◇47ページ◇愛してはいけない人
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玄関の扉を開けて、暗がりの中で照明のスイッチを押した。
途端に明るくなる玄関ホールは、シンと静まり返っていてとても冷たく感じた。
名前がいたのなら、奥から美味しそうな夕食の匂いがして、とても温かいのにー、そんなことを思ってしまった俺から、無意識にため息がこぼれた。
たった3日なのに、早く名前に帰ってきてほしいと思っていた。
家に上がった俺は、リビングの明かりをつけると、ソファの上に鞄と脱いだばかりのコートを置いてから、その横にドカリと腰を降ろした。
ポストから雑にとってきたチラシやDMを確認していたら、宛名も差出人も書いていない白い封筒を見つけた。
中に何が入っているのか分からないが、異様に分厚い。
訝しく思いながら、棚からハサミを取り出して封を切った。
中に入っていたのは、十数枚の写真のようだった。
気持ち悪いと思いながらも取り出した俺は、そこに写っているものを見て眉を顰めた。
「なんだ、これ…。」
思わず、声が漏れてしまった。
ローテーブルの上に広げた写真のすべては、隠し撮りされたもののようだった。
おそらく、この手紙を送ってきた誰かが撮ったのだろう。
全ての写真には、共通して、名前と黒髪の長身の男の姿が写っていた。
一緒に並んで歩いているところを正面からや、横から写したものが多かった。
だが、外から車内を撮った写真では、まるで恋人のように顔を近づけて話していた。
名前が黒髪の長身の男に抱きしめられているものまであった。
これは一体何なのか理解できなかった。
誰が何のために、こんなものをー。
いや違う、俺が知りたいのはそれじゃない。
名前は今、誰と一緒にいるのか。
まさかー。
困惑しているところに、急にスマホがバイブを鳴らしたから驚いて息が止まってしまった。
なぜか名前からだと思ってしまって、コートのポケットからスマホを急いで取り出した。
だが、表示されているのは登録されていない携帯番号だった。
宛名のない白い封筒とそれが重なった。
応答ボタンを押した俺は、何も言わずにスマホを耳に押しあてた。
『もしもし、リヴァイ?』
聞こえてきたのは、聞き覚えのある女の声だった。
でも、聞きたかった名前の声じゃない。
「もう二度と俺と名前に関わったら警察に突き出すと忠告したはずだぞ、アン。」
『それなら、番号を変えておけばよかったんじゃない?
番号を変えないでいたのだって、私との繋がりがー。』
「仕事でも使うからだ。勝手な妄想を話してんじゃねぇ。」
『まぁ、そういうことにしてあげてもいいわ。
それより、私からのプレゼントは届いた?
遅くなっちゃったけど、誕生日プレゼントを贈ったんだけど。』
「さぁ、知らねぇな。そんなもん要らねぇから、もう二度と俺達にー。」
『あれ~?おかしいな、ちゃんとポストに入れたんだけどな。
見てない?白い封筒。』
「白い封筒ってまさか…。」
俺はローテーブルの上に投げ捨てられている白い封筒と数枚の写真を視線で追いかけた。
やっぱり届いていたとアンが嬉しそうな声を上げるから、耳が煩わしくてイラついた。
「お前、あの趣味の悪い写真は何の真似だ。」
『趣味の悪いとはヒドイわね。私はリヴァイに現実を見せてあげようと思っただけよ。』
「現実?」
『えぇ、そうよ。本当は、私からリヴァイを奪ったあのバカ女に痛い目を合わせようと思って
後をつけてただけなんだけど。すごいところに出くわしちゃったから、証拠の写真を撮ったの。』
アンは軽い口調で、とんでもないことを暴露した。
俺は眉間に皴を寄せて、低い声で責めた。
「やっぱり、名前に危害を加えようとしてたんだな。
名前に怪我でもさせたら、ただじゃおかねぇぞ。」
『そんなことしないわよ。
あの娘の正体を知ったら、そんな恐ろしいこともう二度と出来なくなったわ。』
こわいこわい、とアンはふざけるようにわざとらしく繰り返した。
それが馬鹿にされているみたいで、ひどく腹が立った。
『そんなことより、リヴァイ。クリスマスデートはとても楽しんだみたいね。
3年も付き合ってたのに、私はあんなことしてもらったことないわ。
いつも仕事仕事で、クリスマスさえそばにいられないときもあった。』
「そんな昔のことを愚痴るために電話したのか。」
『いいえ、あの娘の為なら魔法のデートは必要だったと思ってるわ。』
アンの声色は嫌味っぽくはなかった。
むしろ楽しそうで、気味が悪かった。
俺が眉を顰めたところへ、アンが続けた。
『ねぇ、リヴァイってもしかして、あの娘のこと何も知らないんじゃない?』
「…知ってる。」
