◇No.60◇〝今〟と〝未来〟は繋がっていると信じます
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その日の夜、ローはなまえと一緒にバーに来ていました。
大きなソファに二人で並んで座って、天井に広がる海をぼんやりと見上げているだけです。
化粧も落として、いつもの仲間とお揃いのつなぎに着替えたなまえを腕の中に抱きしめて、時々、どうでもいいような話を交わします。
少し前のローなら、何の生産性もない無駄な過ごし方だと切り捨てていたはずでした。
でも、今では、ゆっくりと流れていくこの時間がローの心を癒しているのは、確かだったのです。
でも———。
『なぁ、キャプテン。機械が人間になれるかなんて、分からねぇけどさ、
なまえが笑えるようになったのは、仲間が出来たからだと思うんだ。
これは間違ってない気がする。だから、難しいことなんか考えないで、
アタシ達は、なまえと一緒に笑っていましょうよ。
それがきっと、遠回りなようで近道なんだ。きっと———。』
綺麗なドレスを着てるのに、船縁に座ってベポ達と釣りを始めてしまったなまえの後ろ姿を眺めながら、イッカクが言った言葉が、ローの頭の中でぐるぐるとまわり続けていました。
何でも論理的に考えてきたローにとって、それは、到底〝答え〟とは呼べません。
それでも、イッカクは、それが正解だと信じているようでした。
そして、それを否定する術を、ローは持っていませんでした。
なぜなら、なまえに関しては、分からないことばかりだからです。
なまえは、海賊をこの世から一掃するために生まれた高性能な殺戮ロボット。
それだけが、今、確実に分かっている事実なのです。
「ロー。」
不意に、なまえに名前を呼ばれて、ローの思考は一時停止されます。
「ん?なんだ?」
腕の中に抱きしめているなまえの顔を覗き込みながら、ローが訊ねます。
目が合うと、彼女は、こう言いました。
「メイクとドレスの私は綺麗でしたか?」
人間の女のようなことを聞いてくるなまえに、ローはクスリと笑いました。
そして、すっかりカールもとれてしまった柔らかい髪を撫でながら答えます。
「あぁ、綺麗だった。」
「惚れ直しましたか?」
「それはねぇ。」
ローはそう言って、なまえの両脇に手を入れました。
そして、彼女を持ち上げて、向き合うようにして自分の膝の上に座らせます。
言葉をそのまま受け取った素直ななまえは、重たい睫毛を乗せた瞼を僅かに下げて、視線を落としていました。
きっと、惚れ直しては貰えなかったのだと勘違いしているのでしょう。
でも、ローが言いたかったのは、そういうことではないのです。
そして彼ももう、自分が言葉不足だということを知っています。
だから、俯いたせいで彼女の綺麗な瞳を隠してしまった前髪を優しくかき上げながら、素直に伝えます。
「いつも惚れてるのに、どうやって惚れ直せって言うんだ?」
ピクリとなまえの肩が跳ねて、彼女が顔を上げました。
視線が重なったなまえの瞳が、嬉しそうに輝いたような気がして、ローはそれだけで嬉しくなります。
「私と同じです。いつも惚れているので、惚れ直せません。」
「同じだな。」
「はい、同じです。私は、ローが大好きです。」
「俺は、」
ローは、なまえの頬に手を添えました。
こんなにゆっくりと彼女と見つめ合ったのが、凄く懐かしく感じました。
そして、真っすぐに彼女を見つめたまま続けます。
「愛してる。」
ローが、そう伝えてすぐでした。
なまえが、嬉しそうに微笑みました。
本当に、本当に、嬉しそうに、眉尻を下げて微笑んだのです。
「私はもっと愛してます。」
なまえは嬉しそうに微笑んだままで負けじとそう言うと、ローに甘えるように抱き着きました。
ふふ、と小さな笑い声まで聞こえてきて、ローは胸が高鳴ります。
強く抱きしめて、彼女との未来を確信しました。
そして———。
(あぁ、そうか…。)
イッカクの言っていた意味を、ローは、漸く、理解したのです。
なまえに〝奇跡〟を起こさせたのは、自分達と共に過ごす〝今〟が今日の日まで繋がったからでした。
ベポが拾ってきた機械を面倒だと突き放して、でも、自らを犠牲にしてハートの海賊団を守ろうとした彼女を捨てきれなかったのが始まりでした。
それから、機械だと冷たく背を向けようとしていた仲間の心を、なまえは持ち前の素直さで解かしていきました。
人間とは生活の仕方もリズムも違っているのに、なまえはいつも、仲間と共にあろうとしました。
食事の時に、ただそばにいるのもそうです。
そして、一緒に、小さな小さな田舎の町を救ったこともありました。
そうやって、自分達は彼女と絆を結び、本物の仲間になったのです。
今では、恋人としてこうして抱き合う夜も過ごしています。
この〝今〟が続いていけばきっと、なまえと仲間達の願いは叶う————。
ローは、そう信じることにしました。
あぁ、それは本当に途方もない願いと覚悟です。
果たして本当に、〝今〟が彼女と共に生きる〝未来〟へ繋がるのでしょうか。
≪そんな未来は来るわけがない。信じれば信じるほどに、傷つくだけだ。≫
何処からかそんな声が聞こえていました。
でも、ポーラータング号の船に乗っている人間には、聞こえません。
彼らの耳にそれが届いた時、彼らは強く立ち向かい無謀な願いを信じ続けることを選ぶのでしょうか。
それとも、現実に打ちのめされて絶望に崩れ落ちるのでしょうか。
それはまだ、誰にも分かりません。
だからせめてそれまでは、無邪気に未来を信じる彼らの幸せを、そっと願ってみるのもいいかもしれません。
