◇No.83◇最終話:自由な航海を生きましょう
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静かに揺蕩う波と船。それを包み込むのは、旅立ちの日にとても相応しいどこまでも澄んだ青い空でした。
あの日のなまえとは違い、傷を負うことのないエルヴィンやリヴァイ、アンドロイド達が、ポーラータング号から名残惜しそうに降りていきます。
船縁から覗き込むようにして、港に降り立った彼らを見送るハートの海賊団の船員達も、どこか憂いを帯びた表情を浮かべていました。
「世話になったな。」
最後尾のリヴァイが振り返り、見送りのために共に船を降りていたローやベポ、ペンギンとシャチに順番ずつに視線を向けます。
果たせなかった約束はありました。
けれど、あの戦場になまえを連れて来たリヴァイを責める船員はひとりもいませんでした。
彼の気持ちが痛いほどよくわかったから、ではありません。
『わ、たしは…、し、あわせな…人間で、した…。』
傷だらけの身体で、文字通り〝死ぬほどの〟痛みに襲われながらも、なまえは心から幸せそうに微笑みました。
なまえと共に生きることを願ったハートの海賊団にとって、あまりにも悲劇的だった結末は、彼女にとってはハッピーエンドだったのです。
それをどうして、なまえを幸せにしたかった彼らが咎められるでしょうか。
なまえは最後まで、温かい心を持つ優しい女性だった———それだけのことなのです。
「私からも礼を言わせて欲しい。君達には心から感謝している。
我々がこうして〝生きて〟いられるのは君達の・・・、
そして、君達の仲間であるなまえのおかげだ。本当に、ありがとう。」
リヴァイの隣で、エルヴィンが深く頭を下げる。
そこへ、大男のアンドロイドがゆっくりと近づいてきて、エルヴィンに耳打ちをした。
「エルヴィン、海軍の匂いがすぐそこまで来ている。
ロー達にこれ以上、迷惑をかける前に離れるのが得策だ。」
「あぁ、そうだな。
———最後まで見守れず残念だが、君達ならきっと大丈夫だと信じている。
何かあればいつでも呼んでくれ。出来ることならなんでもしよう。」
大男のアンドロイド、ミケの指摘にコクリと頷いたエルヴィンは、リヴァイに『先に行く』と伝えてから、自分達の船に乗り込んでいく他のアンドロイド達の元へ航海の指示を出しに向かいました。
彼らの船の甲板では、いつも騒がしい眼鏡をかけたアンドロイド、ハンジが、優男風のアンドロイド、モブリットを困らせています。
そんな様子を、相変わらずだと思ってしまうほどには長い時間共に過ごしてきました。
ついにお別れであることが寂しいようで、けれど、ホッとするような気もする———ペンギンが、少しだけ苦笑を漏らしました。
「お前達、今からどうするんだ?」
リヴァイに訊ねたのは、ベポでした。
「さぁ…、自由に海を旅でもするんじゃねぇのか。」
素っ気なく答えたリヴァイでしたが、器用に帆を張るアンドロイドの仲間達を見る表情はとても柔らかく、どこかワクワクしているようにも見えます。
そして、それは、アンドロイドに指示を出しているエルヴィンも、なんだかとても賑やかに騒いでいるアンドロイド達も同じでした。
「アイツはまだ———。」
リヴァイが、航海の準備を始めている仲間達を眺めながら続けます。
「心と命が怖ぇんだ。もう二度と仲間を失いたくねぇと思ってる。
それは・・・俺も同じだ。」
リヴァイが何を言いたいのか、ロー達には分かりました。
悪魔の実の能力によって精巧なアンドロイドを生み出せるエルヴィンには、彼らを人間にする力もあります。
ですが、彼はそうはしませんでした。
そして、ハートの海賊団がなまえに望んだこととは、正反対の結論を出したのです。
ですが———。
『彼らは彼らのまま、共に生きていこうと思う。』
数日前、覚悟したようにそう告げたエルヴィンは、ただ、仲間を失う恐怖や不安を感じ、アンドロイドを人間にすることを拒否しているだけではないように見えました。