『嘘ね。だって、あの娘が本当のことをあなたに話してるわけないもの。
あなたにだけは、絶対に知られたくないでしょうから。』
「どういうことだ。」
思わず訊ねてしまった。
『ふふ、興味を持った?あの娘ね、本物のシンデレラなのよ。』
アンの声は、楽しそうに踊っていた。
何を出だしたのか理解できなかった俺に、アンはさらに続けた。
『あの娘は、本当は灰かぶりのくせに、魔法使いに魔法をかけてもらって王子様と結ばれるの。
リヴァイはせいぜい、王子様と結ばれるために魔法をかけてあげただけの魔法使いに過ぎないのよ。』
「てめぇ、何を言ってんだ。頭でも打ったのか。」
俺は強気で答えた。
アンの言っている意味が分からなかったし、本気で取り合うようなものでもなかった。
ただー。
テーブルの上に広げられた写真に写る名前は、上品なブルーのワンピース姿で黒髪の男にエスコートされていた。
それこそ、まるで、舞踏会で王子様と出逢ったシンデレラのようだったのだ。
名前が俺に繰り返した『魔法』という言葉とアンのセリフが重なって、不安に煽られたのは事実だった。
それでも、強気でいたのは、意固地になっていたというのが一番しっくりくる。
写真という決定的な証拠を出されても尚、俺は名前を信じたかったのだ。
俺に一途で、まっすぐで、純粋で、愛おしい。俺の知っている名前はそれくらいしかなかったかもしれないけれど、それがすべてで構わなかった。
だって、それこそが本当の名前の姿だったのだと、俺は知っていた。
俺の前で無邪気に笑ったり、時々不安そうに瞳を揺らした名前に、嘘はなかったのだ。
『頭を打ったのはリヴァイの方よ。あの女に騙されてるの。早く目を覚まして。
今だって、シンデレラは、リヴァイを裏切って、王子様と一緒にいるわ。』
「違う。それは、名前じゃねぇ。」
『ねぇ、リヴァイ。どうして、そんな女を信じ続けるの?
今、あなたを裏切ってる女より、私の方があなたに相応しいに決まってる。
私の方があなたを愛してるわ。』
「俺は、もうお前を愛してない。俺が愛してるのは、名前だけだ。」
『…そう。なら、愛してる女のいる魔法の世界に私が連れて行ってあげるわ。
明日は休みよね?予定はないでしょう?あっても、愛してる女の方が大切よね?
10時にシーナ駅で待ってるわ。』
アンは、コロコロと猫が鳴くように楽しそうに言うと、俺の返事も聞かずに電話を切った。
ツーツーという機械音が、静かなリビングで俺の耳を緊張させていた。
途端に明るくなる玄関ホールは、シンと静まり返っていてとても冷たく感じた。
名前がいたのなら、奥から美味しそうな夕食の匂いがして、とても温かいのにー、そんなことを思ってしまった俺から、無意識にため息がこぼれた。
たった3日なのに、早く名前に帰ってきてほしいと思っていた。
家に上がった俺は、リビングの明かりをつけると、ソファの上に鞄と脱いだばかりのコートを置いてから、その横にドカリと腰を降ろした。
ポストから雑にとってきたチラシやDMを確認していたら、宛名も差出人も書いていない白い封筒を見つけた。
中に何が入っているのか分からないが、異様に分厚い。
訝しく思いながら、棚からハサミを取り出して封を切った。
中に入っていたのは、十数枚の写真のようだった。
気持ち悪いと思いながらも取り出した俺は、そこに写っているものを見て眉を顰めた。
「なんだ、これ…。」
思わず、声が漏れてしまった。
ローテーブルの上に広げた写真のすべては、隠し撮りされたもののようだった。
おそらく、この手紙を送ってきた誰かが撮ったのだろう。
全ての写真には、共通して、名前と黒髪の長身の男の姿が写っていた。
一緒に並んで歩いているところを正面からや、横から写したものが多かった。
だが、外から車内を撮った写真では、まるで恋人のように顔を近づけて話していた。
名前が黒髪の長身の男に抱きしめられているものまであった。
これは一体何なのか理解できなかった。
誰が何のために、こんなものをー。
いや違う、俺が知りたいのはそれじゃない。
名前は今、誰と一緒にいるのか。
まさかー。
困惑しているところに、急にスマホがバイブを鳴らしたから驚いて息が止まってしまった。
なぜか名前からだと思ってしまって、コートのポケットからスマホを急いで取り出した。
だが、表示されているのは登録されていない携帯番号だった。
宛名のない白い封筒とそれが重なった。
応答ボタンを押した俺は、何も言わずにスマホを耳に押しあてた。
『もしもし、リヴァイ?』
聞こえてきたのは、聞き覚えのある女の声だった。
でも、聞きたかった名前の声じゃない。
「もう二度と俺と名前に関わったら警察に突き出すと忠告したはずだぞ、アン。」
『それなら、番号を変えておけばよかったんじゃない?
