◇No.15◇手を掴んで「ありがとう」です。
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ローは、ベポとペンギンと一緒に薬品庫に急ぎました。
【立ち入り禁止】
薬品庫の扉には、確かにそう貼り紙がしてあります。
なまえに見えなかったはずはありませんが、何よりもローの命令を最優先する彼女が、この貼り紙を気にしてくれたとは思えません。
ローが扉を開きます。
明かりがついている薬品庫は、シンと静まり返っていました。
それほど広い部屋ではないので、入口から中を覗けばすべてを見渡すことが出来ます。
薬品棚のすぐ前の床が割れたようになくなって、穴が開いているのを見つけました。
「なまえ!!大丈夫か!?」
危ないからベポはここにいろ——。
ローがそう言うよりも先に、ベポが薬品庫の中に駆け込んでいきます。
そして、床にあいた穴を覗きました。
3mほどもある深い穴です。
その底で、なまえは、板箱を両手で抱えて尻餅をつくように座り込んでいました。
ですが、さすがロボットだからなのか、なまえの身体能力のなせる技なのか、特に怪我があるようにも見えません。
ベポはホッと胸を撫でおろしました。
「はい、大丈夫です。薬品の瓶は割れていません。」
なまえがベポを見上げながら答えます。
それに、ベポが呆れた様にため息を吐きました。
「違うよ。なまえが大丈夫だったか聞いたの。」
「私ですか?」
なまえが不思議そうに首を傾げました。
「そうだよ。怪我はなさそうだけど、大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です。怪我をしてもすぐに直ります。」
「そうじゃなくて…、まぁ、いいや。怪我がないならよかった。」
いつまでもこのやりとりが終わらない気がして、ベポは適当に切り上げました。
「ほら。」
床にうつ伏せになったベポは、大きく長い腕を床の穴に入れて、手を差し伸べました。
ですが、それが何を意味するのか分からないなまえは、首を傾げます。
「ほら、立って。出してあげるから。」
ベポがそう言えば、やっと、なまえは納得したように頷きました。
そして、立ち上がったなまえは、薬品の入った板箱を持った両手を真っすぐに上に伸ばしました。
「・・・なまえ、それじゃ手が掴めないんだけど。何してんの?」
「薬品を受け取ってもらおうとしています。」
「いやいや、薬はもうそのままでいいから。後で、キャプテンが取るから。」
「なんで、俺が——。」
「この薬品庫、床が腐食してて立ち入り禁止だったのをキャプテンが忘れてて
なまえに危ない仕事を頼んじゃったんだ。ごめんな。
今から出してやるから、薬はそこら辺に置いて、俺の手を掴んで。」
ベポは、今の状況とこれからどうして欲しいのかを分かりやすく伝えました。
なまえには、いちから説明しないと理解してもらえないと思ったのです。
「薬はいいんですか?」
「いいよ。」
なまえはとても不思議そうでした。
ですが、いつものように素直に指示に従うなまえは、ベポに言われた通り、薬品の入った板箱を床に起きました。
「ほら、手を伸ばして。俺の手を掴んで。」
なまえは不思議そうにしながら、おずおずと、手を伸ばしました。
細い指が触れたベポの手は、彼女の手を握ると力強く持ち上げました。
ベポは、軽々となまえを出して立たせると、身体を上から下までくまなく触れて、怪我はないかを調べます。
つなぎの肩や腰に黒い煤のようなものがついていました。
落ちたときに打ってしまったのかもしれませんが、彼女が言った通り、怪我はしていないようでした。
「自分で対処できなくて、ごめんなさい。迷惑をかけました。」
なまえは、ベポやペンギン、ローの方を見て謝りました。
だから、ベポが教えてやります。
「違うよ、なまえ。こういうときは、ありがとうって言うんだ。」
「ありがとう?」
「そうだよ。俺達は仲間になったんだ。
それは、なまえが困ってたらいつでも助けてあげるってことだよ。
俺達が、仲間を助けることを迷惑だなんて思うことは絶対にない。」
「助けてあげる?」
