◇No.71◇帰りを待っています
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なまえは、船縁から両脚を投げ出して座り、つまらなそうに港を眺めていました。
目が覚めた後に、ロー達が島に降りたことを知ったなまえは、すぐに追いかけようとしました。
ですが、ローから外出禁止令が出されているとペンギンから言われ、おとなしく待っているのです。
無意識に尖った口は、この船から出られないことの不満を無言で語っています。
我儘のひとつでも言ってやりたい気持ちは心の奥にはあるのかもしれませんが、人間の指示に従うように作られた電子回路が、彼女にそうはさせてくれないのでしょう。
しばらくそうしていると、なまえの表情が一気に明るくなりました。
甲板でそれぞれ自由に過ごしながらも、仲間達の帰りを待っていた留守番組の船員達は、わかりやすいなまえの様子にすぐに気づき、思わずクスリと笑ってしまいます。
どうやら、ロー達が帰ってきたようです。
「ロー!おかえりなさい!ちゃんと待っていました!船から出ていません!」
船縁に飛び上がるようにして立ち上がり、なまえが大きく手を振ります。
留守番組の船員達も船縁から、帰ってきた仲間達を出迎えます。そして、すぐに、ローの隣に見覚えのない小柄な男がいることに気が付きました。
兵士なのか、兵隊のような格好をしています。
それに、なぜか、ローが機嫌が悪そうに眉を顰めているのも気になります。
よく見れば、他の仲間達もどこか浮かない表情をしています。顔色の悪い仲間も数名いるようです。
なまえは気づいているのか、いないのか、船縁から大きく手を振りながら「おかえりなさい!ちゃんと待っていました!」を繰り返しています。
(嫌な予感しかしねぇ…。)
ペンギンは、心の中で呟きます。
チラリ、と船縁の上に立つなまえを見上げれば、嬉しそうに大きく手を振っています。
その彼女と、帰ってきたロー達の温度差が、ペンギンの中に渦巻く嫌な予感を加速させていきました。
ジャンバールが下ろしたスロープからロー達が船に上がってくると、なまえが船縁から飛び降りて彼らの元へと駆けていきます。
「ロー!おかえりなさい!」
なまえは、ローの元へ駆け寄ると、その腰に腕を絡めるようにして抱き着きました。
恋人というよりも、飼い主の帰りを待っていた犬です。嬉しそうに振られている尻尾が見えるようです。
いつもならば、仲間達の心を和ませ、少し恥ずかしくなってしまう光景でしたが、様子のおかしいロー達と、見覚えのない小柄の男のせいで、不安ばかりが募ります。
その不安が的中したかのように、いつもなら、クシャリとなまえの頭を撫でているローが、チラリと彼女を見るとすぐに目を逸らしたのです。
明らかに、ローの様子はおかし過ぎました。
ですが、なまえは気づけません。
「ちゃんと待っていました!偉かったですか?」
なまえが上目遣いで、嬉しそうに訊ねます。
きっと、ちゃんと自分の指示を守って偉かった、とローに褒めてもらいたいのです。
期待ばかりに溢れた瞳が、キラキラと輝いています。
ですが———。
「船を降りろ。」
なまえを見下ろしたローが言ったのは、信じられない言葉でした。
「どこかへ行きますか?買い物ですか?」
「この島を降りるのは、お前だけだ。
俺達は次の島へ進む。」
「私はどうしたらいいですか?偵察ですか?」
「好きにすればいい。」
「それなら、ローと一緒にいます。」
「無理だ。俺は次の島へ進む。」
事態を理解していないのか、なまえはしきりに首を傾げます。
「キャプテン、どういうことですか。
それに…、そこの怖ぇ顔したチビは誰っすか。」
訊ねながら、ペンギンは、なまえの腕を掴み引き離しました。
このまま、なまえをそばにいさせたら、ローが彼女を傷つけるような気がしたのです。
チビという言葉に反応したのか、小柄な男の鋭い眼光から殺気のようなものが放たれ、数名が小さな悲鳴を上げました。
それだけでも、大したものです。海軍からも新世代の海賊として一目置かれているのが、ハートの海賊団なのです。
ローやペンギン達のように名前が知れ渡ってはいなくとも、それなりの経験値と戦闘力があります。
それでも、その男は、小柄な身体からは想像もつかない程の圧倒的なオーラを持っていました。
仲間であるペンギン達でさえ、時々、そのオーラに圧倒されそうになるローの隣にいても、引けを取っていません。
「ペンギン、その人、知ってます。」
留守番組だった船員達が、何が起きているのか分からないと不安と戸惑いに揺れている中、冷静にそう言ったのは、なまえでした。
