エピローグのその先~魔法使いとガラスの靴~
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ウォール都シーナ区のスラム街も、自治体が環境整備等に動き出してくれたおかげで、少しずつ治安も良くなってきていた。
それに伴って、今までならあまりスラム街に近寄らなかった近くの大学の学生達も遊びに来るようになった。
最近では、可愛らしいアンティークの雑貨があるとSNSで話題になった喫茶店には、連日のように若い女性達が集まっている。
今日も2人組の若い女性達が喫茶店の扉の鈴の音を鳴らしてやって来た。
初めての来店だった彼女達は、想像以上に狭い店内にも驚いたが、可愛らしいアンティーク雑貨に囲まれた雰囲気をとても気に入った。
お昼の時間をズラして来たおかげで、まだテーブルは幾つか空いているようでホッとする。
カウンターには、可愛らしいアンティーク雑貨と同じくらいにSNSで話題になっている年齢不詳の美人なオーナーがいて、彼女達に気づくと「いらっしゃい。」と柔らかく微笑んだ。
その隣で何かをモグモグと食べているウェイトレスも、ポニーテールの似合う綺麗めな美人だった。
今は若い女性達の間で人気の喫茶店だけれど、男性陣が知っても、こぞって鼻の下を伸ばして通いつめそうだ。
彼女達を案内したのは、このこじんまりとした可愛らしい雰囲気の喫茶店にはあまり似合わない坊主頭で長身の若いウェイターの男だった。
若いウェイターに案内され、彼女達は奥の窓際のテーブル席に向かい合うように腰を降ろす。
たどたどしく本日のおすすめランチを教えてくれたウェイターはたぶん、ポンコツだ。
何を言っているかよく分からなかったので、彼女達は各々好きなランチセットと飲み物を頼んだ。
ポンコツのウェイターがちゃんと注文を理解したか不安に思っていたら、カウンター奥のキッチンからも「てめぇ!今度こそ、注文間違ってんじゃねぇだろうな!!」というシェフの渋い大きな声が聞こえてきた。
やっぱり、彼には前科があるらしい。しかも、まだ間違いが確定していないのに、シェフが怒鳴ってしまうほど。
彼女達はお互いに顔を見合わせて、苦笑する。
「ねぇ、昨日のスペシャルドラマ見た?魔法使いとガラスの靴ってやつ!」
注文した料理が来るまで時間がある。
ヒッチは、友人のミーナに話したくてウズウズしていた話題を振った。
「ううん、見てないよ?面白かったの?」
「すごく!!」
「どんなドラマだったの?」
「記憶を失ったヒロインと、彼女を救うイケメンのラブストーリーなんだけど、
もう、とにかくヤバイの!!」
ヤバイと繰り返すヒッチに、ミーナは困った笑顔を返した。
興奮している彼女は、話しに要領を得ないことが多い。
でも、こんなに夢中になってしまうくらいに素敵なラブストーリーだったのなら見ておけばよかったと後悔した。
どんな物語だったのかも気になる。
だから、とりあえずヒッチが落ち着くのを待ってから、どうヤバかったのかを訊ねてみた。
ポニーテールの似合うウェイトレスが持ってきたお冷を飲んで喉を潤すと、ヒッチは嬉々としてドラマのあらすじを話し始めた。
幼い頃に記憶障害を起こした少女が自分を救ってくれた若い研修医にした淡い初恋から始まるストーリーは、友人から話を聞くだけで心がドキドキした。
「それで、彼が作った魔法の薬でヒロインは、記憶を取り戻すの。」
「だから、薬の名前がGlass shoesなのね。」
「そう!シンデレラの魔法使いが唯一永遠に消えない魔法で作ったガラスの靴が
その薬の名前の由来なのよ。だからきっと、ヒロインは永遠に記憶を失うことはないの。」
ヒッチは祈るように両手を握ると、目を閉じて恍惚の表情を浮かべる。
かなり陶酔しているようだけれど、確かにとても素敵な物語だ。
私もそんな人生に一度きりの大恋愛をしてみたい。
でも、ヒッチから聞いたあらすじ、というか物語のネタバレも含めたすべてに、1つだけ、気になることがあったのだ。
「ねぇ、何年か前に茶道家のお姫様と王子様が結婚するって
テレビのニュースで話題になって、結局破談になったってあったよね?」
「よく気づきました!!」
ヒッチが威張ったように、親指と人差し指でパチンと音を鳴らした。
そして、実はねー、とニンマリと口の端を上げる。
「そのドラマ、ノンフィクションなの。」
「やっぱり、テレビに出てた茶道家のお姫様だったんだ。」
「そう!調べてみたら、魔法使いさんが書いた日記を見つけた友達が
