◇35ページ◇嫉妬≦好き
Name change
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今度こそ、俺は、纏わりついてくるナナを振りほどいてバルコニーを飛び出した。
遠くに名前の背中を見つけて追いかけた。
名前を呼べば、名前は簡単に振り返った。
そして、不思議そうに首を傾げた。
「未来の婚約者さんはいいんですか?」
そう訊ねた名前は怒っているようでもなく、だからといって楽しそうなわけでもない。
ただ純粋に疑問に思っているようだった。
どうしてー。
理解が出来なかった。
俺は、名前の手首を掴んで近場のバルコニーに引っ張った。
そして、壁際まで追いつめてから、名前の顔の両側に手をついた格好で挟み込み、逃げ場を奪った。
月明かりとホテルの灯りが、驚く名前の顔を照らしていた。
「俺だけか。」
「え?」
「ヤキモチ妬くのも、他のヤツに触れさせたくねぇと思うのも、
俺だけかって聞いてんだ。」
悔しさとショックが、俺の声を震わせていた。
睨みつける俺の瞳には、悲しみも宿っていたはずだ。
そんな俺を見つめて、名前が困ったように眉尻を下げた。
それが、ヤキモチを妬いてなくて申し訳ないと言われたようで、寂しかった。
「だって、私には、ヤキモチ妬く権利がありませんから。」
「あるだろ。俺が他の女にキスされてんの見せられて
恋人なら怒ったり、泣いたりするもんじゃねぇのか。」
「恋人?誰の話してるんですか?」
「俺と名前の話だろおが。他の奴らなんて、どうだっていい。」
「リヴァイさんと私は、お試し恋人ですから。」
「いつの話してんだよ。」
話が通じなくて、イライラと一緒にため息が漏れた。
「今ですよ?」
「は?」
「へ?」
名前はキョトンという顔をしていた。
もしかしたら、俺も似たような顔をしていたのかもしれない。
「俺と名前は恋人だろ。」
「お試しのですよね?だから、リヴァイさんに本物の恋人が出来たなら
私は潔く身を引かないといけないと思ってます。」
名前は淀みなく真っすぐに俺を見て言った。
認識の違いがあったことに、俺は漸く気が付いた。
なんだ、そういうことかー。
ホッとしたのか、自分に呆れたのか、力が抜けて、名前の肩に額を乗せた。
「あの…?どうしたんですか?」
「俺は、名前の恋人になったつもりでいた。本物の。」
「え!?」
額を乗せている名前の肩が、上下にビクッと揺れた。
「驚くことじゃねぇだろ。」
「だって…!本物の恋人ってことは、両想いってことですよ?!」
「名前が俺に惚れてるなら、それであってる。」
「え、いつからですか…!?」
「知るかよ。でも、名前は分かってると思ってた。」
「分かりませんよ、そんなの…!
