◇78ページ◇唇に落ちる魔法の夜
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庭の草木は冷たい風に吹かれて揺れていた。
真冬の寒空の下、4人掛けのソファに並んで座る私とリヴァイさんは、1つの毛布をお互いの肩にかけて暖をとっていた。
右肩に触れるリヴァイさんの左肩から熱が伝わって、寒くない。
でも、心臓が痛いし、苦しい。
この前の検査では、心臓外科の先生から、何も問題はないとお墨付きを貰っている。
でも、そんなはずはない。
だって、総ちゃん以外の男の人の隣で、ドキドキする心臓なんて問題だらけだ。
治さなきゃ、ちゃんと、治さなくちゃー。
「ねぇ、リヴァイさん。」
「ん?」
途方に暮れるほどに綺麗な夜空を見上げながら、私はリヴァイさんに言った。
リヴァイさんも夜空を見上げながら答える。
「魔法使いなんですよね?」
「あぁ、そうだな。」
「私の記憶、戻せるんですよね?」
「あぁ、戻せる。名前が望むなら、準備はもう出来てる。」
「それなら、記憶を戻したいです。」
私の覚悟を聞いて、夜空を見上げていたリヴァイさんが、視線を落とした。
目が合うと、沈黙が流れる。
緊張しながら答えを待っていれば、リヴァイさんが口を開いた。
「ずっと考えてた。でも、正直、俺は分からない。
本当に記憶を戻してもいいのか。」
「どうしてですか?」
「名前が想像する記憶と本当の記憶が…、同じとは限らないだろう?
ショックを受けるかもしれない。」
「それでも、今よりはマシです!」
大きくなった私の声が、静かな夜空の下で焦るように走った。
リヴァイさんは、悩んでいるみたいだった。
でも、私の気持ちは決まっている。
どんな手を使ったって構わない。
私は、何としてでも記憶を戻さなくちゃならないのだ。
ずっとずっと昔から総ちゃんだけを見つめて来た記憶を戻して、心から愛して、結婚したい。
長い長い夢を見て目が覚めたとき、私は、茶道の家元の王子様と結婚できる、茶道の家元のお姫様だった。
皆が祝福してくれていた。
誰に会っても、良かったねって言われた。
だから私はー。
そうじゃなきゃいけないんだ、私はー。
そうじゃなきゃ、私はー。
私はー。
「だから…、昨日みたいな魔法のキスを、私にしてください…!」
リヴァイさんの目を見て、私はハッキリと懇願した。
過去の私がどうだったのかなんて知らない。
でも、これは今の私にとって人生で一番の勇気を出したお願いだった。
驚いたリヴァイさんの目が、大きく見開かれた。
何かを言おうとしたのか、リヴァイさんの唇が少しだけ開いたけれど、すぐにまた閉じてしまう。
シンデレラを想っている魔法使いは、お姫様なんて見てない。
魔法の世界に焦がれている寂しそうな横顔を見つめていた私は、知ってる。
でも、今夜だけ、私に魔法をかけてー。
願いが届いたのかは分からない。
リヴァイさんの華奢な手が、ゆっくりと私の頬に触れた。
いつも悲しそうにシンデレラを想っている綺麗な切れ長の三白眼が、今だけ、私を真っすぐに見つめている。
もっと見ていたくなってしまったから、私は瞼を閉じた。
それからすぐに、唇が重なった。
外気に晒されていた冷えていた唇は冷たくて、触れた瞬間にキュッと心臓が苦しくなった。
これが魔法のキスだろうかー。
そんなことを思いながら私は、リヴァイさんのセーターの腕の部分を握りしめる。
それに応えるように、リヴァイさんの腕が私の腰にまわって抱き寄せられた。
その拍子に、2人の肩にかかっていた毛布が落ちていった。
でも、構わなかった。
さっきまで凍えるくらいに寒かったのに、リヴァイさんの腕の中は暖かくて、すごく安心するから。
これが、魔法の力だろうかー。
ううん、違う。知ってる。
私はもう、この力が何なのかを知ってる。
記憶がはないはずなのに、私の心と身体は、この心臓の痛みと苦しみの理由を理解していた。
そしてそれは、私が総ちゃんのことを心から愛していたという証拠だったー。
だから、これが魔法のキスなのか、そうじゃないのかなんて、どうだっていいのだ。
重なるだけだったリヴァイさんの薄い唇が、まるで、真っ赤な林檎を味わうみたいな深いキスを落とす。
それが、私に魔法をかける。
理性も、大切な人達への優しさも消えていって、残ったのは女としての欲望と、抱いてはいけない気持ちだけー。
甘くて苦い紅茶の味がする舌が絡んで、吸いついては離れて行くから、私の舌が追いかける。
お互いがお互いを求めているみたいだった。
リヴァイさんのシンデレラは私なんじゃないかって、勘違いしてしまいそうになるくらいに優しくて、愛のこもったキスに、私は泣きそうだった。
そんな心とは裏腹に、私の身体は求められるままにリヴァイさんに脱がされていく。
