◇No.44◇美しい人がいました
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なまえは、船長室の扉の前に立っていました。
イッカクの忠告を忘れたわけではありませんでしたが、誘いに行くという予定を変更しない選択をとったのです。
昨晩もそうしたように、なまえは、ノックもせずに扉を開きます。
足を踏み入れることはせずに、部屋の中を覗きこみましたが、ローの姿はありませんでした。
その代わりに、ベッドの縁に腰かけて座っている女性がいました。
真っ赤な口紅がよく似合うとても美しい人です。
ワインレッド色のサテンドレスを妖艶に着こなし、大きく開いた胸元からは、真っ白く柔らかい丸みが零れ落ちてしまいそうです。
見たこともない女性と目が合うと、なまえは一瞬だけ固まりました。
そして、開いたばかりの扉を見て、ここがローの部屋であることを再確認します。
やはり、ここはローの部屋で間違いありません。
ですが、部屋にいるのは、ローではなく、見知らぬ女性です。
なまえは、首を傾げました。
「どちら様かしら?」
訊ねたのは、女性の方でした。
ベッドから立ち上がり、扉へとゆっくりと歩み寄ります。
上品な立ち振る舞いは、なまえが今まで見て来た誰とも違っていました。
ただ歩く姿だけでも、見惚れてしまうほどに美しかったのです。
「ここはローの部屋です。ローがいません。」
「船長さんを探しに来たのね。
彼なら今、シャワーを浴びてるわ。」
彼女はそう言うと、部屋の右奥の方へと視線を向けました。
なまえの大きな瞳も、彼女の視線の先を追いかけます。
そこで漸く、シャワーから水が流れる音が聞こえることを、なまえも認識しました。
「船長さんに用事があったのかしら?
もしよければ、私が伝言を預かるわよ。」
美しい人は、そう言って、微笑みました。
シャワールームの扉をじっと見ていたなまえの視線が、彼女に戻ります。
そして、少し考えるように黙った後、口を開きました。
「ローとバーに行きます。」
「バー?」
「はい。天井に海があります。優しい場所です。
夜がすぐに終わります。」
「とても素敵なバーなのね。」
美しい人は、微笑んでもやっぱりとても美しい人でした。
そのとき、シャワールームの扉が開き、濡れた頭をタオルで雑に拭きながらローが出て来ました。
熱いお湯で火照った身体を冷やすためなのか、上半身だけは何も身につけずに晒したままです。
そして、部屋の入口で話をしているなまえと彼女に気づきました。
「何やってる。」
ローがなまえを睨みつけました。
最近は、そういう目で見られることが当然になっていました。
「夜になりました。一緒にバーに行きます。」
なまえが、ローを誘います。
まるでプログラムでもされているみたいに、いつも全く同じセリフです。
眉を顰めたローは、美しい人の隣に立ちなまえを見下ろしました。
「行かねぇ。」
ローは、敢えて、滑舌を明確にすることを意識するようにして、言いました。
いつもそう言えば、なまえは「そうですか。」とすんなりと引き下がります。
今回も又、そう言おうとしたのかもしれませんが、なまえが口を開きかけてすぐに、美しい人が喋り出したので、いつものセリフが出てくることはありませんでした。
「素敵なバーがあるんでしょう?行ってみたいわ。」
美しい人は、ローの胸元に手を添えて、ねだるように言いました。
シャワーを浴びたばかりの火照ったローの素肌に、彼女の長く綺麗な手が、躊躇いもなく触れています。
「私も行ってもいい?
