◇18ページ◇役に立つということ
Name change
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「悪いな。」
助手席に乗り込んだ名前に、俺は謝った。
着替えと一緒に掃除道具セットも持って行こうと準備していたら、ピクニック用のバスケットに入った弁当を持てなくなってしまったのだ。
必要最低限の着替えだけを詰めた小さなバッグの10倍はありそうな掃除道具セットのバッグを見て、名前は絶句していた。
トランクに詰め込むときも、本当に必要なのかと何度も訊ねられたが、本当は、買ったばかりのあの最新の掃除機も、インターネットで話題沸騰の大きな埃叩きも持って行きたかった俺としては、これだけしか持ち出せなかったことは不本意でしかなかった。
「…それは、掃除道具を1つも減らさなかったことに対してですか?」
「トランクに入る分だけに絞ったうちの精鋭達だ。」
「減らしてあれなんですか!?」
「うるせぇな。
-名前に荷物持ちをさせちまって、悪いって言ってんだよ。」
「知ってますよ。」
「チッ。」
舌打ちを零す俺を名前は可笑しそうにクスクスと笑った。
後部座席をチラリと見ると、弁当箱が入っているバスケットもシートベルトをしていた。
可笑しいのは名前の方だと思うのだが、そこをツッコんだところで、倒れたらどうとか返事は分かっていたから、敢えて何も言わないことにした。
俺は、ギアをドライブに入れて、アクセルを踏みこんだ。
近くにスーパーもコンビニもあるし、通勤は電車を利用しているから、自分の車を運転するのは久しぶりだった。
「リヴァイさんの車に乗れるなんて、光栄すぎて、ドキドキします。」
「普通の車だろ。」
「違いますよ!輝きが!!」
名前は、目をキラキラさせて、車内を見渡していた。
初めて遊園地にやって来た子供のようなその姿が、面白かった。
「掃除に手は抜かねぇ主義だからな。」
「…そういう意味じゃないんですけど…。」
名前が、ひどく残念そうに眉尻を下げた。
それが可笑しくて、俺は吹き出しそうになった口元を左手の甲で隠した。
でも、笑いそうになった俺を見て、からかわれたことが分かったらしく、名前が口を尖らせて、文句を言い出したから、話題を変えることにした。
「昼間はケニーから着信があったからビビッた。」
「あ…!ごめんなさい、スマホがないって言ったら、
自分の使ってもいいって言ってくれたので、甘えちゃって…っ。」
「いや、テレビ電話の着信だったから、すぐに名前からだと分かった。」
昼間、研究をしているところに、ケニーから電話があったことを思い出した。
ケニーからの着信なんて、母親が倒れたという連絡があった以来だったから、何か悪いことでも起こったのかと心臓が冷えるかと思った。
でも、それは、俺の代わりに母親の様子を見に行った名前からのテレビ電話だった。
ちょうど検査結果が出た後だったらしく、よく分からないからと言いながら、検査結果のレポートを画面に映して見せてくれた。
以前の検査結果も一緒に並べて見せてくれたおかげで、数値の変化も確認することが出来て、とても助かったのだ。
「ケニーが若い女に鼻の下を伸ばした面白い映像も見られたしな。」
「リヴァイさん、悪い顔してますよ。」
「アイツよりはマシだ。」
眉間に皴を寄せた俺に、名前は、そっくりの顔をしていると楽しそうに笑った。
「リヴァイさんのお母さん、凄く美人でビックリしちゃいましたっ。
ソックリですね。」
「あ~、ガキの頃によく母親似だと言われてたな。」
「やっぱり、そうですよねっ。
でも、悪い顔はケニーさんにソックリですね。あと、話し方も!」
「悪い影響を受けたんだな。可哀想なガキの俺。」
「自分で言っちゃうんだ。」
名前が可笑しそうに笑う。
だから、俺も楽しくて、いつもよりもつい饒舌になってしまっていた。
でもそれは、母やケニーも同じだったような気がした。
いきなり若い女が俺の代わりにやって来て驚いたと言いながら、母もケニーも楽しそうによく笑っていた。
ザックレーのところのクソガキがものの5分で陥落させられたという魔法に、母とケニーもかかってしまったのかもしれない。
だって、3年というそれなりに長い付き合いで何度か会ったことがあったはずのアンとは、母もケニーも打ち解けてはくれなかったから。
『若い女の子とは何を話せばいいか分からないわ。』
母は困ったような顔でそう言っていたし、ケニーなんて仲良くしようという気すらなかったようで、口悪い態度も災いして、アンに嫌われていた。
それなのに、母は楽しそうに名前に話しかけていたし、相変わらず口の悪いケニーも、名前に悪戯に話しかけてはその素直な反応を楽しんでいるようだった。
テレビ電話越しからも、彼らが、名前をとても気に入っているのが伝わってきた。
「そういえば、お試し恋人だと聞いて、母さん達は驚かなかったのか。」
「まさか…!そんなこと言えませんよ…っ。
でも、リヴァイさんのお母さんと叔父さんに嘘もつけないので、
本当のことを話しました。」
「本当のこと?」
「はい、リヴァイさんに命を救ってもらってから、
永遠の片想いをしてる名前ですって。
お2人ともポカンとしてらっしゃいました。」
「…だろうな。」
「ケニーさんが、リヴァイさんのことを
若い女をたぶらかした罪な男だなって言ってましたよ。
今度、私の代わりに懲らしめてくれるそうです。」
「クソ、ケニーが。」
顔を顰める俺に、断っておいたから大丈夫だと名前が楽しそうに笑った。
母親を救うための薬を早く作らなければーと、1人で抱えて無理をしていた昨日までは、自宅から研究施設までの約30分はひどく長く感じていたのに、助手席に名前がいるだけで、あっという間だった。