あぁ、どうか———。
彼らにとっての穏やかな日々が、少しでも長く続くように、願わずにはいられません。
大きなソファに二人で並んで座って、天井に広がる海をぼんやりと見上げているだけです。
化粧も落として、いつもの仲間とお揃いのつなぎに着替えたなまえを腕の中に抱きしめて、時々、どうでもいいような話を交わします。
少し前のローなら、何の生産性もない無駄な過ごし方だと切り捨てていたはずでした。
でも、今では、ゆっくりと流れていくこの時間がローの心を癒しているのは、確かだったのです。
でも———。
『なぁ、キャプテン。機械が人間になれるかなんて、分からねぇけどさ、
なまえが笑えるようになったのは、仲間が出来たからだと思うんだ。
これは間違ってない気がする。だから、難しいことなんか考えないで、
アタシ達は、なまえと一緒に笑っていましょうよ。
それがきっと、遠回りなようで近道なんだ。きっと———。』
綺麗なドレスを着てるのに、船縁に座ってベポ達と釣りを始めてしまったなまえの後ろ姿を眺めながら、イッカクが言った言葉が、ローの頭の中でぐるぐるとまわり続けていました。
何でも論理的に考えてきたローにとって、それは、到底〝答え〟とは呼べません。
それでも、イッカクは、それが正解だと信じているようでした。
そして、それを否定する術を、ローは持っていませんでした。
なぜなら、なまえに関しては、分からないことばかりだからです。
なまえは、海賊をこの世から一掃するために生まれた高性能な殺戮ロボット。
それだけが、今、確実に分かっている事実なのです。
「ロー。」
不意に、なまえに名前を呼ばれて、ローの思考は一時停止されます。
「ん?なんだ?」
腕の中に抱きしめているなまえの顔を覗き込みながら、ローが訊ねます。
目が合うと、彼女は、こう言いました。
「メイクとドレスの私は綺麗でしたか?」
人間の女のようなことを聞いてくるなまえに、ローはクスリと笑いました。
そして、すっかりカールもとれてしまった柔らかい髪を撫でながら答えます。
「あぁ、綺麗だった。」
「惚れ直しましたか?」
「それはねぇ。」
ローはそう言って、なまえの両脇に手を入れました。
そして、彼女を持ち上げて、向き合うようにして自分の膝の上に座らせます。
言葉をそのまま受け取った素直ななまえは、重たい睫毛を乗せた瞼を僅かに下げて、視線を落としていました。
きっと、惚れ直しては貰えなかったのだと勘違いしているのでしょう。
でも、ローが言いたかったのは、そういうことではないのです。
そして彼ももう、自分が言葉不足だということを知っています。
だから、俯いたせいで彼女の綺麗な瞳を隠してしまった前髪を優しくかき上げながら、素直に伝えます。
「いつも惚れてるのに、どうやって惚れ直せって言うんだ?」
ピクリとなまえの肩が跳ねて、彼女が顔を上げました。
視線が重なったなまえの瞳が、嬉しそうに輝いたような気がして、ローはそれだけで嬉しくなります。
「私と同じです。いつも惚れているので、惚れ直せません。」
「同じだな。」
「はい、同じです。私は、ローが大好きです。」
「俺は、」
ローは、なまえの頬に手を添えました。
こんなにゆっくりと彼女と見つめ合ったのが、凄く懐かしく感じました。
そして、真っすぐに彼女を見つめたまま続けます。
「愛してる。」
ローが、そう伝えてすぐでした。
なまえが、嬉しそうに微笑みました。
本当に、本当に、嬉しそうに、眉尻を下げて微笑んだのです。
「私はもっと愛してます。」
なまえは嬉しそうに微笑んだままで負けじとそう言うと、ローに甘えるように抱き着きました。
ふふ、と小さな笑い声まで聞こえてきて、ローは胸が高鳴ります。
強く抱きしめて、彼女との未来を確信しました。
そして———。
(あぁ、そうか…。)
イッカクの言っていた意味を、ローは、漸く、理解したのです。
なまえに〝奇跡〟を起こさせたのは、自分達と共に過ごす〝今〟が今日の日まで繋がったからでした。
ベポが拾ってきた機械を面倒だと突き放して、でも、自らを犠牲にしてハートの海賊団を守ろうとした彼女を捨てきれなかったのが始まりでした。
それから、機械だと冷たく背を向けようとしていた仲間の心を、なまえは持ち前の素直さで解かしていきました。
人間とは生活の仕方もリズムも違っているのに、なまえはいつも、仲間と共にあろうとしました。
食事の時に、ただそばにいるのもそうです。
そして、一緒に、小さな小さな田舎の町を救ったこともありました。
そうやって、自分達は彼女と絆を結び、本物の仲間になったのです。
今では、恋人としてこうして抱き合う夜も過ごしています。
この〝今〟が続いていけばきっと、なまえと仲間達の願いは叶う————。
ローは、そう信じることにしました。
あぁ、それは本当に途方もない願いと覚悟です。
果たして本当に、〝今〟が彼女と共に生きる〝未来〟へ繋がるのでしょうか。
≪そんな未来は来るわけがない。信じれば信じるほどに、傷つくだけだ。≫
何処からかそんな声が聞こえていました。
でも、ポーラータング号の船に乗っている人間には、聞こえません。
彼らの耳にそれが届いた時、彼らは強く立ち向かい無謀な願いを信じ続けることを選ぶのでしょうか。
それとも、現実に打ちのめされて絶望に崩れ落ちるのでしょうか。
それはまだ、誰にも分かりません。
だからせめてそれまでは、無邪気に未来を信じる彼らの幸せを、そっと願ってみるのもいいかもしれません。
あぁ、どうか———。
彼らにとっての穏やかな日々が、少しでも長く続くように、願わずにはいられません。