◇No.78◇貴方がいるから、戦場の女神は振り返りません
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ローが能力を駆使して破壊した軍艦の破片が、前方から打ち込まれる大砲を飲み込んでいたのは、最初だけでした。
海軍が、バスターコールを発動したのです。
海軍本部中将5名と十隻の軍艦を引き連れてやってきた海軍の国家戦争クラスの大戦力で無差別攻撃は、ハートの海賊団とエルヴィン率いるアンドロイド集団を、あっという間に窮地に立たせます。
自分達を裏切った博士とトラファルガー・ローを目の敵にしていた海軍にとって、彼らが手を組んで自分達に挑んできたことは、むしろ、好都合でしかありませんでした。
そして、このタイミングで、自分達にとって都合の悪い歴史を持つこの島ごと消してしまおうと企んだというわけです。
「キャプテンッ、どうするの…!?」
「アイツら、俺達だけじゃなくて、この島ごと消すつもりっすよ!!」
ベポとシャチが、焦った様子で叫びます。
彼らの向こうでは、ペンギンが他の船員達に指示を出して、なんとかこの戦況を好転させようと藻掻いています。
バスターコールを真っ向から受けて、まだ誰も負傷していないどころか、怖気づかずに戦う姿は、さすが世界が一目置くハートの海賊団の船員達です。
ですが、相手は、バスターコールです。彼らがいつまで持つかは分かりません。
エルヴィン達がどう考えているかは分かりませんが、正直、この島が消されようがハートの海賊団には関係もないので、仲間を失う前にここから離れるのが得策でしょう。
ですが、まだ————。
ロー達の方が押されている状況とはいえ、海兵達は、ハートの海賊団とアンドロイド集団の止まない攻撃に怖気づき、なかなか近づけない様子です。
特攻の海兵を除いて、中将を含む他の海兵達は、安全な軍艦から様子を見ているようでした。
彼らがまだこの島に降りていない今のうちに、どうにか出来ればもしかしたら———。
ロー達は、死が真横で気味の悪い顔で笑っているこの戦場で、それでも尚、勝機を伺っていたのです。
だって、逃げるわけにはいきません。
少なくとも、エルヴィンに、なまえを救わせるまでは————。
ローは、チラリ、とエルヴィンへと視線を向けます。
エルヴィンは、ローの斜め前で、アンドロイド達に指示を出していました。
なまえと同様に、どう見ても人間にしか見えない彼らは、腰につけた〝立体起動装置〟という道具を駆使して、自由自在に空を舞っては、〝超硬質スチール〟という普通の刃よりも硬質な剣で、大砲や海兵達を叩き切っていきます。
目にも止まらぬスピード感は、人間技ではありませんでしたが、背中に天使の羽を生やして空を飛ぶなまえよりは、幾らかは人間らしい戦闘には見えます。
「お前、こうなること分かってただろ。」
ローが睨みつけるようにして言えば、アンドロイド達に指示を出していたエルヴィンの視線が、彼を向きました。
「私は言ったはずだ。
恩を売るのは結構だが、私達とは関わらない方が君達の為だ、と。」
「チッ。」
そういうことだったのか———。
ローは、舌打ちと共に、漸く理解します。
エルヴィンは初めから、勝つ気などなかったのです。
バスターコールを発動されることを理解したうえで、海軍に戦いを挑み、その場をこの島に選んだ————彼は、この島ごと全てを消すつもりです。
隠され続けてきた最悪な歴史と自分、そして、生まれてしまった生きていない仲間達のすべてを消して、長年の苦しみから解放されることを願っているのでしょう。
「キャプテン!どうしますか!?
