◇No.75◇愛する寂しがり屋の君へ、愛を込めて
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なまえは、ひたすらに夜空を見上げていました。
部屋に戻るように伝えても聞かないなまえに呆れながらも、リヴァイは彼女の隣に腰を降ろすと、ローが計画したありえない策を思い出していました。
ローは、なまえをリヴァイに託し、その間にエルヴィンを探し出し、共に海軍と世界政府を敵にまわし、戦争に挑むというものです。
エルヴィンが、機械達から〝ハート〟を奪ったのは、戦争で仲間を失い続けることに傷つき過ぎたからでした。
それならば、戦争などさせなければいい。そんなこと、きっと子供にだってわかります。
でも彼は今、復讐という野心に憑りつかれ、正常な判断が出来ていません。
長い付き合いのリヴァイの声すら、届かなかったのです。
たとえば、ロー達が彼を説得しようとしたところで、軽く鼻で笑われてあしらわれるのがいいところで、へたをすれば、海軍と世界政府をつぶす前に、自分達に戦いを挑んでくる可能性だってあります。
天才博士と最高峰の機械軍団を相手に負ける気はないハートの海賊団ですが、そんな無駄なことをしている時間もありません。
ですから、出来るだけ早急に彼の復讐を成し遂げるために自分達も力を貸し、その見返りに、なまえに〝ハート〟を与えてもらおう、と決めたのです。
それは、とても合理的な気もしますが、海軍と世界政府に負けてしまえば、なまえのハートを取り戻すどころか、自分達の命まで失いかねない大きすぎる賭けです。
それでも、ローの覚悟を聞いた船員達は皆、自分達の命を懸けて戦争に挑み、なまえを助ける道を選びました。
誰ひとりとして、反対はしなかったのです。
それは、一時の別れを受け入れ、永遠の別れを拒否するという彼らの強い意志の表れでした。
そして、それと同時に、なまえにはもう二度と戦争に関わらせないという仲間としての愛情もあったのでしょう。
『なまえの記憶は消してくれ。』
そう言いだしたのも、ローでした。
ですが、理由を訊ねるリヴァイに答えたのは、シャチでした。
『俺達に捨てられた記憶なんて、ない方がいいに決まってるだろ!
俺達のことなんか忘れてくれてもいい。また会えば、仲間になれるんだ!』
怒ったように言ったシャチの瞳には、涙が浮かんでいました。
その隣に座るイッカクは、涙を零すまいと必死に唇を噛んでいました。
『なまえに、これ以上、悲しい想いを覚えていてほしくないんだ。
生まれる前も、その後も、なまえは悲しくてツラいことが沢山あったんだから。
これからは、幸せなことばかりに溢れた人生を生きたって、おつりがくると思うんだ。』
ベポが言った通りかもしれない———リヴァイは、そう思ってしまったのです。
だから、なまえの記憶を消してほしいという希望を受け入れました。
ですが————。
「ローも、天井の海を見ている気がします。
私達は、離れていてもいつでも一緒です。」
相も変わらず、なまえは、天井の海という名の夜空の星に手を伸ばしています。
寒い夜風を掠める指先が、本当に触れたいのは、天井の海ではなく、ローなのでしょう。
彼女は、ローや仲間達を忘れることを、頑なに拒んだのです。
「会えないヤツのことを想っていても辛ぇだけだろ。
今すぐに忘れさせてやってもいい。辛くなったら、いつでも俺に言え。」
会いたい人に会えない寂しさや悲しみは、リヴァイも痛いほど知っていました。
絶望と悲しみの合間に、愛おしさと愛に溢れた記憶が蘇り、寂しさが涙になって溢れ出すのです。
何度、会いたい気持ちに、狂ってしまうのではないかと思うほどに、泣かされたでしょうか。
「忘れてしまう方が、ツラいです。」
なまえは、記憶を消してほしくないと首を振ったときと同じことを言います。
「私の中には、ロー達と共に過ごした幸せな記憶が沢山あります。
私はずっと、幸せな記憶を覚えていたい。」
なまえが、自分の胸にそっと手を添える。
ベポが『悲しいことばかり』だと言ったなまえの記憶には、いつの間にか、なまえにとっては『幸せなことばかり』の記憶に置き換えられていたのです。
でも———。
「アイツらはお前を捨てた。」
そうではないことを一番よく知っているのは、リヴァイです。
ですが、幸せな記憶が残っていることを〝苦しい〟ではなくて、〝幸せ〟だと思える彼女に、腹が立ったのです。
