◇No.76◇あなたは私に何を望みますか?
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ちょうど出来上がった料理をテーブルに並べようとしていたところだったなまえは、驚きで目を見開いていました。
彼女は、すぐにでも、リヴァイにこれは何の音なのかと聞きたかったでしょう。
ですが、リヴァイは、彼女にそんな暇は与えませんでした。
彼もまた、ひどく焦っていたのです。
リヴァイは、手近にあった貴重品をひったくるように手に取ると、そのままなまえの手を掴み、家を飛び出しました。
恐らく、轟音が響いたのは、港のある方からでしょう。
リヴァイやローの憶測通り、動き出したエルヴィンは、復讐の場をこの島に選んだようです。
この島を救った陰の立役者であるなまえには、エルヴィンの悪魔の実の能力による渾身の力を注いでいます。復讐を行うその時には、なまえを探し始めると考えていたのですが、もう彼女すら必要ないと判断したようです。
いえ、もしかすると、エルヴィンは、壊れた心に僅かに残った愛を、リヴァイの為に使ったのかもしれません。
なまえとの穏やかな日々を奪うという選択肢は、きっと、初めから彼の中にはなかったのでしょう。
それでも、かつての仲間達の姿をしたアンドロイド達を、殺戮集団として、復讐を遂げる道を選びました。
その瞬間から、リヴァイにはもう、エルヴィンの行動を把握することは出来なくなりました。
今、どこにいるかは分かってはいませんでしたが、もう少し、準備に時間がかかると考えていたのですが、さすが頭の良い男です。
研究所から姿を消した時にはもう、ほとんどの準備を整えていたのかもしれません。
とにかく、今は、港とは反対方向へとひたすらに走ることだけを考るべきです。
なぜなら、リヴァイがしなければならないのは、なまえを復讐の戦場から出来る限り遠くへ離すことだからです。
それは、ローが望んだことでありますが、なにより今、リヴァイも心からそうでなければならないと考えていました。
「ちょっと待ってください!どこに行きますかっ?」
無理やり手を引かれて走らされているなまえが、後ろから何度もリヴァイに声をかけます。
背後からは、轟音が鳴り響いていました。
何度も何度も、終わりを知らない蟻地獄のように響き続け、逃げる彼らの足元を脅かそうとしているようです。
「今すぐにこの島から出る!」
全力で走るリヴァイは、振り返りもせずに答えました。
なぜ、どうして、となまえの声が続きます。
その答えを持っているリヴァイでしたが、それを教えてやることは出来ません。
なまえが知る必要はないからです。
出来ればこのまま永遠に、知らずにいてほしいとすら、リヴァイは思っていました。
「あっちは、港です!ロー達がまだ残っているかもしれない!!」
なぜ、どうして———焦ったような、怯えるような声で、なまえがそれを繰り返していた理由を、リヴァイは漸く理解しました。
愛する人や仲間達の無事を案じながら、どうして、と訊ね、彼らとは関係ないという答えを求めていたのでしょう。
リヴァイは、なまえが望む答えを伝えることは出来るでしょう。
それはただの〝科白〟に過ぎないのですから、簡単なことです。
ですが、それは同時に、真っ赤な嘘でもあります。
本当は、あの轟音の真っただ中に、ハートの海賊団はいるのです。
そして、彼らが戦う理由は、なまえの為です。
真実をなまえに伝えたらどうなるのかなんて、火を見るよりも明らかでした。
「もういねぇ!」
「どうしてわかりますか!?まだ港にいるかもしれない!」
「アイツらは、すぐにこの島から船を出すと言ってたじゃねぇか!」
「じゃあ、どうして…!どうして!!
