◇77ページ◇魔法のキス
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今夜も、ティーカップの縁を上から包むように持ち上げて、リヴァイさんは独特な飲み方で紅茶を口に運んだ。
隣に座る私も、ティーカップを両手で包むように持って、その温もりで身体を温めた。
0時過ぎから始まるこの時間に名前はない。
だって、何と呼んだらいいのだろう。
名前をつけてしまったらいけない気がするのだ。
「…どうかしたのか?」
隣に座る私の視線が痛かったのか、リヴァイさんがティーカップを持ったままで訊ねた。
でも、今夜、訊きたいことがあるのはこっちの方だ。
私は、ティーカップをソーサーの上に置いてから、口を開いた。
「どうして私の名前を知ってたんですか?」
「病室のネームプレートを見たからだって言っただろ。」
「この病室、ネームプレートないんです。
今日、看護師さんからも聞きました。ここはつけないんだって。」
「あ~…、それなら、この前、免許証を拾ったときに名前を見たのかもな。」
リヴァイ先生は、一瞬だけ、目を泳がせた気がした。
でも、口ごもることもしないで、スラスラと答えが返って来た。
「じゃあ、リヴァイ先生って何科の先生ですか?」
「…どうしたんだ、今日は。尋問みてぇだな。」
「今日、この病院の名簿を見たんです。
どこを探しても、リヴァイ先生の名前はありませんでした。」
「あぁ…。」
小さな声を漏らしたリヴァイ先生は、そういうことか、と納得したようだった。
きっと、私に嘘を吐いていたのだと思う。
でも、焦ったような様子は全くなかった。
リヴァイ先生は、いつものように冷静で、落ち着いていた。
むしろ、私の方が緊張していたと思う。
「リヴァイ先生は、本当に魔法使いなんですか?」
緊張した私の声は、情けないくらいに震えていた。
病院名簿にリヴァイ先生の名前がなかった理由や、私の名前をリヴァイ先生知っていた理由を、今日、1日中ずっと考えていた。
でも、こんな子供みたいな答えしか出て来なかった。
きっと、昨日の夜、シンデレラの魔法使いだなんてリヴァイ先生が言ったせいだ。
だから私、リヴァイ先生が私にとっての魔法使いだったらいいな、なんて思ってしまってー。
だって、ずっと会いたかったから。魔法使いに会いたかった。
だからこれは、願いを込めた質問だった。
リヴァイさんはすぐには答えずに、独特な持ち方で持っていたティーカップをソーサーの上にそっと乗せた。
それでも、静かな部屋にはカチャッと陶器がぶつかり合う音が響いた。
それは、心臓の音と重なって、まるで反響しあうエコーのように私の耳に届いた。
リヴァイ先生が、私の方を向く。
そして、ゆっくりと口を開く。
私は緊張して唾を飲み込んだ。
「だったら、どうする?」
「え、」
「記憶、戻してやろうか。」
リヴァイ先生が、私の頬に触れた。
さっきまでティーカップを持っていた手は温かくて、とても気持ちがよかった。
だから、思わず目を閉じてしまってー。
柔らかい紅茶の香りがする息遣いを、すぐ近くに感じた。
あぁ、きっと触れるー。
リヴァイ先生の唇が、私に触れるー。
(ダメだ…っ。)
頭の奥で、もう1人の私が叫んだ。
理性が、私の両腕に指示を出して、リヴァイ先生を突き飛ばしたー。
そのはずだったのに、私の身体はピクリとも動かずに、ただただリヴァイ先生の唇を待ちわびた。
唇が重なった、その瞬間だった。
頭の中が眩い光に包まれたみたいに、真っ白になった。
『魔法使いさん、ずーーーーっと大好き!!』
一瞬だけ無邪気に笑う少女が見えて、嬉しそうな声が頭の奥で響いた。
それに驚いて、私はリヴァイ先生の胸元を両手で思いっきり押して突き飛ばした。
リヴァイ先生の驚いた顔が見えた気がしたけれど、私はそれどころじゃなかった。
(何…っ、今の…っ。)
私は両手で頭を抱えた。
「どうした、頭が痛ぇのか?」
リヴァイ先生が心配そうに言って、私の肩に触れた。
私は、何と答えればいいのか分からずに、必死に首を横に振る。
頭が痛いわけじゃない。でも、何かが響いている。
誰かの声だと思う。でも、エコーがかかっているみたいなそれは、何を言っているのか分からない。
「何か…思い出したのか?」
「わかんない…っ、女の子が…っ。」
「女の子?」
「やだ…っ、怖い…っ。」
頭を抱えて、私は泣きそうだった。
怖い。何が起こったのか分からなくて、怖くて仕方がなかった。
私の肩に触れていたリヴァイ先生は、身体の震えに気づいたのだと思う。
華奢な腕で、私を抱きしめてくれた。
総ちゃんよりもだいぶ小さいリヴァイ先生のそれは、包み込むとは違っていたと思う。
でも、紅茶の香りと、細いのに強い腕の力、そしてー。
「俺がいる。大丈夫だ。」
リヴァイ先生の低くて優しい声が、私を安心させてくれた。
この腕の中にいれば、私はどんな苦しみも悲しみも乗り越えられるような、そんな気持ちになる。
あぁ、前にも同じことを思ったことがある。
