◇No.81◇共に守りましょう
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自分が生き永らえているのは、理不尽まみれの残酷な世界だと気づいたのはいつだっただろう————。
かつての仲間にそっくりな機械達が、かつての地獄にそっくにそっくりな戦場で傷だらけになっていくのを眺めながら、エルヴィンはぼんやりとそんなことを考えていました。
初めから、ここを墓場にすると決めていました。
長い歳月を孤独に生きすぎて、今となってはもう〝死〟に対する恐怖は薄れ、ほとんどありません。むしろ、憧れに近いものになっていたかもしれません。
漸く、この苦しみから解放される。失ってしまった仲間に会える。
代わりじゃなくて、本物の————。
ぼんやりとしているエルヴィンを討とうと、海兵達が周囲に集まっていました。
彼らは、銃を構え、剣を振るい、エルヴィンの元へと飛びかかってきます。
(あぁ、もうすぐだ———。)
エルヴィンは、自分の死期を悟り、そっと目を閉じました。
ですが、彼の予想は外れてしまいます。
銃も、剣も、彼を襲いませんでした。
いえ、襲えなかったのです。
閉じた瞼の向こうの光が遮られ、陰が自分を包んだのに気づいて、エルヴィンは目を開きました。
目の前にいたのは、自分を殺すために飛びかかってきていた海兵ではありませんでした。
そこにあったのは、大きな背中でした。
ガタイもよく身長も高いエルヴィンよりも、さらに長身の大きな背中です。
「ミケ…。」
遠い遠い昔から、エルヴィンが知っている頼りになる友人のものに似ていました。
当然です。そうなるように、エルヴィンが作ったアンドロイドなのです。
エルヴィンを殺そうとした敵を倒してくれたのは、そうなるようにプログラムされているからです。
目の前にいるのは、アンドロイド。本物じゃない。生きていない。
あそこにも、そっちにも、向こうにも、エルヴィンがよく知る仲間達の姿が見えます。
でも違うのです。彼らは、エルヴィンが何よりも大切に想っていた仲間達ではありません。
存在はしているけれど、命はない。心もなければ意思もない。動く人形に過ぎない。
エルヴィンが守りたかった世界はもう、ここにはない————。
「エルヴィン、後は俺達に任せろ。」
「え・・・・。」
それは、遠い遠い昔に聞いた友人の声とも、セリフとも全く同じでした。
呆然とするエルヴィンを、友人にそっくりのアンドロイドが、彼に背中を向けたままで振り向き、見下ろします。
「お前はこの世界の希望だ。死なせるわけにはいかない。
信じろ。俺達がお前を守る。」
エルヴィンは、言葉が出ませんでした。
自分を生んだ博士を守るようにプログラムされているアンドロイドの科白だと言えば、その通りなのかもしれません。
でも、エルヴィンは、今の科白を聞いたことがあったのです。
遠い遠い昔です。
今のアンドロイドの科白は、リヴァイも知りません。
なぜなら、窮地に立たされていたエルヴィンを助けに来てそのまま死んだミケが、最期にくれた言葉だったからです。
「そんなはずはない…。私は、その科白はプログラムしていない。
誰が…、誰が改変した。こんな…、まるでアイツが乗り移ったような…。」
「博士!ハンジさんを止めてください!!
喋る白熊を見つけたと言って騒いでいて、戦闘どころじゃありません!」
ブツブツと呟くエルヴィンの元へ飛んできたのは、茶髪の青年アンドロイドでした。
アンドロイドが困った顔で指す方を見れば、旧知の友人にそっくりなアンドロイドが、あの頃の彼女にそっくりな嬉しそうな顔で何かを喚いています。
「どうして・・・・。」
「エルヴィン!君は私達が守る!!
だから、終わったら喋る白熊を一緒に調べよう!!」
エルヴィンの視線に気づいたのか、友人にそっくりなアンドロイドが、楽しそうに言います。
こんな地獄で、彼女はどうして笑っているのだろう。
よく見てみれば、周囲で戦うアンドロイド達は皆、傷だらけになりながらも、必死にエルヴィンを守っていました。その瞳に、希望を宿して————。
(どうして…、あの時と同じなんだ…。
なにもかもが…、あの時のままだ…!)