私の頬は、濡れていますか…!?」
ハッとして、リヴァイの脚が止まりました。
どれくらい走ったのでしょうか。
なまえとの未来を夢見た小さな家は、本当に小さく見える程度になっていました。
その代わりに、目の前にいるのは、なまえにそっくりなアンドロイドが、大きな瞳に涙をいっぱいにためて、頬を濡らしている姿です。
「どうして…、泣いてる…。」
リヴァイは、絶句しました。
機械が泣くなんて、ありえないことです。
ですが、なまえに関しては、それは起こり得る可能性のある事でした。
いいえ、起こりえる可能性が〝あった〟のです。
ですから、リヴァイは、なまえの為にも、彼らと引き離す選択をしました。
その結果、なまえは少しずつ、人間になろうとしていた身体から、機械を取り戻してもいたはずです。
それがなぜ、また、泣いてしまうことになったのでしょう。
たかだか、ハートの海賊団の船があるかもしれない港から、轟音が聞こえているだけで———。
「ローが戦っているときと、同じ音がします。」
「あ?」
「海軍の軍艦が、ハートの海賊団の船に砲弾を打つ音も、
ローが、オペオペの実の能力で軍艦を持ち上げて、粉々にする音も、
仲間が…、死んでしまうかもしれない…、絶望の音が、します…。」
なまえはそこまで言うと、唇を噛んで顔を伏せました。
もしかすると、彼女には、100年前に死んだなまえの記憶が残っているのかもしれません。
それは、彼女が、記憶だと認識するよりも微かなものに違いありません。それでも、それは、確実に、心の内側にこびりつき、なまえを不安と恐怖でとらえているようでした。
リヴァイは、なまえの背中越しに、轟音のする港の方へと視線を向けます。
壁の向こうだというのに、これほど大きな音が聞こえてくるということは、戦場はもっとひどい有様になっているという良い証拠です。
たとえ、仲間が今まさに死に行こうとしているのだとしても、そこへ向かうなんて、自殺行為です。
彼らを救うどころか、自分の命すら守れる保証はありません。彼らに再会することで、なまえがまた心というものを深くしてしまえば、尚更です。
なまえは、地獄のような戦場で、仲間を守るために必死に戦いながら、身体に蓄積されてきた痛みに悲鳴を上げて、人間になるとともに死んでしまう———そんな最悪な未来しか、想像できません。
(そんなこと…っ、させてたまるか…!)
リヴァイには、なまえを守り抜く義務がありました。
それは、ローの為で、ハートの海賊団の船員達の為で、なによりも、自分の為に———。
「それは、絶望の音じゃねぇ。」
「でも、人が死ぬ音が——。」
「あれは、お前の仲間が、お前を救おうとしてる音だ。」
「・・・どういうことですか?」
リヴァイは、嘘を吐くことをやめました。
彼女が、リヴァイの知っているなまえと同じならば、どんな巧妙な嘘をついたところで、納得させることなど出来ないと知っていたからです。
なまえは、心で動く人間でした。忖度も、損得もせず、心の思うままに、優しい答えを出すのです。
きっと今、自分勝手な都合で吐いた嘘でその場を切り抜けようとしたところで、なまえの心に響かないのであれば、それは砂で出来た剣と同じです。
何も貫けません。
観念したリヴァイの言葉に、なまえは少し考えるようなそぶりをした後、訝し気に眉を顰めました。
「おそらく、お前の仲間は、轟音の真っ只中にいる。」
「!!それなら、今すぐに———。」
「黙って、話を聞け!!」
後ろへ振り返って、今すぐに駆けだそうとしたなまえの手を、リヴァイは、さらに強く握りしめて引き留めます。
あまりの剣幕に、なまえも驚いたようで、ビクッと肩を震わせた後、駆けだそうとした恰好のままで振り返りました。
「アイツらは、お前を救うために戦ってるんだ。」
「意味が分かりません。私はここにいます。ここは安全です。
危ないところにいるのは、ロー達です。」
「そうじゃねぇ。アイツらは、お前を人間にしてやりてぇんだよ。」
「にん、げんに…?」
少しだけ、なまえの手の力が緩みました。
それはきっと、人間という言葉に心が奪われたからではなく、ただ単純に、思ってもいない言葉に不意を突かれて、力が抜けただけだったのでしょう。
だって、彼女は自分の身体の変化に気づいていたはずです。