「そう。だから、何かあったら1人で考えてないで、俺達を呼ぶんだ。
そしたら、すぐに手を差し伸べるから、なまえは迷わずに俺達の手を掴んで、ありがとうって言うんだ。
それでいいんだよ。」
「手を掴んで、ありがとう…。」
なまえは、自分の手のひらを見ながら、ベポの言葉を繰り返しました。
「そうそう。そもそも、なまえが床の下に落ちちゃったのは、
キャプテンのうっかりのせいなんだから、謝るのはキャプテンの方で——。」
ベポはまだ何か言っていましたが、なまえはその隣にいるローの前に立ちました。
悪いのはローだ、とベポが説明した後だったので、何か文句を言うのかと思いました。
ですが、なまえは、なぜか、ローの右手を両手で包むように握りしめたのです。
思いがけない行動に戸惑うローを見上げて、なまえが言います。
「ありがとう。」
それは、ペンギン達が想像したのとは正反対のものでしたが、とても優しい言葉でした。
ベポは胸がほっこりと温かくなるのを感じました。
でも——。
「どうして、俺じゃなくてキャプテンにありがとう?」
ベポは少し不服気に口を尖らせます。
でも、本気で怒っているわけではありませんから、無意識に頬は緩んでしまっています。
「ローは、ケージに戻った私に、手を差し伸べてくれました。
だから、手を掴んで、ありがとうです。」
「そっか。それは、ありがとうだな。」
ベポは、フフッと笑います。
なまえが自分の言葉の意味を理解してくれたことが嬉しかったのです。
ベポに教えてもらって、なまえはやっと『手を差し伸べる』ということを学びました。
そして、海軍に捕らえられてケージの中にいたなまえにローが伸ばした手の意味を、漸く理解したのです。
厳密に言えば、逃げるために手を掴まなければならなかったのは、あのときでした。
でも、なまえは意味が分からず、仕方なくローは乱暴に腕を掴んでケージから引きあげるしかなかったのです。
それでもきっと、ローの手を掴むということについては、『今さら』ではないはずです。
だって——。
「あぁ。どういたしまして。」
ローは、なまえの頭に左手をポンと軽く乗せました。
なまえが黒目だけを動かして自分の頭の上を見て不思議そうに首を傾げるから、ベポとペンギンは顔を見合わせて可笑しそうに笑いました。
【立ち入り禁止】
薬品庫の扉には、確かにそう貼り紙がしてあります。
なまえに見えなかったはずはありませんが、何よりもローの命令を最優先する彼女が、この貼り紙を気にしてくれたとは思えません。
ローが扉を開きます。
明かりがついている薬品庫は、シンと静まり返っていました。
それほど広い部屋ではないので、入口から中を覗けばすべてを見渡すことが出来ます。
薬品棚のすぐ前の床が割れたようになくなって、穴が開いているのを見つけました。
「なまえ!!大丈夫か!?」
危ないからベポはここにいろ——。
ローがそう言うよりも先に、ベポが薬品庫の中に駆け込んでいきます。
そして、床にあいた穴を覗きました。
3mほどもある深い穴です。
その底で、なまえは、板箱を両手で抱えて尻餅をつくように座り込んでいました。
ですが、さすがロボットだからなのか、なまえの身体能力のなせる技なのか、特に怪我があるようにも見えません。
ベポはホッと胸を撫でおろしました。
「はい、大丈夫です。薬品の瓶は割れていません。」
なまえがベポを見上げながら答えます。
それに、ベポが呆れた様にため息を吐きました。
「違うよ。なまえが大丈夫だったか聞いたの。」
「私ですか?」
なまえが不思議そうに首を傾げました。
「そうだよ。怪我はなさそうだけど、大丈夫か?」
「はい、私は大丈夫です。怪我をしてもすぐに直ります。」
「そうじゃなくて…、まぁ、いいや。怪我がないならよかった。」
いつまでもこのやりとりが終わらない気がして、ベポは適当に切り上げました。
「ほら。」
床にうつ伏せになったベポは、大きく長い腕を床の穴に入れて、手を差し伸べました。
ですが、それが何を意味するのか分からないなまえは、首を傾げます。
「ほら、立って。出してあげるから。」
ベポがそう言えば、やっと、なまえは納得したように頷きました。