助手席に乗り込んだ名前に、俺は謝った。
着替えと一緒に掃除道具セットも持って行こうと準備していたら、ピクニック用のバスケットに入った弁当を持てなくなってしまったのだ。
必要最低限の着替えだけを詰めた小さなバッグの10倍はありそうな掃除道具セットのバッグを見て、名前は絶句していた。
トランクに詰め込むときも、本当に必要なのかと何度も訊ねられたが、本当は、買ったばかりのあの最新の掃除機も、インターネットで話題沸騰の大きな埃叩きも持って行きたかった俺としては、これだけしか持ち出せなかったことは不本意でしかなかった。
「…それは、掃除道具を1つも減らさなかったことに対してですか?」
「トランクに入る分だけに絞ったうちの精鋭達だ。」
「減らしてあれなんですか!?」
「うるせぇな。
-名前に荷物持ちをさせちまって、悪いって言ってんだよ。」
「知ってますよ。」
「チッ。」
舌打ちを零す俺を名前は可笑しそうにクスクスと笑った。
後部座席をチラリと見ると、弁当箱が入っているバスケットもシートベルトをしていた。
可笑しいのは名前の方だと思うのだが、そこをツッコんだところで、倒れたらどうとか返事は分かっていたから、敢えて何も言わないことにした。
俺は、ギアをドライブに入れて、アクセルを踏みこんだ。
近くにスーパーもコンビニもあるし、通勤は電車を利用しているから、自分の車を運転するのは久しぶりだった。
「リヴァイさんの車に乗れるなんて、光栄すぎて、ドキドキします。」
「普通の車だろ。」
「違いますよ!輝きが!!」
名前は、目をキラキラさせて、車内を見渡していた。
初めて遊園地にやって来た子供のようなその姿が、面白かった。
「掃除に手は抜かねぇ主義だからな。」
「…そういう意味じゃないんですけど…。」
名前が、ひどく残念そうに眉尻を下げた。
それが可笑しくて、俺は吹き出しそうになった口元を左手の甲で隠した。
でも、笑いそうになった俺を見て、からかわれたことが分かったらしく、名前が口を尖らせて、文句を言い出したから、話題を変えることにした。
「昼間はケニーから着信があったからビビッた。」
「あ…!ごめんなさい、スマホがないって言ったら、
自分の使ってもいいって言ってくれたので、甘えちゃって…っ。」
「いや、テレビ電話の着信だったから、すぐに名前からだと分かった。」
昼間、研究をしているところに、ケニーから電話があったことを思い出した。
ケニーからの着信なんて、母親が倒れたという連絡があった以来だったから、何か悪いことでも起こったのかと心臓が冷えるかと思った。
でも、それは、俺の代わりに母親の様子を見に行った名前からのテレビ電話だった。
ちょうど検査結果が出た後だったらしく、よく分からないからと言いながら、検査結果のレポートを画面に映して見せてくれた。
以前の検査結果も一緒に並べて見せてくれたおかげで、数値の変化も確認することが出来て、とても助かったのだ。
「ケニーが若い女に鼻の下を伸ばした面白い映像も見られたしな。」
「リヴァイさん、悪い顔してますよ。」
「アイツよりはマシだ。」
眉間に皴を寄せた俺に、名前は、そっくりの顔をしていると楽しそうに笑った。
「リヴァイさんのお母さん、凄く美人でビックリしちゃいましたっ。
ソックリですね。」
「あ~、ガキの頃によく母親似だと言われてたな。」
「やっぱり、そうですよねっ。
でも、悪い顔はケニーさんにソックリですね。あと、話し方も!」
「悪い影響を受けたんだな。可哀想なガキの俺。」
「自分で言っちゃうんだ。」
名前が可笑しそうに笑う。
だから、俺も楽しくて、いつもよりもつい饒舌になってしまっていた。
でもそれは、母やケニーも同じだったような気がした。
いきなり若い女が俺の代わりにやって来て驚いたと言いながら、母もケニーも楽しそうによく笑っていた。
ザックレーのところのクソガキがものの5分で陥落させられたという魔法に、母とケニーもかかってしまったのかもしれない。
だって、3年というそれなりに長い付き合いで何度か会ったことがあったはずのアンとは、母もケニーも打ち解けてはくれなかったから。
『若い女の子とは何を話せばいいか分からないわ。』
母は困ったような顔でそう言っていたし、ケニーなんて仲良くしようという気すらなかったようで、口悪い態度も災いして、アンに嫌われていた。
それなのに、母は楽しそうに名前に話しかけていたし、相変わらず口の悪いケニーも、名前に悪戯に話しかけてはその素直な反応を楽しんでいるようだった。
テレビ電話越しからも、彼らが、名前をとても気に入っているのが伝わってきた。
「そういえば、お試し恋人だと聞いて、母さん達は驚かなかったのか。」
「まさか…!そんなこと言えませんよ…っ。
でも、リヴァイさんのお母さんと叔父さんに嘘もつけないので、
本当のことを話しました。」
「本当のこと?」
「はい、リヴァイさんに命を救ってもらってから、
永遠の片想いをしてる名前ですって。
お2人ともポカンとしてらっしゃいました。」
「…だろうな。」
「ケニーさんが、リヴァイさんのことを
若い女をたぶらかした罪な男だなって言ってましたよ。
今度、私の代わりに懲らしめてくれるそうです。」
「クソ、ケニーが。」
顔を顰める俺に、断っておいたから大丈夫だと名前が楽しそうに笑った。
母親を救うための薬を早く作らなければーと、1人で抱えて無理をしていた昨日までは、自宅から研究施設までの約30分はひどく長く感じていたのに、助手席に名前がいるだけで、あっという間だった。