線香花火が、パチパチと小さな音を立てて、最期の命を燃やし尽くそうとしていました。
か細い小さな火は、儚くも美しく輝き、瞳を奪われます。
少なくとも、なまえはそうでした。
彼女は、その火が、寂しく散るその瞬間まで、とても大切そうに見守るのです。
だからいつも、そんな彼女の美しい横顔に見惚れて気を逸らされてしまうリヴァイの線香花火の火の方が、先に落ちてしまいます。
あ———そう思った瞬間にはもう、辺りは、暗さを増し、なまえが大切そうに手に持つ線香花火の火が、より一層、強く光り輝いて見えました。

「やった！今日も私の勝ちですよ！」

自分の線香花火の火も落ちた後、なまえが嬉しそうな声を上げました。
リヴァイは、わざと負けたわけではありません。
なまえに教えてあげるつもりはありませんが、恋人に見惚れていたら、いつも勝手に負けてしまうのです。
ですが、嬉しそうななまえを見ると、負けてよかったと思ってしまいます。
負けず嫌いのはずのリヴァイが、喜んで負けを認めるのなんて、後にも先にも、きっとなまえだけでしょう。

「仕方ねぇな。今夜の願いは？」

いつもの調子で訊ねたリヴァイでしたが、内心は、重たい鉛のようなものが喉の奥に閊えているのに気づいていました。
壁外へと出て、おぞましい巨人との決戦の日は、いよいよ明日なのです。
最期かもしれない夜、なまえは何を願うのか———期待よりも、不安が大きくありました。

「私の願いは———。」

最期に、なまえが願ったのは、一体何だったのか———あの日から何度も記憶を遡るのですが、リヴァイはいつも思い出せません。
分かることは、その願いを自分は叶えてあげられていないことと————。

「約束ですよ。」

そう言って、無垢な子供みたいな仕草で指切りをしたなまえの、涙を必死に堪えるような儚くも力強い笑みは、線香花火の火のように、ひどく切なく輝いていて、瞳のみならず、心まで奪われたということです————。