◇34ページ◇パーティーの花
Name change
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名前の唇の端には、また生クリームがついていた。
それを、グリシャの息子が親指で拭おうとしたが、そう何度も易々と触らせてやる気はない。
名前の顎を掴んだ俺は、自分の方を向かせた。そして、グリシャの息子を睨みつけながら、名前の唇の端についた生クリームを直接舐め上げた。
視線の端で、顔を真っ赤に染めた名前が見えた。
なぜか、近くでグリシャの息子に現を抜かしていたらしい若い女達や、ペトラまでも顔を赤く染めていた。
「リヴァイさん…っ、ビックリしました…っ。」
名前が真っ赤な顔で言った。
それはこっちのセリフだったが、とりあえず、その言葉は飲み込んだ。
まずは、身の程知らずの若い男に牽制が先だ。
「待たせて悪かった。
綺麗な色のドレスだな。よく似合ってる。」
名前の頬を撫でた。
やっとしっかりと瞳に映すことの出来た名前が身に纏う透き通るような綺麗な水色のドレスは、胸元に小さな花が幾つも散りばめられていた。
色の白い名前にとても似合っていた。
「ふふ、良かったです。子供っぽいと思われちゃうかなって不安だったんです。
でも、リヴァイさんにそう言ってもらえたら、頑張ってお洒落した甲斐があります。」
名前は嬉しそうに頬を緩めた。
俺のためだけに染まる頬も、俺のことでいっぱいの思考回路も、どれもが、本当に愛おしかった。
「俺のためにお洒落してくれたんだろ、綺麗に決まってる。
このパーティー会場で、お前が一番魅力的だ。」
俺のためにー、というのを強調して言って、名前の腰を抱き寄せた。
ペトラが小さく「キャラが変わっている。」とかなんとか呟いてる声が聞こえなくもなかったが、気にならなかった。
俺はなによりもまず、目の前にいるグリシャの息子を駆逐する必要があった。
「この人が“リヴァイさん”?なんか聞いてた話と違うな。
全然、相手にされてねぇんじゃなかったか?」
グリシャの息子は、上半身を屈めて、俺の顔を覗き込んだ。
それが、ひどく気に入らなかった。
無性に腹が立って、睨みつけてやったら、ギョッとした顔をして一歩さがった。
「怖…っ、ユミルの言ってた通りだな。
最恐に怖い小さいおっさー。」
言い切る前に名前が、グリシャの息子の頬を思いっきりつまんだ。
そして、痛そうに顔を歪めたグリシャの息子を睨みつけて、口を開いた。
「リヴァイさんはおっきいよ!人が大きいとか小さいとかは身長じゃないの!
心とか、その人が過去に何をしてきたかとか、ぜーんぶひっくるめてなの!
エレンなんか急に身長伸びちゃって、身体は大きくなったけど、人間としてはこんなんだからね!」
怒ったように言いながら、名前は人差し指と親指でアリ程の隙間を作って見せた。
珍しく怒っている名前に叱られてしまったグリシャの息子は「悪かった、悪かった」と平謝りだ。
知り合いというよりも、もっと親しそうな2人の距離感に、もしかして、また勘違いをしていたのだろうかと気づいた。
何より、名前がグリシャの息子に言った名前には聞き覚えがあった。
「エレン?」
「あ、紹介しますね。この小さい男は友人のエレン・イェーガーです。
お父さんに連れられてパーティーに来てたらしくって、
変な男の人達に絡まれてる私を見つけて、ここで隠してくれてたんです。」
名前に紹介されて、あの勘違いしてしまいそうなくらいの距離感はそういうことだったのかと納得した。
それにしても、距離が近すぎた気もするが、そのおかげで綺麗に着飾った名前を他の男の視線から完全に隠してくれていたのは確かだ。
あの距離はムカつくが、文句も言えなかった。
「ハンジ達と一緒なんじゃなかったのか?」
