◇65ページ◇魔法使い(1)
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少女の自殺未遂騒ぎがあってから、2週間が過ぎていた。
1週間前から投与を始めた点滴薬の効果がそろそろ出始める頃だ。
記憶回路を刺激する薬で、直接、影を消すようなものではないから、昨日撮ったCTとMRIからは影は消えていなかった。
でも、効果が出れば、少なくとも、記憶する、と言ことは出来るようになるはずなのだ。
外来診療を終えた俺は、少し緊張気味に少女の病室を訪れた。
病室の扉を開けて、中に入った途端だった。
ベッドから転がるように降りた少女が駆け寄ってきたと思ったら、そのままぶつかるように飛びつかれた。
「リヴァイ先生!!覚えてるよ!!忘れてないよ!!
昨日は、メガネのお友達のお話聞いたよ!!」
少女が俺を見上げて、嬉しそうに言った。
ハシャいでいる理由が分かった俺は、驚いた。
そして、ひどく安心した。
「いいや、ちゃんと覚えてねぇな。メガネの何だったか?」
「えーっと…、あ!メガネのきこうしゅ!!」
「正解だ。」
クシャリと髪を撫でてやれば、少女は照れ臭そうに頬を染めてとても嬉しそうにハニかんだ。
「リヴァイ先生のおかげで、忘れなくなったんでしょう?ママが言ってたよ。
リヴァイ先生は、魔法使いだったのね!」
少女は大きな瞳をキラキラと輝かせて、俺を見上げた。
「あ?」
突然現れた魔法使いという言葉に、俺は訝し気に首を傾げた。
でも、少女はそんな俺の空気は読まずに、魔法使いなんて初めて見ただとか、どうしてもっと早く教えてくれなかったのかだとか、楽しそうに喋り続けていた。
「すみません、昨日読んであげたシンデレラの本が気に入ったらしくて、
それから、魔法使いだとか、魔法だとかに憧れちゃったみたいなんです。」
「あぁ~。」
母親が困った顔をしてやってくると、俺に遠慮がちに耳打ちをした。
そういうことか、と納得してから少女を見ると、相変わらずヒーローでも見るような目で俺を見上げていた。
この2週間、毎日のように少女の病室に通って、笑顔を見てきた。
泣いたり悲しそうな顔を見たのは、あの自殺未遂騒ぎのときだけだ。
少女はいつも笑顔で、病室に訪れた皆を迎えていた。
でも、今の少女の笑顔を見ると、あれは本物ではなかったのだと思い知る。
底抜けに明るいこの笑顔がきっと、少女の本物の笑顔なのだ。
あの薬は、少女の記憶障害だけではなく、なくしていた笑顔まで取り戻させたのかー。
「あぁ、実は俺は、魔法使いなんだ。
どんな病気だって治す薬を作る魔法が得意だ。」
「わぁ…!やっぱり!!」
膝を曲げて少し屈み、少女の頭に手を乗せた俺は、魔法使いになってみた。
少女は、大きな瞳をゆっくりと見開いた。
「ママ、リヴァイ先生、本当に魔法使いだった!!」
「まぁ、そうだったの。すごいわね。ママも魔法使いなんて初めて見たわ。」
キラキラした瞳で少女がそう言えば、母親も嬉しそうに微笑んだ。
「リヴァイ先生!魔法のお話もっと聞かせて!!」
少女が俺の手を引いて、ベッドへ走った。
強引に引きずられる俺の後ろから、母親が、リヴァイ先生は忙しいんだからと声をかけたが、魔法使いにテンションの上がっている少女の耳には全く届かない。
まぁ、どうせ、医局に戻ってもナイルの雑用を押しつけられるだけだ。
ここで少女の相手をしている方が何億倍も楽だし、俺としては都合がよかった。
「ここに座って!昨日と同じように!」
ベッドに飛び乗った少女は嬉しそうに、いつものベッド脇の椅子に座るように俺を急かした。
そして、俺が椅子に座れば、魔法の世界はどんなところなのかを聞いてきた。
俺は初めて、少女との会話で、口ごもった。
1週間前から投与を始めた点滴薬の効果がそろそろ出始める頃だ。
記憶回路を刺激する薬で、直接、影を消すようなものではないから、昨日撮ったCTとMRIからは影は消えていなかった。
でも、効果が出れば、少なくとも、記憶する、と言ことは出来るようになるはずなのだ。
外来診療を終えた俺は、少し緊張気味に少女の病室を訪れた。
病室の扉を開けて、中に入った途端だった。
ベッドから転がるように降りた少女が駆け寄ってきたと思ったら、そのままぶつかるように飛びつかれた。
「リヴァイ先生!!覚えてるよ!!忘れてないよ!!