総ちゃんには触れさせなかった胸に、リヴァイさんの手が触れた。
「ぁ…っ。」
私も聞いたことのないような高い声が、重なる唇の隙間から漏れて恥ずかしくなる。
もうやめてー。
もうやめなくちゃー。
いや、やめないでー。
魔力を放つキスに脳みそがとろけて、頭の中がグチャグチャになりそうだ。
「もう…っ、大丈夫です…っ。」
リヴァイさんの胸元を押し返して顔を伏せ、これより先に進むことを拒んだ。
はだけたシャツから覗く肌は外気に晒されていたはずなのに、とても火照っていた。
でもきっとすぐにまた、寒く凍えるんだろう。
本当はまだ触れていてほしかった。
だから私は、器用に外された下着からこぼれた胸を隠すようにシャツを握りしめた。
まださっきまでの熱が残っていたはずの手は、僅かに震えていた。
「本当にやめちまっていいのか。」
リヴァイさんの手が、私の両手首を掴んだ。
震えがピタリと止まって、思わず顔を上げてしまう。
私のすべてを見抜きそうな鋭い三白眼が怖い。
思わず目を反らしてしまった私から出てくるのは、嘘ばかりだった。
「思い出した、から…っ。」
「…何を?」
「私が、子供の頃から、総ちゃんのことが好きで好きで仕方なくて、それでー。」
「嘘だな。」
キッパリと言い切ったリヴァイさんは、掴んでいた私の手首を自分の方に引き寄せた。
倒れていく私の身体をさらに引き寄せるように後頭部にまわった手が、強引に唇を重ねさせる。
また、魔法のキスが始まってしまった。
啄むようなキスが、魔力を持って私を闇に落とそうとしてくるようだった。
あぁ、でもこのまま、リヴァイさんの魔法に捕らえられた方が幸せなのかもしれない。
だってそうすればきっと、私はずっと魔法の時間の中にいられる。
たとえそれが、悪夢ような苦しみをともなうのだとしたって、リヴァイさんのいない記憶の世界で生きるよりはずっとー。
「ダメ、です…っ。」
リヴァイさんの胸元を押し返した。
伏せた瞳から、涙が零れて落ちて、スカートに染みを作っていく。
リヴァイさんの指が、頬に触れて拭おうとしてくれたけれど、ビクリと私の身体が震えると、呆気なく離れていった。
それが寂しくて、愚かな私の手はリヴァイさんを追いかける。
リヴァイさんの手を掴まえれば、その代わりに、私の視線がリヴァイさんの三白眼に捕らえられてしまった。
「本当に嫌ならやめる。」
「…っ。」
嫌ですー。
そう言えれば、私はきっと泣いたりしてない。
唇を噛んで、目を伏せた。
どうしようもない沈黙が流れたけれど、リヴァイさんは答えを待ってくれているようだった。
でも、本当の気持ちなんて言えない。
誰も望んでない。
私は、忘れなくちゃいけない。
顔を伏せたまま、私はリヴァイさんに訊ねた。
「リヴァイさんは…、王子様と結婚するシンデレラを想い続けるのは、
怖くないんですか?」
「想えなくなる方が怖い。」
「そう、ですか…。」
私の声は萎んでいく。
リヴァイさんのシンデレラへの強い想いを思い知ったと同時に、その気持ちが痛いほどに分かりすぎて、胸が苦しくなった。
涙が止まることなく零れては、頬を伝って落ちていく。
「でも、シンデレラが迷惑だって言うなら、姿を永遠に消すことくらいならしてやれる。」
リヴァイさんは迷いなく告げた。
きっと、それは今思ったことを口にしたわけじゃなくて、ずっとずっと前から、心の準備をして覚悟していたことなのだろう。
切ない想いを知ってしまって、キュッと胸が締め付けられる。
「だから、教えてくれ。」
リヴァイさんはそう言って、私の涙を拭った。
目を伏せていた私が顔を上げれば、切れ長の三白眼と視線が重なった。
綺麗な夜景を背景にして私を映すその綺麗な瞳に、私はドキンと胸を高鳴らせてしまう。
だって、まるで、リヴァイさんは、魔法の世界の夜景を見ているみたいに、愛おしそうに私を見つめていたからー。
「俺はどうしたらいい?そんな目で見られたら、分からなくなる。
消えて欲しいなら、そう言ってくれ。
そうじゃなきゃ、今すぐにでも、豪華な城と王子から攫っちまいそうなんだ。」
「どうして…、私に、聞くんですか…?」
「俺のシンデレラは、ずっと名前だけだから。」
温かい手が私の頬に添えられて、リヴァイさんが、真っすぐに私を見つめる。
これも魔法だろうか。
あぁ、もうどうでもいい。リヴァイさんのシンデレラに、私がなれるなら、他にはなんにも要らないのー。
気づけば私は、魔力に抗えずに口を開いていた。
「…攫ってー。」
そこから先はもう、覚えてない。
熱い唇に魅せられた、魔法の世界のことしかー。
魔法が解けて、カボチャの馬車はもうないし、ドレスもボロボロなの
それでも、私の手を握って、一緒に逃げてくれる?
