◇No.18◇サミシイですか?
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「違います。こういうときは、ありがとうと言うのです。」
処置室の椅子に座っているなまえは、治療を終えた子猫をローから受け取り、自分の顔の前に持ってくるように抱き上げると、真剣な表情で言いました。
怪我をした子猫を助けてから1週間が過ぎました。
あの後、ペンギンとシャチに拘束されたシンを連れて、診療所へ向かったロー達は、処置室の床に地下へと降りる隠し扉を見つけました。
地下室には、ありとあらゆる拷問器具が置いてありました。
付箋やマーカーが引かれている人体実験の本から察するに、シンは恐らく、標的を動物から人間に変えようとしていたのでしょう。
そして、その最初のターゲットにされたのが、誰がどう見てもか弱い女性にしか見えないなまえだったのです。
動物虐待のたくさんの証拠を見つけたロー達は、拘束したシンを証拠と共に診療所のベッドに縄で結び付けてきました。
診療所を訪れた島の住人が、泣きながら喚く情けない彼を見つけたらしく、連続動物虐待犯が捕まったと、数日前にニュース・クーが配達して来た新聞記事に乗っていました。
前脚に大怪我を負って歩けなくなっていた子猫も、ローの適切な治療のおかげで、あっという間に良くなりました。
今朝は走り回って食堂の食べ物をひっくり返してシャチに悲鳴を上げさせていたくらいです。
「ミャ?」
「違います。助けてもらったら、ありがとう、というのです。」
「ミアー。」
「違います。それではいけません。
きちんと、ローに、ありがとう、と言ってください。」
「ミャアーッ!」
子猫が元気よく返事をしました。
ですが、なまえが求めているのは、そういうことではありません。
この短期間で完治させ、包帯をほどいてくれたローに、礼を言ってほしいのです。
「違いま——。」
「いや、無理だから。」
絶対に終わらない授業にツッコみを入れたのはシャチでした。
子猫の引き取りては、昨日のうちに見つかっていました。
なまえとベポは、この船でこの猫を飼うと言っていましたが、海賊船の上で動物を育てるのは簡単なことではありません。
それに、子猫も自由に走り回れる平和な島の方がいいに決まっているのです。
そんなペンギンの説得に、なまえとベポも頷く以外に選択肢はありませんでした。
そして、漸く治療を終えた子猫を、新しい飼い主が迎えに来て船の外で待っているので、早く連れて行きたいのです。
「無理ですか?」
なまえが、隣に立っているシャチを見上げて訊ねました。
「猫は人間の言葉は喋れねぇんだよ。」
「私は喋れます。」
「お前は猫じゃねぇ。」
「そうでした。分かりました。
それなら、私からお礼を言います。」
なまえは猫を膝の上に乗せると、向かい合う椅子に座っているローを見ました。
そして、頭を下げます。
「ロー、子猫を助けてくれてありがとうございました。
悪い男も捕まったので、あの島で、虐待される動物はもう増えません。
みんな幸せです。ローのおかげです。」
「そうだな。キャプテンと、あと、俺達のおかげだ。」
「ローはとても優しい、良い人です。
本当にありがとうございました。」
「無視かよ。あー、そうかよ。もういいよ。
俺も頑張ったんだけど、もういいよ。」
猫の代わりに頭を下げるなまえとシャチの噛み合わないやりとりに、ローは苦笑しました。
猫とのやりとりよりもなまえと話しを噛合わせることの方が、シャチはいつも難しそうです。
慣れているシャチは、どうせ通じないと分かっているのか、ため息交じりになまえを見下ろしながらも、その目には隠し切れない優しさが滲んでいます。
それから、子猫を抱いたなまえと一緒に、ローとシャチはポーラータング号から出ました。
港には、ペンギンとベポと一緒に、小さな女の子を連れた若い夫婦がいました。
彼らが、この子猫の引き取り手の新しい飼い主です。
「グリュック!!」
なまえが港にやって来た途端、小さな女の子がニパッと笑顔を浮かべて駆け寄ってきました。
飛びつくように走って来た少女が伸ばした両手に、なまえはそっと子猫を乗せてやりながら、訊ねました。
「それはこの子猫の名前ですか?」
「うん!可愛いでしょっ。」
子猫を小さな腕に抱きしめて、少女が自慢気に言いました。
「はい、幸福という意味ですね。とても素敵な名前です。」