面白がって知り合いのテレビ関係者に見せたら、ドラマになっちゃったんだって。
魔法使いさんはすごく怒ってたって、ドラマ制作者のコメントに書いてあった。」
「そ、そうなんだ…。」
ヒッチが可笑しそうに言うから、アハハと笑ってはみたけれど、魔法使いさんに同情した。
それでも、ドラマになるということは、最終的に魔法使いさんからOKが出たのだろうが、不本意だったに違いない。
話を聞く感じだと、魔法使いさんは、あまり目立ちたがりなイメージは湧かなかったから。
「それでね、魔法使いさんの顔写真を見たいだろうと思って
このヒッチ様!!見つけて参りました!!」
ヒッチは自慢気に言いながら、ジャジャーンとスマホの画面を見せて来た。
ミーナは少し身体を前のめりにする。
スマホに表示されているのは、Hangeというアカウントのインスタ画面だった。
この人が、魔法使いさんの友人で、大切な日記をテレビ関係者に見せた張本人なのだそうだ。
公表している情報ではないが、噂話が大好きなヒッチはありとあらゆるサイトを調べ上げて、見つけ出したらしい。
それにしても、鍵のかかっているアカウントなのに、昨日の今日でフォロー許可まで貰っている親友に、毎度のことながら感心してしまう。
「でね、これがヒロインと魔法使いさんの結婚式の写真。」
たくさん並んでいる画像を何度もスクロールして、1枚をタップした。
それは、ウェディングドレス姿の花嫁とタキシード姿の花婿が並んで立って、指切りをしている写真だった。
「素敵な写真だね。」
「でしょ!めっちゃイケメンでしょ!!ヤバイよね!!」
ヒッチが興奮気味に、またヤバイを連呼し始めた。
ここで冒頭の「ヤバイ」に繋がるらしい。
ヒッチらしいと思いながら、ミーナはクスリと笑った。
ちょうどそこへ、注文していたランチセットが運ばれてきた。
「おまたせっした~。」
敬語のなっていないポンコツウェイターが、ヒッチとミーナの前にランチセットを並べる。
見事に注文したものと違う。
だが、とても美味しそうだ。
普段絶対に注文しないようなセットだし、たまにはいいかー。
ヒッチもミーナをそんな気持ちにしてしまうくらいに鼻と腹をくすぐるいい匂いだ。
これもきっとこの喫茶店の楽しみ方なのだろう。
結局、彼女達はポンコツウェイターに文句を言うのは止めて、間違ったランチセットを受け入れた。
それに伴って、今までならあまりスラム街に近寄らなかった近くの大学の学生達も遊びに来るようになった。
最近では、可愛らしいアンティークの雑貨があるとSNSで話題になった喫茶店には、連日のように若い女性達が集まっている。
今日も2人組の若い女性達が喫茶店の扉の鈴の音を鳴らしてやって来た。
初めての来店だった彼女達は、想像以上に狭い店内にも驚いたが、可愛らしいアンティーク雑貨に囲まれた雰囲気をとても気に入った。
お昼の時間をズラして来たおかげで、まだテーブルは幾つか空いているようでホッとする。
カウンターには、可愛らしいアンティーク雑貨と同じくらいにSNSで話題になっている年齢不詳の美人なオーナーがいて、彼女達に気づくと「いらっしゃい。」と柔らかく微笑んだ。
その隣で何かをモグモグと食べているウェイトレスも、ポニーテールの似合う綺麗めな美人だった。
今は若い女性達の間で人気の喫茶店だけれど、男性陣が知っても、こぞって鼻の下を伸ばして通いつめそうだ。
彼女達を案内したのは、このこじんまりとした可愛らしい雰囲気の喫茶店にはあまり似合わない坊主頭で長身の若いウェイターの男だった。
若いウェイターに案内され、彼女達は奥の窓際のテーブル席に向かい合うように腰を降ろす。
たどたどしく本日のおすすめランチを教えてくれたウェイターはたぶん、ポンコツだ。
何を言っているかよく分からなかったので、彼女達は各々好きなランチセットと飲み物を頼んだ。
ポンコツのウェイターがちゃんと注文を理解したか不安に思っていたら、カウンター奥のキッチンからも「てめぇ!今度こそ、注文間違ってんじゃねぇだろうな!!」というシェフの渋い大きな声が聞こえてきた。
やっぱり、彼には前科があるらしい。しかも、まだ間違いが確定していないのに、シェフが怒鳴ってしまうほど。
彼女達はお互いに顔を見合わせて、苦笑する。
「ねぇ、昨日のスペシャルドラマ見た?魔法使いとガラスの靴ってやつ!」
注文した料理が来るまで時間がある。
ヒッチは、友人のミーナに話したくてウズウズしていた話題を振った。
