◇No.9◇叱られました
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頭にたんこぶを作ったウニとクリオネが、テーブルの上を綺麗に拭いても、ローの機嫌は直りません。
ベポが何度も謝りましたが、それでもローは不機嫌なままです。
それも仕方がありません。
お味噌汁色になってもう読めそうにないあの医学本は、ローの特にお気に入りでした。
しかも、既に絶版になっていて、もう二度と手に入れることは出来ないのです。
ですから、大好きなベポに謝られても、なかなか許してやれなかったのです。
ローは眉間に皴を寄せておにぎりを頬張るばかりですし、ベポはその隣で頭を下げたまま必死に涙を堪えています。
喧嘩騒ぎを終えた食堂は、シンと静まり返り、とても気まずい空気が流れていました。
その一部始終を見ていたなまえが、不意に、お味噌汁色の医学本を手に取り、背表紙のタイトルを確認し始めました。
そして、とてつもなく凹んでいるベポに話しかけます。
「紙とペンをください。」
「…紙とペン?」
「はい。ありますか?」
「うん…、あるけど…。ちょっと待ってて。」
ベポはわけが分からないながらも、素直に、航海士室に紙とペンを取りに向かいました。
何をするつもりなのだろうかと、気まずい空気の中、船員達は不思議そうにそのやりとりを見守ります。
すると、なまえは、お味噌汁色の医学本をゴミ箱に捨てました。
いくら、もう読めないだろう本だとしても、ありえません。信じられません。
なまえをローが恐ろしい顔で睨みつけます。
船員達も顔色が真っ青です。
ですが、当の本人は全く気にする様子もなく、自分を睨むローの隣の椅子を引いて腰を降ろしました。
隣に座るローから恐ろしい顔で睨みつけられているにも関わらず、なまえは背筋をピンと伸ばして向こうの壁を真っすぐに見ています。
心臓に毛でも生えているのでしょうか。
いいえ、毛が生えるどころか、機械の彼女には心臓すらありません。
どうせ、何も考えていないのでしょう。
これはマズい状況だと言うことは船員達も理解していましたが、ここで口を挟んでしまったら、自分のところにまで火の粉が降り注ぐと分かっていたので、ただジッとしていました。
そこへ、紙とペンを持ったベポが戻ってきました。
ローの隣に座って、恐ろしい顔で睨まれているなまえを見つけて、一度、ギョッとしたベポでしたが、すぐに気を取り直して早足でやってきました。
「はい、紙とペンだよ。これでいい?」
ベポがなまえに渡したのは、航海日誌を書くときにいつも使っているお気に入りの羽ペンと未使用の真っ白なノートでした。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
ベポから受け取ったなまえは、ノートをテーブルの上に広げます。
そして、羽ペンをノートに乗せると、目にも止まらぬスピードで何かを書き始めました。
細く華奢な手が、ノートの上を忙しなく往復します。
彼女のことを怖い顔で睨みつけていたローが、ノートの中を覗いて目を見開きました。
するとー。
「なんだ、なんだ?」
顔色を真っ青にして見守るだけしか出来なかった船員達も気になって、ゾロゾロと立ち上がりやってきました。
そして、なまえの後ろからノートの中を覗き込みます。
ですが、難しい文字や数字が並ぶばかりで、何を書いているのかサッパリ分かりません。
なかなかなまえの手は止まりませんでしたし、何を書いているのかも分からずつまらなかったので、船員達は1人、また1人とそばを離れて行きました。
なぜかは分かりませんでしたが、なまえが羽ペンを走らせる度にローの機嫌が直っていったので、悪いことをしようとしているわけではないのだろう、と船員達もとりあえずは安心していたのです。
途中、ノートのページが足りなくなり、ベポが新しいノートを取りにいくことになりましたが、30分程すると、漸く、なまえの手が止まりました。
ノートを閉じた後、なまえは表紙にタイトルを書き始めます。
それは、お味噌汁まみれになってしまったローの宝物の医学書のタイトルでした。
「どうぞ。」
なまえが、ローにタイトルを書き終わったばかりの2冊のノートを手渡しました。
ローはノートの中身をパラパラとめくりながら、訊ねます。
「あの本の中身を知ってたのか。」
「研究施設で毎日本を読んでいました。
世界中にあるほとんどすべての本の内容を記憶しています。」
「へぇ。」
ローは満足気に口の端を上げると、自分の顎髭を親指でなぞります。
なまえが目にも止まらぬ速さでノートに書き記したのは、お味噌汁まみれになってしまったローの宝物の医学本の中身そのままでした。
暗記するほど読み尽くしていたローは、ページの抜けやおかしなところがないのもすぐに分かりました。
なんと彼女は、あの本を“複写”どころか、暗記していて、自分で書いて復元してしまったのです。
「ありがとーーーっ!よかったっ、よかったぁぁぁああっ。」
誰よりも喜んだのはベポだったのかもしれません。
ハシャいで椅子に座ったままのなまえに抱き着いて飛び跳ねます。