俺達の大砲はすべて打ち尽くして、もう残ってませんッ。
このまま、海兵達がこの辺りまで乗り込んでくれば、俺達…っ。」
ペンギンが駆け寄ってきました。
他の船員達に比べれば、幾らかは冷静さもあるペンギンも、今回ばかりは恐怖と焦りで、額に大量の汗をかいています。
負傷もしてしまったのか、ツナギの右肩の辺りには血が滲んでいました。
起死回生の策でもあれば、どうにかできたかもしれませんが、バスターコールを前にして、さすがのローも何も浮かびません。
「逃げなさい。」
エルヴィンが言いました。
「あ?」
「私達が隙を作ろう。その間に、君達は逃げなさい。」
「俺達は、なまえを人間にするまで、絶対に諦めねぇ。」
ローの頑なな意思を前に、エルヴィンは呆れたように肩を竦めました。
まるで機械のように生気のない表情なのに、蒼い瞳には軽蔑が浮かんでいます。
機械を仲間だと呼んで、愛して、人間にしてやろうと本気で考えているハートの海賊団のことを、愚か者だと思っているのがよくわかります。
偵察班が見つけたエルヴィン達の隠れ家を訪れ、ローが今回の計画について話したときも、彼は似たような表情をしていました。
壊れてしまうほどに心を傷つけてきた彼にとって、人間でいることは生き地獄だったのでしょう。
悪魔の実の能力を駆使して、アンドロイドを生み出す度に、もしかすると彼は、心のない彼らに嫉妬をしていたのかもしれません。
だからこそ、せっかく心を持たない機械として生まれたなまえを、人間にしたいと願うロー達の考えに否定的なのです。
でも、誰に何を思われようが、ハートの海賊団には関係ありません。
大切なのは、〝仲間が〟何を思い、何を願っているのか——なのですから。
「俺達は命懸けてここに立ってる。お前も、約束はしっかり守れよ。」
「あぁ、私は約束は守る男だよ。」
「それなら——。」
「だが、これだけは覚えておくといい。
———君達にはなまえは救えない。」
エルヴィンは、それだけ言うと、ローが何かを言う隙も与えずに、立体起動装置を使って飛んで行ってしまいました。
救えない———戦場の恐ろしい音が響く中で、確信しきったようなエルヴィンの声だけが、ローの鼓膜の奥で何度も木霊します。
まるで、近い未来を予言しているかのようなそれに、嫌な予感がするのです。
そのときでした。
大きな白い翼が、大砲の飛び交う赤黒い空に舞い上がったのが見えたのです。
海軍が、バスターコールを発動したのです。
海軍本部中将5名と十隻の軍艦を引き連れてやってきた海軍の国家戦争クラスの大戦力で無差別攻撃は、ハートの海賊団とエルヴィン率いるアンドロイド集団を、あっという間に窮地に立たせます。
自分達を裏切った博士とトラファルガー・ローを目の敵にしていた海軍にとって、彼らが手を組んで自分達に挑んできたことは、むしろ、好都合でしかありませんでした。
そして、このタイミングで、自分達にとって都合の悪い歴史を持つこの島ごと消してしまおうと企んだというわけです。
「キャプテンッ、どうするの…!?」
「アイツら、俺達だけじゃなくて、この島ごと消すつもりっすよ!!」
ベポとシャチが、焦った様子で叫びます。
彼らの向こうでは、ペンギンが他の船員達に指示を出して、なんとかこの戦況を好転させようと藻掻いています。
バスターコールを真っ向から受けて、まだ誰も負傷していないどころか、怖気づかずに戦う姿は、さすが世界が一目置くハートの海賊団の船員達です。
ですが、相手は、バスターコールです。彼らがいつまで持つかは分かりません。
エルヴィン達がどう考えているかは分かりませんが、正直、この島が消されようがハートの海賊団には関係もないので、仲間を失う前にここから離れるのが得策でしょう。
ですが、まだ————。
ロー達の方が押されている状況とはいえ、海兵達は、ハートの海賊団とアンドロイド集団の止まない攻撃に怖気づき、なかなか近づけない様子です。
特攻の海兵を除いて、中将を含む他の海兵達は、安全な軍艦から様子を見ているようでした。
