◇28ページ◇親友
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ファーランの隣に並んで院内を歩いていた俺だったが、なかなか目的の場所まで辿り着かなかった。
数メートル毎に、ファーランが話しかけられるせいだ。
ファーランに助けられて感謝している患者やその家族が多かったが、看護師の若い女にもよく声をかけられていた。彼女達の目は、獲物を狙う狐にそっくりで、あまりにあからさま過ぎた。
ファーランに気があることが、俺でも分かってしまったくらいだ。
人付き合いが上手いファーランは、昔からモテていたし、女の扱いもうまい。
友人かと訊ねられた俺まで、ついでに狙われそうになったが、ファーランがうまくかわしていた。
「それで、誰を会わせたいんだよ。」
「女。」
「もう新しい女が出来たのかよ。」
「軽い男みたいに言うなよ。
言っとくけど、もう1年もフリーだし、今も更新中だから。」
「なら、女ってなんだ。」
言いながら、ハッとした。
まさか、3年も女がいない俺に、また女を紹介しようとしているのかと思って、余計なことをするなと言ってやれば、そうではないと可笑しそうに笑われた。
「今、すげぇ気になる娘がいるんだよ。
その娘が、職員専用のカフェの厨房で働いてるから、
お前にも見せてやろうと思って。」
「別に見なくていい。」
「いいから、いいから!な!」
心底くだらないと思って、帰ろうとした俺の腕をファーランが掴まえた。
何が、いいから、なのかさっぱり意味が分からない。
だが、ファーランはどうしても、その気になる女というのを俺に見せたいらしい。
言い出したら頑固なところがあるのは、長い付き合いで知っている俺は、諦めてため息を吐いた。
「どんな女なんだよ。」
「お、興味湧いた?」
「全く。」
「すげぇ可愛いから。でも、綺麗で凛としてて、
その娘がいる場所だけ神聖な場所に見えるんだよ。」
「へぇ~。」
親友の片想い事情ほど、興味のないものはなかった。
だが、会うまでは帰してもらえないようだったから、俺は適当に質問を繰り返した。
「歳は?」
「俺よりはだいぶ下だとは思うけど、20代前半くらいかな。」
「歳離れすぎじゃねぇのか。」
名前と同じくらいかと思いながら、俺は眉を顰めた。
だが、ファーランはハハッと軽く笑って「愛に歳の差は関係ない」と断言した。
「名前は?」
「きっと、すげぇ素敵な名前なんだろうなぁ。」
「は?名前も知らねぇのか?」
「俺の一目惚れなんだ。この前まで1週間くらいいなかったから
辞めちまったのかと思って焦ってたら、先週からまた復帰しててさ。
本当によかったよ。あの娘に会えないと元気でなくてさ~。」
「…なんだそれ、一方的に見てるだけなのか。気持ち悪ぃ。」
「うるせぇな!喋ったことはある!
