◇No.77◇私は後悔しない選択を知っています
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しばらく走り続けていました。
なまえからは、あれから一言もありません。
2人を繋ぐ手には、まるで、残酷な現実に打ちのめされてさめざめと泣く涙のように、汗が滲みます。
リヴァイは、彼女の手を引きながら、このまま奪い去ることが出来れば、と考えていました。
ローからの提案を受け入れたその時から、もしかしたらこうなるかもしれないことには気づいていたような気がします。
それなら、もっと早くに、なまえを連れてこの島を出るべきでした。
どうして、リヴァイは、あの家で数日を過ごしてしまったのでしょう。
そうすれば、なまえが、絶望の音に気付くこともなかったはずです。
「リヴァイさん。」
名前を呼ばれたのと同時に、なまえが立ち止まりました。
繋がっていた手をそのままにしていたせいで、リヴァイも強制的に足が止まります。
「何やってんだ。止まってる暇はねぇ。今すぐに——。」
すぐに振り返ったリヴァイでしたが、なまえの表情を見て、すべてを悟りました。
リヴァイをまっすぐに見つめる力強い瞳、不安そうに噛んだ唇、冷たい風に吹かれて揺れる長い髪———。
それらの全てに、リヴァイは、見覚えがあったのです。
なまえは、仲間を守るために、自らの命すらも懸ける覚悟を決めてしまったようです。
「お前が戻っても、死ぬだけだ。」
覚悟を決めたからといって、行かせるわけにはいきません。
リヴァイは、諦められなかったのです。
彼女に生きていてほしい———それだけです。
「知っています。リヴァイさんの言うことは正しいです。」
「分かってんなら、」
「でも、心が、違うと叫んで、どう説得しても聞いてくれません。」
なまえは、リヴァイとは繋がっていない手で、自分の胸に手を添えました。
残念ながら、そこに、なまえの〝心〟はありません。
なぜなら、彼女は、機械だからです。
でも、プログラムを都合よく改変したはずなのに、リヴァイの命令を聞くことをしないなまえに、システムとは違うところで、彼女を突き動かす何かがあることは、確かなのでしょう。
それが〝心〟だというのなら、それはとても危険なモノです。
なまえは、機械でなければ、死んでしまうのです。
「そんなものは、お前にはねぇ。」
リヴァイは、否定をします。
信じないのではありません。信じたくないのです。
でも———。
「あります。私にはもう、ハートがある。
それは、ローが教えてくれた愛で、仲間で、ハートの海賊団です。
彼らからはもう、ハートを貰いました。」
「それは———。」
「分かっています。それは、ロー達が、命を懸けてでも私に与えたい〝心〟じゃない。
でも、私には、ここにあるハートだけで十分なんです。」
なまえの〝心からの〟微笑みに、リヴァイは言葉を失くします。
柔らかく細くなった瞳と、垂れさがった目尻、緩みながら上がった口角は、彼女が本当に心からの幸せを覚えていることを語っていました。
なぜなら、その笑みの意味を、誰よりも知っていたのが、リヴァイだったからです。
そして、彼女は、こう続けるのです。
「私が人間として生きていくためのハートを手に入れる為に、仲間が傷つくのなら
私はそんなもの要らない。仲間がたったひとりでも欠けている未来に、私の幸せはありません。」
強い眼差しのなまえの言葉に、リヴァイは、心臓がドクンと鳴って、悲鳴を上げ始めたのを感じました。
どうして、あの日と同じなのでしょう。
なまえの覚悟の言葉は、リヴァイにとって、世界の平和と引きかえに始まった絶望の始まりでした。
この先、どうなるのか、リヴァイは知っています。
だから、何がなんでも、彼女を止めなければなりません。
「大切な人が欠けた未来で生きるのなら、私は彼らを守るために〝生きたい〟。」
なまえが言います。