隣にいてもどこか遠くを見ていたはずの名前の瞳が、今夜はあの魔法のような日々に戻ったように見えた。
魔力のあるキスさえもあの頃のままで、俺の思考をグチャグチャにする。
今すぐに攫ってしまいたい。
今度こそ、心にも身体にも俺を刻みつけたかった。
たとえば、辛い記憶なら忘れてくれて構わないのだ。
代わりに俺が覚えていればいいだけだから。
笑った名前も、泣いていた名前も、怒らせたことも、一緒に過ごした日々も、俺は絶対に忘れないから。
でも、名前が俺を求めてくれたら、俺は何だってする。
豪華な城の要塞にだって立ち向かうし、お姫様を守る兵士達とだって戦える。
どんなに手強い王子だって、俺の敵じゃない。
ただ、名前が俺を愛してくれるなら、俺は無敵だ。
魔法使いにだって、人類最強の兵士にだってなれるのだ。
だから言って。攫ってもいいのだとー。
真冬の寒空の下、4人掛けのソファに並んで座る私とリヴァイさんは、1つの毛布をお互いの肩にかけて暖をとっていた。
右肩に触れるリヴァイさんの左肩から熱が伝わって、寒くない。
でも、心臓が痛いし、苦しい。
この前の検査では、心臓外科の先生から、何も問題はないとお墨付きを貰っている。
でも、そんなはずはない。
だって、総ちゃん以外の男の人の隣で、ドキドキする心臓なんて問題だらけだ。
治さなきゃ、ちゃんと、治さなくちゃー。
「ねぇ、リヴァイさん。」
「ん?」
途方に暮れるほどに綺麗な夜空を見上げながら、私はリヴァイさんに言った。
リヴァイさんも夜空を見上げながら答える。
「魔法使いなんですよね?」
「あぁ、そうだな。」
「私の記憶、戻せるんですよね?」
「あぁ、戻せる。名前が望むなら、準備はもう出来てる。」
「それなら、記憶を戻したいです。」
私の覚悟を聞いて、夜空を見上げていたリヴァイさんが、視線を落とした。
目が合うと、沈黙が流れる。
緊張しながら答えを待っていれば、リヴァイさんが口を開いた。
「ずっと考えてた。でも、正直、俺は分からない。
本当に記憶を戻してもいいのか。」
「どうしてですか?」
「名前が想像する記憶と本当の記憶が…、同じとは限らないだろう?