「エヘヘっ、わたしがつけたんだよ!すごい?」
「はい、とてもすごいです。」
素直に褒められて、少女はとても嬉しそうな笑みを浮かべました。
「とてもよくご存知ですね。何処か異国の言葉らしいのですが、
このコの好きな本に、同じ名前のヒロインが出てくるんです。」
若い夫婦もやってくると、母親の方が感心したように言って、名前の由来を教えてくれました。
「大切に育てます。私達にこの子猫を託してくれてありがとうございました。」
父親が頭を下げると、母親も感謝の言葉を口にしました。
「皆さんは、今から船を出るんですか?」
出向の準備が始まり、慌ただしくなりだしていた甲板を見上げながら、母親が訊ねました。
この島には、もともとなまえの服や靴、日常生活に必要なものを買うために来ただけでした。
思いがけず、猫の治療をしなければならなくなりましたが、猫も完治し、ログも数日前に溜まっていたので、残る理由もありません。
すぐに出向する予定だとペンギンが答えると、母親は残念そうに眉尻を下げました。
「そうですか。怖い犯人を捕まえて、可愛らしい家族を私達に迎えさせてくれた海賊さん達に
お礼にお食事でもご馳走させてもらえたらと思っていたのですが…。」
「え!?じゃあ、俺達、行ってやってもいいぞ!!」
ベポが目をキラッと輝かせました。
そして、すぐにローに却下され、凹んで項垂れます。
「今回は、本当にありがとうございました。
気をつけて、航海なさってくださいね。
——さぁ、帰るわよ。」
母親が、少女の手を握りました。
すると、なまえが膝を曲げて、少女と視線の高さを合わせました。
最後に、伝えたいことがあったのです。
「グリュックを宜しくお願いします。」
「うん!お姉ちゃん達、グリュックを元気にしてくれてありがとうね!」
「はい、元気になってよかったです。
グリュック、名前の通り、幸せになってください。」
なまえがグリュックの頭を撫でました。
「ミャアッ!」
グリュックが嬉しそうに鳴きました。
「そうですか。それはよかったです。」
なまえに猫語が分かるのかは、分かりません。
でも、今、グリュックが何と言ったのかは、ペンギン達にも分かりました。
とても素敵な家族の元で、グリュックは返事した通り、きっと幸せになってくれると、信じています。
処置室の椅子に座っているなまえは、治療を終えた子猫をローから受け取り、自分の顔の前に持ってくるように抱き上げると、真剣な表情で言いました。
怪我をした子猫を助けてから1週間が過ぎました。
あの後、ペンギンとシャチに拘束されたシンを連れて、診療所へ向かったロー達は、処置室の床に地下へと降りる隠し扉を見つけました。
地下室には、ありとあらゆる拷問器具が置いてありました。
付箋やマーカーが引かれている人体実験の本から察するに、シンは恐らく、標的を動物から人間に変えようとしていたのでしょう。
そして、その最初のターゲットにされたのが、誰がどう見てもか弱い女性にしか見えないなまえだったのです。
動物虐待のたくさんの証拠を見つけたロー達は、拘束したシンを証拠と共に診療所のベッドに縄で結び付けてきました。
診療所を訪れた島の住人が、泣きながら喚く情けない彼を見つけたらしく、連続動物虐待犯が捕まったと、数日前にニュース・クーが配達して来た新聞記事に乗っていました。
前脚に大怪我を負って歩けなくなっていた子猫も、ローの適切な治療のおかげで、あっという間に良くなりました。
今朝は走り回って食堂の食べ物をひっくり返してシャチに悲鳴を上げさせていたくらいです。
「ミャ?」
「違います。助けてもらったら、ありがとう、というのです。」
「ミアー。」
「違います。それではいけません。
きちんと、ローに、ありがとう、と言ってください。」
「ミャアーッ!」
子猫が元気よく返事をしました。
ですが、なまえが求めているのは、そういうことではありません。
この短期間で完治させ、包帯をほどいてくれたローに、礼を言ってほしいのです。
「違いま——。」
「いや、無理だから。」
絶対に終わらない授業にツッコみを入れたのはシャチでした。
子猫の引き取りては、昨日のうちに見つかっていました。
なまえとベポは、この船でこの猫を飼うと言っていましたが、海賊船の上で動物を育てるのは簡単なことではありません。
それに、子猫も自由に走り回れる平和な島の方がいいに決まっているのです。