怖くて不安で仕方がなかったけど、きっと大丈夫だって、信じたのだ。
この腕の中にいれば、魔法はずっと続くってーーーーーー
隣に座る私も、ティーカップを両手で包むように持って、その温もりで身体を温めた。
0時過ぎから始まるこの時間に名前はない。
だって、何と呼んだらいいのだろう。
名前をつけてしまったらいけない気がするのだ。
「…どうかしたのか?」
隣に座る私の視線が痛かったのか、リヴァイさんがティーカップを持ったままで訊ねた。
でも、今夜、訊きたいことがあるのはこっちの方だ。
私は、ティーカップをソーサーの上に置いてから、口を開いた。
「どうして私の名前を知ってたんですか?」
「病室のネームプレートを見たからだって言っただろ。」
「この病室、ネームプレートないんです。
今日、看護師さんからも聞きました。ここはつけないんだって。」
「あ~…、それなら、この前、免許証を拾ったときに名前を見たのかもな。」
リヴァイ先生は、一瞬だけ、目を泳がせた気がした。
でも、口ごもることもしないで、スラスラと答えが返って来た。
「じゃあ、リヴァイ先生って何科の先生ですか?」
「…どうしたんだ、今日は。尋問みてぇだな。」
「今日、この病院の名簿を見たんです。
どこを探しても、リヴァイ先生の名前はありませんでした。」
「あぁ…。」
小さな声を漏らしたリヴァイ先生は、そういうことか、と納得したようだった。
きっと、私に嘘を吐いていたのだと思う。
でも、焦ったような様子は全くなかった。
リヴァイ先生は、いつものように冷静で、落ち着いていた。
むしろ、私の方が緊張していたと思う。
「リヴァイ先生は、本当に魔法使いなんですか?」
緊張した私の声は、情けないくらいに震えていた。
病院名簿にリヴァイ先生の名前がなかった理由や、私の名前をリヴァイ先生知っていた理由を、今日、1日中ずっと考えていた。
でも、こんな子供みたいな答えしか出て来なかった。
きっと、昨日の夜、シンデレラの魔法使いだなんてリヴァイ先生が言ったせいだ。
だから私、リヴァイ先生が私にとっての魔法使いだったらいいな、なんて思ってしまってー。
だって、ずっと会いたかったから。魔法使いに会いたかった。
だからこれは、願いを込めた質問だった。
リヴァイさんはすぐには答えずに、独特な持ち方で持っていたティーカップをソーサーの上にそっと乗せた。
それでも、静かな部屋にはカチャッと陶器がぶつかり合う音が響いた。
それは、心臓の音と重なって、まるで反響しあうエコーのように私の耳に届いた。
リヴァイ先生が、私の方を向く。
そして、ゆっくりと口を開く。
私は緊張して唾を飲み込んだ。
「だったら、どうする?」
「え、」
「記憶、戻してやろうか。」
リヴァイ先生が、私の頬に触れた。
さっきまでティーカップを持っていた手は温かくて、とても気持ちがよかった。
だから、思わず目を閉じてしまってー。
柔らかい紅茶の香りがする息遣いを、すぐ近くに感じた。
あぁ、きっと触れるー。
リヴァイ先生の唇が、私に触れるー。
(ダメだ…っ。)
頭の奥で、もう1人の私が叫んだ。
理性が、私の両腕に指示を出して、リヴァイ先生を突き飛ばしたー。
そのはずだったのに、私の身体はピクリとも動かずに、ただただリヴァイ先生の唇を待ちわびた。
唇が重なった、その瞬間だった。
頭の中が眩い光に包まれたみたいに、真っ白になった。
『魔法使いさん、ずーーーーっと大好き!!』
一瞬だけ無邪気に笑う少女が見えて、嬉しそうな声が頭の奥で響いた。
それに驚いて、私はリヴァイ先生の胸元を両手で思いっきり押して突き飛ばした。
リヴァイ先生の驚いた顔が見えた気がしたけれど、私はそれどころじゃなかった。
(何…っ、今の…っ。)
私は両手で頭を抱えた。
「どうした、頭が痛ぇのか?」
リヴァイ先生が心配そうに言って、私の肩に触れた。
私は、何と答えればいいのか分からずに、必死に首を横に振る。
頭が痛いわけじゃない。でも、何かが響いている。
誰かの声だと思う。でも、エコーがかかっているみたいなそれは、何を言っているのか分からない。
「何か…思い出したのか?」
「わかんない…っ、女の子が…っ。」
「女の子?」
「やだ…っ、怖い…っ。」
頭を抱えて、私は泣きそうだった。
怖い。何が起こったのか分からなくて、怖くて仕方がなかった。
私の肩に触れていたリヴァイ先生は、身体の震えに気づいたのだと思う。
華奢な腕で、私を抱きしめてくれた。
総ちゃんよりもだいぶ小さいリヴァイ先生のそれは、包み込むとは違っていたと思う。
でも、紅茶の香りと、細いのに強い腕の力、そしてー。
「俺がいる。大丈夫だ。」
リヴァイ先生の低くて優しい声が、私を安心させてくれた。
この腕の中にいれば、私はどんな苦しみも悲しみも乗り越えられるような、そんな気持ちになる。
あぁ、前にも同じことを思ったことがある。
怖くて不安で仕方がなかったけど、きっと大丈夫だって、信じたのだ。
この腕の中にいれば、魔法はずっと続くってーーーーーー