◇No.75◇愛する寂しがり屋の君へ、愛を込めて
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ペンギンは、バーの扉を開きました。
思った通り、探し人は、中央のソファに座って、天井の海を見上げていました。
大切な報告がある度に、夜は必ずここに来ればローに会えると、お決まりになったのはいつの頃からだったでしょうか。
ローとなまえが、恋人になるよりもずっと前からでした。
あの頃からローは、邪魔をしてはいけない、と声をかけるのを躊躇してしまうくらいに、なまえの隣で、ひどく心安らいでいる様子でした。
でも今、ローの隣は冷たい空気が漂うだけで、あんなにも幸せそうだった彼の横顔は、悲しみに染まっています。
自分達のことをすっかり忘れて、呆気なく船を降りてしまったなまえの姿は、ペンギンの脳裏から四六時中離れません。
きっと、ローもそうなのでしょう。
大切な報告があったのですが、明日にしよう——そう思って、開いたばかりの扉を閉じようとすれば「報告があったんじゃねぇのか。」と声をかけられました。
やはり、ペンギンがやってきたことに気づいていたようです。
「今朝から出てる偵察班から、電伝虫で連絡が入りました。
既に、この島に向かっていることを想定して、周囲に罠を張ったそうです。
今のところ変化はありませんが、何かあれば連絡をするということでした。」
「分かった。」
ローは、天井の海を見上げたままで答えます。
なまえが忘れてしまったすべてを、せめて自分だけでも、永遠に忘れないように刻もうとしているようなその姿に、胸が痛みます。
「本当に、なまえの記憶を消してもよかったんでしょうか?
ちゃんと説明すれば、なまえならきっと、俺達の気持ちを理解してくれました。
分かったうえで、船から降ろしてやった方がよかっ———。」
「なまえが、悲しむだろ。」
「え?」
食い気味に返ってきた意外な答えに、ペンギンは意表を突かれました。
確かに、なまえにすべてを説明すれば、彼女は理解を示したでしょう。
そしてきっと、自分の為に、仲間達が命を懸けて戦争に出ることを嫌がったはずです。
それならば、自分が戦うと当然のように答えるのが、なまえです。
だからこそ、いろんなことを踏まえて、ローは、苦渋の決断として、なまえの記憶を消すことを選んだのだと思っていました。
ですが、ローは、天井の海を見上げながら、当然のように言うのです。
「俺のことを寂しがり屋だと思い込んでるアイツが、
今夜のことを知ったら、悲しむだろ。全然・・・平気なのに。」
「・・・・・・なんすか、傷心中かと思って慰めてやろうとしたのに、
俺は今、惚気られたんすか。そして、強がりが痛々しいんすけど。」
ペンギンが口を尖らせれば、ローが可笑しそうにククッと喉を鳴らしました。
なまえの記憶は消えてしまったかもしれません。
ですが、なまえと出逢い、表情が柔らかくなったローは、確かにまだそこにいました。
それは、ローだけではありません。
船縁に座って夜釣りをしているシャチとベポの隣に置いてある1本の釣り竿も、イッカクが読んでいる恋愛小説も、いかさまを忘れて真っ向勝負でカードゲームをしているウニとクリオネも、片手で抱きかかえることが多くなったことで腕立て伏せの回数が増えたジャバールも、無意識の中になまえが確かにいるのです。
記憶がなくても、ちゃんと、自分達の中に、共に過ごした日々が残っていることに気が付いたペンギンは、嬉しくなって、人差し指で鼻をすすりました。
「じゃあ、おやすみなさい。」
相変わらず、天井の海を見上げるローを見守るように言って、ペンギンは、そっとバーの扉を閉じました。
どうか今夜、なまえがせめて、夜空の星を、彼と同じように見上げてくれていることを願って———。
「あ~…、でも、とても心配です。大丈夫でしょうか。」
「何がだ?」
「私がいなくなったことで、また寝不足になってしまったら大変です。
ローは、とても寂しがり屋さんですから。