そんなペンギンの説得に、なまえとベポも頷く以外に選択肢はありませんでした。
そして、漸く治療を終えた子猫を、新しい飼い主が迎えに来て船の外で待っているので、早く連れて行きたいのです。
「無理ですか?」
なまえが、隣に立っているシャチを見上げて訊ねました。
「猫は人間の言葉は喋れねぇんだよ。」
「私は喋れます。」
「お前は猫じゃねぇ。」
「そうでした。分かりました。
それなら、私からお礼を言います。」
なまえは猫を膝の上に乗せると、向かい合う椅子に座っているローを見ました。
そして、頭を下げます。
「ロー、子猫を助けてくれてありがとうございました。
悪い男も捕まったので、あの島で、虐待される動物はもう増えません。
みんな幸せです。ローのおかげです。」
「そうだな。キャプテンと、あと、俺達のおかげだ。」
「ローはとても優しい、良い人です。
本当にありがとうございました。」
「無視かよ。あー、そうかよ。もういいよ。
俺も頑張ったんだけど、もういいよ。」
猫の代わりに頭を下げるなまえとシャチの噛み合わないやりとりに、ローは苦笑しました。
猫とのやりとりよりもなまえと話しを噛合わせることの方が、シャチはいつも難しそうです。
慣れているシャチは、どうせ通じないと分かっているのか、ため息交じりになまえを見下ろしながらも、その目には隠し切れない優しさが滲んでいます。
それから、子猫を抱いたなまえと一緒に、ローとシャチはポーラータング号から出ました。
港には、ペンギンとベポと一緒に、小さな女の子を連れた若い夫婦がいました。
彼らが、この子猫の引き取り手の新しい飼い主です。
「グリュック!!」
なまえが港にやって来た途端、小さな女の子がニパッと笑顔を浮かべて駆け寄ってきました。
飛びつくように走って来た少女が伸ばした両手に、なまえはそっと子猫を乗せてやりながら、訊ねました。
「それはこの子猫の名前ですか?」
「うん!可愛いでしょっ。」
子猫を小さな腕に抱きしめて、少女が自慢気に言いました。
「はい、幸福という意味ですね。とても素敵な名前です。」
「エヘヘっ、わたしがつけたんだよ!すごい?」
「はい、とてもすごいです。」
素直に褒められて、少女はとても嬉しそうな笑みを浮かべました。
「とてもよくご存知ですね。何処か異国の言葉らしいのですが、
このコの好きな本に、同じ名前のヒロインが出てくるんです。」
若い夫婦もやってくると、母親の方が感心したように言って、名前の由来を教えてくれました。
「大切に育てます。私達にこの子猫を託してくれてありがとうございました。」
父親が頭を下げると、母親も感謝の言葉を口にしました。
「皆さんは、今から船を出るんですか?」
出向の準備が始まり、慌ただしくなりだしていた甲板を見上げながら、母親が訊ねました。
この島には、もともとなまえの服や靴、日常生活に必要なものを買うために来ただけでした。
思いがけず、猫の治療をしなければならなくなりましたが、猫も完治し、ログも数日前に溜まっていたので、残る理由もありません。
すぐに出向する予定だとペンギンが答えると、母親は残念そうに眉尻を下げました。
「そうですか。怖い犯人を捕まえて、可愛らしい家族を私達に迎えさせてくれた海賊さん達に
お礼にお食事でもご馳走させてもらえたらと思っていたのですが…。」
「え!?じゃあ、俺達、行ってやってもいいぞ!!」
ベポが目をキラッと輝かせました。
そして、すぐにローに却下され、凹んで項垂れます。
「今回は、本当にありがとうございました。
気をつけて、航海なさってくださいね。
——さぁ、帰るわよ。」
母親が、少女の手を握りました。
すると、なまえが膝を曲げて、少女と視線の高さを合わせました。
最後に、伝えたいことがあったのです。
「グリュックを宜しくお願いします。」
「うん!お姉ちゃん達、グリュックを元気にしてくれてありがとうね!」
「はい、元気になってよかったです。
グリュック、名前の通り、幸せになってください。」
なまえがグリュックの頭を撫でました。
「ミャアッ!」
グリュックが嬉しそうに鳴きました。
「そうですか。それはよかったです。」
なまえに猫語が分かるのかは、分かりません。
でも、今、グリュックが何と言ったのかは、ペンギン達にも分かりました。
とても素敵な家族の元で、グリュックは返事した通り、きっと幸せになってくれると、信じています。