◇64ページ◇少女(2)
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「それ、たぶん…私の…。」
日記を読んでいると、幼い声に話しかけられた。
読みやすい素朴な文字を追いかけていた視線を上げると、ベッドに横になったままでこちらを向いた少女と目が合った。
眠っているところしか見ていなかったから気づかなかったが、色素の薄い大きな瞳の可愛らしい顔立ちをしていた。
キリッとした美人の母親とはあまり似てはいないが、美形の血は受け継がれたようだった。
「あぁ。たぶん、お前のだ。暇つぶしに読ませてもらった。」
「同じことしか書いてないから、つまんないですよ。」
「いや、なかなか面白かった。」
「お兄さん、私に会ったことはありますか?」
「リヴァイ、はじめましてだ。」
「リヴァイさん…、先生…?」
「一応、先生…でいいはずだ。」
自信なさげに答えた俺に、少女は不思議そうに首を傾げた。
だが、医師ということで納得したのかゆっくりと身体を起こすと、サイドテーブルのペンケースから、ペンを取り出した。
「それ、くれますか?」
俺がまだ手元に持っている日記帳を指さして、少女は遠慮気味に言った。
日記帳を渡すと、少女は、一番新しいページを開いた。
「リヴァイ先生の名前、忘れないように書いておかなくちゃ。
…どうせ、明日には覚えてないけど。」
俺の名前を書き込んでいた手が止まり、呟くように小さく、諦めたような声が日記帳に落ちた。
その時、母親が叫ぶように少女の名前を呼んだ。
日記帳に落としていた視線を少女が上げると、俺と話している声で、少女が目を覚ましたことに気が付いた母親とナイルが駆け寄ってきた。
起きたならすぐに声をかけろ、とナイルから拳骨を落とされてイラッとした。
目が覚めるのを待っていたのなら、そんな離れたところにある贅沢なソファに座って、難しい話なんかしていないで、そばで見ていてやればよかったのだ。
ナイルを睨みつけた俺とベッドを挟んで向かいに立った母親が、少女の頬を思いっきり叩いた。
痛そうな高い音が広い病室に響き、俺とナイルは驚き目を見開いた。
少女は、赤くなった自分の頬に触れると、信じられないと言う顔で母親の顔を見た。
「なんて馬鹿なことをしたの!?記憶が残らないからって
死のうとするなんて!!命を何だと思っているの!?」
「ちがー。」
「言い訳なんて聞きたくありません!!!
お母さん達が…っ、どんなに心配したか…!!
リヴァイ先生が見つけてくれなかったら、あなた、本当に死んでいたのよ!!」
激昂した母親は、厳しい口調で少女を責めた。
俺のことをチラリと見た少女は、さっきと同じように何か諦めた様に目を伏せた。
それに対して、ちゃんと反省しなさいと母親が怒鳴りつける。
「死ぬ気なんてなかったんだろ。」
目を伏せて、母親の説教を受け止める少女に声をかけた。
少女は、助けを求めるような顔で俺を見たが、怒りがおさまらない母親は、綺麗に整えられた眉を思いっきり歪めた。
「あんなに大量の睡眠薬を飲んで、死ぬつもりはなかったなんて言い訳が通じるわけありません…!
この娘には、自分がどれほど愚かなことをしたのかを分からせなければー。」
「どうせ、明日には忘れちゃうのに?」
少女は、母親を見上げて訊ねた。
投げやりという印象はなく、どちらかと言えば、とても真剣に見えた。
明日忘れてしまう自分に、どうして学ばせようとしているのか、それを知りたいと思っているようだった。
でも、母親はその答えは持たず、むしろ、少女の質問にショックをた様子で、口を閉ざした。
不憫そうに少女を見下ろす母親の瞳に、少女は目を伏せた。
きっと、少女は自分自身に絶望したのだ。
「覚えていたかったんだよな。」
俺はそう言いながら、少女が持っている日記帳を手に取った。
日記というのは、その日にあったことを記すためのものだということを、俺でも知っている。
でも、パラパラとめくるすべてのページに書いてあるのは、その日に会った人達のことばかりだった。
名前と特徴、そして、その人がどんな人だったのか。どんな話をしたのか。
そんなことばかりが、素朴で可愛らしい文字で長々と綴られていた。
「朝が来て、起きたら、忘れちまうから、
覚えたままずっと眠っていたかっただけなんだよな。
死のうなんて、思ってなかったんだろう?」
俺の言葉を聞いた母親とナイルが、驚いた顔をして少女を見た。
少女は涙を堪えるように唇を噛むと、頬に触れていた手を震わせて、自分の顔を引っ掻いた。
「ごめんね…っ、お母さん…っ。毎日、私…っ、誰ですかって聞いちゃって…っ。
お母さんの、悲しい顔も…っ、忘れちゃって…っ。
本当に…っ、ごめんなさー…っ。」
「いいのよ…っ。」
母親は、少女の小さな身体を抱きしめた。
抱きしめる母親の腕も、少女と同じように震えているようだった。
「あなたが生きているだけで、それだけで私達は幸せなの…っ。
だから、いいのっ。忘れられるくらい、なんてことない…っ。
あなたを、抱きしめることさえ、出来るのなら…っ。」
「お母さん…っ。」
少女と母親は抱き合って、泣きじゃくった。
痛々しい少女の姿は、そこにいる大人達の心を苦しくさせた。
