◇12ページ◇病
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ハンジに事情を説明し午前休をもらった俺は、母親が運ばれたという病院へ急いで向かった。
昔、研修医として働いたことのある病院だったおかげで、受付で確認した病室には最短ルートで辿り着いた。
それもあってか、検査はまだ終わっていないらしく、病室にいたのは叔父のケニーだけだった。
久しぶりに会ったケニーは、窓際に置かれたパイプ椅子に座って煙草を吸いながら外を眺めていた。
そして、病室に入って来た俺に気が付くと、軽い調子で煙草を持っている方の手を上げた。
「よう、早かったじゃねぇか。」
「てめぇが自分が医者の説明を聞いても意味が分からねぇだろうから
俺に早く来いと急かしたんだろーが。」
俺は、テレビを置いてある棚に仕事用の鞄を置くと、ベッド脇のパイプ椅子に腰を降ろした。
事務員の仕事が早いようで、ベッドにはもうネームプレートが貼ってあった。
主治医に【ナイル・ドーク】という名前を確認して、安心した。
研修医時代に世話になった医師の1人で、いけ好かない男だが、医者としての腕は確かだ。
ベッドを挟んでケニーと向かい合うような格好だったが、俺は奴に横顔しか見せていなかったし、奴もいつの間にか窓の外を眺めていた。
俺とケニーは、昔からこんな調子だ。
未婚で俺を産んだクシェルを、赤ん坊の俺ごと経済的にも精神的にも支えてくれたケニーに感謝をしていないわけではないが、ウマが合わないのだ。
それをあっちも理解しているから、敢えてお互いに歩み寄ろうとはしない。
付かず離れずの距離を保っている。
大学を卒業して独り立ちしても、その距離が離れすぎたり、縁が切れたりすることがなかったのは、かろうじて、母親のクシェルが、息子の俺と兄であるケニーの血の繋がりを結び付けていたからだと思う。
もしも、倒れたまま母親に何かあればー。
俺はきっと、母親だけではなく、家族のすべてを失うのだろう。
だって、俺の家族は、母親と叔父のケニーしかいないからー。
「検査はいつ終わるか聞いたのか。」
「さぁ。とりあえず、頭調べて、倒れたときに骨折ってないか調べてとか言ってたな。
一応、意識ねぇし、最優先で検査してくれるらしいが、それでも時間はかかるってよ。」
「だろうな。それで、急に倒れたってどういうことだ。」
「そのまんまだよ。朝起きて、飯食って、仕事行ってくるわ~って靴履いてたら
後ろでバターンて音がして、派手に転んだなぁ~と思って見に行ったら倒れてて
そのままうんともすんとも言いやしねぇ。」
相変わらず、ケニーは窓の外を眺めながら煙草を吸っていて、表情は確認できなかった。
飄々とした声もいつも通りだった。
まるで緊迫感のない様子だったが、長い付き合いで、それはただのポーズに過ぎないことは、ちゃんと分かってはいた。
ケニーは妹のクシェルを大切にしていたし、だから、どこの馬の骨ともわからない男との間に出来た俺のことも育ててくれた。
倒れたクシェルを見て、ひどく焦っただろうことも、狼狽えただろうことも、どれほどの恐怖に襲われたのだろうってことも、分からなかったわけじゃないのだ。
でも、どうしても、責めずにはいられなかった。
俺は、弱かったし、怖かったのだ。
家族を、失うのがー。
「一緒に暮らしてたんだろ。何かおかしいと思うことはなかったのかよ。
もっと早く気づいてりゃ、倒れて意識不明なんてことにはならなかったんじゃねぇのか。」
「医者にもおかしいことはなかったかって訊かれたんだけどよ。
分からねぇよ。別に普通に生活してただけだしなぁ~。
あぁ、そういえば、最近、腹を壊したとかなんとか言ってたな。」
「病院には連れてったのか。」
「いいや。必要ねぇって言うし、俺も面倒くせぇしー。」
「ふざけんなよ!それが原因だったのかもしれねぇだろ!!」
気づいたら、俺はケニーを怒鳴りつけていた。