最期の最期まで、どうしていつも、彼らは自分を信じてくれるのだろう。
エルヴィンがいれば、世界は救われる———まるでそう確信しているみたいにいつも、彼らは自分の為に命を捨てていく。
それが嫌だった。つらかった。
それでも尚、自由を諦めきれずに、仲間の命を犠牲にする方法しか選べなかった自分が、大嫌いだった————。
エルヴィンを守るように目の前を塞ぐ大きな背中の隣に、もう一つ背中が並びました。
今度は、とても小さな背中です。
けれど、どんな理不尽な地獄を目の前にしようが、一度も目も心も腐らせなかった。まさに文字通り世界最強の男の背中です。
彼がいたから、長く辛い歳月を、なんとか生きてこられました。
復讐心に侵されながらも、仲間への想いだけは忘れずにいられました。
彼がいたから———。
(俺は、彼らがいたから…。)
心の中で、誰かが何かに気が付いたようでした。
それを認める勇気を持てたのなら、また、私はあの未来を信じることが出来るだろうか——そんなことを思うエルヴィンに、世界最強の男が言います。
「戦おう、エルヴィン。勝っても負けても、どっちだっていい。
お前がいて、〝俺達〟がいる。それが望んだもんじゃなかったとしても、ここまで来たんだ。
〝アイツら〟が最期に命懸けで守ったもんを、俺達の手で穢すわけにはいかねぇだろ。」
エルヴィンは、自分の両掌を見下ろしました。
皮が分厚くなり、まめだらけの、お世辞にも綺麗とは呼べない掌です。
今でこそ『博士』なんて呼ばれるようになりましたが、彼は元々は兵士でした。
傷だらけのその手は、団長として、彼が仲間達を導いてきた証なのです。
それは、沢山の仲間を従え、沢山の仲間の命を葬ってきました。
彼らを救いたい———そんな一心で、作り上げたアンドロイドを見たときに、彼らはもう二度とこの世には戻ってきてくれないのだと絶望もしました。
そうして、それならば自分も、彼らと同じように戦場で死にたいとまで願うようになっていたのです。
「・・・・っ。
あぁ、そうだな。戦おう。彼らが守ってくれた私の命で、彼らを———。
今度こそ、仲間の〝生きる〟未来を守りたい。
————手伝ってくれるか、リヴァイ。」
「馬鹿言え。それは、俺の科白だ。
お前は、〝俺達〟の道標なんだから。」
フッと笑う。
それは、絶対に笑顔を見せなかったリヴァイなのか。
笑わないはずのアンドロイドなのか。
本当にありえないのは、どちらだったのでしょうか。
「お前の笑ってる顔なんて、初めて見たよ。」
思わず頬を緩めたエルヴィンの瞳には、涙が浮かんでいました。
かつての仲間にそっくりな機械達が、かつての地獄にそっくにそっくりな戦場で傷だらけになっていくのを眺めながら、エルヴィンはぼんやりとそんなことを考えていました。
初めから、ここを墓場にすると決めていました。
長い歳月を孤独に生きすぎて、今となってはもう〝死〟に対する恐怖は薄れ、ほとんどありません。むしろ、憧れに近いものになっていたかもしれません。
漸く、この苦しみから解放される。失ってしまった仲間に会える。
代わりじゃなくて、本物の————。
ぼんやりとしているエルヴィンを討とうと、海兵達が周囲に集まっていました。
彼らは、銃を構え、剣を振るい、エルヴィンの元へと飛びかかってきます。
(あぁ、もうすぐだ———。)
エルヴィンは、自分の死期を悟り、そっと目を閉じました。
ですが、彼の予想は外れてしまいます。
銃も、剣も、彼を襲いませんでした。
いえ、襲えなかったのです。
閉じた瞼の向こうの光が遮られ、陰が自分を包んだのに気づいて、エルヴィンは目を開きました。
目の前にいたのは、自分を殺すために飛びかかってきていた海兵ではありませんでした。
そこにあったのは、大きな背中でした。
ガタイもよく身長も高いエルヴィンよりも、さらに長身の大きな背中です。
「ミケ…。」
遠い遠い昔から、エルヴィンが知っている頼りになる友人のものに似ていました。
当然です。そうなるように、エルヴィンが作ったアンドロイドなのです。
エルヴィンを殺そうとした敵を倒してくれたのは、そうなるようにプログラムされているからです。
目の前にいるのは、アンドロイド。本物じゃない。生きていない。
あそこにも、そっちにも、向こうにも、エルヴィンがよく知る仲間達の姿が見えます。
でも違うのです。彼らは、エルヴィンが何よりも大切に想っていた仲間達ではありません。
存在はしているけれど、命はない。心もなければ意思もない。動く人形に過ぎない。
エルヴィンが守りたかった世界はもう、ここにはない————。
「エルヴィン、後は俺達に任せろ。」
「え・・・・。」
それは、遠い遠い昔に聞いた友人の声とも、セリフとも全く同じでした。
呆然とするエルヴィンを、友人にそっくりのアンドロイドが、彼に背中を向けたままで振り向き、見下ろします。
「お前はこの世界の希望だ。死なせるわけにはいかない。
信じろ。俺達がお前を守る。」
エルヴィンは、言葉が出ませんでした。
自分を生んだ博士を守るようにプログラムされているアンドロイドの科白だと言えば、その通りなのかもしれません。
でも、エルヴィンは、今の科白を聞いたことがあったのです。
遠い遠い昔です。
今のアンドロイドの科白は、リヴァイも知りません。
なぜなら、窮地に立たされていたエルヴィンを助けに来てそのまま死んだミケが、最期にくれた言葉だったからです。
「そんなはずはない…。私は、その科白はプログラムしていない。
誰が…、誰が改変した。こんな…、まるでアイツが乗り移ったような…。」
「博士!ハンジさんを止めてください!!