そして、彼女が真っすぐに見ているのは、ローの隣に立つ小柄な男でした。
「私を研究所から連れ出してくれた人です。」
あぁ、そういうことか———以前、なまえから、研究所から逃げ出した時の経緯を聞いていたペンギンも、すぐに誰のことか分かりました。
なぜか、なまえの前に突然現れ、研究所から連れ出した後、船にひとりで乗せて『自由に逃げろ。』と言った男、それが目の前にいる小柄な男だったようです。
ですが、それなら尚更に、今のこの状況がよく分かりません。
なまえをひとりで逃がし、一度はそばを離れた男が、なぜ今になって現れたのか———。
何も知らない世界に突然ひとりきりで取り残され、海軍に追われて壊れかけたなまえを、ハートの海賊団が救ったのです。
そして今さら、やっぱり欲しくなって返してくれと言ってきたということならば、あまりにも勝手です。
「なまえを元の持ち主に返す。」
「持ち主?なんすか、その、物みたいな言い方。
なまえは誰かの物でもねぇし、俺達の仲間ですよ!」
きっとその男こそが、ローがさっき言った〝なまえの元の持ち主〟ということなのでしょう。
ローを責めるように怒るペンギンの声に、力がこもります。
だって、ローと共に帰ってきた仲間達は皆、意味の分からないことを言い出した船長を止めようとしないのです。
それどころか、そうするしかないと諦めているみたいに、悔しそうに目を伏せているのです。
なまえの腕を掴むペンギンの手も、不安と怒りで震えていました。
「お前がなまえを研究所から出したからって何だって言うんだよ!?
結局は、一度は捨てたんだろう!?」
「なまえは俺達の仲間なんだ!俺達と一緒にいるから、笑うようになったんだ!!」
すぐに、ペンギンの後ろに控える留守番組だった仲間の否定の声が上がります。
それは、そのままペンギンの心の声でもありました。
いえ、留守番組の皆の気持ちです。
「そうっすよ、キャプテン!なまえは俺達の仲間なんだ!」
「アンタだって、恋人を他の男にみすみす渡すような男じゃないでしょう!?」
「一緒に信じようとしてたんじゃなかったんですか!?
俺達と一緒にいれば、なまえはすぐに本当の人間になるんです!!
そして、ずっと一緒に冒険を———。」
なまえを守り続けたいことを必死に訴えようとしていたペンギンは、目を見開き、息を止めました。
目の前、あと数センチで触れる距離に見えるのは、ローが愛用している大太刀〈鬼哭〉です。
尖った切っ先の向こうに、怖ろしく眉を歪め、ペンギンを睨みつけるローの姿が見えました。
「なまえは機械だ。人間じゃねぇ。」
シン———と、静まり返った中、ローの低い声が、空気を切り裂きました。
そんなことは、わかっているのです。
それでも、笑顔を覚えたなまえに心が生まれたのは確かなはずです。
だからこそ、なまえはローを愛し、今まで誰も愛せなかったローもなまえを愛するようになったのです。
突然のローの変わりように、ペンギン達の心がついていきません。
すると、ペンギンの視界の端で、白い何かがスッと動きました。
それは、なまえの手でした。
なまえは、ローがペンギンに伸ばした〈鬼哭〉の刃を上から包むようにして包んで、下げるようにゆっくりと押します。
ローが抵抗をしなかったおかげで、刃の先は、ペンギンではなく、床に当たって止まることになりました。
「その人のおかげで、私はロー達に会えました。
優しい人です。ロー達もみんな素敵な人達です。
だから、誰も怖い顔をしないでください。喧嘩は嬉しくありません。」
なまえが言ったのは、とても優しい言葉でした。
そして、ロー、小柄な男、ペンギン達をひとりひとり見ます。
ズキリ、と胸が痛んだのは、留守番組の船員達だけだったのでしょうか。
それとも、グッと唇を噛んだシャチ達も、純粋で優しいなまえの心を前に、胸を痛めたのでしょうか。
でも、ローと小柄な男は、違いました。
ローは、ほんの一瞬でさえもなまえに視線は向けず、小柄な男はひどく不服そうに眉を顰めています。
まるで、心をどこかでなくしてしまったのではないかと疑ってしまいたくなる態度でした。
「なまえ、自由の旅は終わりだ。
お前はここで俺と船を降りる。」
一瞬、誰が喋ったのか、わかりませんでした。
だって、聞こえてきたのは、ローの声だったのです。
でも、そのローは、明後日の方を向いていて、口は真一文字に閉じています。
なまえにも分からなかったのかもしれません。
不思議そうに首を傾げました。
でも、ペンギンにはひとつ、わかったことがありました。