それとも、そこはローとあなただけの特別な場所なのかしら。」
彼女がなまえに訊ねました。
柔らかい微笑みに、なまえは答えを伝えようとします。
ですが、返事をしたのはローでした。
「お前は俺と一緒だ。今夜は、この部屋から出る予定はねぇ。」
ローは、美しい人の腰を抱き寄せて、腕の中に閉じ込めました。
おねだりに失敗した彼女は、眉尻を下げて、とても残念そうに口を尖らせます。
それすらも美しい人に、なまえは目を離せませんでした。
初めて〝女性〟を見たような感覚だったのかもしれません。
そして、ロボットである自分が〝女性〟ではないことを、改めて実感して、美しいその姿に見惚れていたのです。
美しい彼女とは違い、拒絶をされたなまえは、いつものように引き下がるしかありませんでした。
閉まった扉の前で、なまえは少しの間、じっと立ち尽くしていました。
でも、待っていても、この扉が開くことがないことは、分かりきっていることです。
なまえは、すっと扉から視線を外すと、いつもとは反対の方へと向かって、歩き始めました。
イッカクの忠告を忘れたわけではありませんでしたが、誘いに行くという予定を変更しない選択をとったのです。
昨晩もそうしたように、なまえは、ノックもせずに扉を開きます。
足を踏み入れることはせずに、部屋の中を覗きこみましたが、ローの姿はありませんでした。
その代わりに、ベッドの縁に腰かけて座っている女性がいました。
真っ赤な口紅がよく似合うとても美しい人です。
ワインレッド色のサテンドレスを妖艶に着こなし、大きく開いた胸元からは、真っ白く柔らかい丸みが零れ落ちてしまいそうです。
見たこともない女性と目が合うと、なまえは一瞬だけ固まりました。
そして、開いたばかりの扉を見て、ここがローの部屋であることを再確認します。
やはり、ここはローの部屋で間違いありません。
ですが、部屋にいるのは、ローではなく、見知らぬ女性です。
なまえは、首を傾げました。
「どちら様かしら?」
訊ねたのは、女性の方でした。
ベッドから立ち上がり、扉へとゆっくりと歩み寄ります。
上品な立ち振る舞いは、なまえが今まで見て来た誰とも違っていました。
ただ歩く姿だけでも、見惚れてしまうほどに美しかったのです。
「ここはローの部屋です。ローがいません。」
「船長さんを探しに来たのね。
彼なら今、シャワーを浴びてるわ。」
彼女はそう言うと、部屋の右奥の方へと視線を向けました。
なまえの大きな瞳も、彼女の視線の先を追いかけます。
そこで漸く、シャワーから水が流れる音が聞こえることを、なまえも認識しました。
「船長さんに用事があったのかしら?
もしよければ、私が伝言を預かるわよ。」
美しい人は、そう言って、微笑みました。
シャワールームの扉をじっと見ていたなまえの視線が、彼女に戻ります。
そして、少し考えるように黙った後、口を開きました。
「ローとバーに行きます。」
「バー?」
「はい。天井に海があります。優しい場所です。
夜がすぐに終わります。」
「とても素敵なバーなのね。」
美しい人は、微笑んでもやっぱりとても美しい人でした。
そのとき、シャワールームの扉が開き、濡れた頭をタオルで雑に拭きながらローが出て来ました。
熱いお湯で火照った身体を冷やすためなのか、上半身だけは何も身につけずに晒したままです。
そして、部屋の入口で話をしているなまえと彼女に気づきました。
「何やってる。」
ローがなまえを睨みつけました。
最近は、そういう目で見られることが当然になっていました。
「夜になりました。一緒にバーに行きます。」
なまえが、ローを誘います。
まるでプログラムでもされているみたいに、いつも全く同じセリフです。
眉を顰めたローは、美しい人の隣に立ちなまえを見下ろしました。
「行かねぇ。」
ローは、敢えて、滑舌を明確にすることを意識するようにして、言いました。
いつもそう言えば、なまえは「そうですか。」とすんなりと引き下がります。
今回も又、そう言おうとしたのかもしれませんが、なまえが口を開きかけてすぐに、美しい人が喋り出したので、いつものセリフが出てくることはありませんでした。
「素敵なバーがあるんでしょう?行ってみたいわ。」
美しい人は、ローの胸元に手を添えて、ねだるように言いました。
シャワーを浴びたばかりの火照ったローの素肌に、彼女の長く綺麗な手が、躊躇いもなく触れています。
「私も行ってもいい?
それとも、そこはローとあなただけの特別な場所なのかしら。」
彼女がなまえに訊ねました。
柔らかい微笑みに、なまえは答えを伝えようとします。
ですが、返事をしたのはローでした。
「お前は俺と一緒だ。今夜は、この部屋から出る予定はねぇ。」
ローは、美しい人の腰を抱き寄せて、腕の中に閉じ込めました。
おねだりに失敗した彼女は、眉尻を下げて、とても残念そうに口を尖らせます。
それすらも美しい人に、なまえは目を離せませんでした。
初めて〝女性〟を見たような感覚だったのかもしれません。
そして、ロボットである自分が〝女性〟ではないことを、改めて実感して、美しいその姿に見惚れていたのです。
美しい彼女とは違い、拒絶をされたなまえは、いつものように引き下がるしかありませんでした。
閉まった扉の前で、なまえは少しの間、じっと立ち尽くしていました。
でも、待っていても、この扉が開くことがないことは、分かりきっていることです。
なまえは、すっと扉から視線を外すと、いつもとは反対の方へと向かって、歩き始めました。