◇No.16◇女友達が出来ました
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甲板の中央に置かれた椅子には、イッカクに借りた水着を着たなまえが座っていました。
両腕を左右に伸ばす彼女を、ドライヤーを持っている船員達が取り囲みます。
また電子回路がショートしてしまわないように、早急に乾かすためです。
とても原始的な方法ですが、これが一番効果があるのだそうです。
強い風を浴びて、なまえの髪が無造作に靡きます。
ちょうど乾かし終えた頃、シャワーに行っていたイッカクが甲板に戻ってきました。
「もう海に飛び込むんじゃねぇーぞ。」
「はい、仲間が海に落ちなければ、私も飛び込みません。」
「ハハッ、俺達が注意しろってかッ。」
ドライヤーで乾かしてくれた船員達が可笑しそうに笑いながら、片付けのために船内へと戻って行きました。
彼らにからかわれながら、イッカクはなまえのそばにやってきます。
「ボッサボサじゃねーか。髪といてやるから、おとなしくしてろ。」
イッカクは呆れたように言って、椅子に座ったままのなまえの後ろに立ちました。
「男共はほんっと言われたことしかやれねぇな。
だから、アイツラはモテねぇーんだ。」
つなぎの胸ポケットから櫛を取り出したイッカクは、なまえの髪をひと掬いしながら、ブツブツと文句を言います。
本当は、なまえとどんな風に接すればいいか分からなかっただけなのですが、素直ではない彼女は、こんなやり方しか思いつかなかったのです。
それに、今まで女友達もいなかったイッカクは、誰かの髪をといてやることも、当然初めてでした。
「気持ちいいです。」
くしで髪を梳いてやっていると、なまえが言いました。
目を瞑って、イッカクの手とくしに身をゆだねるその姿は、本当に気持ちが良さそうです。
「ロボットのくせに、そんなことが分かんのか。」
とても意外で、髪を梳かす手を動かしながら、イッカクは感心したように言いました。
「いいえ、分かりません。」
「なんだそりゃ。」
「以前、読んだ本で女友達同士で髪を乾かし合っていました。
彼女が、気持ちが良いと目を瞑っていたので、真似をしてみました。
変でしたか?」
「いや、」
そこまで言って、イッカクの声は止まりました。
なまえの髪を梳かしていた手も動かなくなります。
数秒の間の後、意を決したようにイッカクは息を吸いました。
「変じゃねぇだろ。アタシらは、女友達、なん、だし…?」
自信なさげに途切れがちになりながらも、イッカクの高いプライドが、威張ったような物言いを残していました。
恥ずかしさと不安で震えるような声とは裏腹に、自信のなさを誤魔化す手は、少し乱暴に髪を梳きます。
「私とハートの海賊団、その他大勢は女友達ですか?」
「さ…、さぁ?そうなんじゃねぇーの?」
「そうですか、私とハートの海賊団、その他大勢は女友達ですか。」
「た、たぶんな…!」
「私とハートの海賊団、その他大勢はお友達なんですね。」
「あぁ、そうだって言ってんだろ…!何度も繰り返すな、恥ずかしいやつだな!!」
イッカクが顔を真っ赤にして怒りました。
それをまったく気にしていない様子のなまえは、「気持ちがいい」と言ったときと同じ目を瞑ったままの気持ちよさそうな顔で続けます。
「友達が出来たのは初めてです。
ハートの海賊団、その他大勢は、私の初めての友達です。」
「…へぇ。奇遇だな、アタシもだ。」
イッカクは、髪を梳かす自分の手に視線を落とすフリをして、顔を隠しました。
嬉しさと照れ臭さで、自分でも分かってしまうくらいに頬が緩んでいたせいです。
いつの間にか、ドライヤーを自室に片付けに行っていた船員達も戻って来ていて、そのやりとりをコッソリ聞いていました。
彼らは顔を見合わせて、ニヤニヤと口の端を上げます。
いつも男勝りで姉御肌のイッカクのこんなに可愛い顔を見たのは、付き合いの長い彼らも初めてだったかもしれません。
「それと、アタシの名前は、イッカクだよ。」
髪を梳かし終わると、イッカクがなまえの前に立ち、言いました。
「アタシをバカにしてるわけじゃねぇってのは分かったから、
その変な呼び方はやめてくれ。」
「イッカク。」
「そう。絶対に忘れんなよ。」
イッカクに釘を刺されて、なまえが頷きます。
そして——。
「イッカクは優しい人です。私に服を着せてくれました。
靴をくれました。大切な仲間です。そして、初めての友達です。
だから、絶対に忘れません。」
「あぁ、そうかよ!」
イッカクは、腕を組んで、そっぽを向きながら乱暴に答えました。
照れてしまったのか、耳まで真っ赤です。
「はい、そうです。」
なまえが真面目に答えます。
彼女は、この数十分の間にあったイッカクの心の変化を何ひとつ理解していないのでしょう。
心のない彼女に、分かるはずがないのです。
