タクシーの車窓から見える街路樹は、とっくに落ちてしまった葉を失くして、心細そうに木の枝を夜風に揺らしていた。
いつの間にか冬になっていた夜景には、どこか物悲しさを感じたが、後部座席に並んで座る名前がいれば、俺にはもう永遠に孤独なんて訪れないような、そんな確証のない自信が胸を満たした。

「知識と教養はどこで身に着けたんだ？」

名前がお偉い方とお喋りをしているところに、一度、ナナもやって来た。
だが、会話に入ろうとしても、しどろもどろになるばかりで、アッサリと敗北して逃げ帰っていた。
曲がりなりにも政治家の娘としてそれなりの知識くらいは身に着けていたはずだ。
それでも、名前の方がすべてにおいて遥か上にいた。
驚いたのは、俺だけじゃなかった。
いつの間にかやって来ていたエルド達も、名前のことを『何者だ？』と目を丸くしていた。

「魔法の力です。」

名前がニッと笑った。

「お前ならそう言うだろうな。」

俺は肩をすぼめて苦笑を漏らして、名前の髪をクシャリと撫でた。
2か月ほど一緒に暮らしてきて分かったことは、名前は料理と掃除が飛びぬけて上手なことと、常識と礼儀をしっかり知っているということだ。
それはつまり、娘を恋人でもない男のところに平気で行かせる親だが、名前がきちんとした家庭で育ってきたということに違いなかった。
そういうところが、今夜の知識と教養に結び付いたのだろう、と俺は納得していた。
ホテルから自宅マンションまで車では少し時間がかかった。
いつの間にか、名前は俺の肩に頭を乗せて眠っていた。
あどけない寝顔は、パーティー会場で、お偉い方を骨抜きにしていた博識の女とは程遠い。
バルコニーで俺だけに見せた女の姿とも違う。
いろんな顔を持つ名前のことをもっと知りたい、今夜は、俺にそんなことを思わせた夜だった。








これからもずっと、いろんな君を俺に見せて








リヴァイさんが私のことを恋人だと紹介してくれる度、幸せが心を満たしたの。
目立ってはいけないって言われていたのにね。
本当に幸せな夜だった。
だって、リヴァイさんの綺麗な瞳に映るのは、私だけだったんだもの。
これからもずっと、私だけを映してもらえたらいいのに。
時間をかけて、いろんなリヴァイさんを知りたい。
そんなことを、思ってしまったの。