◇No.66◇大きな壁が立ちはだかります
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
1時間程、馬車に揺られ続けられた頃でしょうか。
真っ白い雪景色が広がるだけだった視界に、漸く〝建物〟と呼べるものが見えてきました。
それは、遠くから見えていた時から感じていた漠然とした違和感は、それが目の前まで迫り始めると、恐怖に似た感情に変わりました。
見たこともないような高い壁が、目の届く範囲に地平線のように真っすぐと伸びているのです。
「あれ、もしかしてすげぇデケぇんじゃ…。」
「なんだ…、あれ…。」
目の前にそびえ立って見えるのに、なかなか近づかない大きな壁を前に、シャチ達から声が漏れます。
「キャプテン…、ここ怖いよ…。やっぱりやめよう。
絶対に、この壁の向こうには怖い何かがあるんだ。」
ベポが小刻みに震えながら、ローの腕を掴みます。
ですが、ローの返答は、許可でも否定でもありませんでした。
「逆だ。」
「逆?」
「この島は、ウォール島だ。」
「ウォール島?壁の島ってこと?」
「ていうか、キャプテン。
ここが何て島か知ってたんなら教えてくださ———。」
「またの名を、ダイ・アウトサイド。」
「ダイ…アウ、アウト?」
「ダイ・アウトサイド。
この壁の外に出たら死ぬという意味だ。」
どうしてそんな物騒な呼び名があるのか———不安そうに訊ねるシャチ達に、ローがゆっくりと口を開きます。
それは、ある日突然現れて、この島に住む人々を恐怖に陥れた〝巨人〟の話でした。
新世界には、エルバフという巨人族の住む国がありますが、この島に現れたソレは、彼らとは似て非なる〝巨大な怪物〟だったのです。
人のカタチはしていましたが、生殖器は存在せず、知性の欠片もありません。彼らはただ、手当たり次第に人間を襲い、捕食するという殺戮を繰り返したのです。
巨人に恐怖した島民達でしたが、すぐに屈したりはしませんでした。
力を合わせ、大きな壁を作り、その壁の中に平和を築いたのです。
「だから、壁の外に出ちまったら巨人に喰われちまう…。
それで、ダイ・アウトサイドってことっすか。」
イッカクの言葉にローが肯定の返事をすれば、ベポ達が悲鳴を上げてガタガタと震えだしました。
そして、辺りを忙しなく見渡しては、いつ現れて、自分達を襲うかもしれない巨人の存在に怯えます。
「アッハッハッハ!お兄さん、友達をからかっちゃいけねぇよ!!」
大声を上げて面白そうに笑いだしたのは、馭者の男でした。
彼の方を見てみれば、前を向いて馬を操る背中が、楽しそうに上下に揺れています。
震えながら、何が可笑しいのだと騒ぐシャチ達に、彼は面白そうに続けました。
「今どき、巨人なんていませんよ!」
「キャプテンが嘘を吐いたってことか!?」
「まぁ、嘘と言えば嘘ですし。事実と言えば、事実かもしれません。」
「なんだよ、それ!どっちだよ!?」
「いたんですよ、昔はね。」
「昔?」
「遠い昔です。文献によれば、100年程前だったと言われています。
我々の祖先は、突如現れた巨人の脅威から生き残る為に巨大な壁を築いたそうです。」
「今はいねぇってことは、巨人は人間が喰えなくなって滅んだのか?」
「いいえ。私も子供の頃に聞いた話なので、記憶は曖昧ですが。
巨人は栄養として人間を捕食していたわけではないそうですよ。」
だから、この島の子供達は、悪いことをすると『巨人に喰われるぞ』と脅されて育つのだと、面白そうに笑う。
なんとも恐ろしい殺し文句だが、実際に100年前にこの島で暮らしていた人々にとっては、冗談にも出来ない〝現実〟だったのだろう。
そう思うと、その脅しは、とても効き目があるように感じつつも、不謹慎な気もする。
「それで?!巨人はどうして滅んだんだ?」
シャチが身体を前のめりにして、馭者の男に訊ねます。
それは、好奇心で知りたがっているという様子とは違っていました。
どうやら彼は、本当に巨人はもう存在しないのか———確たる証言が欲しいようです。
「英雄達がいたんですよ。」
「英雄?」
「壁の外に出れば死ぬと言われていた当時、誰に何と言われようが、馬鹿にされようが、
壁の外を馬で駆け、自由を取り返すために、巨人に挑み戦ってくれた英雄達です。」
これも、島民達が子供の頃から親から語り継がれている英雄達の物語です———馭者は、そう前置きをして、勇敢に戦い、そして儚く散っていった兵士達の話を聞かせてくれました。
100年程前、この壁の中に追いやられた人間の中に、逃げてばかりいないで憎むべき巨人から自由を取り戻そうと声を上げる者が現れます。
