◇No.76◇あなたは私に何を望みますか?
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リビングのソファで二度寝をしてしまっていたリヴァイの耳に、包丁がまな板を叩き、熱に浮かされて鍋の蓋が揺れる音、窓の向こうでさえずる小鳥の声が届きます。
それは、〝幸せの音色〟でした。
いつまでも聴いていたいメロディーは、彼を、あるかもしれなかった過去へと連れ戻し、過ごせるかもしれない未来へと、誘います。
誘われるがまま、ゆっくりと瞼を開けば、狭い部屋のおかげで、リビングのソファからでも、キッチンに立つなまえの後姿が良く見えました。
———平和な世界で、二度寝をしている怠け者の夫の為に、愛する人が美味しい朝食を用意してくれている。
愛する人と過ごすはずだった未来が、漸く、自分の元に訪れた———ほんの一瞬、リヴァイは本気でそう信じそうになります。
困るのは、数日もそれが続いていると、それが残酷だろうがなんだろうが、構わないのではないかと思い始めてしまうことでした。
ハートの海賊団の海賊達とは、なまえのハートを取り戻すことに成功したら、彼女を返すと約束をしています。
ですが、彼女にとっては、心と身体の痛みに苦しんだ挙句に最後には必ず死んでしまう人間になるよりも、このまま自分と一緒に暮らす方が幸せなのではないのか———リヴァイからは、そんな考えが生まれていました。
確かにそこには、愛する人を失った悲しみと寂しさを、彼女のDNAを引き継いだなまえで満たそうという我儘な感情がありました。
ですが、実際、なまえは、リヴァイと共に暮らすようになって、たったの数日ですが、少しずつ人間らしさを手放していっているのです。
身体に蓄積された疲労に苛まれることもなくなったのか、睡眠時間も日に日に短くなっています。
このまま、あともうしばらく一緒に暮らせば、彼女はもう感情で動くことはせず、また、機械仕掛けのアンドロイドに戻るでしょう。
人間にしてやりたいロー達と、愛は知ることは出来ずとも、悲しみを永遠に知らずにいられるアンドロイドとして生かそうと考えるリヴァイのどちらが正しく、どちらが間違っているのでしょうか。
その答えは、もしかすると、なまえが人間になったときにしか、分からないのかもしれません。
それでも———。
「おはよう、なまえ。」
リヴァイが声をかけると、なまえがくるりと後ろを振り返りました。
スープを作っているところだったのか、手にはレードルを持っている彼女が、可愛らしい笑みを返します。
「おはようございます、リヴァイさん。
もうすぐ朝食の時間ですよ。」
「あぁ、ありがとうな。」
自然と、リヴァイからも笑みが零れます。
笑うなんて、どれくらいぶりでしょうか。
正体の分からない脅威に怯え、気を張り続ける日々は、絶望と引き換えに、終わりを迎えました。
今、ここにあるのは、穏やかな生活と温かい食事、そして、永遠に見ていたいと願った愛らしい笑顔だけです。
ここには、リヴァイが欲しかったすべてがありました。
そのすべてが、彼が知り得た教えを、頭の奥へと押し込んで、思い出させないようにします。
ですが、だからといって、彼らは、逃れられません。
〝幸せの音色〟は、突然、終わりを迎えるのです。それが、ひどく優しい音を奏でれば奏でる程に、大きな絶望となって、すべてを粉々に破壊くものです。
あの日も、そうでした。
ほら、今も、遠くから、絶望が忍び寄ってきている音が、微かに聞こえているでしょう。
あぁ、なまえの鼻歌に耳を傾けて、可笑しそうに笑う彼の耳には、届かなかったようです。
いいえ、遠い日の願いの続きを今度こそ手にしようとしている彼は、気づきたくないのかもしれません。
でもほら、それは確かに、そこまで来ています。それは、山の頂上から雪だるまが転がり落ちていくように、どんどん大きくなって———。
