたシャチの頭部の横に立ったなまえが、夜釣りをしている船員達に声をかけました。
「皆さん、見てください。」
なまえに言われたからというよりも、隣でギャーギャー喚いているシャチの声が気になって、夜釣りをしていた船員達が揃って甲板の方を向きました。
正しくは、全員の視線が向かったのは頭部のみになったシャチでしたが、全員が振り向いたのを確認して、なまえはつなぎのチャックをへその辺りまでおろしました。
「ローが私にハートをくれました。
これで、私も本物のハートの海賊団の仲間です。」
広げられたつなぎから、綺麗な真っ白いまん丸の胸が、ポロリと零れ落ちました。
その途端に、鼻血を垂らした男達が、持っていた釣り竿を海に零れ落とします。
「Room。」
ローが右手の平を上に向けて、技名を唱えました。
この日から1週間、なまえの胸を見て鼻血を垂らし、釣り竿を無駄にした船員達は、右腕と左脚を入れ替えられて生活するという罰を与えられることになりました。
そして——。
「これは自由ですか?」
部屋に遊びに来てくれたイッカクに、なまえが訊ねました。
ベッドに座るなまえは、上半身を鎖でグルグル巻きにされていました。
巻いたのは、この船の船長のローです。
「・・・・自業自得だ。」
「ローもそう言いました。」
「アンタは女なんだから、男の前で簡単に服を脱ぐんじゃないよ。」
「私はロボットです。性別はありません。」
「見た目は女なんだよ。
ったく、そんな屁理屈言ってる間は、キャプテンに外してもらえねぇぞ。
お前のせいで、バカな男共が釣り竿なくして、食糧を手に入れる手段が減ったんだからな。」
「それは大変ですね。それで、私は自由ですか?」
「バカ。」
イッカクがため息を吐きました。
なまえが、何を叱られているのかを理解するまでには、もう少し時間が必要そうです。