遠い昔に失った仲間達、そして、今新たに自分を慕ってくれているアンドロイドの仲間達。エルヴィンにとって、彼らはどちらもかけがえのない大切な〝人達〟なのではないでしょうか。
エルヴィンの心に変化があった———少なくとも、それだけは間違いないはずです。
「そんなの俺達だって一緒だ。」
「あぁ、そうだな。」
口を尖らせたシャチに、リヴァイがふっと口元を緩めました。
それは、笑顔と呼ぶにはあまりにも儚く、微笑と呼ぶにはどこか寂しい印象を与えます。
けれど、何かを押し殺したような苦し気な表情から解放され、彼もまた新しい人生に希望を覚えているようでした。
「エルヴィンも言っていたが、何かあればいつでも連絡をしてくれ。
なまえのために出来ることなら、俺達もなんだってしてやりたい。」
「必要ねぇ。」
「だと思った。」
思いきり眉間に皴を寄せたローに、リヴァイが今度こそククッと喉を鳴らして笑いました。
それが可笑しくて、ベポとシャチも顔を見合わせて笑います。
初めて顔を合わせた日、こんな風に笑えるときが来るだなんて誰が思ったでしょうか。
この出逢いも全て、なまえが繋いでくれたひとつの〝絆〟なのです。
不機嫌を隠そうともしないローですが、彼女が生きた証でもある彼らとの繋がりをこれからも大切に守っていくのでしょう。
だからこうやって、彼らに危険が迫る日までポーラータング号で匿い、こうして見送りにまで出ているのでしょうから。
「それじゃ、元気でな。」
ベポが右手を上げてニッと笑います。
それに頷いたリヴァイは、一度、ポーラータング号をチラリと見た後に、ゆっくりと背を向けました。
これから、しばしのお別れです。
けれど、ニュース・クーが届ける新聞で、アンドロイドを率いた天才博士と最強兵士の海賊達が大海原を自由に大暴れしていることを知ることになるまでそう時間はかかりません。
そして、それから長い時を経た頃、広い海で偶然会ったアンドロイド海賊団に見覚えのある少年と少女達が加わっていることに、ロー達は目を丸くするのですが、それはまだしばらく遠い未来のお話。
思い出話に花を咲かせることになるその日まで、ローとリヴァイ達は、それぞれの旅を続け、力強く〝生きて〟いきます。
自分の人生を噛み締めながら————。
あの日のなまえとは違い、傷を負うことのないエルヴィンやリヴァイ、アンドロイド達が、ポーラータング号から名残惜しそうに降りていきます。
船縁から覗き込むようにして、港に降り立った彼らを見送るハートの海賊団の船員達も、どこか憂いを帯びた表情を浮かべていました。
「世話になったな。」
最後尾のリヴァイが振り返り、見送りのために共に船を降りていたローやベポ、ペンギンとシャチに順番ずつに視線を向けます。
果たせなかった約束はありました。
けれど、あの戦場になまえを連れて来たリヴァイを責める船員はひとりもいませんでした。
彼の気持ちが痛いほどよくわかったから、ではありません。
『わ、たしは…、し、あわせな…人間で、した…。』
傷だらけの身体で、文字通り〝死ぬほどの〟痛みに襲われながらも、なまえは心から幸せそうに微笑みました。
なまえと共に生きることを願ったハートの海賊団にとって、あまりにも悲劇的だった結末は、彼女にとってはハッピーエンドだったのです。
それをどうして、なまえを幸せにしたかった彼らが咎められるでしょうか。
なまえは最後まで、温かい心を持つ優しい女性だった———それだけのことなのです。
「私からも礼を言わせて欲しい。君達には心から感謝している。
我々がこうして〝生きて〟いられるのは君達の・・・、
そして、君達の仲間であるなまえのおかげだ。本当に、ありがとう。」
リヴァイの隣で、エルヴィンが深く頭を下げる。
そこへ、大男のアンドロイドがゆっくりと近づいてきて、エルヴィンに耳打ちをした。
「エルヴィン、海軍の匂いがすぐそこまで来ている。
ロー達にこれ以上、迷惑をかける前に離れるのが得策だ。」
「あぁ、そうだな。
———最後まで見守れず残念だが、君達ならきっと大丈夫だと信じている。
何かあればいつでも呼んでくれ。出来ることならなんでもしよう。」