ショックを受けるかもしれない。」
「それでも、今よりはマシです!」
大きくなった私の声が、静かな夜空の下で焦るように走った。
リヴァイさんは、悩んでいるみたいだった。
でも、私の気持ちは決まっている。
どんな手を使ったって構わない。
私は、何としてでも記憶を戻さなくちゃならないのだ。
ずっとずっと昔から総ちゃんだけを見つめて来た記憶を戻して、心から愛して、結婚したい。
長い長い夢を見て目が覚めたとき、私は、茶道の家元の王子様と結婚できる、茶道の家元のお姫様だった。
皆が祝福してくれていた。
誰に会っても、良かったねって言われた。
だから私はー。
そうじゃなきゃいけないんだ、私はー。
そうじゃなきゃ、私はー。
私はー。
「だから…、昨日みたいな魔法のキスを、私にしてください…!」
リヴァイさんの目を見て、私はハッキリと懇願した。
過去の私がどうだったのかなんて知らない。
でも、これは今の私にとって人生で一番の勇気を出したお願いだった。
驚いたリヴァイさんの目が、大きく見開かれた。
何かを言おうとしたのか、リヴァイさんの唇が少しだけ開いたけれど、すぐにまた閉じてしまう。
シンデレラを想っている魔法使いは、お姫様なんて見てない。
魔法の世界に焦がれている寂しそうな横顔を見つめていた私は、知ってる。
でも、今夜だけ、私に魔法をかけてー。
願いが届いたのかは分からない。
リヴァイさんの華奢な手が、ゆっくりと私の頬に触れた。
いつも悲しそうにシンデレラを想っている綺麗な切れ長の三白眼が、今だけ、私を真っすぐに見つめている。
もっと見ていたくなってしまったから、私は瞼を閉じた。
それからすぐに、唇が重なった。
外気に晒されていた冷えていた唇は冷たくて、触れた瞬間にキュッと心臓が苦しくなった。
これが魔法のキスだろうかー。
そんなことを思いながら私は、リヴァイさんのセーターの腕の部分を握りしめる。
それに応えるように、リヴァイさんの腕が私の腰にまわって抱き寄せられた。
その拍子に、2人の肩にかかっていた毛布が落ちていった。
でも、構わなかった。
さっきまで凍えるくらいに寒かったのに、リヴァイさんの腕の中は暖かくて、すごく安心するから。
これが、魔法の力だろうかー。
ううん、違う。知ってる。
私はもう、この力が何なのかを知ってる。
記憶がはないはずなのに、私の心と身体は、この心臓の痛みと苦しみの理由を理解していた。
そしてそれは、私が総ちゃんのことを心から愛していたという証拠だったー。
だから、これが魔法のキスなのか、そうじゃないのかなんて、どうだっていいのだ。
重なるだけだったリヴァイさんの薄い唇が、まるで、真っ赤な林檎を味わうみたいな深いキスを落とす。
それが、私に魔法をかける。
理性も、大切な人達への優しさも消えていって、残ったのは女としての欲望と、抱いてはいけない気持ちだけー。
甘くて苦い紅茶の味がする舌が絡んで、吸いついては離れて行くから、私の舌が追いかける。
お互いがお互いを求めているみたいだった。
リヴァイさんのシンデレラは私なんじゃないかって、勘違いしてしまいそうになるくらいに優しくて、愛のこもったキスに、私は泣きそうだった。
そんな心とは裏腹に、私の身体は求められるままにリヴァイさんに脱がされていく。
総ちゃんには触れさせなかった胸に、リヴァイさんの手が触れた。
「ぁ…っ。」
私も聞いたことのないような高い声が、重なる唇の隙間から漏れて恥ずかしくなる。
もうやめてー。
もうやめなくちゃー。
いや、やめないでー。
魔力を放つキスに脳みそがとろけて、頭の中がグチャグチャになりそうだ。
「もう…っ、大丈夫です…っ。」
リヴァイさんの胸元を押し返して顔を伏せ、これより先に進むことを拒んだ。
はだけたシャツから覗く肌は外気に晒されていたはずなのに、とても火照っていた。
でもきっとすぐにまた、寒く凍えるんだろう。
本当はまだ触れていてほしかった。
だから私は、器用に外された下着からこぼれた胸を隠すようにシャツを握りしめた。
まださっきまでの熱が残っていたはずの手は、僅かに震えていた。
「本当にやめちまっていいのか。」
リヴァイさんの手が、私の両手首を掴んだ。
震えがピタリと止まって、思わず顔を上げてしまう。
私のすべてを見抜きそうな鋭い三白眼が怖い。
思わず目を反らしてしまった私から出てくるのは、嘘ばかりだった。
「思い出した、から…っ。」
「…何を?」