「ううん、見てないよ?面白かったの?」
「すごく!!」
「どんなドラマだったの?」
「記憶を失ったヒロインと、彼女を救うイケメンのラブストーリーなんだけど、
もう、とにかくヤバイの!!」
ヤバイと繰り返すヒッチに、ミーナは困った笑顔を返した。
興奮している彼女は、話しに要領を得ないことが多い。
でも、こんなに夢中になってしまうくらいに素敵なラブストーリーだったのなら見ておけばよかったと後悔した。
どんな物語だったのかも気になる。
だから、とりあえずヒッチが落ち着くのを待ってから、どうヤバかったのかを訊ねてみた。
ポニーテールの似合うウェイトレスが持ってきたお冷を飲んで喉を潤すと、ヒッチは嬉々としてドラマのあらすじを話し始めた。
幼い頃に記憶障害を起こした少女が自分を救ってくれた若い研修医にした淡い初恋から始まるストーリーは、友人から話を聞くだけで心がドキドキした。
「それで、彼が作った魔法の薬でヒロインは、記憶を取り戻すの。」
「だから、薬の名前がGlass shoesなのね。」
「そう!シンデレラの魔法使いが唯一永遠に消えない魔法で作ったガラスの靴が
その薬の名前の由来なのよ。だからきっと、ヒロインは永遠に記憶を失うことはないの。」
ヒッチは祈るように両手を握ると、目を閉じて恍惚の表情を浮かべる。
かなり陶酔しているようだけれど、確かにとても素敵な物語だ。
私もそんな人生に一度きりの大恋愛をしてみたい。
でも、ヒッチから聞いたあらすじ、というか物語のネタバレも含めたすべてに、1つだけ、気になることがあったのだ。
「ねぇ、何年か前に茶道家のお姫様と王子様が結婚するって
テレビのニュースで話題になって、結局破談になったってあったよね?」
「よく気づきました!!」
ヒッチが威張ったように、親指と人差し指でパチンと音を鳴らした。
そして、実はねー、とニンマリと口の端を上げる。
「そのドラマ、ノンフィクションなの。」
「やっぱり、テレビに出てた茶道家のお姫様だったんだ。」
「そう!調べてみたら、魔法使いさんが書いた日記を見つけた友達が
面白がって知り合いのテレビ関係者に見せたら、ドラマになっちゃったんだって。
魔法使いさんはすごく怒ってたって、ドラマ制作者のコメントに書いてあった。」
「そ、そうなんだ…。」
ヒッチが可笑しそうに言うから、アハハと笑ってはみたけれど、魔法使いさんに同情した。
それでも、ドラマになるということは、最終的に魔法使いさんからOKが出たのだろうが、不本意だったに違いない。
話を聞く感じだと、魔法使いさんは、あまり目立ちたがりなイメージは湧かなかったから。
「それでね、魔法使いさんの顔写真を見たいだろうと思って
このヒッチ様!!見つけて参りました!!」
ヒッチは自慢気に言いながら、ジャジャーンとスマホの画面を見せて来た。
ミーナは少し身体を前のめりにする。
スマホに表示されているのは、Hangeというアカウントのインスタ画面だった。
この人が、魔法使いさんの友人で、大切な日記をテレビ関係者に見せた張本人なのだそうだ。
公表している情報ではないが、噂話が大好きなヒッチはありとあらゆるサイトを調べ上げて、見つけ出したらしい。
それにしても、鍵のかかっているアカウントなのに、昨日の今日でフォロー許可まで貰っている親友に、毎度のことながら感心してしまう。
「でね、これがヒロインと魔法使いさんの結婚式の写真。」
たくさん並んでいる画像を何度もスクロールして、1枚をタップした。
それは、ウェディングドレス姿の花嫁とタキシード姿の花婿が並んで立って、指切りをしている写真だった。
「素敵な写真だね。」
「でしょ!めっちゃイケメンでしょ!!ヤバイよね!!」
ヒッチが興奮気味に、またヤバイを連呼し始めた。
ここで冒頭の「ヤバイ」に繋がるらしい。
ヒッチらしいと思いながら、ミーナはクスリと笑った。
ちょうどそこへ、注文していたランチセットが運ばれてきた。
「おまたせっした~。」
敬語のなっていないポンコツウェイターが、ヒッチとミーナの前にランチセットを並べる。
見事に注文したものと違う。
だが、とても美味しそうだ。
普段絶対に注文しないようなセットだし、たまにはいいかー。
ヒッチもミーナをそんな気持ちにしてしまうくらいに鼻と腹をくすぐるいい匂いだ。
これもきっとこの喫茶店の楽しみ方なのだろう。
結局、彼女達はポンコツウェイターに文句を言うのは止めて、間違ったランチセットを受け入れた。