大男のアンドロイド、ミケの指摘にコクリと頷いたエルヴィンは、リヴァイに『先に行く』と伝えてから、自分達の船に乗り込んでいく他のアンドロイド達の元へ航海の指示を出しに向かいました。
彼らの船の甲板では、いつも騒がしい眼鏡をかけたアンドロイド、ハンジが、優男風のアンドロイド、モブリットを困らせています。
そんな様子を、相変わらずだと思ってしまうほどには長い時間共に過ごしてきました。
ついにお別れであることが寂しいようで、けれど、ホッとするような気もする———ペンギンが、少しだけ苦笑を漏らしました。
「お前達、今からどうするんだ?」
リヴァイに訊ねたのは、ベポでした。
「さぁ…、自由に海を旅でもするんじゃねぇのか。」
素っ気なく答えたリヴァイでしたが、器用に帆を張るアンドロイドの仲間達を見る表情はとても柔らかく、どこかワクワクしているようにも見えます。
そして、それは、アンドロイドに指示を出しているエルヴィンも、なんだかとても賑やかに騒いでいるアンドロイド達も同じでした。
「アイツはまだ———。」
リヴァイが、航海の準備を始めている仲間達を眺めながら続けます。
「心と命が怖ぇんだ。もう二度と仲間を失いたくねぇと思ってる。
それは・・・俺も同じだ。」
リヴァイが何を言いたいのか、ロー達には分かりました。
悪魔の実の能力によって精巧なアンドロイドを生み出せるエルヴィンには、彼らを人間にする力もあります。
ですが、彼はそうはしませんでした。
そして、ハートの海賊団がなまえに望んだこととは、正反対の結論を出したのです。
ですが———。
『彼らは彼らのまま、共に生きていこうと思う。』
数日前、覚悟したようにそう告げたエルヴィンは、ただ、仲間を失う恐怖や不安を感じ、アンドロイドを人間にすることを拒否しているだけではないように見えました。
遠い昔に失った仲間達、そして、今新たに自分を慕ってくれているアンドロイドの仲間達。エルヴィンにとって、彼らはどちらもかけがえのない大切な〝人達〟なのではないでしょうか。
エルヴィンの心に変化があった———少なくとも、それだけは間違いないはずです。
「そんなの俺達だって一緒だ。」
「あぁ、そうだな。」
口を尖らせたシャチに、リヴァイがふっと口元を緩めました。
それは、笑顔と呼ぶにはあまりにも儚く、微笑と呼ぶにはどこか寂しい印象を与えます。
けれど、何かを押し殺したような苦し気な表情から解放され、彼もまた新しい人生に希望を覚えているようでした。
「エルヴィンも言っていたが、何かあればいつでも連絡をしてくれ。
なまえのために出来ることなら、俺達もなんだってしてやりたい。」
「必要ねぇ。」
「だと思った。」
思いきり眉間に皴を寄せたローに、リヴァイが今度こそククッと喉を鳴らして笑いました。
それが可笑しくて、ベポとシャチも顔を見合わせて笑います。
初めて顔を合わせた日、こんな風に笑えるときが来るだなんて誰が思ったでしょうか。
この出逢いも全て、なまえが繋いでくれたひとつの〝絆〟なのです。
不機嫌を隠そうともしないローですが、彼女が生きた証でもある彼らとの繋がりをこれからも大切に守っていくのでしょう。
だからこうやって、彼らに危険が迫る日までポーラータング号で匿い、こうして見送りにまで出ているのでしょうから。
「それじゃ、元気でな。」
ベポが右手を上げてニッと笑います。
それに頷いたリヴァイは、一度、ポーラータング号をチラリと見た後に、ゆっくりと背を向けました。
これから、しばしのお別れです。
けれど、ニュース・クーが届ける新聞で、アンドロイドを率いた天才博士と最強兵士の海賊達が大海原を自由に大暴れしていることを知ることになるまでそう時間はかかりません。
そして、それから長い時を経た頃、広い海で偶然会ったアンドロイド海賊団に見覚えのある少年と少女達が加わっていることに、ロー達は目を丸くするのですが、それはまだしばらく遠い未来のお話。
思い出話に花を咲かせることになるその日まで、ローとリヴァイ達は、それぞれの旅を続け、力強く〝生きて〟いきます。
自分の人生を噛み締めながら————。