昨日は、メガネのお友達のお話聞いたよ!!」
少女が俺を見上げて、嬉しそうに言った。
ハシャいでいる理由が分かった俺は、驚いた。
そして、ひどく安心した。
「いいや、ちゃんと覚えてねぇな。メガネの何だったか?」
「えーっと…、あ!メガネのきこうしゅ!!」
「正解だ。」
クシャリと髪を撫でてやれば、少女は照れ臭そうに頬を染めてとても嬉しそうにハニかんだ。
「リヴァイ先生のおかげで、忘れなくなったんでしょう?ママが言ってたよ。
リヴァイ先生は、魔法使いだったのね!」
少女は大きな瞳をキラキラと輝かせて、俺を見上げた。
「あ?」
突然現れた魔法使いという言葉に、俺は訝し気に首を傾げた。
でも、少女はそんな俺の空気は読まずに、魔法使いなんて初めて見ただとか、どうしてもっと早く教えてくれなかったのかだとか、楽しそうに喋り続けていた。
「すみません、昨日読んであげたシンデレラの本が気に入ったらしくて、
それから、魔法使いだとか、魔法だとかに憧れちゃったみたいなんです。」
「あぁ~。」
母親が困った顔をしてやってくると、俺に遠慮がちに耳打ちをした。
そういうことか、と納得してから少女を見ると、相変わらずヒーローでも見るような目で俺を見上げていた。
この2週間、毎日のように少女の病室に通って、笑顔を見てきた。
泣いたり悲しそうな顔を見たのは、あの自殺未遂騒ぎのときだけだ。
少女はいつも笑顔で、病室に訪れた皆を迎えていた。
でも、今の少女の笑顔を見ると、あれは本物ではなかったのだと思い知る。
底抜けに明るいこの笑顔がきっと、少女の本物の笑顔なのだ。
あの薬は、少女の記憶障害だけではなく、なくしていた笑顔まで取り戻させたのかー。
「あぁ、実は俺は、魔法使いなんだ。
どんな病気だって治す薬を作る魔法が得意だ。」
「わぁ…!やっぱり!!」
膝を曲げて少し屈み、少女の頭に手を乗せた俺は、魔法使いになってみた。
少女は、大きな瞳をゆっくりと見開いた。
「ママ、リヴァイ先生、本当に魔法使いだった!!」
「まぁ、そうだったの。すごいわね。ママも魔法使いなんて初めて見たわ。」
キラキラした瞳で少女がそう言えば、母親も嬉しそうに微笑んだ。
「リヴァイ先生!魔法のお話もっと聞かせて!!」
少女が俺の手を引いて、ベッドへ走った。
強引に引きずられる俺の後ろから、母親が、リヴァイ先生は忙しいんだからと声をかけたが、魔法使いにテンションの上がっている少女の耳には全く届かない。
まぁ、どうせ、医局に戻ってもナイルの雑用を押しつけられるだけだ。
ここで少女の相手をしている方が何億倍も楽だし、俺としては都合がよかった。
「ここに座って!昨日と同じように!」
ベッドに飛び乗った少女は嬉しそうに、いつものベッド脇の椅子に座るように俺を急かした。
そして、俺が椅子に座れば、魔法の世界はどんなところなのかを聞いてきた。
俺は初めて、少女との会話で、口ごもった。