リヴァイさん、何も言わないのに分かるのなんて、無理です…!」
「ヤキモチ妬いたって言ったじゃねぇーか。それはそういうことだろ。」
「でも…、好きって、言われてません…。
だから、可愛がってる仔犬が他の人に懐くのが嫌とかそういうことだと思ってました…。」
そんなわけないだろうと言おうとして、思い留まった。
初めて会ったときから、恋愛対象じゃないという態度をずっととってきた自分が元凶だと、思い当たることがありすぎたせいだ。
確かに名前の言う通りだ。ちゃんと言わないと分からない。
分かってもらいたいなら、気持ちを伝えないといけない。
名前の気持ちを知りたくて、言葉と態度を求めるようになったことで、知らないうちに、俺はそういう基本的なことを漸く学んだようだった。
名前の肩に埋めていた顔を上げると、不安そうに俺を見る瞳と視線が絡んだ。
柔らかい頬に手を添えると、名前が少しだけ小さく揺れた。
「好きだ。世界で一番、名前が大好きだ。」
名前がいつも言っているセリフを、そっくりそのままお返しした。
俺の手が添えてある頬が、ゆっくりと染まっていく様は、今まで見たどんな夜景よりも美しかった。
「嬉しい…、魔法みたいです…。
悲しい気持ち、全部、消えちゃいました。」
名前は大きな瞳を涙で潤して、嬉しそうにハニ噛んだ。
それがひどく愛おしいと思ったときにはもう、ショックだった気持ちは姿を消していた。
名前に出逢ったその日から、魔法を感じているのは、いつだって俺の方だった。
「あ、それはダメです。私、あの人と関節キスはしたくない。」
名前が眉を顰めて、キスをしようとした俺の唇を片手で塞いだ。
それもそうか、とあの女への怒りと吐き気が蘇った。
「石鹸で洗ってくる。」
名前の手を引いて、バルコニーを出た。
「その後の消毒は私がしてあげますね。」
俺の隣で、名前がニコリと笑う。
可愛い無邪気なその笑顔の向こうに、女の顔が見えて、俺は気づかれないように喉を鳴らした。
平気な顔をしていたくせに、嫉妬というものはしてくれていたらしい。
心地よい嫉妬が存在するなんて、初めて知った。
離れているのに、君は俺の心を縛りつけて離さない
返して欲しいとも思わない、ずっとそのまま君にあげるよ
日記さん、また私に魔法が舞い降りたの。
リヴァイさんの素敵な声が作った『好き』という音は、まるで魔法の呪文のように、私の心を幸せで満たした。
私の心を支配しようとしてたドロドロとした嫉妬も、悲しいことも、ツラいことも、一瞬で消してくれたわ。
いつかのお別れさえも、あの瞬間だけ、私はすっかり忘れて、ただ純粋にリヴァイさんを大好きでいられた。
あの一瞬だけを切り取って繋ぎ合わせたら、永遠に出来ると思う?
無理よね。分かってる。
でも、ねぇ、今夜だけ。許して、神様。
すべてを忘れて、リヴァイさんの恋人として幸せを感じてしまう私を、どうか許して。
遠くに名前の背中を見つけて追いかけた。
名前を呼べば、名前は簡単に振り返った。
そして、不思議そうに首を傾げた。
「未来の婚約者さんはいいんですか?」
そう訊ねた名前は怒っているようでもなく、だからといって楽しそうなわけでもない。
ただ純粋に疑問に思っているようだった。
どうしてー。
理解が出来なかった。
俺は、名前の手首を掴んで近場のバルコニーに引っ張った。
そして、壁際まで追いつめてから、名前の顔の両側に手をついた格好で挟み込み、逃げ場を奪った。
月明かりとホテルの灯りが、驚く名前の顔を照らしていた。
「俺だけか。」
「え?」
「ヤキモチ妬くのも、他のヤツに触れさせたくねぇと思うのも、
俺だけかって聞いてんだ。」
悔しさとショックが、俺の声を震わせていた。
睨みつける俺の瞳には、悲しみも宿っていたはずだ。
そんな俺を見つめて、名前が困ったように眉尻を下げた。
それが、ヤキモチを妬いてなくて申し訳ないと言われたようで、寂しかった。
「だって、私には、ヤキモチ妬く権利がありませんから。」
「あるだろ。俺が他の女にキスされてんの見せられて
恋人なら怒ったり、泣いたりするもんじゃねぇのか。」
「恋人?誰の話してるんですか?」
「俺と名前の話だろおが。他の奴らなんて、どうだっていい。」
「リヴァイさんと私は、お試し恋人ですから。」
「いつの話してんだよ。」
話が通じなくて、イライラと一緒にため息が漏れた。
「今ですよ?」
「は?」
「へ?」
名前はキョトンという顔をしていた。
もしかしたら、俺も似たような顔をしていたのかもしれない。
「俺と名前は恋人だろ。」
「お試しのですよね?だから、リヴァイさんに本物の恋人が出来たなら
私は潔く身を引かないといけないと思ってます。」
名前は淀みなく真っすぐに俺を見て言った。
認識の違いがあったことに、俺は漸く気が付いた。
なんだ、そういうことかー。
ホッとしたのか、自分に呆れたのか、力が抜けて、名前の肩に額を乗せた。
「あの…?どうしたんですか?」
「俺は、名前の恋人になったつもりでいた。本物の。」
「え!?」
額を乗せている名前の肩が、上下にビクッと揺れた。
「驚くことじゃねぇだろ。」
「だって…!本物の恋人ってことは、両想いってことですよ?!」
「名前が俺に惚れてるなら、それであってる。」
「え、いつからですか…!?」
「知るかよ。でも、名前は分かってると思ってた。」
「分かりませんよ、そんなの…!