でも、心のない彼女によって、甲板にいた船員達の心がとても温かい気持ちに包まれたのは、紛れもない事実でした。
両腕を左右に伸ばす彼女を、ドライヤーを持っている船員達が取り囲みます。
また電子回路がショートしてしまわないように、早急に乾かすためです。
とても原始的な方法ですが、これが一番効果があるのだそうです。
強い風を浴びて、なまえの髪が無造作に靡きます。
ちょうど乾かし終えた頃、シャワーに行っていたイッカクが甲板に戻ってきました。
「もう海に飛び込むんじゃねぇーぞ。」
「はい、仲間が海に落ちなければ、私も飛び込みません。」
「ハハッ、俺達が注意しろってかッ。」
ドライヤーで乾かしてくれた船員達が可笑しそうに笑いながら、片付けのために船内へと戻って行きました。
彼らにからかわれながら、イッカクはなまえのそばにやってきます。
「ボッサボサじゃねーか。髪といてやるから、おとなしくしてろ。」
イッカクは呆れたように言って、椅子に座ったままのなまえの後ろに立ちました。
「男共はほんっと言われたことしかやれねぇな。
だから、アイツラはモテねぇーんだ。」
つなぎの胸ポケットから櫛を取り出したイッカクは、なまえの髪をひと掬いしながら、ブツブツと文句を言います。
本当は、なまえとどんな風に接すればいいか分からなかっただけなのですが、素直ではない彼女は、こんなやり方しか思いつかなかったのです。
それに、今まで女友達もいなかったイッカクは、誰かの髪をといてやることも、当然初めてでした。
「気持ちいいです。」
くしで髪を梳いてやっていると、なまえが言いました。
目を瞑って、イッカクの手とくしに身をゆだねるその姿は、本当に気持ちが良さそうです。
「ロボットのくせに、そんなことが分かんのか。」
とても意外で、髪を梳かす手を動かしながら、イッカクは感心したように言いました。
「いいえ、分かりません。」
「なんだそりゃ。」
「以前、読んだ本で女友達同士で髪を乾かし合っていました。
彼女が、気持ちが良いと目を瞑っていたので、真似をしてみました。
変でしたか?」
「いや、」
そこまで言って、イッカクの声は止まりました。
なまえの髪を梳かしていた手も動かなくなります。
数秒の間の後、意を決したようにイッカクは息を吸いました。
「変じゃねぇだろ。アタシらは、女友達、なん、だし…?」
自信なさげに途切れがちになりながらも、イッカクの高いプライドが、威張ったような物言いを残していました。
恥ずかしさと不安で震えるような声とは裏腹に、自信のなさを誤魔化す手は、少し乱暴に髪を梳きます。
「私とハートの海賊団、その他大勢は女友達ですか?」
「さ…、さぁ?そうなんじゃねぇーの?」
「そうですか、私とハートの海賊団、その他大勢は女友達ですか。」
「た、たぶんな…!」
「私とハートの海賊団、その他大勢はお友達なんですね。」
「あぁ、そうだって言ってんだろ…!何度も繰り返すな、恥ずかしいやつだな!!」
イッカクが顔を真っ赤にして怒りました。
それをまったく気にしていない様子のなまえは、「気持ちがいい」と言ったときと同じ目を瞑ったままの気持ちよさそうな顔で続けます。
「友達が出来たのは初めてです。
ハートの海賊団、その他大勢は、私の初めての友達です。」
「…へぇ。奇遇だな、アタシもだ。」
イッカクは、髪を梳かす自分の手に視線を落とすフリをして、顔を隠しました。
嬉しさと照れ臭さで、自分でも分かってしまうくらいに頬が緩んでいたせいです。
いつの間にか、ドライヤーを自室に片付けに行っていた船員達も戻って来ていて、そのやりとりをコッソリ聞いていました。
彼らは顔を見合わせて、ニヤニヤと口の端を上げます。
いつも男勝りで姉御肌のイッカクのこんなに可愛い顔を見たのは、付き合いの長い彼らも初めてだったかもしれません。
「それと、アタシの名前は、イッカクだよ。」
髪を梳かし終わると、イッカクがなまえの前に立ち、言いました。
「アタシをバカにしてるわけじゃねぇってのは分かったから、
その変な呼び方はやめてくれ。」
「イッカク。」
「そう。絶対に忘れんなよ。」
イッカクに釘を刺されて、なまえが頷きます。
そして——。
「イッカクは優しい人です。私に服を着せてくれました。
靴をくれました。大切な仲間です。そして、初めての友達です。
だから、絶対に忘れません。」
「あぁ、そうかよ!」
イッカクは、腕を組んで、そっぽを向きながら乱暴に答えました。
照れてしまったのか、耳まで真っ赤です。
「はい、そうです。」
なまえが真面目に答えます。
彼女は、この数十分の間にあったイッカクの心の変化を何ひとつ理解していないのでしょう。
心のない彼女に、分かるはずがないのです。
でも、心のない彼女によって、甲板にいた船員達の心がとても温かい気持ちに包まれたのは、紛れもない事実でした。