◇21ページ◇ありがとう
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ナイルが持ってきたのは、嬉しい報告だった。
想像以上に効果が出たらしく、血液検査の結果がかなりよくなっていた。
正直、本当にうまくいくか自信がなかった俺は、ナイルの報告を聞いて、緊張で強張っていた身体の力が一気に抜けていくのを感じた。
ホッとして、両膝に肘を乗せて頭を抱え、大きく息を吐いた。
殴られまくった後のボクサーのようだったはずだ。
この調子で薬を投与していけば、すぐに完治も出来るだろうとナイルが言えば、母も両手で顔を覆って少しだけ泣いていた。
ケニーは椅子から立ち上がって、窓の外を眺め出した。その背中は僅かに震えていて、涙を堪えているのが分かった。
やっぱり、本当は不安だったのだろう。
みんな同じ、ずっと不安だったのだ。
そこへナイルと入れ違いで、漸く、名前がやってきた。
いつも通り、底抜けに明るい笑顔だった。
「クシェルさ~んっ、ケーキ買ってきたんで、一緒に食べましょう~!
…あれ?リヴァイさん、もう来てたんですか?早かったですねっ。
おかえりなさいっ。」
ベッド脇の椅子に座る俺に気づいて、一瞬だけ足を止めた名前だったが、すぐにスキップにかわった。
そして、俺の隣に椅子を持ってきて腰を降ろした。
名前は、ケーキ屋の箱からケーキを4個取り出して、ベッドにとりつけてあるテーブルの上に楽しそうに並べだした。
ルンルン、という文字が肩の辺りから出て来ているのが見えた気がした。
空気を読めていないその姿に、俺達は呆気にとられていた。
さっきまで窓の外を眺めるフリして肩を震わせていたケニーでさえも、名前を見て、口に咥えていた煙草を落としてしまっていた。
「はい!まずはクシェルさんが選んでくださいねっ。
どれがいいですか?」
「…えっと…、抹茶ケーキで。」
母は、目を赤くしたままで戸惑いがちに答えた。
そんな母の姿が見えているのか、いないのか。
名前は明るく返事をすると、楽しそうに抹茶ケーキとフォークを母の前に置いた。
ただ、母はどうすればいいか分からず、抹茶ケーキと名前を交互に見るばかりだ。
「次はケニーさんっ。どれがいいですか?」
「俺は甘いもんは苦手でー。」
「どれがいいですか?」
「・・・・・モンブランで。」
キラキラした名前の瞳に負けたケニーも、モンブランを渡されて、どうすればいいか分からない顔をしていた。
いつも飄々としているケニーのペースを乱すことが出来るのなんて、名前くらいなんじゃないだろうか。
「おい、名前。お前、何やってんだ。」
甘い香りが漂ってきて、俺はハッとして、口を開くことが出来た。
ショートケーキを自分の前に持ってこようとしていた名前が、俺の方を向いた。
「…リヴァイさんもショートケーキがよかったんですか?
それなら…、私はチーズケーキで我慢しますけど。
-はい、どうぞ。」
すごく不本意そうに顔を斜めにして、口を歪めて、名前は、ショートケーキを俺の前に出した。
そんな顔をされて、ショートケーキを貰っても嬉しくないし、美味しく食べられる自信はない。
それに、そんなことを言ったわけじゃない。
「今日、検査結果が出るとお前にも話してたはずだが。
忘れてたのか。
ーあと、それはどっちもお前が食っていい。」
「忘れてませんよ~。だから、お祝いのケーキを買ってきたんじゃないですか。
ーあと、リヴァイさんにも食べて欲しいので、半分こしましょう。それが平和的です。」
名前は嬉しそうに言いながら、自分の前にショートケーキとチーズケーキを並べた。
「なんだ、小娘、先にナイルから結果を聞いてたのか。」
そういうことかと納得した様子で、ケニーが言った。
俺と母も、漸く合点がいった。
それなのに、名前はキョトンと首を傾げた。
「いいえ、聞いてないですよ。結果出たんですか?」
「出てねぇと思ってたのに、てめぇは俺達に祝いのケーキを食わせようとしてたのか。」
呆れた様に言ったケニーに、名前は可笑しそうに笑った。
それはもう、本当にとても楽しそうに笑ったのだ。
「だって、結果を教えてもらわなくたって、リヴァイさんの魔法の薬なら
絶対にうまくいくに決まってるじゃないですか~。
私、昨日からずっとウキウキでしたよ~。」
アハハと笑う名前に、俺達はまた呆気にとられた。
さっき、ナイルから検査結果の報告を聞いたときとは違う力が、身体中から抜けた気がした。
膨らんだ風船から空気が抜けて、クルクルと空を飛び上がる感じに似ていたと思う。
最初に吹き出したのは、母だった。
「アハハハッ。私、本当に名前ちゃんって好きだわぁ。
そうよね、リヴァイが作ってくれたお薬なんだから、効くに決まってるわよねっ。」
零れる涙を拭いながら、母はとても嬉しそうに笑っていた。
声を上げて、腹を抱えて笑う母なんて、このとき、初めて見た。
母は本当に、嬉しそうだった。
「そうですよっ!なんてったって魔法の薬ですからねっ。」
母の涙の意味を分かっているのか、いないのか。
名前はとても自信満々にニッと白い歯を見せて笑った。
ケニーは、そんな名前を面白そうにからかって笑っていたけれど、俺は、楽しそうな笑い声を聞きながら、ただ黙って、祝いのケーキを見ていた。
喉の奥が熱くて、声が出せなかったのだ。
息を吸ったら、目頭から見られたくないものが流れて来そうで、必死に息も止めていた。
嬉しかった。
俺よりも、俺を信じてくれた名前の笑顔が、ひどく、嬉しかったのだ。
想像以上に効果が出たらしく、血液検査の結果がかなりよくなっていた。
正直、本当にうまくいくか自信がなかった俺は、ナイルの報告を聞いて、緊張で強張っていた身体の力が一気に抜けていくのを感じた。
ホッとして、両膝に肘を乗せて頭を抱え、大きく息を吐いた。
殴られまくった後のボクサーのようだったはずだ。
この調子で薬を投与していけば、すぐに完治も出来るだろうとナイルが言えば、母も両手で顔を覆って少しだけ泣いていた。
ケニーは椅子から立ち上がって、窓の外を眺め出した。その背中は僅かに震えていて、涙を堪えているのが分かった。
やっぱり、本当は不安だったのだろう。
みんな同じ、ずっと不安だったのだ。
そこへナイルと入れ違いで、漸く、名前がやってきた。
いつも通り、底抜けに明るい笑顔だった。
「クシェルさ~んっ、ケーキ買ってきたんで、一緒に食べましょう~!
