◇No.58◇笑って欲しいのです
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ギャーーッハッハッ。」
食堂に海賊達の豪快な笑い声が響きます。
絶句するローの周りで、彼らは腹を抱えて大爆笑です。
笑わせようとしていたシャチ達が、逆になまえに笑わせられたのです。
なまえは、それをいつもの無表情で見ていました。
ですが、その顔は、ピエロでした。
顔は白粉でも塗ったように真っ白くなり、なぜか頬だけ真っ赤です。
目の周りは、黄色や青、緑で色をつけられ、睫毛は瞼を開きづらそうなほどに真っ黒い液体が塗ってあり、目の下まで黒くなり、まるで黒い涙のようです。
唇をはみ出して描かれた真っ赤な口は、不気味に笑うピエロそのものでした。
「ロー。」
なまえが、恋人の名前を呼び、彼を見ました。
思わず、ローはビクッと肩を揺らしてしまいます。
「綺麗ですか?」
ホラーでした。
ピエロを描いたような顔は無表情で、綺麗ですかと聞かれるなんて、どこかの怖い話に出てきそうなほどに、ホラーでした。
「…イッカク、消してやれ。」
「アイアイ、キャプテン。」
イッカクがため息交じりに頷いて、なまえの腕を掴みました。
そしてそのまま、名残惜し気にする彼女を連れて自室へと連れて行きます。
それからしばらくして、船長室に戻ったローの元へ、イッカクがなまえを連れてやって来ました。
彼女のメイク落としを使って、ピエロのようだった顔は、いつも通りの綺麗ななまえに戻っていました。
ホッとしたローは、なまえの手を引いて、自分が座っていたソファの隣に腰を降ろさせます。
「あのさ、キャプテン。
なまえにどうしてピエロメイクしたのか聞いてみたんすよ。」
ローの前に立ったイッカクが、躊躇いがちに言いました。
「理由があるのか…!?」
驚愕でした。
ローは目を見開き、イッカクを見上げました。
あのピエロの顔に理由があったなんて。
「前の島で、キャプテンとまだその…うまくいってないとき、
なまえ、1人で買い物に行ったんすよ。
そのときに、ショップの店員に好きな男に振り向いてもらう方法を色々教えて貰ったらしい。」
「…それが、あの化けも…、さっきのアレか。」
なまえの隣で失言しかけたローは、なんとか誤魔化しました。
たぶん、ぼんやりとしているなまえは気づいていません。
「アレだけじゃねぇみたいだけど。」
「まだあるのか!?」
「今度からはアタシに相談しろって言っておきました。
もうあんなことにはならねぇから心配しないでください。」
「助かる。」
「じゃ、アタシはこれで。ちゃんとなまえの話、聞いてやってください。」
軽く頭を下げた後、イッカクは部屋を出て行きました。
2人きりになった船長室で、ローは、なまえを抱き上げると、向き合う格好で自分の膝の上に乗せました。
そして、なまえの頬に触れます。
透き通るような綺麗な白い肌です。滑らかで、傷ひとつありません。
「さっきのは俺の為だったのか。」
「ローが喜ぶはずでした。でも、消せと言われました。」
なまえが言います。
どこか恨めし気です。
彼女としては、こんなはずではなかったのでしょう。
でも、どうしてピエロメイクでローが喜ぶと思うのか。
ショップの店員の考えもよく分かりません。
「なまえは、そのままでいい。」
「…私は笑いません。口紅をつけたら、笑った口にできました。」
あぁ、そういうことか———。
ローは理解した後、困ったように眉尻を下げました。
「シャチ達がお前を笑わせようとしてるみてぇだが、そんなの無視しとけ。
お前は、そのままでいい。無理に笑う必要はねぇ。」
「でも、シェリーはよく笑っていました。」
「シェリー?」
どうして今ここで、前の島で会った女の名前が出てくるのか——。
女心が全く分からないローには、不思議なだけでした。
そんな彼に、なまえが続けます。
「シェリーは、メイクもしていました。とても綺麗で、美しい人でした。
私も、彼女みたいになりたいです。
そしたら、ローはもっと、私を好きになってくれるかもしれません。」
漸く、ローはなまえの気持ちを理解しました。
素直に答えてくれるなまえのおかげです。
そうでなければ、女心なんて一度も考えたことのないローは、恋人の気持ちを汲み取ってやることなんて、出来なかったでしょう。
一生懸命に自分を愛してもらおうとしている彼女のいじらしさに、ローは、思わず綻んでしまいます。
「バカだな。」
ローは、なまえを抱き寄せました。
なまえの腕は、自然にローの背中にまわります。
そして、甘えるように、胸に頬を埋めました。
「私はバカですか。」
「そうだな。」
「そうですか。」
「覚えとけ。俺はもう、これ以上はねぇくらいなまえが好きだ。
だからもう、俺の為に無理はしなくていい。」
「…分かりました。」
なまえは、ローの胸で小さく頷きました。
どれくらい、彼女に伝わったのでしょうか。
好きな人の為に、もっと好きになってもらう自分になりたいと思うのは、自然なことです。
彼女にも、そういう心があったのか。それとも、ショップの店員に言われた通りにしただけなのか。
それはもう、彼女にしか分かりません。
でも、彼女は、彼女のままでいいのです。
笑わなくても、すっぴんでも、そのままで美しく、ローは、そのままの彼女を愛しているのですから。
