◇No.78◇貴方がいるから、戦場の女神は振り返りません
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〝それ〟が、舞い踊るように空を駆け回り、圧倒的な力で海軍を鎮めていく姿は、ひどく美しく、そして儚く、ロー達にとって、この世の終わりのような地獄でした。
なぜ————。
なまえは、リヴァイに託したはずでした。
もしも、エルヴィンの説得に失敗し、彼女を人間に戻すことが出来なかったら、ハートの海賊団は潔く身を引くという条件で、彼には今回のローの作戦に乗ってもらったのです。
その代わり、そばにいる者が、なまえのことは命を懸けて守るという約束でした。
今、なまえのそばにいるのはリヴァイのはずです。そのはずだったのです。
それがなぜ、なまえだけが、戦闘の最前線にいる理由が分からず、リヴァイの姿を探しますがどこにも見当たりません。
そもそも彼女は、ハートの海賊団との記憶を消したはずです。
ここで、自分達を守るために戦う理由はないはず———。
「…!」
ハッとしたローは、今も尚、死ぬために戦っているエルヴィン達に視線を向けました。
彼らのほとんどは、砲弾の飛び交う空中戦は止め、特攻隊の海兵達と剣を交えています。
もし、なまえが過去の記憶を取り戻し、彼らを守るために、悲劇を繰り返そうとしているのなら、今の状況も納得がいく———ローは、そう考えたのです。
「おい!エルヴィン!今すぐなまえに指示を出せ!」
ローが叫ぶと、アンドロイド達に指示を出していたエルヴィンがこちらに視線を向けました。
相変わらず、生気のない瞳です。
むしろ、淡々と戦っているアンドロイド達の方が、まだ人間らしいと感じてしまいます。
「何と?アレは、もうお前達のものなのだろう。
私の指示を聞くとは思えないが。」
「アレじゃねぇ。なまえだ。
アイツの記憶は、リヴァイに消させた。きっと、なまえはお前たちを守るために戦ってる。
なまえに残った過去の記憶がそうさせているに違いねぇ…!」
それは、ローにとって悔しいことでした。
なまえを守るために突き放したというのに、それが結局、彼女に悲劇を繰り返させようとしているのですから、当然です。
ローの考えを聞き、エルヴィンは、なまえのいる空を見上げました。
なんとかなまえを救う方法はないかと、ローがありとあらゆる文献を読み漁っていた時、遠い昔、百年前にもなまえという女性が、仲間を守るために強く戦い、没後には戦場の女神と呼ばれていたというのを知りました。
彼女は、こんな風に、強く、凛とした瞳で前だけを見て、仲間に背中を向けて戦ったのかもしれません。
ですが、なまえの戦闘は、エルヴィンが過去に見たものとは大きく違っていたことでしょう。
なぜなら、彼女の身体には、エルヴィンが出来る限り詰め込んだありとあらゆる戦闘武器が組み込まれているのです。そして、そのすべてを駆使して、なまえは、飛び交う砲弾を跳ね返しては、機関銃にかえた腕で軍艦を撃ち続けています。
「アレが、俺達を守っていると?」
エルヴィンの空虚な瞳が宙を見上げ、必死に戦うなまえを指さします。
〝アレ〟という言い方にひどく腹が立ちましたが、今はそれを指摘しているときではありません。
ハートの海賊団は、なんとしてでもなまえをこの戦場から退かせたいのです。なまえの命をなんとしてでも守り、彼女の願いを叶えるために———。
「そうだって言ってんだろ!」
「早く指示を出せよ!」
「どうせお前が、自分達のピンチには助けに来るようにプログラムしたんだろ!」
「もう二度と!なまえは誰かのために死んだりなんかさせねぇ!!」
ハートの海賊団の船員達からも、つまらなそうになまえを見上げるエルヴィンに対して怒号が飛び交います。
すると、エルヴィンは、首を竦めた後に、ロー達へ視線を向きなおしました。
「頭上から、いまだに砲弾が降り注ぐ俺達とは違い、
お前達の空は、砲弾の雨が止んでいる。
その理由を、お前達はどう説明するつもりか聞かせて欲しい。」
