◇No.73◇大切な人には泣いてほしくありません
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ローは、なまえが使っていた部屋にいました。
必要なものは持って行って構わない、とリヴァイには伝えていたのですが、ほとんど置いて行ってしまったらしく、部屋の中にはなまえがいた痕跡が至る所に残っています。
壁掛けのハンガーには、なまえの宝物だったローとお揃いのコートがかけられたままになっています。
ゆっくりと腕が上がり、寂しそうなコートの袖に触れます。
その途端、でした。
『ロー、大好きです。ずっとそばにいたいです。』
なまえの柔らかい笑みと、とても愛らしく甘える声が聞こえてきました。
思わず、袖を強く握りしめます。
でもそこに、温度の高いなまえの細く華奢な手ははありません。その手を握り、もう二度と放さないと誓うことも、出来ません。
きっと今、自分が目の前に現れたって、なまえはそれを〝恋人〟とは認識しないのでしょう。
真夜中の夜食も、胸を掻きむしりたくなるほどの想いも、死んでしまいたくなるくらい苦しんだ切ないすれ違いも、共に手を取り合って〝愛〟と向き合う覚悟を持ったことも、なんでもないことを話して、どうでもいいことで笑ったことも、なまえはもう、覚えてはいません。
たったの一晩で、呆気なく、なまえは、ローの恋人から〝高性能なアンドロイド〟になってしまったのです。
カチャ———扉が開く音がして、ローは振り返りました。
入ってきたのは、イッカクでした。その後ろには、ペンギンやベポ、シャチもいます。
皆、同じのようです。
見てはいけないものを見て驚いたように目を見開いたイッカクは、すぐに頬に流れている涙を拭いました。
「すみませんっ、キャプテンがいるとは思わなくて…っ。
すぐに出て行きます!」
「いや、いい。俺はもう行く。」
ローは、握っていたコートの裾から呆気なく手を離すと、そのまま、部屋を出て行きます。
残されたイッカク達は、少し戸惑いながらも、部屋の中へと入りました。
なまえの部屋は、イッカク達が知っているままでした。
でも、いつもなら、当然のように扉を開き、自分の部屋のように寛いでいたはずなのに、なんだか落ち着きません。
イッカク達は、本当に不思議でした。
なまえがいないだけで、知らない場所のようなのです。
そこで、なまえの宝物だったはずのコートが、持ち主に置いて行かれて、ポツンと壁にかけられているのが、ひどく悲劇的に見えました。
ペンギンは、なまえが好んで読んでいた本を片手で開きました。ベポは、ベッドの縁に座り、なまえがよく見上げいてた天井を見上げます。
彼女が見ていたものを、自分も見てみたくなったのです。
手持ち無沙汰で部屋の中を歩き回っていたシャチは、ベッドの下に、勝負を挑んでは必ず負けたカードゲームを見つけました。
「本当に、アイツ…忘れちまったんだなァ…。」
イッカクが触れたコートの胸元は、無機質な機械のようにひんやりと冷たくて、どうしようもなく虚しくなります。
つい数分前に、なまえと交わした会話は、とても懐かしいものでした。
その他大勢、なんて最低な呼び名をつけたなまえが、イッカクは大嫌いでした。
機械のくせに、人間にしか見えない彼女に拒否反応もありました。
でも、頑なに心を開こうとしないイッカクに、真っ直ぐに向き合ってくれたのは、心のないはずのなまえでした。
イッカクにとって、なまえは、大切な仲間である前に、初めての〝親友〟だったのです。
いつも一緒にいました。どうでもいい話をしては、真面目な彼女をからかって悪戯もしました。なまえから逆襲を受けることもありました。
最近では、くだらないことで一緒に笑い合うことだってありました。
いつだって、恋をしているなまえのことをすぐ隣で応援していました。
でも、もう、イッカクの知っているなまえはもう、どこにもいないのです————。
「ぅあ…うぁああああ…っ。」