「それが、パーティー会場の外に展示してた20mくらいある
大きな人体模型にハンジさんが興奮しちゃって…。
破壊しかねない勢いで飛びついて離れないので、モブリットさん達が見張ってるんです。」
名前をしっかり見ておくようにと頼んでおいたのに、何の役にも立たないやつだ。
ハンジのことを心の中で何度もタコ殴りにしてやった。
「ガキの頃からいつもなんですよ、コイツ。
すぐ男に囲まれて面倒だからもうパーティーにはもう出ねぇって言ってたくせに、
また変なのにしつこく連絡先聞かれてるの見つけて、驚きました。」
今度からはリヴァイさんが守ってあげてくださいねー。
エレンはそう続けて、屈託のない笑みを見せた。
まぁ、悪いやつではなさそうだ。
「ガキの頃からパーティーなんて出てたのか?」
「あぁ、コイツの親がー。」
「両親が海外生活が長かったので、パーティーが好きなんです。
それで夜な夜なよく連れ出されてて、そこでエレンと知り合ったんです。ね?」
「そうなんですよ。」
エレンが愛想笑いで返した。
有名な院長の息子と何処で知り合うのかと不思議だったらしいペトラは、そういうことかと納得していた。
「リヴァイさん、俺のこと、覚えてます?」
「名前に電話に出てもらえなかったエレンだろ。」
「アハハ、そう、そのエレンです。あのときはすみませんでした。
夜に電話するなとは言われてたんすけど、まさかそれが、
リヴァイさんにスマホ持ってることバレないようになんて知らなくって。」
ジャンにめっちゃ怒られましたぁ、とエレンは頭を掻いて苦笑した。
過ぎたことを蒸し返された名前は、両手で顔を覆って項垂れていた。
この短時間で、だいぶ、このエレンという男の生態が分かった気がした。
コイツは、壊滅的に空気を読む能力がなかった。
それがあの夜の電話と謝罪になっていないLINEのメッセージに繋がったようだ。
「じゃ、リヴァイさんも来たし、俺、もう行きます。
そろそろ親父が俺を探し始めてると思うんで。」
エレンはそう言うと、名前の手首を掴んで自分の元に引き寄せた。
いきなり引っ張られてバランスを崩して前のめりに倒れた名前の耳元で、エレンが何か言ったが、小さな声で俺には聞こえなかった。
そして、名前の髪をクシャリと撫でると、俺とペトラに軽く会釈してから立ち去った。
長身なだけではなくて、普通とは違うオーラを持っているエレンという男は、歩くだけで視線を集めていた。
あぁいうのを特別な存在と言うのかもしれない、いつまでも小さくならない背中を見送りながらそう思った。
「エレンに何を言われたんだ?」
「恋人のことを惚気られました。」
名前が困ったように眉尻を下げて、瞳と口元でだけで笑った。
嘘を吐いているようには見えなかったし、エレンと名前は俺が心配するような関係にも見えなかった。
惚気以外にも何かあったのだとは思ったが、友人同士の話なのだろう、とそれ以上は訊ねなかった。
それから、空気を読んだペトラもオルオ達の元へ向かい、やっと2人きりになれた。
最初に口を開いたのは名前だった。
「リヴァイさん、またヤキモチ妬きました?」
「嬉しそうな顔するんじゃねぇ。」
軽く睨みつける俺に、名前は楽しそうに「嬉しいから」と笑った。
ドレスを身に纏って、化粧をして、綺麗に着飾った女達が、花を咲かせようどれだけ必死になろううとも、やっぱり、名前には誰も敵わない。
だって、名前は笑うだけで、この世界で一番美しい大輪の花を咲かせるのだから。
君が俺のために咲かせた花はまだ枯れてなんかいない
そう信じて、俺は愛という水を贈り続けてる
壁に背中を預けて、私はもう何個目かのケーキにフォークを雑にさした。
しつこい男は本当に好きじゃない。
でも、一番嫌いなのは、自分自身には全く魅力なんてないくせに、すごいやつだと勘違いしている男だ。