窓の外を眺めながら煙草を吸っていたケニーは、振り返って俺を見ることはなかった。
でも、言い訳もしなかった。
ただ、「そうだよなぁ。」と呟くだけだった。
俺は、この男のそういうところが嫌いだ。
どんなときだって飄々としていて、取り乱したりしない。
友人達には、俺もそう見えているらしかった。
いつだって落ち着いていて、冷静で、取り乱さないー。
そう言われることは多い。
でも、本当はそうじゃない。
態度に出ないだけで、堪えているだけで、本当はー。
「あら?リヴァイ、来てくれたの?」
病室の扉が開く音がしてすぐ、母の気の抜けた声が聞こえた。
振り返ると、看護師が押す車椅子に乗って母が病室に入って来た。
看護師も顔見知りだった。
大学時代に医学部と看護学部で学部は違ったものの同期だったアンカだった。
「…おい、意識がねぇんじゃなかったのか。」
「検査の途中で目が覚めたの。それから、すっかりお母さんは元気よ。安心して。」
「はぁ~…。」
アンカの返事を聞いて、今度は気が抜けたのは俺だった。
そして、すぐにケニーを睨みつけたが、ヘラヘラと笑われただけだった。
一応、アンカに介助してもらって母はベッドに入った。
それからしばらくして、ナイルから検査結果の説明をしたいと俺だけが呼び出された。
安心した様子のケニーを置いて、診察室に入った俺が見たのは、ナイルのムカつくくらいに暗い表情だった。
どうやら、母親は、珍しい病を発症してしまったらしかった。
君は、俺には君は必要ないと思っているんだろう?
でも、あの日だって、俺を救ったのは君の無垢な笑顔だったんだ
ねぇ、日記さん。
リヴァイさんの帰りが遅かったの。
今日は定時だって言っていたのに、夜中の3時過ぎに帰って来たのよ。
それに、とても疲れているみたいだった。
お仕事が忙しいのね、きっと。
夕食を食べる元気もないみたいで、お風呂に入って眠ってしまったわ。
明日の朝は、元気が出る朝食を用意してあげなくちゃ。
私がリヴァイさんの為に出来ることなんて、それくらいしかないもの。
昔、研修医として働いたことのある病院だったおかげで、受付で確認した病室には最短ルートで辿り着いた。
それもあってか、検査はまだ終わっていないらしく、病室にいたのは叔父のケニーだけだった。
久しぶりに会ったケニーは、窓際に置かれたパイプ椅子に座って煙草を吸いながら外を眺めていた。
そして、病室に入って来た俺に気が付くと、軽い調子で煙草を持っている方の手を上げた。
「よう、早かったじゃねぇか。」
「てめぇが自分が医者の説明を聞いても意味が分からねぇだろうから
俺に早く来いと急かしたんだろーが。」
俺は、テレビを置いてある棚に仕事用の鞄を置くと、ベッド脇のパイプ椅子に腰を降ろした。
事務員の仕事が早いようで、ベッドにはもうネームプレートが貼ってあった。
主治医に【ナイル・ドーク】という名前を確認して、安心した。
研修医時代に世話になった医師の1人で、いけ好かない男だが、医者としての腕は確かだ。
ベッドを挟んでケニーと向かい合うような格好だったが、俺は奴に横顔しか見せていなかったし、奴もいつの間にか窓の外を眺めていた。
俺とケニーは、昔からこんな調子だ。
未婚で俺を産んだクシェルを、赤ん坊の俺ごと経済的にも精神的にも支えてくれたケニーに感謝をしていないわけではないが、ウマが合わないのだ。
それをあっちも理解しているから、敢えてお互いに歩み寄ろうとはしない。
付かず離れずの距離を保っている。
大学を卒業して独り立ちしても、その距離が離れすぎたり、縁が切れたりすることがなかったのは、かろうじて、母親のクシェルが、息子の俺と兄であるケニーの血の繋がりを結び付けていたからだと思う。
もしも、倒れたまま母親に何かあればー。
俺はきっと、母親だけではなく、家族のすべてを失うのだろう。
だって、俺の家族は、母親と叔父のケニーしかいないからー。