ローが、なまえを見ようとしない理由はきっと、彼が痛いくらいに握りしめている大太刀が知っているのでしょう。
目が覚めた後に、ロー達が島に降りたことを知ったなまえは、すぐに追いかけようとしました。
ですが、ローから外出禁止令が出されているとペンギンから言われ、おとなしく待っているのです。
無意識に尖った口は、この船から出られないことの不満を無言で語っています。
我儘のひとつでも言ってやりたい気持ちは心の奥にはあるのかもしれませんが、人間の指示に従うように作られた電子回路が、彼女にそうはさせてくれないのでしょう。
しばらくそうしていると、なまえの表情が一気に明るくなりました。
甲板でそれぞれ自由に過ごしながらも、仲間達の帰りを待っていた留守番組の船員達は、わかりやすいなまえの様子にすぐに気づき、思わずクスリと笑ってしまいます。
どうやら、ロー達が帰ってきたようです。
「ロー!おかえりなさい!ちゃんと待っていました!船から出ていません!」
船縁に飛び上がるようにして立ち上がり、なまえが大きく手を振ります。
留守番組の船員達も船縁から、帰ってきた仲間達を出迎えます。そして、すぐに、ローの隣に見覚えのない小柄な男がいることに気が付きました。
兵士なのか、兵隊のような格好をしています。
それに、なぜか、ローが機嫌が悪そうに眉を顰めているのも気になります。
よく見れば、他の仲間達もどこか浮かない表情をしています。顔色の悪い仲間も数名いるようです。
なまえは気づいているのか、いないのか、船縁から大きく手を振りながら「おかえりなさい!ちゃんと待っていました!」を繰り返しています。
(嫌な予感しかしねぇ…。)
ペンギンは、心の中で呟きます。
チラリ、と船縁の上に立つなまえを見上げれば、嬉しそうに大きく手を振っています。
その彼女と、帰ってきたロー達の温度差が、ペンギンの中に渦巻く嫌な予感を加速させていきました。
ジャンバールが下ろしたスロープからロー達が船に上がってくると、なまえが船縁から飛び降りて彼らの元へと駆けていきます。
「ロー!おかえりなさい!」
なまえは、ローの元へ駆け寄ると、その腰に腕を絡めるようにして抱き着きました。
恋人というよりも、飼い主の帰りを待っていた犬です。嬉しそうに振られている尻尾が見えるようです。
いつもならば、仲間達の心を和ませ、少し恥ずかしくなってしまう光景でしたが、様子のおかしいロー達と、見覚えのない小柄の男のせいで、不安ばかりが募ります。
その不安が的中したかのように、いつもなら、クシャリとなまえの頭を撫でているローが、チラリと彼女を見るとすぐに目を逸らしたのです。
明らかに、ローの様子はおかし過ぎました。
ですが、なまえは気づけません。
「ちゃんと待っていました!偉かったですか?」
なまえが上目遣いで、嬉しそうに訊ねます。
きっと、ちゃんと自分の指示を守って偉かった、とローに褒めてもらいたいのです。
期待ばかりに溢れた瞳が、キラキラと輝いています。
ですが———。
「船を降りろ。」
なまえを見下ろしたローが言ったのは、信じられない言葉でした。
「どこかへ行きますか?買い物ですか?」
「この島を降りるのは、お前だけだ。
俺達は次の島へ進む。」
「私はどうしたらいいですか?偵察ですか?」
「好きにすればいい。」
「それなら、ローと一緒にいます。」
「無理だ。俺は次の島へ進む。」
事態を理解していないのか、なまえはしきりに首を傾げます。
「キャプテン、どういうことですか。
それに…、そこの怖ぇ顔したチビは誰っすか。」
訊ねながら、ペンギンは、なまえの腕を掴み引き離しました。
このまま、なまえをそばにいさせたら、ローが彼女を傷つけるような気がしたのです。
チビという言葉に反応したのか、小柄な男の鋭い眼光から殺気のようなものが放たれ、数名が小さな悲鳴を上げました。
それだけでも、大したものです。海軍からも新世代の海賊として一目置かれているのが、ハートの海賊団なのです。
ローやペンギン達のように名前が知れ渡ってはいなくとも、それなりの経験値と戦闘力があります。
それでも、その男は、小柄な身体からは想像もつかない程の圧倒的なオーラを持っていました。
仲間であるペンギン達でさえ、時々、そのオーラに圧倒されそうになるローの隣にいても、引けを取っていません。
「ペンギン、その人、知ってます。」
留守番組だった船員達が、何が起きているのか分からないと不安と戸惑いに揺れている中、冷静にそう言ったのは、なまえでした。
そして、彼女が真っすぐに見ているのは、ローの隣に立つ小柄な男でした。