「私が、子供の頃から、総ちゃんのことが好きで好きで仕方なくて、それでー。」
「嘘だな。」
キッパリと言い切ったリヴァイさんは、掴んでいた私の手首を自分の方に引き寄せた。
倒れていく私の身体をさらに引き寄せるように後頭部にまわった手が、強引に唇を重ねさせる。
また、魔法のキスが始まってしまった。
啄むようなキスが、魔力を持って私を闇に落とそうとしてくるようだった。
あぁ、でもこのまま、リヴァイさんの魔法に捕らえられた方が幸せなのかもしれない。
だってそうすればきっと、私はずっと魔法の時間の中にいられる。
たとえそれが、悪夢ような苦しみをともなうのだとしたって、リヴァイさんのいない記憶の世界で生きるよりはずっとー。
「ダメ、です…っ。」
リヴァイさんの胸元を押し返した。
伏せた瞳から、涙が零れて落ちて、スカートに染みを作っていく。
リヴァイさんの指が、頬に触れて拭おうとしてくれたけれど、ビクリと私の身体が震えると、呆気なく離れていった。
それが寂しくて、愚かな私の手はリヴァイさんを追いかける。
リヴァイさんの手を掴まえれば、その代わりに、私の視線がリヴァイさんの三白眼に捕らえられてしまった。
「本当に嫌ならやめる。」
「…っ。」
嫌ですー。
そう言えれば、私はきっと泣いたりしてない。
唇を噛んで、目を伏せた。
どうしようもない沈黙が流れたけれど、リヴァイさんは答えを待ってくれているようだった。
でも、本当の気持ちなんて言えない。
誰も望んでない。
私は、忘れなくちゃいけない。
顔を伏せたまま、私はリヴァイさんに訊ねた。
「リヴァイさんは…、王子様と結婚するシンデレラを想い続けるのは、
怖くないんですか?」
「想えなくなる方が怖い。」
「そう、ですか…。」
私の声は萎んでいく。
リヴァイさんのシンデレラへの強い想いを思い知ったと同時に、その気持ちが痛いほどに分かりすぎて、胸が苦しくなった。
涙が止まることなく零れては、頬を伝って落ちていく。
「でも、シンデレラが迷惑だって言うなら、姿を永遠に消すことくらいならしてやれる。」
リヴァイさんは迷いなく告げた。
きっと、それは今思ったことを口にしたわけじゃなくて、ずっとずっと前から、心の準備をして覚悟していたことなのだろう。
切ない想いを知ってしまって、キュッと胸が締め付けられる。
「だから、教えてくれ。」
リヴァイさんはそう言って、私の涙を拭った。
目を伏せていた私が顔を上げれば、切れ長の三白眼と視線が重なった。
綺麗な夜景を背景にして私を映すその綺麗な瞳に、私はドキンと胸を高鳴らせてしまう。
だって、まるで、リヴァイさんは、魔法の世界の夜景を見ているみたいに、愛おしそうに私を見つめていたからー。
「俺はどうしたらいい?そんな目で見られたら、分からなくなる。
消えて欲しいなら、そう言ってくれ。
そうじゃなきゃ、今すぐにでも、豪華な城と王子から攫っちまいそうなんだ。」
「どうして…、私に、聞くんですか…?」
「俺のシンデレラは、ずっと名前だけだから。」
温かい手が私の頬に添えられて、リヴァイさんが、真っすぐに私を見つめる。
これも魔法だろうか。
あぁ、もうどうでもいい。リヴァイさんのシンデレラに、私がなれるなら、他にはなんにも要らないのー。
気づけば私は、魔力に抗えずに口を開いていた。
「…攫ってー。」
そこから先はもう、覚えてない。
熱い唇に魅せられた、魔法の世界のことしかー。
魔法が解けて、カボチャの馬車はもうないし、ドレスもボロボロなの
それでも、私の手を握って、一緒に逃げてくれる?
隣にいてもどこか遠くを見ていたはずの名前の瞳が、今夜はあの魔法のような日々に戻ったように見えた。
魔力のあるキスさえもあの頃のままで、俺の思考をグチャグチャにする。
今すぐに攫ってしまいたい。
今度こそ、心にも身体にも俺を刻みつけたかった。
たとえば、辛い記憶なら忘れてくれて構わないのだ。
代わりに俺が覚えていればいいだけだから。
笑った名前も、泣いていた名前も、怒らせたことも、一緒に過ごした日々も、俺は絶対に忘れないから。
でも、名前が俺を求めてくれたら、俺は何だってする。
豪華な城の要塞にだって立ち向かうし、お姫様を守る兵士達とだって戦える。
どんなに手強い王子だって、俺の敵じゃない。
ただ、名前が俺を愛してくれるなら、俺は無敵だ。
魔法使いにだって、人類最強の兵士にだってなれるのだ。
だから言って。攫ってもいいのだとー。