そして、立ち上がったなまえは、薬品の入った板箱を持った両手を真っすぐに上に伸ばしました。
「・・・なまえ、それじゃ手が掴めないんだけど。何してんの?」
「薬品を受け取ってもらおうとしています。」
「いやいや、薬はもうそのままでいいから。後で、キャプテンが取るから。」
「なんで、俺が——。」
「この薬品庫、床が腐食してて立ち入り禁止だったのをキャプテンが忘れてて
なまえに危ない仕事を頼んじゃったんだ。ごめんな。
今から出してやるから、薬はそこら辺に置いて、俺の手を掴んで。」
ベポは、今の状況とこれからどうして欲しいのかを分かりやすく伝えました。
なまえには、いちから説明しないと理解してもらえないと思ったのです。
「薬はいいんですか?」
「いいよ。」
なまえはとても不思議そうでした。
ですが、いつものように素直に指示に従うなまえは、ベポに言われた通り、薬品の入った板箱を床に起きました。
「ほら、手を伸ばして。俺の手を掴んで。」
なまえは不思議そうにしながら、おずおずと、手を伸ばしました。
細い指が触れたベポの手は、彼女の手を握ると力強く持ち上げました。
ベポは、軽々となまえを出して立たせると、身体を上から下までくまなく触れて、怪我はないかを調べます。
つなぎの肩や腰に黒い煤のようなものがついていました。
落ちたときに打ってしまったのかもしれませんが、彼女が言った通り、怪我はしていないようでした。
「自分で対処できなくて、ごめんなさい。迷惑をかけました。」
なまえは、ベポやペンギン、ローの方を見て謝りました。
だから、ベポが教えてやります。
「違うよ、なまえ。こういうときは、ありがとうって言うんだ。」
「ありがとう?」
「そうだよ。俺達は仲間になったんだ。
それは、なまえが困ってたらいつでも助けてあげるってことだよ。
俺達が、仲間を助けることを迷惑だなんて思うことは絶対にない。」
「助けてあげる?」
「そう。だから、何かあったら1人で考えてないで、俺達を呼ぶんだ。
そしたら、すぐに手を差し伸べるから、なまえは迷わずに俺達の手を掴んで、ありがとうって言うんだ。
それでいいんだよ。」
「手を掴んで、ありがとう…。」
なまえは、自分の手のひらを見ながら、ベポの言葉を繰り返しました。
「そうそう。そもそも、なまえが床の下に落ちちゃったのは、
キャプテンのうっかりのせいなんだから、謝るのはキャプテンの方で——。」
ベポはまだ何か言っていましたが、なまえはその隣にいるローの前に立ちました。
悪いのはローだ、とベポが説明した後だったので、何か文句を言うのかと思いました。
ですが、なまえは、なぜか、ローの右手を両手で包むように握りしめたのです。
思いがけない行動に戸惑うローを見上げて、なまえが言います。
「ありがとう。」
それは、ペンギン達が想像したのとは正反対のものでしたが、とても優しい言葉でした。
ベポは胸がほっこりと温かくなるのを感じました。
でも——。
「どうして、俺じゃなくてキャプテンにありがとう?」
ベポは少し不服気に口を尖らせます。
でも、本気で怒っているわけではありませんから、無意識に頬は緩んでしまっています。
「ローは、ケージに戻った私に、手を差し伸べてくれました。
だから、手を掴んで、ありがとうです。」
「そっか。それは、ありがとうだな。」
ベポは、フフッと笑います。
なまえが自分の言葉の意味を理解してくれたことが嬉しかったのです。
ベポに教えてもらって、なまえはやっと『手を差し伸べる』ということを学びました。
そして、海軍に捕らえられてケージの中にいたなまえにローが伸ばした手の意味を、漸く理解したのです。
厳密に言えば、逃げるために手を掴まなければならなかったのは、あのときでした。
でも、なまえは意味が分からず、仕方なくローは乱暴に腕を掴んでケージから引きあげるしかなかったのです。
それでもきっと、ローの手を掴むということについては、『今さら』ではないはずです。
だって——。
「あぁ。どういたしまして。」
ローは、なまえの頭に左手をポンと軽く乗せました。
なまえが黒目だけを動かして自分の頭の上を見て不思議そうに首を傾げるから、ベポとペンギンは顔を見合わせて可笑しそうに笑いました。