あっちから話しかけてきたんだからな!」
「へぇ、なら、向こうもお前に気があるんじゃねぇのか。」
「いや…あれは…。」
せっかく調子に乗らせようとしたのに、ファーランは落ち込んだ様子で口をすぼめた。
そして、ボソボソとその気になる娘との出逢いを話しだした。
「ツラいことがあるとさ…、俺、いつも、カフェの裏でボーッてしてんだ。
あそこ、カフェの店員とかが休憩できるように椅子とテーブル置いてるし、
営業時間は店員も忙しいから来なくて、意外と静かでさ。」
「そうか。」
少し伏せた目には、悲しみと後悔が宿っているように見えた。
医学部も優秀な成績で卒業して、今ではエルディア病院でも名医として有名だ。
なんでもそつなくこなしてきたファーランなら、助けを求めてやって来た患者はすべて救っていると、漠然と思っていた。
そんなこと、あるわけがないのにー。
「そのときも、カフェが忙しい時間にボーッとしてたらさ。
その娘が、ホットミルク持って来てくれたんだ。」
「へぇ。」
「寒いですね~って言いながら、俺にホットミルク渡した後、
倒れてしまわないようにゆっくり休んでくださいねって、
優しく笑ってくれたんだ。」
「あぁ…、そうか。」
「医者が暗い顔してたら何があったか分かると思うんだよ。
あの娘も、だからホットミルク持って来てくれたんだろうし。」
「まぁ、そうかもな。」
「でも、ただ純粋に、俺の身体の心配してくれたのが嬉しかったんだ。
サボるなって上司に怒られて戻って行くとき、あの娘が言ってくれた
頑張ってくださいが、妙にジーンと胸に来てさ。」
「それで、一目惚れか。」
「顔も可愛いんだよ、本当に。綺麗なんだ。
でも、心が綺麗って、あぁいうことを言うんだなぁって。
彼女の周りだけ、空気が澄んで見えるのは、本当なんだ。」
少しだけ頬を染めたファーランは、照れ臭そうに言って、鼻の頭を掻いた。
本気で惚れているようだ。
女の扱いに慣れていて、これだと決めた女にはすぐに声をかけることが出来るファーランが、まだ名前すら知らないのだから、それだけで本気なのが見てとれた。
「それで、その心底惚れてる女をどうしても俺に見せたいのはなんでだ。
お前なら手に入れるまで隠しておきてぇと思いそうなもんだが。」
「俺だって本当はそうしたかった。」
「なら、なんでだよ。」
「勇気が出ないんだよ。」
「は?」
ファーランは、俺の両肩をガシッと掴んで、真剣な顔で言った。
「頼む、リヴァイ!俺と一緒にあの娘に声をかけて、
連絡先を聞き出すチャンスを作って欲しい!」
それは、看護師にも患者にもモテモテで、昔から女に不自由したことのない親友が、おそらく、人生史上初めてしたお願いだったはずだ。
女で失敗した俺にお願いするしかないくらいに、切羽詰まっていたようだ。
数メートル毎に、ファーランが話しかけられるせいだ。
ファーランに助けられて感謝している患者やその家族が多かったが、看護師の若い女にもよく声をかけられていた。彼女達の目は、獲物を狙う狐にそっくりで、あまりにあからさま過ぎた。
ファーランに気があることが、俺でも分かってしまったくらいだ。
人付き合いが上手いファーランは、昔からモテていたし、女の扱いもうまい。
友人かと訊ねられた俺まで、ついでに狙われそうになったが、ファーランがうまくかわしていた。
「それで、誰を会わせたいんだよ。」
「女。」
「もう新しい女が出来たのかよ。」
「軽い男みたいに言うなよ。
言っとくけど、もう1年もフリーだし、今も更新中だから。」
「なら、女ってなんだ。」
言いながら、ハッとした。
まさか、3年も女がいない俺に、また女を紹介しようとしているのかと思って、余計なことをするなと言ってやれば、そうではないと可笑しそうに笑われた。
「今、すげぇ気になる娘がいるんだよ。
その娘が、職員専用のカフェの厨房で働いてるから、
お前にも見せてやろうと思って。」
「別に見なくていい。」
「いいから、いいから!な!」
心底くだらないと思って、帰ろうとした俺の腕をファーランが掴まえた。
何が、いいから、なのかさっぱり意味が分からない。
だが、ファーランはどうしても、その気になる女というのを俺に見せたいらしい。
言い出したら頑固なところがあるのは、長い付き合いで知っている俺は、諦めてため息を吐いた。
「どんな女なんだよ。」
「お、興味湧いた?」
「全く。」
「すげぇ可愛いから。でも、綺麗で凛としてて、
その娘がいる場所だけ神聖な場所に見えるんだよ。」
「へぇ~。」
親友の片想い事情ほど、興味のないものはなかった。
だが、会うまでは帰してもらえないようだったから、俺は適当に質問を繰り返した。
「歳は?」
「俺よりはだいぶ下だとは思うけど、20代前半くらいかな。」
「歳離れすぎじゃねぇのか。」
名前と同じくらいかと思いながら、俺は眉を顰めた。
だが、ファーランはハハッと軽く笑って「愛に歳の差は関係ない」と断言した。
「名前は?」
「きっと、すげぇ素敵な名前なんだろうなぁ。」
「は?名前も知らねぇのか?」
「俺の一目惚れなんだ。この前まで1週間くらいいなかったから
辞めちまったのかと思って焦ってたら、先週からまた復帰しててさ。
本当によかったよ。あの娘に会えないと元気でなくてさ~。」
「…なんだそれ、一方的に見てるだけなのか。気持ち悪ぃ。」
「うるせぇな!喋ったことはある!