それなのに、なまえは、意表を突かれたような顔をした後、当然のように首を横に振りました。
「ローは、必ず人間にしてくれる、と私に約束しました。
ずっとそばにいてくれると、言いました。
私の願いをすべて叶えてくれる人です。私を悲しませることは、絶対にしません。」
なまえは、リヴァイの方を向いてハッキリと答えます。
どうして、こんなにも真っ直ぐな瞳でいられるのでしょうか。
それは、彼女が機械だからなのでしょうか。
自分の主人だと信じたローの言葉だから、信じていられるのでしょうか。
それとも、なまえという〝人〟が、愛する人を信じ続ける強さを持っているだけ、なのかもしれません。
あの頃、リヴァイの愛したなまえもそうでした。
その想いに応えられず、永遠の別れへと旅立つ彼女の背中を引き留められなかったけれど———。
「何をしようとしているのかは、わかりませんが、私はローがどんな人かは知っています。
私を船から降ろしたのは、私の為に違いありません。
だから私は、いつかローが迎えに来てくれるまで待つだけです。」
なまえがまた、夜空を見上げます。
そこには本当に、ローとなまえを繋ぐという〝天井の海〟が見えているのでしょうか。
そして今、本当に、ローは、〝天井の海〟を見上げているのでしょうか。
「それならどうして、記憶を消したフリをしたんだ。
お前らを信じて船を降りるから、必ず迎えに来てくれと伝えればよかったんじゃねぇのか。
本当は、アイツらが自分を裏切ったかもしれねぇのが怖ぇんだろ。」
口から出てくるのは、虚しいほどの負け惜しみでした。
遠い昔に、リヴァイのことを仲間と呼び、共に戦った仲間達が聞いたら、きっと、信じられないという顔をするのでしょう。
不愛想で、冷たい印象を与えがちのリヴァイでしたが、人の心や痛みを理解できる優しい男だったはずなのです。
ですが、長い年月を経て、心をすり減らし、尖った先で自分のことも傷つけて壊していたのは、エルヴィンだけではありませんでした。
でも、虚しい負け惜しみの真意は、それだけではないのです。
あのとき、健気に記憶がない演技をしていたなまえが、あまりにも不憫で、堪えられなかったのも事実でした。
「だって、私がローを想って寂しくなってると知ったら、
優しいローが、悲しんでしまうでしょう?」
なまえが、リヴァイを見てふわりと微笑みました。
愛する人を慈しむ優しい笑みです。
それは、リヴァイが初めて見た〝なまえ〟の笑みでした。
部屋に戻るように伝えても聞かないなまえに呆れながらも、リヴァイは彼女の隣に腰を降ろすと、ローが計画したありえない策を思い出していました。
ローは、なまえをリヴァイに託し、その間にエルヴィンを探し出し、共に海軍と世界政府を敵にまわし、戦争に挑むというものです。
エルヴィンが、機械達から〝ハート〟を奪ったのは、戦争で仲間を失い続けることに傷つき過ぎたからでした。
それならば、戦争などさせなければいい。そんなこと、きっと子供にだってわかります。
でも彼は今、復讐という野心に憑りつかれ、正常な判断が出来ていません。
長い付き合いのリヴァイの声すら、届かなかったのです。
たとえば、ロー達が彼を説得しようとしたところで、軽く鼻で笑われてあしらわれるのがいいところで、へたをすれば、海軍と世界政府をつぶす前に、自分達に戦いを挑んでくる可能性だってあります。
天才博士と最高峰の機械軍団を相手に負ける気はないハートの海賊団ですが、そんな無駄なことをしている時間もありません。
ですから、出来るだけ早急に彼の復讐を成し遂げるために自分達も力を貸し、その見返りに、なまえに〝ハート〟を与えてもらおう、と決めたのです。
それは、とても合理的な気もしますが、海軍と世界政府に負けてしまえば、なまえのハートを取り戻すどころか、自分達の命まで失いかねない大きすぎる賭けです。
それでも、ローの覚悟を聞いた船員達は皆、自分達の命を懸けて戦争に挑み、なまえを助ける道を選びました。
誰ひとりとして、反対はしなかったのです。
それは、一時の別れを受け入れ、永遠の別れを拒否するという彼らの強い意志の表れでした。
そして、それと同時に、なまえにはもう二度と戦争に関わらせないという仲間としての愛情もあったのでしょう。
『なまえの記憶は消してくれ。』
そう言いだしたのも、ローでした。
ですが、理由を訊ねるリヴァイに答えたのは、シャチでした。
『俺達に捨てられた記憶なんて、ない方がいいに決まってるだろ!