医者の息子だとか、政治家の息子だとか、それがとても素晴らしいステータスだと信じていて、そうやって言えば、女はすぐに自分に夢中になると見下している。
凄いのは親であって、自分ではないと気づいていないのだ。
とんでもない勘違いをしているそういう男が、私は大嫌いだ。
「そんなに食ったら太るぞ。」
壁と自分の身体で私を挟んで、大嫌いな種類の男達から守ってくれているエレンが、私を見下ろして言った。
友人のエレンも医者の息子だ。
しかも、凄いお医者様のご子息だ。
だけど、エレンは絶対に親の名前を利用しようとはしない。むしろ、そういうことをすることを毛嫌いして、自分の力で何でも手に入れて来た。
悔しいから絶対に言わないけれど、本当に凄い人だと尊敬している。
「だって、ムカつくんだもん。さっきのクルクル頭なんて、
俺と付き合わない君って頭おかしいの?ってマジで言ったんだよ?マジの顔で!」
「あー、はいはい。わかったから。好きなだけやけ食いしてください。
どうせお前、細ぇし、もう少し肉つけて、抱き心地良くした方が
大好きなリヴァイさんも喜んでくれるかもしれねぇしな。」
何気なくエレンが言ったそのセリフは、私の胸にグサリと刺さった。
ケーキをすくおうとしていたフォークは動きを止めて、私は目を伏せたままで、エレンに訊ねた。
「…私って、抱き心地悪そう?」
「さぁ、抱いてねぇからわからねぇけど。
まぁ、少しは肉があった方が柔らかくていいんじゃねぇの?」
「ミカサは細いけど、抱き心地いいの?」
「は?」
エレンが驚いたようだったので、私はそれ以上訊ねるのをやめた。
恋人の抱き心地なんて、相手が女だとしても言いたくないだろうし、誰かに言うことでもない。
私は長いため息を吐いて、ケーキを口に放りこんだ。
ヤケ食いのケーキなんて美味しくない。
でも、これで抱き心地がよくなるかもしれないなら、あと10個くらいは頑張って食べよう。
「何かあったのかよ。」
空気を読むのが下手くそなエレンが、珍しく気づいたらしかった。
それくらい私は分かりやすく落ち込んでいたのだろうか。
情けない。
「そういうことをしようとして服を脱がされたのに、
全部脱がされた後、また丁寧に着せてくれた…。」
「は、ちょっと待て。言ってる意味がわからねぇんだけど。」
「だから、ヤろうとしたのに、私の服を脱がせた後に気が変わって
全部綺麗に着せてくれたの。で、シなくていいって言われた。
前にお風呂も一緒に入ったけど、裸見られても何も反応してもらえなかったし。」
「・・・・・それはなんていうか、ドンマイ。」
エレンが私を不憫そうな目で見下ろす。
思った以上に傷ついた。
空気も読めなければ、気の利いたことが言えるはずのないエレンにこんなことを相談してしまった私が悪いのだ。
でも、エレンでもいいから誰かに言わないといけないくらいに、自分ひとりで抱えていたらツラかったのだ。
好きな人に、裸を見せてもその気にもなってもらえない私って、どれだけ魅力がない女なのだろう。
そんなことを話していると、リヴァイさんとペトラさんがやってきた。
空気を読まないエレンが余計なことを口走らないように気をつけた。
「じゃ、リヴァイさんも来たし、俺、もう行きます。
そろそろ親父が俺を探し始めてると思うんで。」
紹介もそこそこに、エレンはそう言うと、私の手首を掴んで自分の方へ引っ張った。
そして、バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ私の耳元で、私だけに聞こえる声で言った。
「ミカサは筋肉ばっかで柔らかくはねぇけど、抱き心地は最高。
惚れてる女の身体は、どんなナイスバディも敵わねぇから。お前も自信持て。」
エレンは私の髪をクシャリと撫でて、満足そうに立ち去った。
