◇31ページ◇気づかぬは己だけ
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映画館デートを台無しにしてから数日が経ったその日、俺は友人のミケが経営するバーに来ていた。
ファーランと飲むときは、いつもここだとお決まりになっていた。
その夜も、テーブル席とカウンターの奥に数名の客がいるだけで、静かだった。
ゆっくりと時間が過ぎていくそこで、いつものカウンターの中央の席に座った俺は、ミケが気まぐれで作ったカクテルを飲みながら、ファーランを待っていた。
少し遅れてやって来たファーランは、俺の隣の席に腰を降ろすと、いつもの酒を頼んだ。
「それで、詳しい話を聞かせてくれるんだろ。」
ファーランは座るなり俺を見て、早速、本題に入った。
「俺から、初めての一目惚れの女を奪って逃げたんだから
それなりの理由じゃないと、納得しねぇから。」
「あぁ、分かってる。」
最初から臨戦態勢のファーランに、俺は名前との出逢いから、今の関係を洗い浚い話した。
名前は自分のことが好きなのだ、なんて言うのは、かなり照れ臭かったけれど、そこをあやふやにしてしまっては話が繋がらないから仕方がなかった。
それに、ファーランに、名前を諦めてもらうのにも、都合が良かった。
「は!?一緒に住んでんのか!?」
「…悪い。」
「いや、謝るなよ。だいぶ惨めになるだろ。
はぁ~…、なんだそういうことかよ~。完全に脈ナシは俺じゃねぇーか。」
背もたれの低い椅子に寄り掛かるように背中を後ろに預けたファーランは、不貞腐れたように口を尖らせた。
そこへ、酒を作って持ってきたミケがやってきて、ファーランを見て訝し気に眉を顰めた。
だが、妙に鼻の利くミケは、触らぬ神に祟りなしとでも思ったのか、カウンターにグラスだけをすっと置くと、奥へと引っ込んだ。
身体を起こしたファーランは、グラスを持つと手首を適当に揺らした。
「それで、今日は俺と飲んでくるって名前に言ってきてんのか。」
「ゆっくり飲んできてくれだと。」
「あぁ、そうかよ。ったく。まぁ、あれからずっと女を近づけようともしなかったお前が、
家にまで住まわせてやってるなんて、相当本気なんだな。
あ~あ、諦めるしかねぇか~…。」
ファーランは、グラスを傾けても揺れもしない幾つもの大きな氷をつまらなそうに眺めた。
「そんなんじゃねぇーよ。勝手に懐かれただけだ。
まぁ、今は、それなりに可愛がってるが。手のかかる妹みてぇなもんだ。」
俺は、残りも少なくなったグラスを口に運んだ。
グラスの中で、小さくなった氷がカラカラと音を鳴らしていた。
「は?何言ってんだ、リヴァイ。
名前を追いかけて来たときのお前の顔・・・・。」
変なものでも見るような目で俺の顔を見たファーランは、途中で言葉を切った。
空になったグラスをカウンターに置いて、俺は訊ねた。
「俺の顔がどうかしたのかよ。」
「・・・いや、なんでもねぇよ。」
少しの沈黙の後、ファーランは俺から目を反らすと、可笑しそうに口元を歪めながら首を横に振った。
それが、すごく馬鹿にされている気がして、妙に腹が立った。
「なんだ、最後までちゃんと言いやがれ。」
「ヤだね。すげぇムカつくから教えてやらねぇ。」
ファーランは意地悪く言った。
そして、意味が分からないという顔をした俺を見て、可笑しそうに吹き出した。
「ファーランが腹を抱えて笑ってるのは久しぶりに見たな。
何かいいことでもあったのか。」
奥に引っ込んでいたミケがいつの間にかやって来て、俺達の話に加わった。
「最高にいい女をリヴァイに奪われちまったんだよ。」
「ほう、それは興味深いな。詳しく聞かせてくれ。」
「ふざけんな、聞かなくていい。」
興味を持ってしまったミケが身体を前のめりにした。
俺をからかうファーランの笑顔は、なぜかとても嬉しそうだった。
俺の腕の中だけに君を閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくない
あぁ、そうさ、君に夢中な男のくだらない嫉妬心だ
日記さん、リヴァイさんの気持ちを、私は言葉にできてしまうかもしれない。
それとも、私のただの都合のいい妄想に過ぎない?
でもね、聞いてよ。
私の名前を叫んだリヴァイさんの声は、切羽詰まっていて、男らしかったの。
私を追いかけて走ったリヴァイさんの瞳には、あのとき、私しか映ってなかった。
リヴァイさんの顔は、まるで。まるで、心から愛する人を他の誰にも奪われたくないと叫んでいるみたいだった。
嫉妬にまみれた男の人に見えたのは、本当に私だけだった?
ねぇ、もしかして、リヴァイさんも私のことを想ってくれてる?
でも、私はそれを、言葉には出来なかった。
だって、もしそうだったらどうするの?どうなるの?