番号を変えないでいたのだって、私との繋がりがー。』
「仕事でも使うからだ。勝手な妄想を話してんじゃねぇ。」
『まぁ、そういうことにしてあげてもいいわ。
それより、私からのプレゼントは届いた?
遅くなっちゃったけど、誕生日プレゼントを贈ったんだけど。』
「さぁ、知らねぇな。そんなもん要らねぇから、もう二度と俺達にー。」
『あれ~?おかしいな、ちゃんとポストに入れたんだけどな。
見てない?白い封筒。』
「白い封筒ってまさか…。」
俺はローテーブルの上に投げ捨てられている白い封筒と数枚の写真を視線で追いかけた。
やっぱり届いていたとアンが嬉しそうな声を上げるから、耳が煩わしくてイラついた。
「お前、あの趣味の悪い写真は何の真似だ。」
『趣味の悪いとはヒドイわね。私はリヴァイに現実を見せてあげようと思っただけよ。』
「現実?」
『えぇ、そうよ。本当は、私からリヴァイを奪ったあのバカ女に痛い目を合わせようと思って
後をつけてただけなんだけど。すごいところに出くわしちゃったから、証拠の写真を撮ったの。』
アンは軽い口調で、とんでもないことを暴露した。
俺は眉間に皴を寄せて、低い声で責めた。
「やっぱり、名前に危害を加えようとしてたんだな。
名前に怪我でもさせたら、ただじゃおかねぇぞ。」
『そんなことしないわよ。
あの娘の正体を知ったら、そんな恐ろしいこともう二度と出来なくなったわ。』
こわいこわい、とアンはふざけるようにわざとらしく繰り返した。
それが馬鹿にされているみたいで、ひどく腹が立った。
『そんなことより、リヴァイ。クリスマスデートはとても楽しんだみたいね。
3年も付き合ってたのに、私はあんなことしてもらったことないわ。
いつも仕事仕事で、クリスマスさえそばにいられないときもあった。』
「そんな昔のことを愚痴るために電話したのか。」
『いいえ、あの娘の為なら魔法のデートは必要だったと思ってるわ。』
アンの声色は嫌味っぽくはなかった。
むしろ楽しそうで、気味が悪かった。
俺が眉を顰めたところへ、アンが続けた。
『ねぇ、リヴァイってもしかして、あの娘のこと何も知らないんじゃない?』
「…知ってる。」
『嘘ね。だって、あの娘が本当のことをあなたに話してるわけないもの。
あなたにだけは、絶対に知られたくないでしょうから。』
「どういうことだ。」
思わず訊ねてしまった。
『ふふ、興味を持った?あの娘ね、本物のシンデレラなのよ。』
アンの声は、楽しそうに踊っていた。
何を出だしたのか理解できなかった俺に、アンはさらに続けた。
『あの娘は、本当は灰かぶりのくせに、魔法使いに魔法をかけてもらって王子様と結ばれるの。
リヴァイはせいぜい、王子様と結ばれるために魔法をかけてあげただけの魔法使いに過ぎないのよ。』
「てめぇ、何を言ってんだ。頭でも打ったのか。」
俺は強気で答えた。
アンの言っている意味が分からなかったし、本気で取り合うようなものでもなかった。
ただー。
テーブルの上に広げられた写真に写る名前は、上品なブルーのワンピース姿で黒髪の男にエスコートされていた。
それこそ、まるで、舞踏会で王子様と出逢ったシンデレラのようだったのだ。
名前が俺に繰り返した『魔法』という言葉とアンのセリフが重なって、不安に煽られたのは事実だった。
それでも、強気でいたのは、意固地になっていたというのが一番しっくりくる。
写真という決定的な証拠を出されても尚、俺は名前を信じたかったのだ。
俺に一途で、まっすぐで、純粋で、愛おしい。俺の知っている名前はそれくらいしかなかったかもしれないけれど、それがすべてで構わなかった。
だって、それこそが本当の名前の姿だったのだと、俺は知っていた。
俺の前で無邪気に笑ったり、時々不安そうに瞳を揺らした名前に、嘘はなかったのだ。
『頭を打ったのはリヴァイの方よ。あの女に騙されてるの。早く目を覚まして。
今だって、シンデレラは、リヴァイを裏切って、王子様と一緒にいるわ。』
「違う。それは、名前じゃねぇ。」
『ねぇ、リヴァイ。どうして、そんな女を信じ続けるの?
今、あなたを裏切ってる女より、私の方があなたに相応しいに決まってる。
私の方があなたを愛してるわ。』
「俺は、もうお前を愛してない。俺が愛してるのは、名前だけだ。」
『…そう。なら、愛してる女のいる魔法の世界に私が連れて行ってあげるわ。
明日は休みよね?予定はないでしょう?あっても、愛してる女の方が大切よね?
10時にシーナ駅で待ってるわ。』
アンは、コロコロと猫が鳴くように楽しそうに言うと、俺の返事も聞かずに電話を切った。
ツーツーという機械音が、静かなリビングで俺の耳を緊張させていた。