◇31ページ◇気づかぬは己だけ
Name change
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人混みの街の中を、名前の手を引いて歩いていた。
ファーランが追いかけてくることはなかった。
ここ数日ずっと、言葉を交わすどころか目も合わせて貰えなかった俺は、この期に及んで、何を言えばいいか分からなかった。
いや、本当は分かっていた。
名前の気持ちを蔑ろにして、ファーランにも失礼なことをして、傷つけた。
悪いのは、俺だ。
でもそもそも、素直じゃない性格をどうにか出来れば、こんなことにはならなかったのだ。
「映画は面白かったか。」
「…よくわかんなかったです。」
「そうか。」
勇気を振り絞って話しかけてみても、続かずに終わってしまった。
名前が怒っていることも、その理由も分かっていた。
だから、なかったことにして許してもらおうなんて虫のいい話はないことも分かっていた。
それでも、最低な俺を、名前はいつでも許していた。一途に想ってくれた。
「リヴァイさんのことが気になって…、内容が入ってこなかったから…。」
小さな消え入るような声だったけれど、俺の手を握る名前の力が強くなった。
そのとき俺は、確かに、弱々しい力の強さを、愛おしいと思ったのだ。
その意味も理解しようとしないまま、俺は名前の手を強く握り返した。
「今度、リベンジしよう。」
「え?」
「次は、今度こそ俺が映画に連れてってやる。
だから、そのときは、俺のために着飾れよ。」
悪戯っぽく言うと、名前が俺の手を少し強めに引いて立ち止まった。
どうかしたのだろうかと思って振り返ると、名前が頬を染めて俺を見て口を開いた。
「今日も…、リヴァイさんに綺麗だって思って欲しくて、お洒落したんです…っ。
リヴァイさんは、こういうのは、好きですか…?」
頬を真っ赤に染めて、名前は俺をまっすぐに見つめていた。
ワンピースを握りしめる両手が、恥ずかしさで震えていた。
そんな名前の横を何人もの男達が通り過ぎていく度に、向けられる視線が、俺の代わりに「綺麗だ。」「可愛い。」と言っていた。
でも、名前には聞こえていない。見えていない。
だって、名前は俺の声しか聞こうとしないし、見ていないから。
いつだって、名前が欲しいのは、俺だった。
「今朝、見たときから、よく似合ってると思ってた。
-すごく綺麗だ。」
俺は、似合わないことを言った。
でも、真っすぐに俺を見る名前の気持ちを、もう蔑ろにはしたくなかった。
名前の瞳がゆっくりと見開かれて、顔はみるみる真っ赤になった。
まるで甘い林檎みたいだった。
「よかったっ。」
少し目を伏せた名前は、ひどく嬉しそうに頬を緩めてハニかんだ。
名前は、今まで相手をしてきた女の誰とも違っていた。
計算はしないし、先回りして俺の心を掴もうとして見え透いた罠をはろうともしない。
面倒な駆け引きもしない。
でも、無邪気にただ純粋に俺を真っすぐに想う愛は、どんな罠よりも深く俺を嵌めようとしていた。
ただ、一生懸命に俺を想ってくれる名前のことを愛おしいと思った感情の出所を、俺が理解出来ていなかっただけだった。
今まで見て来た女のどれとも違うからこそ、俺は、名前は恋愛対象ではないと思い込んでいたのだ。
「でも、名前はいつもの普段着で充分可愛い。」
名前の髪をクシャリと撫でた。
少し驚いた後、嬉しそうに小さく笑みをこぼした名前のことを、俺は可愛いと思った。
妹が可愛いというのはこういう感覚かと、そう解釈した。
「ほら、帰るぞ。今日はDVDでも借りて、家で映画鑑賞だ。」
名前の手を引いて、俺は駅に向かって歩き出す。
さっきは斜め後ろでついてくるだけだった名前が、俺の隣に嬉しそうに並んだ。
「せっかくお洒落してきたんですから、デートしましょうよ。」
「ダメだ、お前がそんな恰好で街に出るから、
さっきから、男にチラチラ見られてんのが気に入らねぇんだ。
悪い虫がついちまう前に帰る。」
俺は、名前の手を強く引いて、歩調を速めた。
少しだけ駆けて、名前が俺の隣に並ぶ。
「なんだか、それって・・・。」
言いかけて、名前が止めた。
「なんだ?」
「…いえ、何でもないです。」
「そうか?」
「それより、私、大好きなアニメがあるんです!
リヴァイさんにソックリのカッコいい兵士が出てくるんです!
