◇71ページ◇忘れたくない人
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俺は、ファーランと一緒に入院病棟へと走っていた。
血相を変えた俺達に、すれ違う患者や医師達が、何事かと振り返っていた。
「倒れたってどういうことだ…!?」
「俺も詳しくは分からねぇけど、ナイル先生が話してるのを盗み聞きしたんだ。
昨日のパーティーの途中で、名前が急に泣き出したかと思ったら
そのまま発作起こして倒れちまったらしい。」
「クソ…ッ、どうすれば婚約披露パーティーで泣くことになるんだ…ッ!」
苛立って、舌打ちが漏れた。
名前にはもう悲しい思いをさせないために、心が引き裂かれそうだったけど、なんとか堪えて身を引いた。
そうすれば、必ず幸せにするという約束だったじゃないか。
それがどうして、婚約披露パーティーなんて幸せしかないはずの場で泣き出して、発作を起こす羽目になるのか。
どうして、俺がそばにいないときにいつもー。
「それが…。」
隣を走りながら、ファーランは何か言いたげにしながら俺をチラリと見た。
「なんだ、知ってんなら言いやがれ!
あのクソ野郎が何かしたなら、ぶん殴ってやる…!」
早く話せと急かす俺に、ファーランは少し間を開けた後に口を開いた。
「看護師の噂話を盗み聞きしただけだから、本当かは分かんねぇんだけど…。
リヴァイに、会いたいって泣き出したって…。」
「は?」
俺からは、掠れた声が漏れた。
ファーランが何を言っているのか、理解出来なかった。
だって、名前は記憶を失って、今ではもう俺の名前すら知らないのだ。
顔を見たって、誰だか分からなかった。
「どういうことだ!記憶が戻ったってことか!?」
思わず期待してしまって、俺は立ち止まってファーランの肩を掴んだ。
すれ違う看護師に訝し気見られて、ファーランが慌てて近くの使っていない部屋に俺を引っ張った。
普段は、医師が患者やその家族に病気の告知をするときに使うその部屋は、冷たいくらいの白に囲まれていて、テーブルの上にとりあえず置かれた花瓶の花が虚しく見えた。
「記憶は戻ってない。」
ゆっくりと閉めた扉を背に、ファーランが言った。
俺は眉間に皴を寄せる。
「俺に会いてぇと泣いたんだろ。アイツは俺のことを覚えてなかった。」
「それがどういうことかは俺も分からねぇけど、
ここに来る前に名前のカルテを見て来たんだ。」
「…それで、何て書いてた。」
「運ばれてすぐにとったCTとMRIの結果は、前回と変わってなかった。
病状が悪化したわけじゃない。でも、記憶が消えた。」
「消えた?」
「前回倒れたときに、エルヴィンの新薬で、
とりあえず記憶の定着は出来るようになったのは知ってるだろ?」
俺が頷くと、ファーランは、カルテに書かれていた内容を詳しく説明し始めた。
画像診断の検査結果は、問題ない。
鎮痛剤で眠っていた名前だったが、今日の早朝に目が覚めて、受け答えも問題なかった。
でも、エルヴィンの新薬で定着できるようになっていた記憶が、消えていた。
名前はまた、記憶喪失に戻ったのだ。
母親の顔も名前も、ナイルのことも、自分がなぜ病院に運ばれたのかも、何も分からなかったのだそうだ。
「昨日の夜勤看護師がアンカ達で、発作起こして倒れて意識がなかった名前が
真夜中に目を覚ましたらしいんだ。」
「鎮痛剤で寝てたんじゃねぇのか?」
「その鎮痛剤を打ったのが、夜中なんだ。」
「夜中に?」
「リヴァイさんに会いたいって泣き喚いて大変だったらしいって、
申し送り終わった後に日勤の看護師達が話してるの聞いた。」
ファーランが、少し目を伏せた。
記憶のない名前が―?