その悲しいくらいの健気な想いは、俺達に本当の優しさを教えてくれたのだ。
日記を読んでいると、幼い声に話しかけられた。
読みやすい素朴な文字を追いかけていた視線を上げると、ベッドに横になったままでこちらを向いた少女と目が合った。
眠っているところしか見ていなかったから気づかなかったが、色素の薄い大きな瞳の可愛らしい顔立ちをしていた。
キリッとした美人の母親とはあまり似てはいないが、美形の血は受け継がれたようだった。
「あぁ。たぶん、お前のだ。暇つぶしに読ませてもらった。」
「同じことしか書いてないから、つまんないですよ。」
「いや、なかなか面白かった。」
「お兄さん、私に会ったことはありますか?」
「リヴァイ、はじめましてだ。」
「リヴァイさん…、先生…?」
「一応、先生…でいいはずだ。」
自信なさげに答えた俺に、少女は不思議そうに首を傾げた。
だが、医師ということで納得したのかゆっくりと身体を起こすと、サイドテーブルのペンケースから、ペンを取り出した。
「それ、くれますか?」
俺がまだ手元に持っている日記帳を指さして、少女は遠慮気味に言った。
日記帳を渡すと、少女は、一番新しいページを開いた。
「リヴァイ先生の名前、忘れないように書いておかなくちゃ。
…どうせ、明日には覚えてないけど。」
俺の名前を書き込んでいた手が止まり、呟くように小さく、諦めたような声が日記帳に落ちた。
その時、母親が叫ぶように少女の名前を呼んだ。
日記帳に落としていた視線を少女が上げると、俺と話している声で、少女が目を覚ましたことに気が付いた母親とナイルが駆け寄ってきた。
起きたならすぐに声をかけろ、とナイルから拳骨を落とされてイラッとした。
目が覚めるのを待っていたのなら、そんな離れたところにある贅沢なソファに座って、難しい話なんかしていないで、そばで見ていてやればよかったのだ。
ナイルを睨みつけた俺とベッドを挟んで向かいに立った母親が、少女の頬を思いっきり叩いた。
痛そうな高い音が広い病室に響き、俺とナイルは驚き目を見開いた。
少女は、赤くなった自分の頬に触れると、信じられないと言う顔で母親の顔を見た。
「なんて馬鹿なことをしたの!?記憶が残らないからって
死のうとするなんて!!命を何だと思っているの!?」
「ちがー。」
「言い訳なんて聞きたくありません!!!
お母さん達が…っ、どんなに心配したか…!!
リヴァイ先生が見つけてくれなかったら、あなた、本当に死んでいたのよ!!」
激昂した母親は、厳しい口調で少女を責めた。
俺のことをチラリと見た少女は、さっきと同じように何か諦めた様に目を伏せた。
それに対して、ちゃんと反省しなさいと母親が怒鳴りつける。
「死ぬ気なんてなかったんだろ。」
目を伏せて、母親の説教を受け止める少女に声をかけた。
少女は、助けを求めるような顔で俺を見たが、怒りがおさまらない母親は、綺麗に整えられた眉を思いっきり歪めた。
「あんなに大量の睡眠薬を飲んで、死ぬつもりはなかったなんて言い訳が通じるわけありません…!
この娘には、自分がどれほど愚かなことをしたのかを分からせなければー。」
「どうせ、明日には忘れちゃうのに?」
少女は、母親を見上げて訊ねた。
投げやりという印象はなく、どちらかと言えば、とても真剣に見えた。
明日忘れてしまう自分に、どうして学ばせようとしているのか、それを知りたいと思っているようだった。
でも、母親はその答えは持たず、むしろ、少女の質問にショックをた様子で、口を閉ざした。
不憫そうに少女を見下ろす母親の瞳に、少女は目を伏せた。
きっと、少女は自分自身に絶望したのだ。
「覚えていたかったんだよな。」
俺はそう言いながら、少女が持っている日記帳を手に取った。
日記というのは、その日にあったことを記すためのものだということを、俺でも知っている。
でも、パラパラとめくるすべてのページに書いてあるのは、その日に会った人達のことばかりだった。
名前と特徴、そして、その人がどんな人だったのか。どんな話をしたのか。
そんなことばかりが、素朴で可愛らしい文字で長々と綴られていた。
「朝が来て、起きたら、忘れちまうから、
覚えたままずっと眠っていたかっただけなんだよな。
死のうなんて、思ってなかったんだろう?」
俺の言葉を聞いた母親とナイルが、驚いた顔をして少女を見た。
少女は涙を堪えるように唇を噛むと、頬に触れていた手を震わせて、自分の顔を引っ掻いた。
「ごめんね…っ、お母さん…っ。毎日、私…っ、誰ですかって聞いちゃって…っ。
お母さんの、悲しい顔も…っ、忘れちゃって…っ。
本当に…っ、ごめんなさー…っ。」
「いいのよ…っ。」
母親は、少女の小さな身体を抱きしめた。
抱きしめる母親の腕も、少女と同じように震えているようだった。
「あなたが生きているだけで、それだけで私達は幸せなの…っ。
だから、いいのっ。忘れられるくらい、なんてことない…っ。
あなたを、抱きしめることさえ、出来るのなら…っ。」
「お母さん…っ。」
少女と母親は抱き合って、泣きじゃくった。
痛々しい少女の姿は、そこにいる大人達の心を苦しくさせた。
その悲しいくらいの健気な想いは、俺達に本当の優しさを教えてくれたのだ。