「!!」
何かに気づいて、リヴァイがハッと顔を上げました。
その次の瞬間でした。
地鳴りのような轟音が聞こえてきたのは————。
それは、〝幸せの音色〟でした。
いつまでも聴いていたいメロディーは、彼を、あるかもしれなかった過去へと連れ戻し、過ごせるかもしれない未来へと、誘います。
誘われるがまま、ゆっくりと瞼を開けば、狭い部屋のおかげで、リビングのソファからでも、キッチンに立つなまえの後姿が良く見えました。
———平和な世界で、二度寝をしている怠け者の夫の為に、愛する人が美味しい朝食を用意してくれている。
愛する人と過ごすはずだった未来が、漸く、自分の元に訪れた———ほんの一瞬、リヴァイは本気でそう信じそうになります。
困るのは、数日もそれが続いていると、それが残酷だろうがなんだろうが、構わないのではないかと思い始めてしまうことでした。
ハートの海賊団の海賊達とは、なまえのハートを取り戻すことに成功したら、彼女を返すと約束をしています。
ですが、彼女にとっては、心と身体の痛みに苦しんだ挙句に最後には必ず死んでしまう人間になるよりも、このまま自分と一緒に暮らす方が幸せなのではないのか———リヴァイからは、そんな考えが生まれていました。
確かにそこには、愛する人を失った悲しみと寂しさを、彼女のDNAを引き継いだなまえで満たそうという我儘な感情がありました。
ですが、実際、なまえは、リヴァイと共に暮らすようになって、たったの数日ですが、少しずつ人間らしさを手放していっているのです。
身体に蓄積された疲労に苛まれることもなくなったのか、睡眠時間も日に日に短くなっています。
このまま、あともうしばらく一緒に暮らせば、彼女はもう感情で動くことはせず、また、機械仕掛けのアンドロイドに戻るでしょう。
人間にしてやりたいロー達と、愛は知ることは出来ずとも、悲しみを永遠に知らずにいられるアンドロイドとして生かそうと考えるリヴァイのどちらが正しく、どちらが間違っているのでしょうか。
その答えは、もしかすると、なまえが人間になったときにしか、分からないのかもしれません。
それでも———。
「おはよう、なまえ。」
リヴァイが声をかけると、なまえがくるりと後ろを振り返りました。
スープを作っているところだったのか、手にはレードルを持っている彼女が、可愛らしい笑みを返します。
「おはようございます、リヴァイさん。
もうすぐ朝食の時間ですよ。」
「あぁ、ありがとうな。」
自然と、リヴァイからも笑みが零れます。
笑うなんて、どれくらいぶりでしょうか。
正体の分からない脅威に怯え、気を張り続ける日々は、絶望と引き換えに、終わりを迎えました。
今、ここにあるのは、穏やかな生活と温かい食事、そして、永遠に見ていたいと願った愛らしい笑顔だけです。
ここには、リヴァイが欲しかったすべてがありました。
そのすべてが、彼が知り得た教えを、頭の奥へと押し込んで、思い出させないようにします。
ですが、だからといって、彼らは、逃れられません。
〝幸せの音色〟は、突然、終わりを迎えるのです。それが、ひどく優しい音を奏でれば奏でる程に、大きな絶望となって、すべてを粉々に破壊くものです。
あの日も、そうでした。
ほら、今も、遠くから、絶望が忍び寄ってきている音が、微かに聞こえているでしょう。
あぁ、なまえの鼻歌に耳を傾けて、可笑しそうに笑う彼の耳には、届かなかったようです。
いいえ、遠い日の願いの続きを今度こそ手にしようとしている彼は、気づきたくないのかもしれません。
でもほら、それは確かに、そこまで来ています。それは、山の頂上から雪だるまが転がり落ちていくように、どんどん大きくなって———。
「!!」
何かに気づいて、リヴァイがハッと顔を上げました。
その次の瞬間でした。
地鳴りのような轟音が聞こえてきたのは————。