魔法はいつか、解けてしまうのに…
ファーランと飲むときは、いつもここだとお決まりになっていた。
その夜も、テーブル席とカウンターの奥に数名の客がいるだけで、静かだった。
ゆっくりと時間が過ぎていくそこで、いつものカウンターの中央の席に座った俺は、ミケが気まぐれで作ったカクテルを飲みながら、ファーランを待っていた。
少し遅れてやって来たファーランは、俺の隣の席に腰を降ろすと、いつもの酒を頼んだ。
「それで、詳しい話を聞かせてくれるんだろ。」
ファーランは座るなり俺を見て、早速、本題に入った。
「俺から、初めての一目惚れの女を奪って逃げたんだから
それなりの理由じゃないと、納得しねぇから。」
「あぁ、分かってる。」
最初から臨戦態勢のファーランに、俺は名前との出逢いから、今の関係を洗い浚い話した。
名前は自分のことが好きなのだ、なんて言うのは、かなり照れ臭かったけれど、そこをあやふやにしてしまっては話が繋がらないから仕方がなかった。
それに、ファーランに、名前を諦めてもらうのにも、都合が良かった。
「は!?一緒に住んでんのか!?」
「…悪い。」
「いや、謝るなよ。だいぶ惨めになるだろ。
はぁ~…、なんだそういうことかよ~。完全に脈ナシは俺じゃねぇーか。」
背もたれの低い椅子に寄り掛かるように背中を後ろに預けたファーランは、不貞腐れたように口を尖らせた。
そこへ、酒を作って持ってきたミケがやってきて、ファーランを見て訝し気に眉を顰めた。
だが、妙に鼻の利くミケは、触らぬ神に祟りなしとでも思ったのか、カウンターにグラスだけをすっと置くと、奥へと引っ込んだ。
身体を起こしたファーランは、グラスを持つと手首を適当に揺らした。
「それで、今日は俺と飲んでくるって名前に言ってきてんのか。」
「ゆっくり飲んできてくれだと。」
「あぁ、そうかよ。ったく。まぁ、あれからずっと女を近づけようともしなかったお前が、
家にまで住まわせてやってるなんて、相当本気なんだな。
あ~あ、諦めるしかねぇか~…。」
ファーランは、グラスを傾けても揺れもしない幾つもの大きな氷をつまらなそうに眺めた。
「そんなんじゃねぇーよ。勝手に懐かれただけだ。
まぁ、今は、それなりに可愛がってるが。手のかかる妹みてぇなもんだ。」
俺は、残りも少なくなったグラスを口に運んだ。
グラスの中で、小さくなった氷がカラカラと音を鳴らしていた。
「は?何言ってんだ、リヴァイ。
名前を追いかけて来たときのお前の顔・・・・。」
変なものでも見るような目で俺の顔を見たファーランは、途中で言葉を切った。
空になったグラスをカウンターに置いて、俺は訊ねた。
「俺の顔がどうかしたのかよ。」
「・・・いや、なんでもねぇよ。」
少しの沈黙の後、ファーランは俺から目を反らすと、可笑しそうに口元を歪めながら首を横に振った。
それが、すごく馬鹿にされている気がして、妙に腹が立った。
「なんだ、最後までちゃんと言いやがれ。」
「ヤだね。すげぇムカつくから教えてやらねぇ。」
ファーランは意地悪く言った。
そして、意味が分からないという顔をした俺を見て、可笑しそうに吹き出した。
「ファーランが腹を抱えて笑ってるのは久しぶりに見たな。
何かいいことでもあったのか。」
奥に引っ込んでいたミケがいつの間にかやって来て、俺達の話に加わった。
「最高にいい女をリヴァイに奪われちまったんだよ。」
「ほう、それは興味深いな。詳しく聞かせてくれ。」
「ふざけんな、聞かなくていい。」
興味を持ってしまったミケが身体を前のめりにした。
俺をからかうファーランの笑顔は、なぜかとても嬉しそうだった。
俺の腕の中だけに君を閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくない
あぁ、そうさ、君に夢中な男のくだらない嫉妬心だ
日記さん、リヴァイさんの気持ちを、私は言葉にできてしまうかもしれない。
それとも、私のただの都合のいい妄想に過ぎない?
でもね、聞いてよ。
私の名前を叫んだリヴァイさんの声は、切羽詰まっていて、男らしかったの。
私を追いかけて走ったリヴァイさんの瞳には、あのとき、私しか映ってなかった。
リヴァイさんの顔は、まるで。まるで、心から愛する人を他の誰にも奪われたくないと叫んでいるみたいだった。
嫉妬にまみれた男の人に見えたのは、本当に私だけだった?
ねぇ、もしかして、リヴァイさんも私のことを想ってくれてる?
でも、私はそれを、言葉には出来なかった。
だって、もしそうだったらどうするの?どうなるの?
魔法はいつか、解けてしまうのに…