無限のように感じられる痛みや苦しみ、それらに堪える為に必要となってしまった睡眠、それは人間の身体に近づいているかもしれないということであり、それが、自分にとって、あまり良くないものであることも、知能の高いAIを搭載されているなまえが、気づけないはずがありません。
だからこそ、仲間が、自分を人間にしようとするために地獄の中で戦っているという理由を、彼女は想像することも出来ないでしょう。
だから、リヴァイは、畳みかけるように続けました。
「エルヴィンが———。
お前を作った天才博士が、海軍と世界政府に復讐を始めた。」
復讐というワードに、なまえの眉が僅かに歪みました。
「俺はそれを止める為にお前を利用しようとしたが、
アイツらは、復讐を自分達が共に成し遂げる代わりに、
天才博士に、お前に心を———、ハートを与えてもらおうとしてるんだ。」
一瞬、まるで閉じるように細くなったなまえの瞳は、ゆっくりと見開かれていきます。
リヴァイの知っているなまえは、コロコロと表情の変わる女性でした。心の中には熱いものを秘めてはいても、それをあまり言葉にすることが得意ではなかったリヴァイにとって、表情豊かななまえは、とても眩しい存在でした。
ですが、研究施設にいた彼女は、なまえの姿かたちはしていても、いつも無表情で、美しいだけの人形のようだったのです。
だから、なまえと彼女は違う——リヴァイはいつもそう思っていました。
いつから、彼女は、こんなにも表情豊かになったのでしょうか。
いいえ、いつ、彼女は、〝なまえになった〟のでしょうか。
そうしたのは、ローだと、言うのでしょうか———。
「アイツらは、自分の命と引きかえにしても、お前を救おうとしてる。」
なまえの瞳が、左右に揺れました。
その言葉の意味を、彼女は理解したはずです。
ローは、なまえが睡眠をとるようになってしまった理由を知っていました。
痛みを感じるようになっていたことにも、気づいていたのでしょう。
ハートの海賊団の船員達も、なまえの様子が変わり始めた頃から、希望と不安が交互に現れては、胸が押しつぶされそうになっていたのかもしれません。
そうして、漸く見つけた〝やるべきこと〟は、どうすればいいか分からずに苦しんでいた彼らの心も救っているはずです。
だから。
だから————。
「お前は、アイツらの想いを踏みにじる気か。」
「そんなことはしません。」
「それなら、お前がするべきことはひとつ、
俺と一緒に、戦場から出来るから遠くへ逃げることだ。」
リヴァイは、なまえと繋いでいる右手に強く力を込めます。
汗が滲み、心臓が異常に高鳴っていく———その理由は———。
「生きろ、なまえ。
なまえだけは、何をしてでも、生き残れ———。」
それは、あの日、リヴァイが、本当は、なまえに伝えたかったことでした。
彼女は、すぐにでも、リヴァイにこれは何の音なのかと聞きたかったでしょう。
ですが、リヴァイは、彼女にそんな暇は与えませんでした。
彼もまた、ひどく焦っていたのです。
リヴァイは、手近にあった貴重品をひったくるように手に取ると、そのままなまえの手を掴み、家を飛び出しました。
恐らく、轟音が響いたのは、港のある方からでしょう。
リヴァイやローの憶測通り、動き出したエルヴィンは、復讐の場をこの島に選んだようです。
この島を救った陰の立役者であるなまえには、エルヴィンの悪魔の実の能力による渾身の力を注いでいます。復讐を行うその時には、なまえを探し始めると考えていたのですが、もう彼女すら必要ないと判断したようです。
いえ、もしかすると、エルヴィンは、壊れた心に僅かに残った愛を、リヴァイの為に使ったのかもしれません。
なまえとの穏やかな日々を奪うという選択肢は、きっと、初めから彼の中にはなかったのでしょう。
それでも、かつての仲間達の姿をしたアンドロイド達を、殺戮集団として、復讐を遂げる道を選びました。
その瞬間から、リヴァイにはもう、エルヴィンの行動を把握することは出来なくなりました。
今、どこにいるかは分かってはいませんでしたが、もう少し、準備に時間がかかると考えていたのですが、さすが頭の良い男です。
研究所から姿を消した時にはもう、ほとんどの準備を整えていたのかもしれません。
とにかく、今は、港とは反対方向へとひたすらに走ることだけを考るべきです。