「検査はいつ終わるか聞いたのか。」
「さぁ。とりあえず、頭調べて、倒れたときに骨折ってないか調べてとか言ってたな。
一応、意識ねぇし、最優先で検査してくれるらしいが、それでも時間はかかるってよ。」
「だろうな。それで、急に倒れたってどういうことだ。」
「そのまんまだよ。朝起きて、飯食って、仕事行ってくるわ~って靴履いてたら
後ろでバターンて音がして、派手に転んだなぁ~と思って見に行ったら倒れてて
そのままうんともすんとも言いやしねぇ。」
相変わらず、ケニーは窓の外を眺めながら煙草を吸っていて、表情は確認できなかった。
飄々とした声もいつも通りだった。
まるで緊迫感のない様子だったが、長い付き合いで、それはただのポーズに過ぎないことは、ちゃんと分かってはいた。
ケニーは妹のクシェルを大切にしていたし、だから、どこの馬の骨ともわからない男との間に出来た俺のことも育ててくれた。
倒れたクシェルを見て、ひどく焦っただろうことも、狼狽えただろうことも、どれほどの恐怖に襲われたのだろうってことも、分からなかったわけじゃないのだ。
でも、どうしても、責めずにはいられなかった。
俺は、弱かったし、怖かったのだ。
家族を、失うのがー。
「一緒に暮らしてたんだろ。何かおかしいと思うことはなかったのかよ。
もっと早く気づいてりゃ、倒れて意識不明なんてことにはならなかったんじゃねぇのか。」
「医者にもおかしいことはなかったかって訊かれたんだけどよ。
分からねぇよ。別に普通に生活してただけだしなぁ~。
あぁ、そういえば、最近、腹を壊したとかなんとか言ってたな。」
「病院には連れてったのか。」
「いいや。必要ねぇって言うし、俺も面倒くせぇしー。」
「ふざけんなよ!それが原因だったのかもしれねぇだろ!!」
気づいたら、俺はケニーを怒鳴りつけていた。
窓の外を眺めながら煙草を吸っていたケニーは、振り返って俺を見ることはなかった。
でも、言い訳もしなかった。
ただ、「そうだよなぁ。」と呟くだけだった。
俺は、この男のそういうところが嫌いだ。
どんなときだって飄々としていて、取り乱したりしない。
友人達には、俺もそう見えているらしかった。
いつだって落ち着いていて、冷静で、取り乱さないー。
そう言われることは多い。
でも、本当はそうじゃない。
態度に出ないだけで、堪えているだけで、本当はー。
「あら?リヴァイ、来てくれたの?」
病室の扉が開く音がしてすぐ、母の気の抜けた声が聞こえた。
振り返ると、看護師が押す車椅子に乗って母が病室に入って来た。
看護師も顔見知りだった。
大学時代に医学部と看護学部で学部は違ったものの同期だったアンカだった。
「…おい、意識がねぇんじゃなかったのか。」
「検査の途中で目が覚めたの。それから、すっかりお母さんは元気よ。安心して。」
「はぁ~…。」
アンカの返事を聞いて、今度は気が抜けたのは俺だった。
そして、すぐにケニーを睨みつけたが、ヘラヘラと笑われただけだった。
一応、アンカに介助してもらって母はベッドに入った。
それからしばらくして、ナイルから検査結果の説明をしたいと俺だけが呼び出された。
安心した様子のケニーを置いて、診察室に入った俺が見たのは、ナイルのムカつくくらいに暗い表情だった。
どうやら、母親は、珍しい病を発症してしまったらしかった。
君は、俺には君は必要ないと思っているんだろう?
でも、あの日だって、俺を救ったのは君の無垢な笑顔だったんだ
ねぇ、日記さん。
リヴァイさんの帰りが遅かったの。
今日は定時だって言っていたのに、夜中の3時過ぎに帰って来たのよ。
それに、とても疲れているみたいだった。
お仕事が忙しいのね、きっと。
夕食を食べる元気もないみたいで、お風呂に入って眠ってしまったわ。
明日の朝は、元気が出る朝食を用意してあげなくちゃ。
私がリヴァイさんの為に出来ることなんて、それくらいしかないもの。