◇58ページ◇午前0時の鐘の音がする雷鳴
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記録的な大雨で、冠水して通行止めの道が多く、捕まえたタクシーは全く走らなかった。
だから、電車にしたのに、そっちはそっちで遅延やら運休が相次いだせいで、結局、自宅マンションの最寄りの駅に着いた頃には、研究所を飛び出して1時間が経っていた。
走るように改札を抜けて、駅を飛び出した俺の身体に大粒の雨が降り注いだ。
どうせ傘をさしたって、意味がないくらいの土砂降りだ。
あっという間にびしょ濡れになった身体くらい、気にならなかった。
それよりも、濡れた前髪が俺の視界の邪魔をして走りづらくて、苛立った。
研究所を出たときから名前に電話を繰り返しているが、電子音が聞こえてくるだけだった。
何度目かの雷鳴が轟き、猛スピードで走る俺の濡れた視界が一瞬だけ光った。
自宅マンションに辿り着いた俺は、エントランスを抜けて、エレベーターのボタンを連打した。
早く、早くー。
そういえば、そもそも名前は自宅にいるのだろうか。
腕時計を確認してみると、時間は10時少し前だった。
この大雨なら、バイトのために早めに家を出たということも考えられるんじゃないか。
今さらそんなことに気が付いた俺は、ファーランに電話をかけた。
名前には繋がらなかった俺のスマホは、すぐにファーランを呼び出した。
≪どうした~?≫
「今日、病院のカフェは営業してんのかっ?」
やっと降りて来たエレベーターに乗り込みながら、俺は焦ったように訊ねた。
≪カフェ?たぶん、やってねぇんじゃねぇの?
雨で休みだって聞いた気がするけど。もしかして、リヴァイも休みになった?≫
「あぁ、研究所行ったあとで休みが決まって、今マンションに戻ってるところだ。
チッ、エレベーターが遅い…!」
意味がないと分かっていながら、俺は自分の部屋のあるフロアの階数ボタンを連打した。
こういうとき、上階の部屋はすごく不便だ。
1階なら、ファーランに電話なんてしないで名前の姿を確認することが出来たはずなのにー。
≪何、イラついてんだよ。≫
「名前が電話に出ねぇんだよ…!
最後の魔法だとかさよならだとかわけわからねぇこと言いやがって…!
もしかしたら、病院に行ってるかもしれねぇから、名前が来てねぇか、探してくれ!」
やっと目的の階に到着したエレベーターの扉が開いた途端に、俺は飛び出して廊下を走った。
≪は?名前?≫
「あぁ、そうだ。電話にも出ねぇし、LINEも既読にならねぇ。」
そう言いながら、俺は焦ったように玄関の鍵を回した。
勢いよく扉を開いて、玄関に入ってすぐに、薄暗いそこに違和感を覚えた。
それが何なのかよく分からないまま、俺は靴を脱ぎ捨てて、濡れた身体のままリビングに走った。
虚しい雰囲気が漂うリビングは、明かりもついていなくて、窓を叩く雨の音だけが煩かった。
そしてやっぱり、どこか違和感を覚えた。
その答えを、俺はたぶんすぐに分かったのだと思う。
だから、ファーランが何かを言っているスマホを耳に押しあてることもしないで片手に握りしめ、名前の部屋に走ったのだ。
勢いよく開いた扉の向こうには、文字通り、何も無かった。
名前が勝手に持ち込んだベッドも、ドレッサーも、あの日記帳も、何もかもがなくなっていた。
それでも俺は、名前を探して、クローゼットを開いた。
そのとき、激しい雷鳴が轟いて、部屋を真っ白に光らせた。
雷に怯えてシーツに包まり膝を抱えている名前の姿が、一瞬だけ見えた気がした。
でも、すぐに薄暗い部屋に戻ったそこには、名前の姿どころか、やっぱり、文字通り、何も無かった。
名前が好んで着ていたコートもワンピースも、下着を入れていたチェストもなくて、クローゼットはガランとしていた。
「・・・・・は?」
間の抜けた俺の声が、虚しい部屋に零れた。
馬鹿みたいに強く握りしめていたスマホが床に落ちて、ゴトンと音を立てた。
俺は、空っぽのクローゼットを前に、ただ呆然とするしか出来なかった。
『光った瞬間に目が眩むくらいに輝いてるのに、パッて消えちゃう。
それが魔法が解ける瞬間みたいで…。雷が、私を消してしまった気がするんです…。』
雷の夜、名前は震えながらシーツに包まって、そんなことを言っていた。
そして、数百年に一度だという記録的豪雨のその日、激しい雷が、名前を消した。
まるで、本当に、魔法が解けたように、名前が消えたのだ。
≪おい、リヴァイ!どうしたんだよ!?