なぜなら、リヴァイがしなければならないのは、なまえを復讐の戦場から出来る限り遠くへ離すことだからです。
それは、ローが望んだことでありますが、なにより今、リヴァイも心からそうでなければならないと考えていました。
「ちょっと待ってください!どこに行きますかっ?」
無理やり手を引かれて走らされているなまえが、後ろから何度もリヴァイに声をかけます。
背後からは、轟音が鳴り響いていました。
何度も何度も、終わりを知らない蟻地獄のように響き続け、逃げる彼らの足元を脅かそうとしているようです。
「今すぐにこの島から出る!」
全力で走るリヴァイは、振り返りもせずに答えました。
なぜ、どうして、となまえの声が続きます。
その答えを持っているリヴァイでしたが、それを教えてやることは出来ません。
なまえが知る必要はないからです。
出来ればこのまま永遠に、知らずにいてほしいとすら、リヴァイは思っていました。
「あっちは、港です!ロー達がまだ残っているかもしれない!!」
なぜ、どうして———焦ったような、怯えるような声で、なまえがそれを繰り返していた理由を、リヴァイは漸く理解しました。
愛する人や仲間達の無事を案じながら、どうして、と訊ね、彼らとは関係ないという答えを求めていたのでしょう。
リヴァイは、なまえが望む答えを伝えることは出来るでしょう。
それはただの〝科白〟に過ぎないのですから、簡単なことです。
ですが、それは同時に、真っ赤な嘘でもあります。
本当は、あの轟音の真っただ中に、ハートの海賊団はいるのです。
そして、彼らが戦う理由は、なまえの為です。
真実をなまえに伝えたらどうなるのかなんて、火を見るよりも明らかでした。
「もういねぇ!」
「どうしてわかりますか!?まだ港にいるかもしれない!」
「アイツらは、すぐにこの島から船を出すと言ってたじゃねぇか!」
「じゃあ、どうして…!どうして!!
私の頬は、濡れていますか…!?」
ハッとして、リヴァイの脚が止まりました。
どれくらい走ったのでしょうか。
なまえとの未来を夢見た小さな家は、本当に小さく見える程度になっていました。
その代わりに、目の前にいるのは、なまえにそっくりなアンドロイドが、大きな瞳に涙をいっぱいにためて、頬を濡らしている姿です。
「どうして…、泣いてる…。」
リヴァイは、絶句しました。
機械が泣くなんて、ありえないことです。
ですが、なまえに関しては、それは起こり得る可能性のある事でした。
いいえ、起こりえる可能性が〝あった〟のです。
ですから、リヴァイは、なまえの為にも、彼らと引き離す選択をしました。
その結果、なまえは少しずつ、人間になろうとしていた身体から、機械を取り戻してもいたはずです。
それがなぜ、また、泣いてしまうことになったのでしょう。
たかだか、ハートの海賊団の船があるかもしれない港から、轟音が聞こえているだけで———。
「ローが戦っているときと、同じ音がします。」
「あ?」
「海軍の軍艦が、ハートの海賊団の船に砲弾を打つ音も、
ローが、オペオペの実の能力で軍艦を持ち上げて、粉々にする音も、
仲間が…、死んでしまうかもしれない…、絶望の音が、します…。」
なまえはそこまで言うと、唇を噛んで顔を伏せました。
もしかすると、彼女には、100年前に死んだなまえの記憶が残っているのかもしれません。
それは、彼女が、記憶だと認識するよりも微かなものに違いありません。それでも、それは、確実に、心の内側にこびりつき、なまえを不安と恐怖でとらえているようでした。
リヴァイは、なまえの背中越しに、轟音のする港の方へと視線を向けます。
壁の向こうだというのに、これほど大きな音が聞こえてくるということは、戦場はもっとひどい有様になっているという良い証拠です。
たとえ、仲間が今まさに死に行こうとしているのだとしても、そこへ向かうなんて、自殺行為です。
彼らを救うどころか、自分の命すら守れる保証はありません。彼らに再会することで、なまえがまた心というものを深くしてしまえば、尚更です。
なまえは、地獄のような戦場で、仲間を守るために必死に戦いながら、身体に蓄積されてきた痛みに悲鳴を上げて、人間になるとともに死んでしまう———そんな最悪な未来しか、想像できません。
(そんなこと…っ、させてたまるか…!)