俺達のことなんか忘れてくれてもいい。また会えば、仲間になれるんだ!』
怒ったように言ったシャチの瞳には、涙が浮かんでいました。
その隣に座るイッカクは、涙を零すまいと必死に唇を噛んでいました。
『なまえに、これ以上、悲しい想いを覚えていてほしくないんだ。
生まれる前も、その後も、なまえは悲しくてツラいことが沢山あったんだから。
これからは、幸せなことばかりに溢れた人生を生きたって、おつりがくると思うんだ。』
ベポが言った通りかもしれない———リヴァイは、そう思ってしまったのです。
だから、なまえの記憶を消してほしいという希望を受け入れました。
ですが————。
「ローも、天井の海を見ている気がします。
私達は、離れていてもいつでも一緒です。」
相も変わらず、なまえは、天井の海という名の夜空の星に手を伸ばしています。
寒い夜風を掠める指先が、本当に触れたいのは、天井の海ではなく、ローなのでしょう。
彼女は、ローや仲間達を忘れることを、頑なに拒んだのです。
「会えないヤツのことを想っていても辛ぇだけだろ。
今すぐに忘れさせてやってもいい。辛くなったら、いつでも俺に言え。」
会いたい人に会えない寂しさや悲しみは、リヴァイも痛いほど知っていました。
絶望と悲しみの合間に、愛おしさと愛に溢れた記憶が蘇り、寂しさが涙になって溢れ出すのです。
何度、会いたい気持ちに、狂ってしまうのではないかと思うほどに、泣かされたでしょうか。
「忘れてしまう方が、ツラいです。」
なまえは、記憶を消してほしくないと首を振ったときと同じことを言います。
「私の中には、ロー達と共に過ごした幸せな記憶が沢山あります。
私はずっと、幸せな記憶を覚えていたい。」
なまえが、自分の胸にそっと手を添える。
ベポが『悲しいことばかり』だと言ったなまえの記憶には、いつの間にか、なまえにとっては『幸せなことばかり』の記憶に置き換えられていたのです。
でも———。
「アイツらはお前を捨てた。」
そうではないことを一番よく知っているのは、リヴァイです。
ですが、幸せな記憶が残っていることを〝苦しい〟ではなくて、〝幸せ〟だと思える彼女に、腹が立ったのです。
それなのに、なまえは、意表を突かれたような顔をした後、当然のように首を横に振りました。
「ローは、必ず人間にしてくれる、と私に約束しました。
ずっとそばにいてくれると、言いました。
私の願いをすべて叶えてくれる人です。私を悲しませることは、絶対にしません。」
なまえは、リヴァイの方を向いてハッキリと答えます。
どうして、こんなにも真っ直ぐな瞳でいられるのでしょうか。
それは、彼女が機械だからなのでしょうか。
自分の主人だと信じたローの言葉だから、信じていられるのでしょうか。
それとも、なまえという〝人〟が、愛する人を信じ続ける強さを持っているだけ、なのかもしれません。
あの頃、リヴァイの愛したなまえもそうでした。
その想いに応えられず、永遠の別れへと旅立つ彼女の背中を引き留められなかったけれど———。
「何をしようとしているのかは、わかりませんが、私はローがどんな人かは知っています。
私を船から降ろしたのは、私の為に違いありません。
だから私は、いつかローが迎えに来てくれるまで待つだけです。」
なまえがまた、夜空を見上げます。
そこには本当に、ローとなまえを繋ぐという〝天井の海〟が見えているのでしょうか。
そして今、本当に、ローは、〝天井の海〟を見上げているのでしょうか。
「それならどうして、記憶を消したフリをしたんだ。
お前らを信じて船を降りるから、必ず迎えに来てくれと伝えればよかったんじゃねぇのか。
本当は、アイツらが自分を裏切ったかもしれねぇのが怖ぇんだろ。」
口から出てくるのは、虚しいほどの負け惜しみでした。
遠い昔に、リヴァイのことを仲間と呼び、共に戦った仲間達が聞いたら、きっと、信じられないという顔をするのでしょう。
不愛想で、冷たい印象を与えがちのリヴァイでしたが、人の心や痛みを理解できる優しい男だったはずなのです。
ですが、長い年月を経て、心をすり減らし、尖った先で自分のことも傷つけて壊していたのは、エルヴィンだけではありませんでした。
でも、虚しい負け惜しみの真意は、それだけではないのです。
あのとき、健気に記憶がない演技をしていたなまえが、あまりにも不憫で、堪えられなかったのも事実でした。
「だって、私がローを想って寂しくなってると知ったら、
優しいローが、悲しんでしまうでしょう?」
なまえが、リヴァイを見てふわりと微笑みました。
愛する人を慈しむ優しい笑みです。
それは、リヴァイが初めて見た〝なまえ〟の笑みでした。