じゃあ、やっぱり、私はリヴァイさんの惚れてる女ではないということだ。
やっぱりエレンは、本当に空気が読めない。
それを、グリシャの息子が親指で拭おうとしたが、そう何度も易々と触らせてやる気はない。
名前の顎を掴んだ俺は、自分の方を向かせた。そして、グリシャの息子を睨みつけながら、名前の唇の端についた生クリームを直接舐め上げた。
視線の端で、顔を真っ赤に染めた名前が見えた。
なぜか、近くでグリシャの息子に現を抜かしていたらしい若い女達や、ペトラまでも顔を赤く染めていた。
「リヴァイさん…っ、ビックリしました…っ。」
名前が真っ赤な顔で言った。
それはこっちのセリフだったが、とりあえず、その言葉は飲み込んだ。
まずは、身の程知らずの若い男に牽制が先だ。
「待たせて悪かった。
綺麗な色のドレスだな。よく似合ってる。」
名前の頬を撫でた。
やっとしっかりと瞳に映すことの出来た名前が身に纏う透き通るような綺麗な水色のドレスは、胸元に小さな花が幾つも散りばめられていた。
色の白い名前にとても似合っていた。
「ふふ、良かったです。子供っぽいと思われちゃうかなって不安だったんです。
でも、リヴァイさんにそう言ってもらえたら、頑張ってお洒落した甲斐があります。」
名前は嬉しそうに頬を緩めた。
俺のためだけに染まる頬も、俺のことでいっぱいの思考回路も、どれもが、本当に愛おしかった。
「俺のためにお洒落してくれたんだろ、綺麗に決まってる。
このパーティー会場で、お前が一番魅力的だ。」
俺のためにー、というのを強調して言って、名前の腰を抱き寄せた。
ペトラが小さく「キャラが変わっている。」とかなんとか呟いてる声が聞こえなくもなかったが、気にならなかった。
俺はなによりもまず、目の前にいるグリシャの息子を駆逐する必要があった。
「この人が“リヴァイさん”?なんか聞いてた話と違うな。
全然、相手にされてねぇんじゃなかったか?」
グリシャの息子は、上半身を屈めて、俺の顔を覗き込んだ。
それが、ひどく気に入らなかった。
無性に腹が立って、睨みつけてやったら、ギョッとした顔をして一歩さがった。
「怖…っ、ユミルの言ってた通りだな。
最恐に怖い小さいおっさー。」
言い切る前に名前が、グリシャの息子の頬を思いっきりつまんだ。
そして、痛そうに顔を歪めたグリシャの息子を睨みつけて、口を開いた。
「リヴァイさんはおっきいよ!人が大きいとか小さいとかは身長じゃないの!
心とか、その人が過去に何をしてきたかとか、ぜーんぶひっくるめてなの!
エレンなんか急に身長伸びちゃって、身体は大きくなったけど、人間としてはこんなんだからね!」
怒ったように言いながら、名前は人差し指と親指でアリ程の隙間を作って見せた。
珍しく怒っている名前に叱られてしまったグリシャの息子は「悪かった、悪かった」と平謝りだ。
知り合いというよりも、もっと親しそうな2人の距離感に、もしかして、また勘違いをしていたのだろうかと気づいた。
何より、名前がグリシャの息子に言った名前には聞き覚えがあった。
「エレン?」
「あ、紹介しますね。この小さい男は友人のエレン・イェーガーです。
お父さんに連れられてパーティーに来てたらしくって、
変な男の人達に絡まれてる私を見つけて、ここで隠してくれてたんです。」
名前に紹介されて、あの勘違いしてしまいそうなくらいの距離感はそういうことだったのかと納得した。
それにしても、距離が近すぎた気もするが、そのおかげで綺麗に着飾った名前を他の男の視線から完全に隠してくれていたのは確かだ。
あの距離はムカつくが、文句も言えなかった。
「ハンジ達と一緒なんじゃなかったのか?」
「それが、パーティー会場の外に展示してた20mくらいある
大きな人体模型にハンジさんが興奮しちゃって…。