エルヴィンは、ロー達を見たままで、空を指さしました。
ハッとしたロー達は、すぐに空を見上げます。
エルヴィンの頭上では、彼の手足であるアンドロイドの数名が、二本のブレードで砲弾を切り落としながら、なんとか堪えていました。
ですが、ハートの海賊団の頭上にある空には、砲弾が飛んでいません。それよりも向こうで、なまえが食いとめているからです。
「どうして…!?」
ベポが目を丸くして、焦ったように言いました。
なぜ、なまえが自分達を守っているのか、分からないのでしょう。
同じような表情をしている船員達もいましたが、数名は、その理由に気づいてしまいました。
それは、ローも同じです。
「クソ…!」
ローが、拳を握り、唇を噛みます。
この状況の原因は、リヴァイでしょう。彼は、なまえの記憶を消してなどいなかったということです。
そして今、なまえは、ハートの海賊団の危機を聞きつけ、助けに来てしまった————計画の全てが、台無しです。
なまえが死んでしまっては、意味がないのに———。
「なまえ!!」
ローが、彼女の名前を叫びました。
ひどく久しぶりな気がしました。少し、喉が震えてしまったのは、そのせいかもしれません。
次にローが彼女の名前を呼ぶときは、彼女と共に生きているはずでした。
少なくとも、こんな地獄の果てのような戦場ではありません。
ローの声が、なまえに届いたかどうかは分かりません。
でも、ほんの一瞬、彼女の肩が震えたような気がしたのです。
地上と空では距離もかなりあるので、そんな小さな変化が見えるはずはないのですが、そう見えた気がしてしまったのは、彼女が振り向いてくれなかった言い訳だったのかもしれません。
「なまえ!降りてこい!!」
「なまえ、今すぐここから逃げるんだ!!」
「お前は戦わなくていい!!」
「死んじまうぞ!!」
状況を理解していった仲間達が、次々となまえに声をかけます。
ですが、なまえが振り向いてくれることは、ついに、一度もありませんでした。
「死なないでくれ…!!」
彼女は、仲間達の願いを受け流す代わりに、ただひとり最前線で、仲間の為だけに砲弾の雨を受け止め続けました。
それは、ロー達にとって、地獄よりも恐ろしい光景でした。
なぜ————。
なまえは、リヴァイに託したはずでした。
もしも、エルヴィンの説得に失敗し、彼女を人間に戻すことが出来なかったら、ハートの海賊団は潔く身を引くという条件で、彼には今回のローの作戦に乗ってもらったのです。
その代わり、そばにいる者が、なまえのことは命を懸けて守るという約束でした。
今、なまえのそばにいるのはリヴァイのはずです。そのはずだったのです。
それがなぜ、なまえだけが、戦闘の最前線にいる理由が分からず、リヴァイの姿を探しますがどこにも見当たりません。
そもそも彼女は、ハートの海賊団との記憶を消したはずです。
ここで、自分達を守るために戦う理由はないはず———。
「…!」
ハッとしたローは、今も尚、死ぬために戦っているエルヴィン達に視線を向けました。
彼らのほとんどは、砲弾の飛び交う空中戦は止め、特攻隊の海兵達と剣を交えています。
もし、なまえが過去の記憶を取り戻し、彼らを守るために、悲劇を繰り返そうとしているのなら、今の状況も納得がいく———ローは、そう考えたのです。
「おい!エルヴィン!今すぐなまえに指示を出せ!」
ローが叫ぶと、アンドロイド達に指示を出していたエルヴィンがこちらに視線を向けました。
相変わらず、生気のない瞳です。
むしろ、淡々と戦っているアンドロイド達の方が、まだ人間らしいと感じてしまいます。
「何と?アレは、もうお前達のものなのだろう。
私の指示を聞くとは思えないが。」
「アレじゃねぇ。なまえだ。
アイツの記憶は、リヴァイに消させた。きっと、なまえはお前たちを守るために戦ってる。
なまえに残った過去の記憶がそうさせているに違いねぇ…!」
それは、ローにとって悔しいことでした。
なまえを守るために突き放したというのに、それが結局、彼女に悲劇を繰り返させようとしているのですから、当然です。
