海底の中を航海していると、朝になっても太陽の光が窓から漏れてくることはありません。
一晩中起きて彼女の心配をしていたベポは、とうとう少し前に眠ってしまいましたが、今日も、ポーラータング号にも、朝はやってきました。
すると、まるでスイッチが入ったように、パチリと彼女の大きな瞳が開きました。
まずは、ここがどこなのかを確かめようとしているのでしょうか。
ベッドに横になったままで、彼女の大きな黒目が左右に忙しなく動きます。
そして、ベッド脇の椅子に座って眠りこけているベポを見つけたようでした。
ベポが寝息をたてる度に膨らんでは縮む鼻提灯を数秒観察した後、彼女はスクッと立ち上がりました。
肩までかかっていたシーツがベッドに落ちれば、綺麗な白い肌や形の良い胸、女性器が晒されます。
彼女がチラリと自分の身体を見たのは、おそらく、裸であることに気づいたからでしょう。
人間の女性がよくするように、裸を恥ずかしがるような様子は全くありません。
本当に、羞恥心を持たない正真正銘のロボットなのです。
ベッドの上で裸で立ったまま、彼女は首を左右に動かして、医務室を見渡しました。
自分の置かれている状況を把握するためです。
彼女はベッドから降りると、迷いなく歩き始めます。
そして、立ち止まったのは、医務室奥にある薬棚の前でした。
そこには、一般家庭でも使うような手軽な薬から注意が必要な劇薬まで、整然と綺麗に並んでいます。
その薬剤名のひとつひとつを目で追う度に、彼女の脳の部分に埋め込まれているデータチップが、答え合わせを始めました。
彼女の脳の部分には、超極小で大容量のデータチップが埋め込まれていて、世界中にある“愛”以外のほとんどすべての情報が入っているのです。
すべての薬剤名の確認が終わると、彼女はもう一度だけ医務室の中を見渡してから、廊下に出ました。
円形の船窓を見つけ、彼女は窓ガラスに手を添えて深い紺色の海をじっと見始めます。
海底を進むポーラータング号の周りでは、小さな魚が群れを作って泳いでいるところでした。
その魚の名前も彼女の脳が答え合わせをして、あっという間に導き出します。
AI機能もある彼女は、魚や海についてはたくさんの文献や資料でも学びました。
ですが、実際に動いているのを見るのは初めてです。
彼女は、魚の動きを思う存分観察しました。