DVDはそれも借りたいです!リヴァイさんと一緒に兵長を見られるなんて、最高です!」
「お前、本当に俺が好きだな。」
呆れた様に言った俺に、名前は満面の笑みで答えた。
「はい!大好きです!」
「馬鹿だな。」
心底そう思って、でも、それが面白くて、嬉しくて、俺は思わずハハッと笑ってしまった。
俺が笑ったー、と名前が驚いて喜んでいたけれど、誰よりも驚いたのは、本当は俺だった。
でも、本当に、名前といると、自然と笑みがこぼれるのだ。
そういえば、母親も同じことを言っていた。
ケニーもよく笑っていた。
血は争えないということかもしれない。
それとも、名前には、そばにいる誰もを笑顔にする魔法を持っていたのだろうか。
ファーランが追いかけてくることはなかった。
ここ数日ずっと、言葉を交わすどころか目も合わせて貰えなかった俺は、この期に及んで、何を言えばいいか分からなかった。
いや、本当は分かっていた。
名前の気持ちを蔑ろにして、ファーランにも失礼なことをして、傷つけた。
悪いのは、俺だ。
でもそもそも、素直じゃない性格をどうにか出来れば、こんなことにはならなかったのだ。
「映画は面白かったか。」
「…よくわかんなかったです。」
「そうか。」
勇気を振り絞って話しかけてみても、続かずに終わってしまった。
名前が怒っていることも、その理由も分かっていた。
だから、なかったことにして許してもらおうなんて虫のいい話はないことも分かっていた。
それでも、最低な俺を、名前はいつでも許していた。一途に想ってくれた。
「リヴァイさんのことが気になって…、内容が入ってこなかったから…。」
小さな消え入るような声だったけれど、俺の手を握る名前の力が強くなった。
そのとき俺は、確かに、弱々しい力の強さを、愛おしいと思ったのだ。
その意味も理解しようとしないまま、俺は名前の手を強く握り返した。
「今度、リベンジしよう。」
「え?」
「次は、今度こそ俺が映画に連れてってやる。
だから、そのときは、俺のために着飾れよ。」
悪戯っぽく言うと、名前が俺の手を少し強めに引いて立ち止まった。
どうかしたのだろうかと思って振り返ると、名前が頬を染めて俺を見て口を開いた。
「今日も…、リヴァイさんに綺麗だって思って欲しくて、お洒落したんです…っ。
リヴァイさんは、こういうのは、好きですか…?」
頬を真っ赤に染めて、名前は俺をまっすぐに見つめていた。
ワンピースを握りしめる両手が、恥ずかしさで震えていた。
そんな名前の横を何人もの男達が通り過ぎていく度に、向けられる視線が、俺の代わりに「綺麗だ。」「可愛い。」と言っていた。
でも、名前には聞こえていない。見えていない。
だって、名前は俺の声しか聞こうとしないし、見ていないから。
いつだって、名前が欲しいのは、俺だった。
「今朝、見たときから、よく似合ってると思ってた。
-すごく綺麗だ。」
俺は、似合わないことを言った。
でも、真っすぐに俺を見る名前の気持ちを、もう蔑ろにはしたくなかった。
名前の瞳がゆっくりと見開かれて、顔はみるみる真っ赤になった。
まるで甘い林檎みたいだった。
「よかったっ。」
少し目を伏せた名前は、ひどく嬉しそうに頬を緩めてハニかんだ。
名前は、今まで相手をしてきた女の誰とも違っていた。
計算はしないし、先回りして俺の心を掴もうとして見え透いた罠をはろうともしない。
面倒な駆け引きもしない。
でも、無邪気にただ純粋に俺を真っすぐに想う愛は、どんな罠よりも深く俺を嵌めようとしていた。
ただ、一生懸命に俺を想ってくれる名前のことを愛おしいと思った感情の出所を、俺が理解出来ていなかっただけだった。
今まで見て来た女のどれとも違うからこそ、俺は、名前は恋愛対象ではないと思い込んでいたのだ。
「でも、名前はいつもの普段着で充分可愛い。」
名前の髪をクシャリと撫でた。
少し驚いた後、嬉しそうに小さく笑みをこぼした名前のことを、俺は可愛いと思った。
妹が可愛いというのはこういう感覚かと、そう解釈した。
「ほら、帰るぞ。今日はDVDでも借りて、家で映画鑑賞だ。」
名前の手を引いて、俺は駅に向かって歩き出す。
さっきは斜め後ろでついてくるだけだった名前が、俺の隣に嬉しそうに並んだ。
「せっかくお洒落してきたんですから、デートしましょうよ。」
「ダメだ、お前がそんな恰好で街に出るから、
さっきから、男にチラチラ見られてんのが気に入らねぇんだ。
悪い虫がついちまう前に帰る。」
俺は、名前の手を強く引いて、歩調を速めた。
少しだけ駆けて、名前が俺の隣に並ぶ。
「なんだか、それって・・・。」
言いかけて、名前が止めた。
「なんだ?」
「…いえ、何でもないです。」
「そうか?」
「それより、私、大好きなアニメがあるんです!
リヴァイさんにソックリのカッコいい兵士が出てくるんです!
DVDはそれも借りたいです!リヴァイさんと一緒に兵長を見られるなんて、最高です!」
「お前、本当に俺が好きだな。」
呆れた様に言った俺に、名前は満面の笑みで答えた。
「はい!大好きです!」
「馬鹿だな。」
心底そう思って、でも、それが面白くて、嬉しくて、俺は思わずハハッと笑ってしまった。
俺が笑ったー、と名前が驚いて喜んでいたけれど、誰よりも驚いたのは、本当は俺だった。
でも、本当に、名前といると、自然と笑みがこぼれるのだ。
そういえば、母親も同じことを言っていた。
ケニーもよく笑っていた。
血は争えないということかもしれない。
それとも、名前には、そばにいる誰もを笑顔にする魔法を持っていたのだろうか。