ローの考えを聞き、エルヴィンは、なまえのいる空を見上げました。
なんとかなまえを救う方法はないかと、ローがありとあらゆる文献を読み漁っていた時、遠い昔、百年前にもなまえという女性が、仲間を守るために強く戦い、没後には戦場の女神と呼ばれていたというのを知りました。
彼女は、こんな風に、強く、凛とした瞳で前だけを見て、仲間に背中を向けて戦ったのかもしれません。
ですが、なまえの戦闘は、エルヴィンが過去に見たものとは大きく違っていたことでしょう。
なぜなら、彼女の身体には、エルヴィンが出来る限り詰め込んだありとあらゆる戦闘武器が組み込まれているのです。そして、そのすべてを駆使して、なまえは、飛び交う砲弾を跳ね返しては、機関銃にかえた腕で軍艦を撃ち続けています。
「アレが、俺達を守っていると?」
エルヴィンの空虚な瞳が宙を見上げ、必死に戦うなまえを指さします。
〝アレ〟という言い方にひどく腹が立ちましたが、今はそれを指摘しているときではありません。
ハートの海賊団は、なんとしてでもなまえをこの戦場から退かせたいのです。なまえの命をなんとしてでも守り、彼女の願いを叶えるために———。
「そうだって言ってんだろ!」
「早く指示を出せよ!」
「どうせお前が、自分達のピンチには助けに来るようにプログラムしたんだろ!」
「もう二度と!なまえは誰かのために死んだりなんかさせねぇ!!」
ハートの海賊団の船員達からも、つまらなそうになまえを見上げるエルヴィンに対して怒号が飛び交います。
すると、エルヴィンは、首を竦めた後に、ロー達へ視線を向きなおしました。
「頭上から、いまだに砲弾が降り注ぐ俺達とは違い、
お前達の空は、砲弾の雨が止んでいる。
その理由を、お前達はどう説明するつもりか聞かせて欲しい。」
エルヴィンは、ロー達を見たままで、空を指さしました。
ハッとしたロー達は、すぐに空を見上げます。
エルヴィンの頭上では、彼の手足であるアンドロイドの数名が、二本のブレードで砲弾を切り落としながら、なんとか堪えていました。
ですが、ハートの海賊団の頭上にある空には、砲弾が飛んでいません。それよりも向こうで、なまえが食いとめているからです。
「どうして…!?」
ベポが目を丸くして、焦ったように言いました。
なぜ、なまえが自分達を守っているのか、分からないのでしょう。
同じような表情をしている船員達もいましたが、数名は、その理由に気づいてしまいました。
それは、ローも同じです。
「クソ…!」
ローが、拳を握り、唇を噛みます。
この状況の原因は、リヴァイでしょう。彼は、なまえの記憶を消してなどいなかったということです。
そして今、なまえは、ハートの海賊団の危機を聞きつけ、助けに来てしまった————計画の全てが、台無しです。
なまえが死んでしまっては、意味がないのに———。
「なまえ!!」
ローが、彼女の名前を叫びました。
ひどく久しぶりな気がしました。少し、喉が震えてしまったのは、そのせいかもしれません。
次にローが彼女の名前を呼ぶときは、彼女と共に生きているはずでした。
少なくとも、こんな地獄の果てのような戦場ではありません。
ローの声が、なまえに届いたかどうかは分かりません。
でも、ほんの一瞬、彼女の肩が震えたような気がしたのです。
地上と空では距離もかなりあるので、そんな小さな変化が見えるはずはないのですが、そう見えた気がしてしまったのは、彼女が振り向いてくれなかった言い訳だったのかもしれません。
「なまえ!降りてこい!!」
「なまえ、今すぐここから逃げるんだ!!」
「お前は戦わなくていい!!」
「死んじまうぞ!!」
状況を理解していった仲間達が、次々となまえに声をかけます。
ですが、なまえが振り向いてくれることは、ついに、一度もありませんでした。
「死なないでくれ…!!」
彼女は、仲間達の願いを受け流す代わりに、ただひとり最前線で、仲間の為だけに砲弾の雨を受け止め続けました。
それは、ロー達にとって、地獄よりも恐ろしい光景でした。