破壊しかねない勢いで飛びついて離れないので、モブリットさん達が見張ってるんです。」
名前をしっかり見ておくようにと頼んでおいたのに、何の役にも立たないやつだ。
ハンジのことを心の中で何度もタコ殴りにしてやった。
「ガキの頃からいつもなんですよ、コイツ。
すぐ男に囲まれて面倒だからもうパーティーにはもう出ねぇって言ってたくせに、
また変なのにしつこく連絡先聞かれてるの見つけて、驚きました。」
今度からはリヴァイさんが守ってあげてくださいねー。
エレンはそう続けて、屈託のない笑みを見せた。
まぁ、悪いやつではなさそうだ。
「ガキの頃からパーティーなんて出てたのか?」
「あぁ、コイツの親がー。」
「両親が海外生活が長かったので、パーティーが好きなんです。
それで夜な夜なよく連れ出されてて、そこでエレンと知り合ったんです。ね?」
「そうなんですよ。」
エレンが愛想笑いで返した。
有名な院長の息子と何処で知り合うのかと不思議だったらしいペトラは、そういうことかと納得していた。
「リヴァイさん、俺のこと、覚えてます?」
「名前に電話に出てもらえなかったエレンだろ。」
「アハハ、そう、そのエレンです。あのときはすみませんでした。
夜に電話するなとは言われてたんすけど、まさかそれが、
リヴァイさんにスマホ持ってることバレないようになんて知らなくって。」
ジャンにめっちゃ怒られましたぁ、とエレンは頭を掻いて苦笑した。
過ぎたことを蒸し返された名前は、両手で顔を覆って項垂れていた。
この短時間で、だいぶ、このエレンという男の生態が分かった気がした。
コイツは、壊滅的に空気を読む能力がなかった。
それがあの夜の電話と謝罪になっていないLINEのメッセージに繋がったようだ。
「じゃ、リヴァイさんも来たし、俺、もう行きます。
そろそろ親父が俺を探し始めてると思うんで。」
エレンはそう言うと、名前の手首を掴んで自分の元に引き寄せた。
いきなり引っ張られてバランスを崩して前のめりに倒れた名前の耳元で、エレンが何か言ったが、小さな声で俺には聞こえなかった。
そして、名前の髪をクシャリと撫でると、俺とペトラに軽く会釈してから立ち去った。
長身なだけではなくて、普通とは違うオーラを持っているエレンという男は、歩くだけで視線を集めていた。
あぁいうのを特別な存在と言うのかもしれない、いつまでも小さくならない背中を見送りながらそう思った。
「エレンに何を言われたんだ?」
「恋人のことを惚気られました。」
名前が困ったように眉尻を下げて、瞳と口元でだけで笑った。
嘘を吐いているようには見えなかったし、エレンと名前は俺が心配するような関係にも見えなかった。
惚気以外にも何かあったのだとは思ったが、友人同士の話なのだろう、とそれ以上は訊ねなかった。
それから、空気を読んだペトラもオルオ達の元へ向かい、やっと2人きりになれた。
最初に口を開いたのは名前だった。
「リヴァイさん、またヤキモチ妬きました?」
「嬉しそうな顔するんじゃねぇ。」
軽く睨みつける俺に、名前は楽しそうに「嬉しいから」と笑った。
ドレスを身に纏って、化粧をして、綺麗に着飾った女達が、花を咲かせようどれだけ必死になろううとも、やっぱり、名前には誰も敵わない。
だって、名前は笑うだけで、この世界で一番美しい大輪の花を咲かせるのだから。
君が俺のために咲かせた花はまだ枯れてなんかいない
そう信じて、俺は愛という水を贈り続けてる
壁に背中を預けて、私はもう何個目かのケーキにフォークを雑にさした。
しつこい男は本当に好きじゃない。
でも、一番嫌いなのは、自分自身には全く魅力なんてないくせに、すごいやつだと勘違いしている男だ。
医者の息子だとか、政治家の息子だとか、それがとても素晴らしいステータスだと信じていて、そうやって言えば、女はすぐに自分に夢中になると見下している。