喋る白熊を見つけたと言って騒いでいて、戦闘どころじゃありません!」
ブツブツと呟くエルヴィンの元へ飛んできたのは、茶髪の青年アンドロイドでした。
アンドロイドが困った顔で指す方を見れば、旧知の友人にそっくりなアンドロイドが、あの頃の彼女にそっくりな嬉しそうな顔で何かを喚いています。
「どうして・・・・。」
「エルヴィン!君は私達が守る!!
だから、終わったら喋る白熊を一緒に調べよう!!」
エルヴィンの視線に気づいたのか、友人にそっくりなアンドロイドが、楽しそうに言います。
こんな地獄で、彼女はどうして笑っているのだろう。
よく見てみれば、周囲で戦うアンドロイド達は皆、傷だらけになりながらも、必死にエルヴィンを守っていました。その瞳に、希望を宿して————。
(どうして…、あの時と同じなんだ…。
なにもかもが…、あの時のままだ…!)
最期の最期まで、どうしていつも、彼らは自分を信じてくれるのだろう。
エルヴィンがいれば、世界は救われる———まるでそう確信しているみたいにいつも、彼らは自分の為に命を捨てていく。
それが嫌だった。つらかった。
それでも尚、自由を諦めきれずに、仲間の命を犠牲にする方法しか選べなかった自分が、大嫌いだった————。
エルヴィンを守るように目の前を塞ぐ大きな背中の隣に、もう一つ背中が並びました。
今度は、とても小さな背中です。
けれど、どんな理不尽な地獄を目の前にしようが、一度も目も心も腐らせなかった。まさに文字通り世界最強の男の背中です。
彼がいたから、長く辛い歳月を、なんとか生きてこられました。
復讐心に侵されながらも、仲間への想いだけは忘れずにいられました。
彼がいたから———。
(俺は、彼らがいたから…。)
心の中で、誰かが何かに気が付いたようでした。
それを認める勇気を持てたのなら、また、私はあの未来を信じることが出来るだろうか——そんなことを思うエルヴィンに、世界最強の男が言います。
「戦おう、エルヴィン。勝っても負けても、どっちだっていい。
お前がいて、〝俺達〟がいる。それが望んだもんじゃなかったとしても、ここまで来たんだ。
〝アイツら〟が最期に命懸けで守ったもんを、俺達の手で穢すわけにはいかねぇだろ。」
エルヴィンは、自分の両掌を見下ろしました。
皮が分厚くなり、まめだらけの、お世辞にも綺麗とは呼べない掌です。
今でこそ『博士』なんて呼ばれるようになりましたが、彼は元々は兵士でした。
傷だらけのその手は、団長として、彼が仲間達を導いてきた証なのです。
それは、沢山の仲間を従え、沢山の仲間の命を葬ってきました。
彼らを救いたい———そんな一心で、作り上げたアンドロイドを見たときに、彼らはもう二度とこの世には戻ってきてくれないのだと絶望もしました。
そうして、それならば自分も、彼らと同じように戦場で死にたいとまで願うようになっていたのです。
「・・・・っ。
あぁ、そうだな。戦おう。彼らが守ってくれた私の命で、彼らを———。
今度こそ、仲間の〝生きる〟未来を守りたい。
————手伝ってくれるか、リヴァイ。」
「馬鹿言え。それは、俺の科白だ。
お前は、〝俺達〟の道標なんだから。」
フッと笑う。
それは、絶対に笑顔を見せなかったリヴァイなのか。
笑わないはずのアンドロイドなのか。
本当にありえないのは、どちらだったのでしょうか。
「お前の笑ってる顔なんて、初めて見たよ。」
思わず頬を緩めたエルヴィンの瞳には、涙が浮かんでいました。