…あれ?リヴァイさん、もう来てたんですか?早かったですねっ。
おかえりなさいっ。」
ベッド脇の椅子に座る俺に気づいて、一瞬だけ足を止めた名前だったが、すぐにスキップにかわった。
そして、俺の隣に椅子を持ってきて腰を降ろした。
名前は、ケーキ屋の箱からケーキを4個取り出して、ベッドにとりつけてあるテーブルの上に楽しそうに並べだした。
ルンルン、という文字が肩の辺りから出て来ているのが見えた気がした。
空気を読めていないその姿に、俺達は呆気にとられていた。
さっきまで窓の外を眺めるフリして肩を震わせていたケニーでさえも、名前を見て、口に咥えていた煙草を落としてしまっていた。
「はい!まずはクシェルさんが選んでくださいねっ。
どれがいいですか?」
「…えっと…、抹茶ケーキで。」
母は、目を赤くしたままで戸惑いがちに答えた。
そんな母の姿が見えているのか、いないのか。
名前は明るく返事をすると、楽しそうに抹茶ケーキとフォークを母の前に置いた。
ただ、母はどうすればいいか分からず、抹茶ケーキと名前を交互に見るばかりだ。
「次はケニーさんっ。どれがいいですか?」
「俺は甘いもんは苦手でー。」
「どれがいいですか?」
「・・・・・モンブランで。」
キラキラした名前の瞳に負けたケニーも、モンブランを渡されて、どうすればいいか分からない顔をしていた。
いつも飄々としているケニーのペースを乱すことが出来るのなんて、名前くらいなんじゃないだろうか。
「おい、名前。お前、何やってんだ。」
甘い香りが漂ってきて、俺はハッとして、口を開くことが出来た。
ショートケーキを自分の前に持ってこようとしていた名前が、俺の方を向いた。
「…リヴァイさんもショートケーキがよかったんですか?
それなら…、私はチーズケーキで我慢しますけど。
-はい、どうぞ。」
すごく不本意そうに顔を斜めにして、口を歪めて、名前は、ショートケーキを俺の前に出した。
そんな顔をされて、ショートケーキを貰っても嬉しくないし、美味しく食べられる自信はない。
それに、そんなことを言ったわけじゃない。
「今日、検査結果が出るとお前にも話してたはずだが。
忘れてたのか。
ーあと、それはどっちもお前が食っていい。」
「忘れてませんよ~。だから、お祝いのケーキを買ってきたんじゃないですか。
ーあと、リヴァイさんにも食べて欲しいので、半分こしましょう。それが平和的です。」
名前は嬉しそうに言いながら、自分の前にショートケーキとチーズケーキを並べた。
「なんだ、小娘、先にナイルから結果を聞いてたのか。」
そういうことかと納得した様子で、ケニーが言った。
俺と母も、漸く合点がいった。
それなのに、名前はキョトンと首を傾げた。
「いいえ、聞いてないですよ。結果出たんですか?」
「出てねぇと思ってたのに、てめぇは俺達に祝いのケーキを食わせようとしてたのか。」
呆れた様に言ったケニーに、名前は可笑しそうに笑った。
それはもう、本当にとても楽しそうに笑ったのだ。
「だって、結果を教えてもらわなくたって、リヴァイさんの魔法の薬なら
絶対にうまくいくに決まってるじゃないですか~。
私、昨日からずっとウキウキでしたよ~。」
アハハと笑う名前に、俺達はまた呆気にとられた。
さっき、ナイルから検査結果の報告を聞いたときとは違う力が、身体中から抜けた気がした。
膨らんだ風船から空気が抜けて、クルクルと空を飛び上がる感じに似ていたと思う。
最初に吹き出したのは、母だった。
「アハハハッ。私、本当に名前ちゃんって好きだわぁ。
そうよね、リヴァイが作ってくれたお薬なんだから、効くに決まってるわよねっ。」
零れる涙を拭いながら、母はとても嬉しそうに笑っていた。
声を上げて、腹を抱えて笑う母なんて、このとき、初めて見た。
母は本当に、嬉しそうだった。
「そうですよっ!なんてったって魔法の薬ですからねっ。」
母の涙の意味を分かっているのか、いないのか。
名前はとても自信満々にニッと白い歯を見せて笑った。
ケニーは、そんな名前を面白そうにからかって笑っていたけれど、俺は、楽しそうな笑い声を聞きながら、ただ黙って、祝いのケーキを見ていた。
喉の奥が熱くて、声が出せなかったのだ。
息を吸ったら、目頭から見られたくないものが流れて来そうで、必死に息も止めていた。
嬉しかった。
俺よりも、俺を信じてくれた名前の笑顔が、ひどく、嬉しかったのだ。