◇No.18◇サミシイですか?
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夕食の後、ローが医務室の前を通りがかったのは、ただの偶然でした。
ハートの海賊団には、今は怪我人も病人もいません。
それなのに電気がついている医務室を訝しく思い、ローは扉を開きました。
そして、奥のベッド脇の椅子に座っているなまえを見つけました。
座っているというよりも、上半身をベッドの上に乗せてダラリと寄り掛かっています。
彼女が大切そうに抱きしめているのは、あの子猫が眠るときにかけてやっていたブランケットでした。
「寂しいのか?」
ローが声をかけると、なまえがゆっくりと身体を起こしました。
そして、ローを見て首を傾げます。
「サミシイとは何ですか?」
「・・・いや、なんでもねぇ。」
心のないなまえに、そんな感情があるわけがないと思い直し、ローは小さく首を横に振りました。
首を傾げつつも、なんでもないと言われたなまえが、それ以上訊ねてくることはありませんでした。
何か話したいことがあったわけではありませんでしたが、ローも、近くの椅子を引っ張ってきて、なまえの隣に座りました。
この1週間は、傷が痛んで泣き喚く猫の治療で医務室に籠っていたので、船長室にいる方が落ち着かなかったのです。
医務室の前を通りがかったのも、偶然なのではなくて、他に理由があったのかもしれません。
「ローは、サミシイなんですか?」
なまえは、ブランケットを抱きしめたままで、ローに訊ねました。
「…いや、やっと寝不足から解消されてホッとしてる。」
「寝不足でしたか?」
「毎晩、お前に、猫がどーのと起こされてたからな。」
「私のせいですか?」
「…猫のせいだ。」
ローは、少しだけ目を反らして答えました。
寝不足だった原因は、猫が痛みが我慢できずに鳴く度に、どうにかしてくれと叩き起こしてきたなまえのせいだというのは否めません。
ですが、ここで『なまえのせい』だと答えてしまったら、お詫び攻撃が始まるのは、ローではなくとも容易に想像がつきました。
「ローのおかげで、猫はぐっすり眠っていました。
ありがとうございました。」
「そりゃよかった。」
「お医者様でもいろんな人が居ることを知りました。
ローは素晴らしいお医者様です。ローの患者になれる人間や動物は幸福です。」
「海賊の医者の患者か?不幸の間違いじゃねぇのか。」
ローは、少し卑屈そうな笑みを返しました。
ブラックジョークでもありました。
でも、そんなものがなまえに通じるわけありません。
ですから、彼女は真剣な顔で否定します。
「ローは、どんな怪我や病気も直してくれます。世界一のお医者様です。」
「はいはい、分かった。」
「本当です。研究所でもお医者様を何人も見ました。怪我をしている仲間達を治療していました。
でも、寝不足になるまでずっとつきっきりになってくれたお医者様は、
ローしか見たことがありません。私も怪我をしたら、ローに診て欲しいです。」
「怪我しても勝手に治るじゃねーか。」
「はい、そうです。よく知っていましたね。」
なまえの他人事な言い方に、ローはフッと笑います。
きっと、ロボットも診てほしいと思ってしまうくらいに素晴らしいお医者様なのだ、となまえは言いたかったのでしょう。
それは、ローにもきちんと伝わっていました。
だから、呆れて、可笑しくて、でも、嬉しくもありました。
ローの父親もまた、とても優秀なお医者様でした。
なまえがくれた言葉のおかげで、ほんの少しだけ、彼に近づけたような気がしたのです。
「猫の血で——。」
「猫じゃありません、グリュックです。」
「…グリュックの血でカーディガンが汚れただろ。」
「はい、たくさんの血がついてしまったので、イッカクが捨てました。」
「新しいのを次の島で買ってやる。」
「いいえ、要りません。たくさんの洋服を買いました。
つなぎもあります。カーディガンはなくても大丈夫です。」
「人の好意は有難く受け入れろ。それが人間だ。」
ローに言われて、なまえは首を傾げました。
ですが、受け入れろと言われれば、素直に受け入れるのがなまえです。
「はい、分かりました。」
「よし、いいこだ。」
少しだけ柔らかく笑って、ローが、なまえの頭にポンと手を乗せて、クシャリと撫でました。
その日の夜、なまえは、元気になったグリュックがどんな悪戯をしてシャチやペンギンを怒らせていたのかを、ローに話して聞かせました。
朝食が出来たとベポが探しに来るまでずっと、なまえはグリュックの話をしていました。