私は、どうしたらいいんでしょう?」
「・・・・・知るか。」
「困りました。」
思った通り、探し人は、中央のソファに座って、天井の海を見上げていました。
大切な報告がある度に、夜は必ずここに来ればローに会えると、お決まりになったのはいつの頃からだったでしょうか。
ローとなまえが、恋人になるよりもずっと前からでした。
あの頃からローは、邪魔をしてはいけない、と声をかけるのを躊躇してしまうくらいに、なまえの隣で、ひどく心安らいでいる様子でした。
でも今、ローの隣は冷たい空気が漂うだけで、あんなにも幸せそうだった彼の横顔は、悲しみに染まっています。
自分達のことをすっかり忘れて、呆気なく船を降りてしまったなまえの姿は、ペンギンの脳裏から四六時中離れません。
きっと、ローもそうなのでしょう。
大切な報告があったのですが、明日にしよう——そう思って、開いたばかりの扉を閉じようとすれば「報告があったんじゃねぇのか。」と声をかけられました。
やはり、ペンギンがやってきたことに気づいていたようです。
「今朝から出てる偵察班から、電伝虫で連絡が入りました。
既に、この島に向かっていることを想定して、周囲に罠を張ったそうです。
今のところ変化はありませんが、何かあれば連絡をするということでした。」
「分かった。」
ローは、天井の海を見上げたままで答えます。
なまえが忘れてしまったすべてを、せめて自分だけでも、永遠に忘れないように刻もうとしているようなその姿に、胸が痛みます。
「本当に、なまえの記憶を消してもよかったんでしょうか?
ちゃんと説明すれば、なまえならきっと、俺達の気持ちを理解してくれました。
分かったうえで、船から降ろしてやった方がよかっ———。」
「なまえが、悲しむだろ。」
「え?」
食い気味に返ってきた意外な答えに、ペンギンは意表を突かれました。
確かに、なまえにすべてを説明すれば、彼女は理解を示したでしょう。
そしてきっと、自分の為に、仲間達が命を懸けて戦争に出ることを嫌がったはずです。
それならば、自分が戦うと当然のように答えるのが、なまえです。
だからこそ、いろんなことを踏まえて、ローは、苦渋の決断として、なまえの記憶を消すことを選んだのだと思っていました。
ですが、ローは、天井の海を見上げながら、当然のように言うのです。
「俺のことを寂しがり屋だと思い込んでるアイツが、
今夜のことを知ったら、悲しむだろ。全然・・・平気なのに。」
「・・・・・・なんすか、傷心中かと思って慰めてやろうとしたのに、
俺は今、惚気られたんすか。そして、強がりが痛々しいんすけど。」
ペンギンが口を尖らせれば、ローが可笑しそうにククッと喉を鳴らしました。
なまえの記憶は消えてしまったかもしれません。
ですが、なまえと出逢い、表情が柔らかくなったローは、確かにまだそこにいました。
それは、ローだけではありません。
船縁に座って夜釣りをしているシャチとベポの隣に置いてある1本の釣り竿も、イッカクが読んでいる恋愛小説も、いかさまを忘れて真っ向勝負でカードゲームをしているウニとクリオネも、片手で抱きかかえることが多くなったことで腕立て伏せの回数が増えたジャバールも、無意識の中になまえが確かにいるのです。
記憶がなくても、ちゃんと、自分達の中に、共に過ごした日々が残っていることに気が付いたペンギンは、嬉しくなって、人差し指で鼻をすすりました。
「じゃあ、おやすみなさい。」
相変わらず、天井の海を見上げるローを見守るように言って、ペンギンは、そっとバーの扉を閉じました。
どうか今夜、なまえがせめて、夜空の星を、彼と同じように見上げてくれていることを願って———。
「あ~…、でも、とても心配です。大丈夫でしょうか。」
「何がだ?」
「私がいなくなったことで、また寝不足になってしまったら大変です。
ローは、とても寂しがり屋さんですから。
私は、どうしたらいいんでしょう?」
「・・・・・知るか。」
「困りました。」