聞いてんのか?なぁ、名前って誰だよ?≫
窓を叩く土砂降りの雨とファーランの声だけが、空っぽの部屋に虚しく響いていた。
ねぇ、シンデレラ
君が午前0時の鐘の音を聞かないように、耳を塞いでおくべきだったよ
わすれたくない
わすれないで
だから、電車にしたのに、そっちはそっちで遅延やら運休が相次いだせいで、結局、自宅マンションの最寄りの駅に着いた頃には、研究所を飛び出して1時間が経っていた。
走るように改札を抜けて、駅を飛び出した俺の身体に大粒の雨が降り注いだ。
どうせ傘をさしたって、意味がないくらいの土砂降りだ。
あっという間にびしょ濡れになった身体くらい、気にならなかった。
それよりも、濡れた前髪が俺の視界の邪魔をして走りづらくて、苛立った。
研究所を出たときから名前に電話を繰り返しているが、電子音が聞こえてくるだけだった。
何度目かの雷鳴が轟き、猛スピードで走る俺の濡れた視界が一瞬だけ光った。
自宅マンションに辿り着いた俺は、エントランスを抜けて、エレベーターのボタンを連打した。
早く、早くー。
そういえば、そもそも名前は自宅にいるのだろうか。
腕時計を確認してみると、時間は10時少し前だった。
この大雨なら、バイトのために早めに家を出たということも考えられるんじゃないか。
今さらそんなことに気が付いた俺は、ファーランに電話をかけた。
名前には繋がらなかった俺のスマホは、すぐにファーランを呼び出した。
≪どうした~?≫
「今日、病院のカフェは営業してんのかっ?」
やっと降りて来たエレベーターに乗り込みながら、俺は焦ったように訊ねた。
≪カフェ?たぶん、やってねぇんじゃねぇの?
雨で休みだって聞いた気がするけど。もしかして、リヴァイも休みになった?≫
「あぁ、研究所行ったあとで休みが決まって、今マンションに戻ってるところだ。
チッ、エレベーターが遅い…!」
意味がないと分かっていながら、俺は自分の部屋のあるフロアの階数ボタンを連打した。
こういうとき、上階の部屋はすごく不便だ。
1階なら、ファーランに電話なんてしないで名前の姿を確認することが出来たはずなのにー。
≪何、イラついてんだよ。≫
「名前が電話に出ねぇんだよ…!
最後の魔法だとかさよならだとかわけわからねぇこと言いやがって…!
もしかしたら、病院に行ってるかもしれねぇから、名前が来てねぇか、探してくれ!」
やっと目的の階に到着したエレベーターの扉が開いた途端に、俺は飛び出して廊下を走った。
≪は?名前?≫
「あぁ、そうだ。電話にも出ねぇし、LINEも既読にならねぇ。」
そう言いながら、俺は焦ったように玄関の鍵を回した。
勢いよく扉を開いて、玄関に入ってすぐに、薄暗いそこに違和感を覚えた。
それが何なのかよく分からないまま、俺は靴を脱ぎ捨てて、濡れた身体のままリビングに走った。
虚しい雰囲気が漂うリビングは、明かりもついていなくて、窓を叩く雨の音だけが煩かった。
そしてやっぱり、どこか違和感を覚えた。
その答えを、俺はたぶんすぐに分かったのだと思う。
だから、ファーランが何かを言っているスマホを耳に押しあてることもしないで片手に握りしめ、名前の部屋に走ったのだ。
勢いよく開いた扉の向こうには、文字通り、何も無かった。
名前が勝手に持ち込んだベッドも、ドレッサーも、あの日記帳も、何もかもがなくなっていた。
それでも俺は、名前を探して、クローゼットを開いた。
そのとき、激しい雷鳴が轟いて、部屋を真っ白に光らせた。
雷に怯えてシーツに包まり膝を抱えている名前の姿が、一瞬だけ見えた気がした。
でも、すぐに薄暗い部屋に戻ったそこには、名前の姿どころか、やっぱり、文字通り、何も無かった。
名前が好んで着ていたコートもワンピースも、下着を入れていたチェストもなくて、クローゼットはガランとしていた。
「・・・・・は?」
間の抜けた俺の声が、虚しい部屋に零れた。
馬鹿みたいに強く握りしめていたスマホが床に落ちて、ゴトンと音を立てた。
俺は、空っぽのクローゼットを前に、ただ呆然とするしか出来なかった。
『光った瞬間に目が眩むくらいに輝いてるのに、パッて消えちゃう。
それが魔法が解ける瞬間みたいで…。雷が、私を消してしまった気がするんです…。』
雷の夜、名前は震えながらシーツに包まって、そんなことを言っていた。
そして、数百年に一度だという記録的豪雨のその日、激しい雷が、名前を消した。
まるで、本当に、魔法が解けたように、名前が消えたのだ。
≪おい、リヴァイ!どうしたんだよ!?
聞いてんのか?なぁ、名前って誰だよ?≫
窓を叩く土砂降りの雨とファーランの声だけが、空っぽの部屋に虚しく響いていた。
ねぇ、シンデレラ
君が午前0時の鐘の音を聞かないように、耳を塞いでおくべきだったよ
わすれたくない
わすれないで