静かな夜に、なまえとローが優しく握りしめる線香花火が、パチパチと柔らかい音を立てて煌めいていました。
不規則に火花を散らしすそれが、なまえの顔を淡い光で照らします。
彼女は、真剣に線香花火の行方を追っていました。
ローは、そんな彼女を見つめながら、線香花火の弱々しい光に、願いを込めます。

≪彼女の命が燃え尽きるそのときまで、隣にいられますように。≫

叶うとは、到底思えない願いです。
それでも、奇跡が起きて、彼女のそばにいられたのなら———。

「真剣だな。」

クスリ、とローが笑うと、なまえが真剣に答えます。

「必ず叶えたいお願いです。」
「へぇ。どんな願いなんだ？」
「人間になりたいです。」
「…そうか。」

ローは、小さく呟くように言いました。
何と答えてやればいいのか、分からなかったのです。
ローの願いと同じくらいに、叶うはずのない願いです。
なまえは機械です。死んでいく時も、機械に決まっています。
あぁ、でも———。

「叶うといいな。」
「はい。叶うといいです。」

柔らかく微笑んだローに、なまえも当然のように答えました。
途方もない願いだということは理解していました。
それでも、信じてみたくなったのです。
彼女と共に生きる未来を———。
でも、現実とは非情なものです。
信じたその次の瞬間に、呆気なく裏切ります。
このときも、そうでした。
ローの握っていた線香花火から、力を失くしたように火の種が落ちていきます。
あ———！
視線で追いかけたときにはもう、小さな火種は裏甲板の板に吸い込まれるようにして消えていました。

≪機械と共に生きる未来なんて来るわけがないだろう≫

まるで、遠くで誰かがそうやって嘲笑っているようでした。
それでも、ローの心は、なまえと生きる未来を必死に組み立てようとしていました。
他の誰かの声なんかにはもう、振り回されたくないから———。
ただの細い糸のようになってしまった線香花火を、ローが、まるで仇のように力の限りに握りしめた、そのときでした。

「消えました。」

それは、悲しい報告のようなセリフでした。
でも、そうではなかったのです。
だって————。

「綺麗な光は、落ちませんでした。」

線香花火の儚く美しい光が消えた裏甲板は、静かな闇が訪れるはずでした。
でも、そこにあったのは、淡い月明かりと、おまじないを成功させた線香花火の欠片、そして————。

「私の願いが、叶います。」

線香花火のように儚く美しい、なまえの微笑みでした。
見惚れてしまうほどに綺麗なその光景が、世界を一瞬のうちに優しく変えます。
途方もない願いでも、願うことくらいなら赦してあげてもいいんじゃないかなと、ローとなまえに優しく寄り添う淡く美しい月明かりの声が、確かに、聞こえたのです。