「私を研究所から連れ出してくれた人です。」
あぁ、そういうことか———以前、なまえから、研究所から逃げ出した時の経緯を聞いていたペンギンも、すぐに誰のことか分かりました。
なぜか、なまえの前に突然現れ、研究所から連れ出した後、船にひとりで乗せて『自由に逃げろ。』と言った男、それが目の前にいる小柄な男だったようです。
ですが、それなら尚更に、今のこの状況がよく分かりません。
なまえをひとりで逃がし、一度はそばを離れた男が、なぜ今になって現れたのか———。
何も知らない世界に突然ひとりきりで取り残され、海軍に追われて壊れかけたなまえを、ハートの海賊団が救ったのです。
そして今さら、やっぱり欲しくなって返してくれと言ってきたということならば、あまりにも勝手です。
「なまえを元の持ち主に返す。」
「持ち主?なんすか、その、物みたいな言い方。
なまえは誰かの物でもねぇし、俺達の仲間ですよ!」
きっとその男こそが、ローがさっき言った〝なまえの元の持ち主〟ということなのでしょう。
ローを責めるように怒るペンギンの声に、力がこもります。
だって、ローと共に帰ってきた仲間達は皆、意味の分からないことを言い出した船長を止めようとしないのです。
それどころか、そうするしかないと諦めているみたいに、悔しそうに目を伏せているのです。
なまえの腕を掴むペンギンの手も、不安と怒りで震えていました。
「お前がなまえを研究所から出したからって何だって言うんだよ!?
結局は、一度は捨てたんだろう!?」
「なまえは俺達の仲間なんだ!俺達と一緒にいるから、笑うようになったんだ!!」
すぐに、ペンギンの後ろに控える留守番組だった仲間の否定の声が上がります。
それは、そのままペンギンの心の声でもありました。
いえ、留守番組の皆の気持ちです。
「そうっすよ、キャプテン!なまえは俺達の仲間なんだ!」
「アンタだって、恋人を他の男にみすみす渡すような男じゃないでしょう!?」
「一緒に信じようとしてたんじゃなかったんですか!?
俺達と一緒にいれば、なまえはすぐに本当の人間になるんです!!
そして、ずっと一緒に冒険を———。」
なまえを守り続けたいことを必死に訴えようとしていたペンギンは、目を見開き、息を止めました。
目の前、あと数センチで触れる距離に見えるのは、ローが愛用している大太刀〈鬼哭〉です。
尖った切っ先の向こうに、怖ろしく眉を歪め、ペンギンを睨みつけるローの姿が見えました。
「なまえは機械だ。人間じゃねぇ。」
シン———と、静まり返った中、ローの低い声が、空気を切り裂きました。
そんなことは、わかっているのです。
それでも、笑顔を覚えたなまえに心が生まれたのは確かなはずです。
だからこそ、なまえはローを愛し、今まで誰も愛せなかったローもなまえを愛するようになったのです。
突然のローの変わりように、ペンギン達の心がついていきません。
すると、ペンギンの視界の端で、白い何かがスッと動きました。
それは、なまえの手でした。
なまえは、ローがペンギンに伸ばした〈鬼哭〉の刃を上から包むようにして包んで、下げるようにゆっくりと押します。
ローが抵抗をしなかったおかげで、刃の先は、ペンギンではなく、床に当たって止まることになりました。
「その人のおかげで、私はロー達に会えました。
優しい人です。ロー達もみんな素敵な人達です。
だから、誰も怖い顔をしないでください。喧嘩は嬉しくありません。」
なまえが言ったのは、とても優しい言葉でした。
そして、ロー、小柄な男、ペンギン達をひとりひとり見ます。
ズキリ、と胸が痛んだのは、留守番組の船員達だけだったのでしょうか。
それとも、グッと唇を噛んだシャチ達も、純粋で優しいなまえの心を前に、胸を痛めたのでしょうか。
でも、ローと小柄な男は、違いました。
ローは、ほんの一瞬でさえもなまえに視線は向けず、小柄な男はひどく不服そうに眉を顰めています。
まるで、心をどこかでなくしてしまったのではないかと疑ってしまいたくなる態度でした。
「なまえ、自由の旅は終わりだ。
お前はここで俺と船を降りる。」
一瞬、誰が喋ったのか、わかりませんでした。
だって、聞こえてきたのは、ローの声だったのです。
でも、そのローは、明後日の方を向いていて、口は真一文字に閉じています。
なまえにも分からなかったのかもしれません。
不思議そうに首を傾げました。
でも、ペンギンにはひとつ、わかったことがありました。
ローが、なまえを見ようとしない理由はきっと、彼が痛いくらいに握りしめている大太刀が知っているのでしょう。