凄いのは親であって、自分ではないと気づいていないのだ。
とんでもない勘違いをしているそういう男が、私は大嫌いだ。
「そんなに食ったら太るぞ。」
壁と自分の身体で私を挟んで、大嫌いな種類の男達から守ってくれているエレンが、私を見下ろして言った。
友人のエレンも医者の息子だ。
しかも、凄いお医者様のご子息だ。
だけど、エレンは絶対に親の名前を利用しようとはしない。むしろ、そういうことをすることを毛嫌いして、自分の力で何でも手に入れて来た。
悔しいから絶対に言わないけれど、本当に凄い人だと尊敬している。
「だって、ムカつくんだもん。さっきのクルクル頭なんて、
俺と付き合わない君って頭おかしいの?ってマジで言ったんだよ?マジの顔で!」
「あー、はいはい。わかったから。好きなだけやけ食いしてください。
どうせお前、細ぇし、もう少し肉つけて、抱き心地良くした方が
大好きなリヴァイさんも喜んでくれるかもしれねぇしな。」
何気なくエレンが言ったそのセリフは、私の胸にグサリと刺さった。
ケーキをすくおうとしていたフォークは動きを止めて、私は目を伏せたままで、エレンに訊ねた。
「…私って、抱き心地悪そう?」
「さぁ、抱いてねぇからわからねぇけど。
まぁ、少しは肉があった方が柔らかくていいんじゃねぇの?」
「ミカサは細いけど、抱き心地いいの?」
「は?」
エレンが驚いたようだったので、私はそれ以上訊ねるのをやめた。
恋人の抱き心地なんて、相手が女だとしても言いたくないだろうし、誰かに言うことでもない。
私は長いため息を吐いて、ケーキを口に放りこんだ。
ヤケ食いのケーキなんて美味しくない。
でも、これで抱き心地がよくなるかもしれないなら、あと10個くらいは頑張って食べよう。
「何かあったのかよ。」
空気を読むのが下手くそなエレンが、珍しく気づいたらしかった。
それくらい私は分かりやすく落ち込んでいたのだろうか。
情けない。
「そういうことをしようとして服を脱がされたのに、
全部脱がされた後、また丁寧に着せてくれた…。」
「は、ちょっと待て。言ってる意味がわからねぇんだけど。」
「だから、ヤろうとしたのに、私の服を脱がせた後に気が変わって
全部綺麗に着せてくれたの。で、シなくていいって言われた。
前にお風呂も一緒に入ったけど、裸見られても何も反応してもらえなかったし。」
「・・・・・それはなんていうか、ドンマイ。」
エレンが私を不憫そうな目で見下ろす。
思った以上に傷ついた。
空気も読めなければ、気の利いたことが言えるはずのないエレンにこんなことを相談してしまった私が悪いのだ。
でも、エレンでもいいから誰かに言わないといけないくらいに、自分ひとりで抱えていたらツラかったのだ。
好きな人に、裸を見せてもその気にもなってもらえない私って、どれだけ魅力がない女なのだろう。
そんなことを話していると、リヴァイさんとペトラさんがやってきた。
空気を読まないエレンが余計なことを口走らないように気をつけた。
「じゃ、リヴァイさんも来たし、俺、もう行きます。
そろそろ親父が俺を探し始めてると思うんで。」
紹介もそこそこに、エレンはそう言うと、私の手首を掴んで自分の方へ引っ張った。
そして、バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ私の耳元で、私だけに聞こえる声で言った。
「ミカサは筋肉ばっかで柔らかくはねぇけど、抱き心地は最高。
惚れてる女の身体は、どんなナイスバディも敵わねぇから。お前も自信持て。」
エレンは私の髪をクシャリと撫でて、満足そうに立ち去った。
じゃあ、やっぱり、私はリヴァイさんの惚れてる女ではないということだ。
やっぱりエレンは、本当に空気が読めない。