それが、後に〝英雄〟と呼ばれる彼らでした。
当時、壁の外に出ようとするのは〝愚か者〟か、壁の中で平穏に暮らしている人間達に危険を及ぼそうとする〝反逆者〟でした。
ですが、風当りの強い世論や周囲の目が、彼らの瞳を曇らせることはありませんでした。
彼らに見えていたのは、壁の中にある〝虚偽の安寧〟ではなく〝自由〟だったのです。
彼らは、訓練を重ね、身体を鍛え、馬に乗り、何度でも壁の外にいる巨人に挑みました。
そして、その度に、大きな犠牲を連れて帰ってきました。
そんな彼らに、やはり世間の目は冷たかったと言います。
ですが、彼らの心は折れません。
なぜなら、犠牲と共に彼らは、死んでいった仲間の想いと共に、大きな成果もまた手に入れて帰ってきていたのです。
それは、巨人の弱点という情報です。
彼らは持ち帰ったその弱点を研究し、巨人を駆逐するための道具を作り、また壁の外へと飛び出します。
そんな彼らの勇気に感化され、仲間は徐々に数を増やし、最終的に兵士の数は100人を越えたていた言います。
そして、長く辛い戦いの末に、彼らは、自由を勝ち取り、自分達だけではなく、壁の中に閉じ込められた窮屈な世界に生まれてくるはずだった人達の未来を救ったのです。
「最後の戦いで帰ってきたのは、たった2人だったと言います。」
「2人だけ…。」
「勇気ある兵士達が、自らの命を捧げてまで守ってくれたから私達が今、ここに生きている。
だから私達は、壁の外で生きていけるようになっても、
英雄達が存在したという証を残す壁を壊さずにいるんです。」
さぁ、着きましたよ———馭者の言葉と共に、馬車が止まりました。
海賊達が英雄の話に夢中になっているうちに、壁の前まで来ていたようです。
それは、まるで世界の行き止まりのようでした。
高さは50mほどはあるでしょうか。
見上げてもきりがないほどの高さの頂上には、小さく人の姿も見えます。兵士のような格好をした数名が、こちらを見下ろしているようでした。
シャチ達は、大きな壁だと思われていたソコの中央に門扉があることに気が付きました。
少し待っていると、大きな門扉が、ゆっくりと左右に開かれていきました。
先ほど、壁の上からこちらを覗いていた兵士達は、この門を開ける為の番人だったようです。
躊躇いもなく門の奥へと入っていく馬車の上で、ロー達はとても緊張した面持ちをしていました。
真っ白い雪景色が広がるだけだった視界に、漸く〝建物〟と呼べるものが見えてきました。
それは、遠くから見えていた時から感じていた漠然とした違和感は、それが目の前まで迫り始めると、恐怖に似た感情に変わりました。
見たこともないような高い壁が、目の届く範囲に地平線のように真っすぐと伸びているのです。
「あれ、もしかしてすげぇデケぇんじゃ…。」
「なんだ…、あれ…。」
目の前にそびえ立って見えるのに、なかなか近づかない大きな壁を前に、シャチ達から声が漏れます。
「キャプテン…、ここ怖いよ…。やっぱりやめよう。
絶対に、この壁の向こうには怖い何かがあるんだ。」
ベポが小刻みに震えながら、ローの腕を掴みます。
ですが、ローの返答は、許可でも否定でもありませんでした。
「逆だ。」
「逆?」
「この島は、ウォール島だ。」
「ウォール島?壁の島ってこと?」
「ていうか、キャプテン。
ここが何て島か知ってたんなら教えてくださ———。」
「またの名を、ダイ・アウトサイド。」
「ダイ…アウ、アウト?」
「ダイ・アウトサイド。
この壁の外に出たら死ぬという意味だ。」
どうしてそんな物騒な呼び名があるのか———不安そうに訊ねるシャチ達に、ローがゆっくりと口を開きます。
それは、ある日突然現れて、この島に住む人々を恐怖に陥れた〝巨人〟の話でした。
新世界には、エルバフという巨人族の住む国がありますが、この島に現れたソレは、彼らとは似て非なる〝巨大な怪物〟だったのです。
人のカタチはしていましたが、生殖器は存在せず、知性の欠片もありません。彼らはただ、手当たり次第に人間を襲い、捕食するという殺戮を繰り返したのです。
巨人に恐怖した島民達でしたが、すぐに屈したりはしませんでした。
力を合わせ、大きな壁を作り、その壁の中に平和を築いたのです。
「だから、壁の外に出ちまったら巨人に喰われちまう…。
それで、ダイ・アウトサイドってことっすか。」
イッカクの言葉にローが肯定の返事をすれば、ベポ達が悲鳴を上げてガタガタと震えだしました。
そして、辺りを忙しなく見渡しては、いつ現れて、自分達を襲うかもしれない巨人の存在に怯えます。