その気持ちは、リヴァイにも痛いほどに分かります。
大切な人が欠けた未来が、どんなに虚しく、寂しい世界なのかを誰よりも知っているからです。
それでも——。
「俺は…行かせねぇ。
今度こそ、俺は、お前を生かすために生きる。
命なんか、懸けさせねぇ。」
リヴァイは、繋いでいるなまえの手を強く強く握りました。
心臓が苦しくなって、唇を噛むと、まるで、懇願するように頭が下がります。
身体も、心も、震えていました。
「私は知っています。
仲間の命以上に大切で、価値のあるものなんて、この世には、存在しないことを。」
なまえが、手を握り返してくれたのです。
リヴァイは、驚いて顔を上げました。そこで見たのは、泣きそうな顔で、それでも柔らかく微笑む、あの日のなまえでした。
「教えてくれたのは、リヴァイさんです。
私は、リヴァイさんのおかげで、自分がした選択に後悔がないことも知っています。」
「なまえ、俺は———。」
何を、言おうとしたのでしょうか。
でも、なまえは、そこから先を言わせてはくれませんでした。
なまえは、リヴァイの頬に、機械ならではの熱の高い手を添えました。
そして、相変わらずの、泣きそうな、でもひどく優しい、そんな笑みを浮かべて————。
「リヴァイ、ありがとう。」
リヴァイは、目を見開きました。
それは、あの日からずっと、独りきりで流れ続けていた彼の時間が、初めて止まった瞬間でした。
そして、彼女をあの家にいつまでも留めてしまっていた理由を、彼は漸く、知るのです。
ハートの海賊団の船上で再会したそのときから、なまえは———。
「さよなら。」
なまえの手が、ゆっくりと離れていきました。
リヴァイの知っている優しい笑みと、あの日、交わせなかった別れの言葉を残して、なまえが背中を向けます。
——待って。
渇いた空気を吐くばかりの頼りない口を諦めて、リヴァイは、離れてしまった手をなんとか掴み直そうとします。
まだやり直せる———そう信じたかったリヴァイの、なまえの温もりが残る手に触れたのは、彼女ではなく、冷たい風でした。
なまえからは、あれから一言もありません。
2人を繋ぐ手には、まるで、残酷な現実に打ちのめされてさめざめと泣く涙のように、汗が滲みます。
リヴァイは、彼女の手を引きながら、このまま奪い去ることが出来れば、と考えていました。
ローからの提案を受け入れたその時から、もしかしたらこうなるかもしれないことには気づいていたような気がします。
それなら、もっと早くに、なまえを連れてこの島を出るべきでした。
どうして、リヴァイは、あの家で数日を過ごしてしまったのでしょう。
そうすれば、なまえが、絶望の音に気付くこともなかったはずです。
「リヴァイさん。」
名前を呼ばれたのと同時に、なまえが立ち止まりました。
繋がっていた手をそのままにしていたせいで、リヴァイも強制的に足が止まります。
「何やってんだ。止まってる暇はねぇ。今すぐに——。」
すぐに振り返ったリヴァイでしたが、なまえの表情を見て、すべてを悟りました。
リヴァイをまっすぐに見つめる力強い瞳、不安そうに噛んだ唇、冷たい風に吹かれて揺れる長い髪———。
それらの全てに、リヴァイは、見覚えがあったのです。
なまえは、仲間を守るために、自らの命すらも懸ける覚悟を決めてしまったようです。
「お前が戻っても、死ぬだけだ。」
覚悟を決めたからといって、行かせるわけにはいきません。
リヴァイは、諦められなかったのです。
彼女に生きていてほしい———それだけです。
「知っています。リヴァイさんの言うことは正しいです。」
「分かってんなら、」
「でも、心が、違うと叫んで、どう説得しても聞いてくれません。」
なまえは、リヴァイとは繋がっていない手で、自分の胸に手を添えました。
残念ながら、そこに、なまえの〝心〟はありません。
なぜなら、彼女は、機械だからです。