リヴァイさん、何も言わないのに分かるのなんて、無理です…!」
「ヤキモチ妬いたって言ったじゃねぇーか。それはそういうことだろ。」
「でも…、好きって、言われてません…。
だから、可愛がってる仔犬が他の人に懐くのが嫌とかそういうことだと思ってました…。」
そんなわけないだろうと言おうとして、思い留まった。
初めて会ったときから、恋愛対象じゃないという態度をずっととってきた自分が元凶だと、思い当たることがありすぎたせいだ。
確かに名前の言う通りだ。ちゃんと言わないと分からない。
分かってもらいたいなら、気持ちを伝えないといけない。
名前の気持ちを知りたくて、言葉と態度を求めるようになったことで、知らないうちに、俺はそういう基本的なことを漸く学んだようだった。
名前の肩に埋めていた顔を上げると、不安そうに俺を見る瞳と視線が絡んだ。
柔らかい頬に手を添えると、名前が少しだけ小さく揺れた。
「好きだ。世界で一番、名前が大好きだ。」
名前がいつも言っているセリフを、そっくりそのままお返しした。
俺の手が添えてある頬が、ゆっくりと染まっていく様は、今まで見たどんな夜景よりも美しかった。
「嬉しい…、魔法みたいです…。
悲しい気持ち、全部、消えちゃいました。」
名前は大きな瞳を涙で潤して、嬉しそうにハニ噛んだ。
それがひどく愛おしいと思ったときにはもう、ショックだった気持ちは姿を消していた。
名前に出逢ったその日から、魔法を感じているのは、いつだって俺の方だった。
「あ、それはダメです。私、あの人と関節キスはしたくない。」
名前が眉を顰めて、キスをしようとした俺の唇を片手で塞いだ。
それもそうか、とあの女への怒りと吐き気が蘇った。
「石鹸で洗ってくる。」
名前の手を引いて、バルコニーを出た。
「その後の消毒は私がしてあげますね。」
俺の隣で、名前がニコリと笑う。
可愛い無邪気なその笑顔の向こうに、女の顔が見えて、俺は気づかれないように喉を鳴らした。
平気な顔をしていたくせに、嫉妬というものはしてくれていたらしい。
心地よい嫉妬が存在するなんて、初めて知った。
離れているのに、君は俺の心を縛りつけて離さない
返して欲しいとも思わない、ずっとそのまま君にあげるよ
日記さん、また私に魔法が舞い降りたの。
リヴァイさんの素敵な声が作った『好き』という音は、まるで魔法の呪文のように、私の心を幸せで満たした。
私の心を支配しようとしてたドロドロとした嫉妬も、悲しいことも、ツラいことも、一瞬で消してくれたわ。
いつかのお別れさえも、あの瞬間だけ、私はすっかり忘れて、ただ純粋にリヴァイさんを大好きでいられた。
あの一瞬だけを切り取って繋ぎ合わせたら、永遠に出来ると思う?
無理よね。分かってる。
でも、ねぇ、今夜だけ。許して、神様。
すべてを忘れて、リヴァイさんの恋人として幸せを感じてしまう私を、どうか許して。