膝から泣き崩れるイッカクの手は、コートの裾を握りしめていられず、解けて離れていきました。
必要なものは持って行って構わない、とリヴァイには伝えていたのですが、ほとんど置いて行ってしまったらしく、部屋の中にはなまえがいた痕跡が至る所に残っています。
壁掛けのハンガーには、なまえの宝物だったローとお揃いのコートがかけられたままになっています。
ゆっくりと腕が上がり、寂しそうなコートの袖に触れます。
その途端、でした。
『ロー、大好きです。ずっとそばにいたいです。』
なまえの柔らかい笑みと、とても愛らしく甘える声が聞こえてきました。
思わず、袖を強く握りしめます。
でもそこに、温度の高いなまえの細く華奢な手ははありません。その手を握り、もう二度と放さないと誓うことも、出来ません。
きっと今、自分が目の前に現れたって、なまえはそれを〝恋人〟とは認識しないのでしょう。
真夜中の夜食も、胸を掻きむしりたくなるほどの想いも、死んでしまいたくなるくらい苦しんだ切ないすれ違いも、共に手を取り合って〝愛〟と向き合う覚悟を持ったことも、なんでもないことを話して、どうでもいいことで笑ったことも、なまえはもう、覚えてはいません。
たったの一晩で、呆気なく、なまえは、ローの恋人から〝高性能なアンドロイド〟になってしまったのです。
カチャ———扉が開く音がして、ローは振り返りました。
入ってきたのは、イッカクでした。その後ろには、ペンギンやベポ、シャチもいます。
皆、同じのようです。
見てはいけないものを見て驚いたように目を見開いたイッカクは、すぐに頬に流れている涙を拭いました。
「すみませんっ、キャプテンがいるとは思わなくて…っ。
すぐに出て行きます!」
「いや、いい。俺はもう行く。」
ローは、握っていたコートの裾から呆気なく手を離すと、そのまま、部屋を出て行きます。
残されたイッカク達は、少し戸惑いながらも、部屋の中へと入りました。
なまえの部屋は、イッカク達が知っているままでした。
でも、いつもなら、当然のように扉を開き、自分の部屋のように寛いでいたはずなのに、なんだか落ち着きません。
イッカク達は、本当に不思議でした。
なまえがいないだけで、知らない場所のようなのです。
そこで、なまえの宝物だったはずのコートが、持ち主に置いて行かれて、ポツンと壁にかけられているのが、ひどく悲劇的に見えました。
ペンギンは、なまえが好んで読んでいた本を片手で開きました。ベポは、ベッドの縁に座り、なまえがよく見上げいてた天井を見上げます。
彼女が見ていたものを、自分も見てみたくなったのです。
手持ち無沙汰で部屋の中を歩き回っていたシャチは、ベッドの下に、勝負を挑んでは必ず負けたカードゲームを見つけました。
「本当に、アイツ…忘れちまったんだなァ…。」
イッカクが触れたコートの胸元は、無機質な機械のようにひんやりと冷たくて、どうしようもなく虚しくなります。
つい数分前に、なまえと交わした会話は、とても懐かしいものでした。
その他大勢、なんて最低な呼び名をつけたなまえが、イッカクは大嫌いでした。
機械のくせに、人間にしか見えない彼女に拒否反応もありました。
でも、頑なに心を開こうとしないイッカクに、真っ直ぐに向き合ってくれたのは、心のないはずのなまえでした。
イッカクにとって、なまえは、大切な仲間である前に、初めての〝親友〟だったのです。
いつも一緒にいました。どうでもいい話をしては、真面目な彼女をからかって悪戯もしました。なまえから逆襲を受けることもありました。
最近では、くだらないことで一緒に笑い合うことだってありました。
いつだって、恋をしているなまえのことをすぐ隣で応援していました。
でも、もう、イッカクの知っているなまえはもう、どこにもいないのです————。
「ぅあ…うぁああああ…っ。」
膝から泣き崩れるイッカクの手は、コートの裾を握りしめていられず、解けて離れていきました。