また、ベポの腰がテーブルにあたって牛乳をテーブルの上に零しましたが、今度はローがすかさずノートを避難させて無事でした。
でもやっぱり、ベポは、叱られました。
ベポが何度も謝りましたが、それでもローは不機嫌なままです。
それも仕方がありません。
お味噌汁色になってもう読めそうにないあの医学本は、ローの特にお気に入りでした。
しかも、既に絶版になっていて、もう二度と手に入れることは出来ないのです。
ですから、大好きなベポに謝られても、なかなか許してやれなかったのです。
ローは眉間に皴を寄せておにぎりを頬張るばかりですし、ベポはその隣で頭を下げたまま必死に涙を堪えています。
喧嘩騒ぎを終えた食堂は、シンと静まり返り、とても気まずい空気が流れていました。
その一部始終を見ていたなまえが、不意に、お味噌汁色の医学本を手に取り、背表紙のタイトルを確認し始めました。
そして、とてつもなく凹んでいるベポに話しかけます。
「紙とペンをください。」
「…紙とペン?」
「はい。ありますか?」
「うん…、あるけど…。ちょっと待ってて。」
ベポはわけが分からないながらも、素直に、航海士室に紙とペンを取りに向かいました。
何をするつもりなのだろうかと、気まずい空気の中、船員達は不思議そうにそのやりとりを見守ります。
すると、なまえは、お味噌汁色の医学本をゴミ箱に捨てました。
いくら、もう読めないだろう本だとしても、ありえません。信じられません。
なまえをローが恐ろしい顔で睨みつけます。
船員達も顔色が真っ青です。
ですが、当の本人は全く気にする様子もなく、自分を睨むローの隣の椅子を引いて腰を降ろしました。
隣に座るローから恐ろしい顔で睨みつけられているにも関わらず、なまえは背筋をピンと伸ばして向こうの壁を真っすぐに見ています。
心臓に毛でも生えているのでしょうか。
いいえ、毛が生えるどころか、機械の彼女には心臓すらありません。
どうせ、何も考えていないのでしょう。
これはマズい状況だと言うことは船員達も理解していましたが、ここで口を挟んでしまったら、自分のところにまで火の粉が降り注ぐと分かっていたので、ただジッとしていました。
そこへ、紙とペンを持ったベポが戻ってきました。
ローの隣に座って、恐ろしい顔で睨まれているなまえを見つけて、一度、ギョッとしたベポでしたが、すぐに気を取り直して早足でやってきました。
「はい、紙とペンだよ。これでいい?」
ベポがなまえに渡したのは、航海日誌を書くときにいつも使っているお気に入りの羽ペンと未使用の真っ白なノートでした。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
ベポから受け取ったなまえは、ノートをテーブルの上に広げます。
そして、羽ペンをノートに乗せると、目にも止まらぬスピードで何かを書き始めました。
細く華奢な手が、ノートの上を忙しなく往復します。
彼女のことを怖い顔で睨みつけていたローが、ノートの中を覗いて目を見開きました。
するとー。
「なんだ、なんだ?」
顔色を真っ青にして見守るだけしか出来なかった船員達も気になって、ゾロゾロと立ち上がりやってきました。
そして、なまえの後ろからノートの中を覗き込みます。
ですが、難しい文字や数字が並ぶばかりで、何を書いているのかサッパリ分かりません。
なかなかなまえの手は止まりませんでしたし、何を書いているのかも分からずつまらなかったので、船員達は1人、また1人とそばを離れて行きました。
なぜかは分かりませんでしたが、なまえが羽ペンを走らせる度にローの機嫌が直っていったので、悪いことをしようとしているわけではないのだろう、と船員達もとりあえずは安心していたのです。
途中、ノートのページが足りなくなり、ベポが新しいノートを取りにいくことになりましたが、30分程すると、漸く、なまえの手が止まりました。
ノートを閉じた後、なまえは表紙にタイトルを書き始めます。
それは、お味噌汁まみれになってしまったローの宝物の医学書のタイトルでした。
「どうぞ。」
なまえが、ローにタイトルを書き終わったばかりの2冊のノートを手渡しました。
ローはノートの中身をパラパラとめくりながら、訊ねます。
「あの本の中身を知ってたのか。」
「研究施設で毎日本を読んでいました。
世界中にあるほとんどすべての本の内容を記憶しています。」
「へぇ。」
ローは満足気に口の端を上げると、自分の顎髭を親指でなぞります。
なまえが目にも止まらぬ速さでノートに書き記したのは、お味噌汁まみれになってしまったローの宝物の医学本の中身そのままでした。
暗記するほど読み尽くしていたローは、ページの抜けやおかしなところがないのもすぐに分かりました。
なんと彼女は、あの本を“複写”どころか、暗記していて、自分で書いて復元してしまったのです。
「ありがとーーーっ!よかったっ、よかったぁぁぁああっ。」
誰よりも喜んだのはベポだったのかもしれません。
ハシャいで椅子に座ったままのなまえに抱き着いて飛び跳ねます。
また、ベポの腰がテーブルにあたって牛乳をテーブルの上に零しましたが、今度はローがすかさずノートを避難させて無事でした。
でもやっぱり、ベポは、叱られました。