リヴァイは、なまえの両肩を強く掴み、自分と真っすぐに向き直させると、必死の説得を試みました。
ここで仲間を助けに行ったところで、なまえが死んでしまう可能性の方が高いこと、それを防ぐためにも、仲間達は自らの命を懸けて戦っているのだという事実を切々と説明します。
ロー達にも説明したように、なまえが愛を持ち、人間になってしまうことへの恐ろしい副作用についても言って聞かせました。
だからこそ、ロー達は戦うことを決め、なまえはここから出来る限り遠くへ逃げなければならないのです。
そして、リヴァイは最後に、彼女に芽生えてしまった心に訴えかけるように、こう伝えます。

「死んだら、そこで終わりだ！何も残らねぇ！
　生きてれば大切な奴らと作れるはずの想い出も、
　死んだ途端に消えてなくなっちまうんだぞ！」

永遠の命と引きかえに、沢山の死を見てきたリヴァイは、知っていました。
死は、その人間の命が終わるだけの簡単なものではないのです。
彼らを愛した者たち、彼らが愛した者たち、すべての運命が変わってしまいます。
どうしたって、抗えない死もあるでしょう。
早かれ遅かれ、生きていれば、訪れるのが〝死〟というものです。
でも今、少なくとも、なまえの命は守れます。
命さえあれば、これから人間として生きることも、アンドロイドして生きることも、選択できます。
生きているからこそ、目の前には、幾つもの選択肢と自由が広がるのです。
その選択肢次第では、なまえを笑顔にする想い出だって出来ることでしょう。
そしてきっとそれは、今、命を懸けて戦っている彼らが、手にすることが出来るはずの想い出でもあるはずです。

「それを、お前は、アイツらから奪うのか？」

なまえが、ビクリと肩を揺らします。
自分の狡さは、彼も十分に理解していました。
それでも、どうしても、なまえには死んでほしくなかったのです。
彼は、無意識に、あの日の後悔を、今、やり直そうとしていたのかもしれません。

「なまえが死んでしまえば、アイツらが懸けた命が無駄になっちまう。
　それでも、本当にいいのか？」

少しの間の後、なまえは、弱弱しく首を横に振りました。
そして、小さな声でしたが、「戦場から離れます。」と告げてくれました。
リヴァイからは、ホッと、肩の力が抜けていくようでした。
緩みそうになる口元を必死に強く結んで、リヴァイは、なまえと手を繋ぎ直します。

「よし、行くぞ。」

リヴァイは、なまえの手を引いて、また走りだします。
出来るだけ遠くへ。
遠くへ、遠くへ。もう二度と、彼女の耳に戦場の音が聞こえない場所へ。
そして、なまえが痛みや苦しみを知らずに、永遠に生きていける場所へと、もう誰も、リヴァイがなまえを失うことのない世界へと、逃げるのです。
今すぐに、彼らから遠くへ————。