あっちから話しかけてきたんだからな!」
「へぇ、なら、向こうもお前に気があるんじゃねぇのか。」
「いや…あれは…。」
せっかく調子に乗らせようとしたのに、ファーランは落ち込んだ様子で口をすぼめた。
そして、ボソボソとその気になる娘との出逢いを話しだした。
「ツラいことがあるとさ…、俺、いつも、カフェの裏でボーッてしてんだ。
あそこ、カフェの店員とかが休憩できるように椅子とテーブル置いてるし、
営業時間は店員も忙しいから来なくて、意外と静かでさ。」
「そうか。」
少し伏せた目には、悲しみと後悔が宿っているように見えた。
医学部も優秀な成績で卒業して、今ではエルディア病院でも名医として有名だ。
なんでもそつなくこなしてきたファーランなら、助けを求めてやって来た患者はすべて救っていると、漠然と思っていた。
そんなこと、あるわけがないのにー。
「そのときも、カフェが忙しい時間にボーッとしてたらさ。
その娘が、ホットミルク持って来てくれたんだ。」
「へぇ。」
「寒いですね~って言いながら、俺にホットミルク渡した後、
倒れてしまわないようにゆっくり休んでくださいねって、
優しく笑ってくれたんだ。」
「あぁ…、そうか。」
「医者が暗い顔してたら何があったか分かると思うんだよ。
あの娘も、だからホットミルク持って来てくれたんだろうし。」
「まぁ、そうかもな。」
「でも、ただ純粋に、俺の身体の心配してくれたのが嬉しかったんだ。
サボるなって上司に怒られて戻って行くとき、あの娘が言ってくれた
頑張ってくださいが、妙にジーンと胸に来てさ。」
「それで、一目惚れか。」
「顔も可愛いんだよ、本当に。綺麗なんだ。
でも、心が綺麗って、あぁいうことを言うんだなぁって。
彼女の周りだけ、空気が澄んで見えるのは、本当なんだ。」
少しだけ頬を染めたファーランは、照れ臭そうに言って、鼻の頭を掻いた。
本気で惚れているようだ。
女の扱いに慣れていて、これだと決めた女にはすぐに声をかけることが出来るファーランが、まだ名前すら知らないのだから、それだけで本気なのが見てとれた。
「それで、その心底惚れてる女をどうしても俺に見せたいのはなんでだ。
お前なら手に入れるまで隠しておきてぇと思いそうなもんだが。」
「俺だって本当はそうしたかった。」
「なら、なんでだよ。」
「勇気が出ないんだよ。」
「は?」
ファーランは、俺の両肩をガシッと掴んで、真剣な顔で言った。
「頼む、リヴァイ!俺と一緒にあの娘に声をかけて、
連絡先を聞き出すチャンスを作って欲しい!」
それは、看護師にも患者にもモテモテで、昔から女に不自由したことのない親友が、おそらく、人生史上初めてしたお願いだったはずだ。
女で失敗した俺にお願いするしかないくらいに、切羽詰まっていたようだ。