そこまで考えて、ハッとした俺は、バッグからスマホを取り出した。
そこには、エルディア病院やアンカからの真夜中の大量の着信履歴が残っている。
「もしかして、電話来てたのか?」
「クソッ。」
壊れてしまいたいくらいに強くスマホを握りしめた手で、自分の額を叩いた。
まだ、二日酔いで頭がガンガンする。
頭が痛い。
記憶を失っても尚、名前は俺を求めてくれていたのに、そばにいてやれなかった。
悔しくて、悔しくて、自分に腹が立った。
「仕方ねぇよ。夜中だし、誰も気づかねぇって。」
「パーティーの途中で泣き出したのも、俺のせいなのか…?」
「カルテには、パーティー会場に来てない客人を探してるときに、
もう二度とその人には会えないって母親に言われて泣き出したって書いてた。
俺は、それは、リヴァイのことだと思った。」
なんとも言えない顔をしながらも、ファーランは、事実を話してくれた。
血相を変えた俺達に、すれ違う患者や医師達が、何事かと振り返っていた。
「倒れたってどういうことだ…!?」
「俺も詳しくは分からねぇけど、ナイル先生が話してるのを盗み聞きしたんだ。
昨日のパーティーの途中で、名前が急に泣き出したかと思ったら
そのまま発作起こして倒れちまったらしい。」
「クソ…ッ、どうすれば婚約披露パーティーで泣くことになるんだ…ッ!」
苛立って、舌打ちが漏れた。
名前にはもう悲しい思いをさせないために、心が引き裂かれそうだったけど、なんとか堪えて身を引いた。
そうすれば、必ず幸せにするという約束だったじゃないか。
それがどうして、婚約披露パーティーなんて幸せしかないはずの場で泣き出して、発作を起こす羽目になるのか。
どうして、俺がそばにいないときにいつもー。
「それが…。」
隣を走りながら、ファーランは何か言いたげにしながら俺をチラリと見た。
「なんだ、知ってんなら言いやがれ!
あのクソ野郎が何かしたなら、ぶん殴ってやる…!」
早く話せと急かす俺に、ファーランは少し間を開けた後に口を開いた。
「看護師の噂話を盗み聞きしただけだから、本当かは分かんねぇんだけど…。
リヴァイに、会いたいって泣き出したって…。」
「は?」
俺からは、掠れた声が漏れた。
ファーランが何を言っているのか、理解出来なかった。
だって、名前は記憶を失って、今ではもう俺の名前すら知らないのだ。
顔を見たって、誰だか分からなかった。
「どういうことだ!記憶が戻ったってことか!?」
思わず期待してしまって、俺は立ち止まってファーランの肩を掴んだ。
すれ違う看護師に訝し気見られて、ファーランが慌てて近くの使っていない部屋に俺を引っ張った。
普段は、医師が患者やその家族に病気の告知をするときに使うその部屋は、冷たいくらいの白に囲まれていて、テーブルの上にとりあえず置かれた花瓶の花が虚しく見えた。
「記憶は戻ってない。」
ゆっくりと閉めた扉を背に、ファーランが言った。
俺は眉間に皴を寄せる。
「俺に会いてぇと泣いたんだろ。アイツは俺のことを覚えてなかった。」
「それがどういうことかは俺も分からねぇけど、
ここに来る前に名前のカルテを見て来たんだ。」
「…それで、何て書いてた。」
「運ばれてすぐにとったCTとMRIの結果は、前回と変わってなかった。
病状が悪化したわけじゃない。でも、記憶が消えた。」
「消えた?」
「前回倒れたときに、エルヴィンの新薬で、
とりあえず記憶の定着は出来るようになったのは知ってるだろ?」
俺が頷くと、ファーランは、カルテに書かれていた内容を詳しく説明し始めた。
画像診断の検査結果は、問題ない。
鎮痛剤で眠っていた名前だったが、今日の早朝に目が覚めて、受け答えも問題なかった。
でも、エルヴィンの新薬で定着できるようになっていた記憶が、消えていた。
名前はまた、記憶喪失に戻ったのだ。
母親の顔も名前も、ナイルのことも、自分がなぜ病院に運ばれたのかも、何も分からなかったのだそうだ。
「昨日の夜勤看護師がアンカ達で、発作起こして倒れて意識がなかった名前が
真夜中に目を覚ましたらしいんだ。」
「鎮痛剤で寝てたんじゃねぇのか?」
「その鎮痛剤を打ったのが、夜中なんだ。」
「夜中に?」
「リヴァイさんに会いたいって泣き喚いて大変だったらしいって、
申し送り終わった後に日勤の看護師達が話してるの聞いた。」
ファーランが、少し目を伏せた。
記憶のない名前が―?
そこまで考えて、ハッとした俺は、バッグからスマホを取り出した。
そこには、エルディア病院やアンカからの真夜中の大量の着信履歴が残っている。
「もしかして、電話来てたのか?」
「クソッ。」
壊れてしまいたいくらいに強くスマホを握りしめた手で、自分の額を叩いた。
まだ、二日酔いで頭がガンガンする。
頭が痛い。
記憶を失っても尚、名前は俺を求めてくれていたのに、そばにいてやれなかった。
悔しくて、悔しくて、自分に腹が立った。
「仕方ねぇよ。夜中だし、誰も気づかねぇって。」
「パーティーの途中で泣き出したのも、俺のせいなのか…?」
「カルテには、パーティー会場に来てない客人を探してるときに、
もう二度とその人には会えないって母親に言われて泣き出したって書いてた。
俺は、それは、リヴァイのことだと思った。」
なんとも言えない顔をしながらも、ファーランは、事実を話してくれた。