やっぱり、ローの寝不足の原因は、猫ではなくてなまえで間違いないようです。
ハートの海賊団には、今は怪我人も病人もいません。
それなのに電気がついている医務室を訝しく思い、ローは扉を開きました。
そして、奥のベッド脇の椅子に座っているなまえを見つけました。
座っているというよりも、上半身をベッドの上に乗せてダラリと寄り掛かっています。
彼女が大切そうに抱きしめているのは、あの子猫が眠るときにかけてやっていたブランケットでした。
「寂しいのか?」
ローが声をかけると、なまえがゆっくりと身体を起こしました。
そして、ローを見て首を傾げます。
「サミシイとは何ですか?」
「・・・いや、なんでもねぇ。」
心のないなまえに、そんな感情があるわけがないと思い直し、ローは小さく首を横に振りました。
首を傾げつつも、なんでもないと言われたなまえが、それ以上訊ねてくることはありませんでした。
何か話したいことがあったわけではありませんでしたが、ローも、近くの椅子を引っ張ってきて、なまえの隣に座りました。
この1週間は、傷が痛んで泣き喚く猫の治療で医務室に籠っていたので、船長室にいる方が落ち着かなかったのです。
医務室の前を通りがかったのも、偶然なのではなくて、他に理由があったのかもしれません。
「ローは、サミシイなんですか?」
なまえは、ブランケットを抱きしめたままで、ローに訊ねました。
「…いや、やっと寝不足から解消されてホッとしてる。」
「寝不足でしたか?」
「毎晩、お前に、猫がどーのと起こされてたからな。」
「私のせいですか?」
「…猫のせいだ。」
ローは、少しだけ目を反らして答えました。
寝不足だった原因は、猫が痛みが我慢できずに鳴く度に、どうにかしてくれと叩き起こしてきたなまえのせいだというのは否めません。
ですが、ここで『なまえのせい』だと答えてしまったら、お詫び攻撃が始まるのは、ローではなくとも容易に想像がつきました。
「ローのおかげで、猫はぐっすり眠っていました。
ありがとうございました。」
「そりゃよかった。」
「お医者様でもいろんな人が居ることを知りました。
ローは素晴らしいお医者様です。ローの患者になれる人間や動物は幸福です。」
「海賊の医者の患者か?不幸の間違いじゃねぇのか。」
ローは、少し卑屈そうな笑みを返しました。
ブラックジョークでもありました。
でも、そんなものがなまえに通じるわけありません。
ですから、彼女は真剣な顔で否定します。
「ローは、どんな怪我や病気も直してくれます。世界一のお医者様です。」
「はいはい、分かった。」
「本当です。研究所でもお医者様を何人も見ました。怪我をしている仲間達を治療していました。
でも、寝不足になるまでずっとつきっきりになってくれたお医者様は、
ローしか見たことがありません。私も怪我をしたら、ローに診て欲しいです。」
「怪我しても勝手に治るじゃねーか。」
「はい、そうです。よく知っていましたね。」
なまえの他人事な言い方に、ローはフッと笑います。
きっと、ロボットも診てほしいと思ってしまうくらいに素晴らしいお医者様なのだ、となまえは言いたかったのでしょう。
それは、ローにもきちんと伝わっていました。
だから、呆れて、可笑しくて、でも、嬉しくもありました。
ローの父親もまた、とても優秀なお医者様でした。
なまえがくれた言葉のおかげで、ほんの少しだけ、彼に近づけたような気がしたのです。
「猫の血で——。」
「猫じゃありません、グリュックです。」
「…グリュックの血でカーディガンが汚れただろ。」
「はい、たくさんの血がついてしまったので、イッカクが捨てました。」
「新しいのを次の島で買ってやる。」
「いいえ、要りません。たくさんの洋服を買いました。
つなぎもあります。カーディガンはなくても大丈夫です。」
「人の好意は有難く受け入れろ。それが人間だ。」
ローに言われて、なまえは首を傾げました。
ですが、受け入れろと言われれば、素直に受け入れるのがなまえです。
「はい、分かりました。」
「よし、いいこだ。」
少しだけ柔らかく笑って、ローが、なまえの頭にポンと手を乗せて、クシャリと撫でました。
その日の夜、なまえは、元気になったグリュックがどんな悪戯をしてシャチやペンギンを怒らせていたのかを、ローに話して聞かせました。
朝食が出来たとベポが探しに来るまでずっと、なまえはグリュックの話をしていました。
やっぱり、ローの寝不足の原因は、猫ではなくてなまえで間違いないようです。