リヴァイには、なまえを守り抜く義務がありました。
それは、ローの為で、ハートの海賊団の船員達の為で、なによりも、自分の為に———。
「それは、絶望の音じゃねぇ。」
「でも、人が死ぬ音が——。」
「あれは、お前の仲間が、お前を救おうとしてる音だ。」
「・・・どういうことですか?」
リヴァイは、嘘を吐くことをやめました。
彼女が、リヴァイの知っているなまえと同じならば、どんな巧妙な嘘をついたところで、納得させることなど出来ないと知っていたからです。
なまえは、心で動く人間でした。忖度も、損得もせず、心の思うままに、優しい答えを出すのです。
きっと今、自分勝手な都合で吐いた嘘でその場を切り抜けようとしたところで、なまえの心に響かないのであれば、それは砂で出来た剣と同じです。
何も貫けません。
観念したリヴァイの言葉に、なまえは少し考えるようなそぶりをした後、訝し気に眉を顰めました。
「おそらく、お前の仲間は、轟音の真っ只中にいる。」
「!!それなら、今すぐに———。」
「黙って、話を聞け!!」
後ろへ振り返って、今すぐに駆けだそうとしたなまえの手を、リヴァイは、さらに強く握りしめて引き留めます。
あまりの剣幕に、なまえも驚いたようで、ビクッと肩を震わせた後、駆けだそうとした恰好のままで振り返りました。
「アイツらは、お前を救うために戦ってるんだ。」
「意味が分かりません。私はここにいます。ここは安全です。
危ないところにいるのは、ロー達です。」
「そうじゃねぇ。アイツらは、お前を人間にしてやりてぇんだよ。」
「にん、げんに…?」
少しだけ、なまえの手の力が緩みました。
それはきっと、人間という言葉に心が奪われたからではなく、ただ単純に、思ってもいない言葉に不意を突かれて、力が抜けただけだったのでしょう。
だって、彼女は自分の身体の変化に気づいていたはずです。
無限のように感じられる痛みや苦しみ、それらに堪える為に必要となってしまった睡眠、それは人間の身体に近づいているかもしれないということであり、それが、自分にとって、あまり良くないものであることも、知能の高いAIを搭載されているなまえが、気づけないはずがありません。
だからこそ、仲間が、自分を人間にしようとするために地獄の中で戦っているという理由を、彼女は想像することも出来ないでしょう。
だから、リヴァイは、畳みかけるように続けました。
「エルヴィンが———。
お前を作った天才博士が、海軍と世界政府に復讐を始めた。」
復讐というワードに、なまえの眉が僅かに歪みました。
「俺はそれを止める為にお前を利用しようとしたが、
アイツらは、復讐を自分達が共に成し遂げる代わりに、
天才博士に、お前に心を———、ハートを与えてもらおうとしてるんだ。」
一瞬、まるで閉じるように細くなったなまえの瞳は、ゆっくりと見開かれていきます。
リヴァイの知っているなまえは、コロコロと表情の変わる女性でした。心の中には熱いものを秘めてはいても、それをあまり言葉にすることが得意ではなかったリヴァイにとって、表情豊かななまえは、とても眩しい存在でした。
ですが、研究施設にいた彼女は、なまえの姿かたちはしていても、いつも無表情で、美しいだけの人形のようだったのです。
だから、なまえと彼女は違う——リヴァイはいつもそう思っていました。
いつから、彼女は、こんなにも表情豊かになったのでしょうか。
いいえ、いつ、彼女は、〝なまえになった〟のでしょうか。
そうしたのは、ローだと、言うのでしょうか———。
「アイツらは、自分の命と引きかえにしても、お前を救おうとしてる。」
なまえの瞳が、左右に揺れました。
その言葉の意味を、彼女は理解したはずです。
ローは、なまえが睡眠をとるようになってしまった理由を知っていました。
痛みを感じるようになっていたことにも、気づいていたのでしょう。
ハートの海賊団の船員達も、なまえの様子が変わり始めた頃から、希望と不安が交互に現れては、胸が押しつぶされそうになっていたのかもしれません。
そうして、漸く見つけた〝やるべきこと〟は、どうすればいいか分からずに苦しんでいた彼らの心も救っているはずです。
だから。
だから————。
「お前は、アイツらの想いを踏みにじる気か。」
「そんなことはしません。」
「それなら、お前がするべきことはひとつ、
俺と一緒に、戦場から出来るから遠くへ逃げることだ。」
リヴァイは、なまえと繋いでいる右手に強く力を込めます。
汗が滲み、心臓が異常に高鳴っていく———その理由は———。
「生きろ、なまえ。
なまえだけは、何をしてでも、生き残れ———。」
それは、あの日、リヴァイが、本当は、なまえに伝えたかったことでした。