でも、プログラムを都合よく改変したはずなのに、リヴァイの命令を聞くことをしないなまえに、システムとは違うところで、彼女を突き動かす何かがあることは、確かなのでしょう。
それが〝心〟だというのなら、それはとても危険なモノです。
なまえは、機械でなければ、死んでしまうのです。
「そんなものは、お前にはねぇ。」
リヴァイは、否定をします。
信じないのではありません。信じたくないのです。
でも———。
「あります。私にはもう、ハートがある。
それは、ローが教えてくれた愛で、仲間で、ハートの海賊団です。
彼らからはもう、ハートを貰いました。」
「それは———。」
「分かっています。それは、ロー達が、命を懸けてでも私に与えたい〝心〟じゃない。
でも、私には、ここにあるハートだけで十分なんです。」
なまえの〝心からの〟微笑みに、リヴァイは言葉を失くします。
柔らかく細くなった瞳と、垂れさがった目尻、緩みながら上がった口角は、彼女が本当に心からの幸せを覚えていることを語っていました。
なぜなら、その笑みの意味を、誰よりも知っていたのが、リヴァイだったからです。
そして、彼女は、こう続けるのです。
「私が人間として生きていくためのハートを手に入れる為に、仲間が傷つくのなら
私はそんなもの要らない。仲間がたったひとりでも欠けている未来に、私の幸せはありません。」
強い眼差しのなまえの言葉に、リヴァイは、心臓がドクンと鳴って、悲鳴を上げ始めたのを感じました。
どうして、あの日と同じなのでしょう。
なまえの覚悟の言葉は、リヴァイにとって、世界の平和と引きかえに始まった絶望の始まりでした。
この先、どうなるのか、リヴァイは知っています。
だから、何がなんでも、彼女を止めなければなりません。
「大切な人が欠けた未来で生きるのなら、私は彼らを守るために〝生きたい〟。」
なまえが言います。
その気持ちは、リヴァイにも痛いほどに分かります。
大切な人が欠けた未来が、どんなに虚しく、寂しい世界なのかを誰よりも知っているからです。
それでも——。
「俺は…行かせねぇ。
今度こそ、俺は、お前を生かすために生きる。
命なんか、懸けさせねぇ。」
リヴァイは、繋いでいるなまえの手を強く強く握りました。
心臓が苦しくなって、唇を噛むと、まるで、懇願するように頭が下がります。
身体も、心も、震えていました。
「私は知っています。
仲間の命以上に大切で、価値のあるものなんて、この世には、存在しないことを。」
なまえが、手を握り返してくれたのです。
リヴァイは、驚いて顔を上げました。そこで見たのは、泣きそうな顔で、それでも柔らかく微笑む、あの日のなまえでした。
「教えてくれたのは、リヴァイさんです。
私は、リヴァイさんのおかげで、自分がした選択に後悔がないことも知っています。」
「なまえ、俺は———。」
何を、言おうとしたのでしょうか。
でも、なまえは、そこから先を言わせてはくれませんでした。
なまえは、リヴァイの頬に、機械ならではの熱の高い手を添えました。
そして、相変わらずの、泣きそうな、でもひどく優しい、そんな笑みを浮かべて————。
「リヴァイ、ありがとう。」
リヴァイは、目を見開きました。
それは、あの日からずっと、独りきりで流れ続けていた彼の時間が、初めて止まった瞬間でした。
そして、彼女をあの家にいつまでも留めてしまっていた理由を、彼は漸く、知るのです。
ハートの海賊団の船上で再会したそのときから、なまえは———。
「さよなら。」
なまえの手が、ゆっくりと離れていきました。
リヴァイの知っている優しい笑みと、あの日、交わせなかった別れの言葉を残して、なまえが背中を向けます。
——待って。
渇いた空気を吐くばかりの頼りない口を諦めて、リヴァイは、離れてしまった手をなんとか掴み直そうとします。
まだやり直せる———そう信じたかったリヴァイの、なまえの温もりが残る手に触れたのは、彼女ではなく、冷たい風でした。