いつかの別れを思っては、夜も眠れなくなるくらいに胸が引き裂かれそうになるほどに————。
食堂に海賊達の豪快な笑い声が響きます。
絶句するローの周りで、彼らは腹を抱えて大爆笑です。
笑わせようとしていたシャチ達が、逆になまえに笑わせられたのです。
なまえは、それをいつもの無表情で見ていました。
ですが、その顔は、ピエロでした。
顔は白粉でも塗ったように真っ白くなり、なぜか頬だけ真っ赤です。
目の周りは、黄色や青、緑で色をつけられ、睫毛は瞼を開きづらそうなほどに真っ黒い液体が塗ってあり、目の下まで黒くなり、まるで黒い涙のようです。
唇をはみ出して描かれた真っ赤な口は、不気味に笑うピエロそのものでした。
「ロー。」
なまえが、恋人の名前を呼び、彼を見ました。
思わず、ローはビクッと肩を揺らしてしまいます。
「綺麗ですか?」
ホラーでした。
ピエロを描いたような顔は無表情で、綺麗ですかと聞かれるなんて、どこかの怖い話に出てきそうなほどに、ホラーでした。
「…イッカク、消してやれ。」
「アイアイ、キャプテン。」
イッカクがため息交じりに頷いて、なまえの腕を掴みました。
そしてそのまま、名残惜し気にする彼女を連れて自室へと連れて行きます。
それからしばらくして、船長室に戻ったローの元へ、イッカクがなまえを連れてやって来ました。
彼女のメイク落としを使って、ピエロのようだった顔は、いつも通りの綺麗ななまえに戻っていました。
ホッとしたローは、なまえの手を引いて、自分が座っていたソファの隣に腰を降ろさせます。
「あのさ、キャプテン。
なまえにどうしてピエロメイクしたのか聞いてみたんすよ。」
ローの前に立ったイッカクが、躊躇いがちに言いました。
「理由があるのか…!?」
驚愕でした。
ローは目を見開き、イッカクを見上げました。
あのピエロの顔に理由があったなんて。
「前の島で、キャプテンとまだその…うまくいってないとき、
なまえ、1人で買い物に行ったんすよ。
そのときに、ショップの店員に好きな男に振り向いてもらう方法を色々教えて貰ったらしい。」
「…それが、あの化けも…、さっきのアレか。」
なまえの隣で失言しかけたローは、なんとか誤魔化しました。
たぶん、ぼんやりとしているなまえは気づいていません。
「アレだけじゃねぇみたいだけど。」
「まだあるのか!?」
「今度からはアタシに相談しろって言っておきました。
もうあんなことにはならねぇから心配しないでください。」
「助かる。」
「じゃ、アタシはこれで。ちゃんとなまえの話、聞いてやってください。」
軽く頭を下げた後、イッカクは部屋を出て行きました。
2人きりになった船長室で、ローは、なまえを抱き上げると、向き合う格好で自分の膝の上に乗せました。
そして、なまえの頬に触れます。
透き通るような綺麗な白い肌です。滑らかで、傷ひとつありません。
「さっきのは俺の為だったのか。」
「ローが喜ぶはずでした。でも、消せと言われました。」
なまえが言います。
どこか恨めし気です。
彼女としては、こんなはずではなかったのでしょう。
でも、どうしてピエロメイクでローが喜ぶと思うのか。
ショップの店員の考えもよく分かりません。
「なまえは、そのままでいい。」
「…私は笑いません。口紅をつけたら、笑った口にできました。」
あぁ、そういうことか———。
ローは理解した後、困ったように眉尻を下げました。
「シャチ達がお前を笑わせようとしてるみてぇだが、そんなの無視しとけ。
お前は、そのままでいい。無理に笑う必要はねぇ。」
「でも、シェリーはよく笑っていました。」
「シェリー?」
どうして今ここで、前の島で会った女の名前が出てくるのか——。
女心が全く分からないローには、不思議なだけでした。
そんな彼に、なまえが続けます。
「シェリーは、メイクもしていました。とても綺麗で、美しい人でした。
私も、彼女みたいになりたいです。
そしたら、ローはもっと、私を好きになってくれるかもしれません。」
漸く、ローはなまえの気持ちを理解しました。
素直に答えてくれるなまえのおかげです。
そうでなければ、女心なんて一度も考えたことのないローは、恋人の気持ちを汲み取ってやることなんて、出来なかったでしょう。
一生懸命に自分を愛してもらおうとしている彼女のいじらしさに、ローは、思わず綻んでしまいます。
「バカだな。」
ローは、なまえを抱き寄せました。
なまえの腕は、自然にローの背中にまわります。
そして、甘えるように、胸に頬を埋めました。
「私はバカですか。」
「そうだな。」
「そうですか。」
「覚えとけ。俺はもう、これ以上はねぇくらいなまえが好きだ。
だからもう、俺の為に無理はしなくていい。」
「…分かりました。」
なまえは、ローの胸で小さく頷きました。
どれくらい、彼女に伝わったのでしょうか。
好きな人の為に、もっと好きになってもらう自分になりたいと思うのは、自然なことです。
彼女にも、そういう心があったのか。それとも、ショップの店員に言われた通りにしただけなのか。
それはもう、彼女にしか分かりません。
でも、彼女は、彼女のままでいいのです。
笑わなくても、すっぴんでも、そのままで美しく、ローは、そのままの彼女を愛しているのですから。
いつかの別れを思っては、夜も眠れなくなるくらいに胸が引き裂かれそうになるほどに————。