「アッハッハッハ!お兄さん、友達をからかっちゃいけねぇよ!!」
大声を上げて面白そうに笑いだしたのは、馭者の男でした。
彼の方を見てみれば、前を向いて馬を操る背中が、楽しそうに上下に揺れています。
震えながら、何が可笑しいのだと騒ぐシャチ達に、彼は面白そうに続けました。
「今どき、巨人なんていませんよ!」
「キャプテンが嘘を吐いたってことか!?」
「まぁ、嘘と言えば嘘ですし。事実と言えば、事実かもしれません。」
「なんだよ、それ!どっちだよ!?」
「いたんですよ、昔はね。」
「昔?」
「遠い昔です。文献によれば、100年程前だったと言われています。
我々の祖先は、突如現れた巨人の脅威から生き残る為に巨大な壁を築いたそうです。」
「今はいねぇってことは、巨人は人間が喰えなくなって滅んだのか?」
「いいえ。私も子供の頃に聞いた話なので、記憶は曖昧ですが。
巨人は栄養として人間を捕食していたわけではないそうですよ。」
だから、この島の子供達は、悪いことをすると『巨人に喰われるぞ』と脅されて育つのだと、面白そうに笑う。
なんとも恐ろしい殺し文句だが、実際に100年前にこの島で暮らしていた人々にとっては、冗談にも出来ない〝現実〟だったのだろう。
そう思うと、その脅しは、とても効き目があるように感じつつも、不謹慎な気もする。
「それで?!巨人はどうして滅んだんだ?」
シャチが身体を前のめりにして、馭者の男に訊ねます。
それは、好奇心で知りたがっているという様子とは違っていました。
どうやら彼は、本当に巨人はもう存在しないのか———確たる証言が欲しいようです。
「英雄達がいたんですよ。」
「英雄?」
「壁の外に出れば死ぬと言われていた当時、誰に何と言われようが、馬鹿にされようが、
壁の外を馬で駆け、自由を取り返すために、巨人に挑み戦ってくれた英雄達です。」
これも、島民達が子供の頃から親から語り継がれている英雄達の物語です———馭者は、そう前置きをして、勇敢に戦い、そして儚く散っていった兵士達の話を聞かせてくれました。
100年程前、この壁の中に追いやられた人間の中に、逃げてばかりいないで憎むべき巨人から自由を取り戻そうと声を上げる者が現れます。
それが、後に〝英雄〟と呼ばれる彼らでした。
当時、壁の外に出ようとするのは〝愚か者〟か、壁の中で平穏に暮らしている人間達に危険を及ぼそうとする〝反逆者〟でした。
ですが、風当りの強い世論や周囲の目が、彼らの瞳を曇らせることはありませんでした。
彼らに見えていたのは、壁の中にある〝虚偽の安寧〟ではなく〝自由〟だったのです。
彼らは、訓練を重ね、身体を鍛え、馬に乗り、何度でも壁の外にいる巨人に挑みました。
そして、その度に、大きな犠牲を連れて帰ってきました。
そんな彼らに、やはり世間の目は冷たかったと言います。
ですが、彼らの心は折れません。
なぜなら、犠牲と共に彼らは、死んでいった仲間の想いと共に、大きな成果もまた手に入れて帰ってきていたのです。
それは、巨人の弱点という情報です。
彼らは持ち帰ったその弱点を研究し、巨人を駆逐するための道具を作り、また壁の外へと飛び出します。
そんな彼らの勇気に感化され、仲間は徐々に数を増やし、最終的に兵士の数は100人を越えたていた言います。
そして、長く辛い戦いの末に、彼らは、自由を勝ち取り、自分達だけではなく、壁の中に閉じ込められた窮屈な世界に生まれてくるはずだった人達の未来を救ったのです。
「最後の戦いで帰ってきたのは、たった2人だったと言います。」
「2人だけ…。」
「勇気ある兵士達が、自らの命を捧げてまで守ってくれたから私達が今、ここに生きている。
だから私達は、壁の外で生きていけるようになっても、
英雄達が存在したという証を残す壁を壊さずにいるんです。」
さぁ、着きましたよ———馭者の言葉と共に、馬車が止まりました。
海賊達が英雄の話に夢中になっているうちに、壁の前まで来ていたようです。
それは、まるで世界の行き止まりのようでした。
高さは50mほどはあるでしょうか。
見上げてもきりがないほどの高さの頂上には、小さく人の姿も見えます。兵士のような格好をした数名が、こちらを見下ろしているようでした。
シャチ達は、大きな壁だと思われていたソコの中央に門扉があることに気が付きました。
少し待っていると、大きな門扉が、ゆっくりと左右に開かれていきました。
先ほど、壁の上からこちらを覗いていた兵士達は、この門を開ける為の番人だったようです。
躊躇いもなく門の奥へと入っていく馬車の上で、ロー達はとても緊張した面持ちをしていました。