彼らがまだこの島に降りていない今のうちに、どうにか出来ればもしかしたら———。
ロー達は、死が真横で気味の悪い顔で笑っているこの戦場で、それでも尚、勝機を伺っていたのです。
だって、逃げるわけにはいきません。
少なくとも、エルヴィンに、なまえを救わせるまでは————。
ローは、チラリ、とエルヴィンへと視線を向けます。
エルヴィンは、ローの斜め前で、アンドロイド達に指示を出していました。
なまえと同様に、どう見ても人間にしか見えない彼らは、腰につけた〝立体起動装置〟という道具を駆使して、自由自在に空を舞っては、〝超硬質スチール〟という普通の刃よりも硬質な剣で、大砲や海兵達を叩き切っていきます。
目にも止まらぬスピード感は、人間技ではありませんでしたが、背中に天使の羽を生やして空を飛ぶなまえよりは、幾らかは人間らしい戦闘には見えます。
「お前、こうなること分かってただろ。」
ローが睨みつけるようにして言えば、アンドロイド達に指示を出していたエルヴィンの視線が、彼を向きました。
「私は言ったはずだ。
恩を売るのは結構だが、私達とは関わらない方が君達の為だ、と。」
「チッ。」
そういうことだったのか———。
ローは、舌打ちと共に、漸く理解します。
エルヴィンは初めから、勝つ気などなかったのです。
バスターコールを発動されることを理解したうえで、海軍に戦いを挑み、その場をこの島に選んだ————彼は、この島ごと全てを消すつもりです。
隠され続けてきた最悪な歴史と自分、そして、生まれてしまった生きていない仲間達のすべてを消して、長年の苦しみから解放されることを願っているのでしょう。
「キャプテン!どうしますか!?
俺達の大砲はすべて打ち尽くして、もう残ってませんッ。
このまま、海兵達がこの辺りまで乗り込んでくれば、俺達…っ。」
ペンギンが駆け寄ってきました。
他の船員達に比べれば、幾らかは冷静さもあるペンギンも、今回ばかりは恐怖と焦りで、額に大量の汗をかいています。
負傷もしてしまったのか、ツナギの右肩の辺りには血が滲んでいました。
起死回生の策でもあれば、どうにかできたかもしれませんが、バスターコールを前にして、さすがのローも何も浮かびません。
「逃げなさい。」
エルヴィンが言いました。
「あ?」
「私達が隙を作ろう。その間に、君達は逃げなさい。」
「俺達は、なまえを人間にするまで、絶対に諦めねぇ。」
ローの頑なな意思を前に、エルヴィンは呆れたように肩を竦めました。
まるで機械のように生気のない表情なのに、蒼い瞳には軽蔑が浮かんでいます。
機械を仲間だと呼んで、愛して、人間にしてやろうと本気で考えているハートの海賊団のことを、愚か者だと思っているのがよくわかります。
偵察班が見つけたエルヴィン達の隠れ家を訪れ、ローが今回の計画について話したときも、彼は似たような表情をしていました。
壊れてしまうほどに心を傷つけてきた彼にとって、人間でいることは生き地獄だったのでしょう。
悪魔の実の能力を駆使して、アンドロイドを生み出す度に、もしかすると彼は、心のない彼らに嫉妬をしていたのかもしれません。
だからこそ、せっかく心を持たない機械として生まれたなまえを、人間にしたいと願うロー達の考えに否定的なのです。
でも、誰に何を思われようが、ハートの海賊団には関係ありません。
大切なのは、〝仲間が〟何を思い、何を願っているのか——なのですから。
「俺達は命懸けてここに立ってる。お前も、約束はしっかり守れよ。」
「あぁ、私は約束は守る男だよ。」
「それなら——。」
「だが、これだけは覚えておくといい。
———君達にはなまえは救えない。」
エルヴィンは、それだけ言うと、ローが何かを言う隙も与えずに、立体起動装置を使って飛んで行ってしまいました。
救えない———戦場の恐ろしい音が響く中で、確信しきったようなエルヴィンの声だけが、ローの鼓膜の奥で何度も木霊します。
まるで、近い未来を予言しているかのようなそれに、嫌な予感がするのです。
そのときでした。
大きな白い翼が、大砲の飛び交う赤黒い空に舞い上がったのが見えたのです。