◇8ページ◇仔犬
Name change
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猛烈な拒否もハンジが相手では虚しい抵抗にしかならず、俺は結局、飲みメンバーを連れて自宅マンションにまでやって来てしまっていた。
居酒屋をそこそこ早く切り上げたことで、いつもの定時過ぎ頃に真っすぐに帰宅しているのと比べても、2時間ほど遅くなっただけだ。
どうせならとことん遅くなって真夜中に帰ってやろうと考えていた俺にとっては誤算だった。
だが、いつもよりも遅くに帰って来た男が同僚までぞろぞろと引き連れていたときの反応には、それはそれで興味もあった。
いやむしろ、絶対に嫌な顔をされる自信があった。
これで、俺は名前を追い出せると、玄関の扉を開けるそのときまで、確信していたのだ。
いつものように、扉が開ききる前から、家からはバタバタと廊下を走る音が聞こえていた。
ハンジ達に背中を押し込まれるように玄関に入れば、いつものようにリビングから走って来た様子の名前が目の前に立った。
俺が帰ってくると、名前はいつもとびきりの笑顔を見せるから、俺にはいつも、その尻の向こうに尻尾まで見える気がする。
そのときも、名前は、御主人の帰りを待ちわびていた仔犬のように、俺に尻尾を振っていた。
「おかえりなさいっ!よかった~っ。
帰りが遅いから事故にでもあったんじゃないかって心配してたんですよ~。
同僚の方達と一緒だったんですねっ。」
「…あ、あぁ。」
いつもと何も変わらないー、いやむしろいつもよりも嬉しそうな笑顔に戸惑った。
正直、拍子抜けだった。
露骨ではなくとも、絶対に嫌な顔をされると思っていた。
事故の心配だとか、帰ってきてくれてホッとするとか、そんな優しい反応があるなんて、俺は知らなかったのだ。
「女?」
「え…女?」
「若い女ですね、しかもめっちゃ可愛い。」
俺の背中でモブリット達の戸惑いの声が聞こえていた。
だが、ただ一人、ハンジだけは反応が違った。
驚いた素振りは全くなく、興味津々な様子だった。
俺の肩を掴んで強引に自分の後ろに押しやったハンジは、ズイッと名前の顔に自分の顔を近づけて、観察を始めた。
そして、長く感じた数秒後、不思議そうに首を傾げる名前に自己紹介を始めた。
「やぁ、はじめまして。私はハンジ。リヴァイの職場の一応社長ってことになってる。
帰りが遅くなったのは私が彼を呑みに誘ったからなんだ。心配をかけてごめんな。
そこで君の話を聞いて、是非、会ってみたいと押しかけてしまったんだよ。」
「えっ、リヴァイさんが私の話をしたんですかっ。」
「あぁ、もちろん、してたとも!可愛いと言っていたよ。」
「私のことを!?」
「言ってねぇ。俺は興味ねぇが、世間一般的には可愛い部類に入るかもしれねぇとー。」
「名前を聞いてもいいかい?」
「はい!名前です!リヴァイさんのこいー。」
「仔犬ちゃんか。へぇ、君がねぇ。」
面白い玩具でも見つけたような顔でニヤけるハンジの顔は、俺に背を向けていたから見えなかった。
でも、玄関を向いていた名前の顔なら、ハッキリ見えた。
仔犬だと、ハンジに言われたその瞬間、ほんの一瞬だけ、名前の顔は悲しみに染まった。
俺に何を言われたって、全く気にする素振りもなく無邪気に笑っていた名前が、初めて見せた傷ついた表情だった。
それなのにー。
「私がリヴァイさんの仔犬だワンっ♡」
軽く握った両手を鎖骨の辺りまで持ち上げた名前は、片足まで軽く上げて、とびきり明るく笑った。
可愛いだとか、キュンとしただとか騒いで、ハンジとニファは名前を抱きしめだしたその横で、俺はそのとき、罪悪感でいっぱいだった。
だって、気づいてしまったのだ。
俺は、名前を怒らせたかったんじゃない。
追い出すきっかけを作ってやろうという気持ちがなかったと言ったら嘘になる。
でも、本当の目的はそれじゃない。
俺は、何を言っても笑ってくれる名前に、許してほしかったのだ。
そうすれば過去の俺も、救われる気がしてー。
名前になら、何をしたっていいと、俺は思っていたー。
俺はまだ君にちゃんと謝れてないのに
君を傷つけたことすらなかったことにするの?
どうしよう、日記さん。
リヴァイさんが帰ってこないの。
残業はあまりない仕事だって言っていたのに…
もしかして、事故に巻き込まれたんじゃないよね…?
せめて、明日が休みだからハメを外してるとか
私のいる家に帰りたくないとか、そんな理由ならいい。
あぁ、それがいい。そうでありますように。
無事でいてくれますように。
とても、心配です。
居酒屋をそこそこ早く切り上げたことで、いつもの定時過ぎ頃に真っすぐに帰宅しているのと比べても、2時間ほど遅くなっただけだ。
どうせならとことん遅くなって真夜中に帰ってやろうと考えていた俺にとっては誤算だった。
だが、いつもよりも遅くに帰って来た男が同僚までぞろぞろと引き連れていたときの反応には、それはそれで興味もあった。
いやむしろ、絶対に嫌な顔をされる自信があった。
これで、俺は名前を追い出せると、玄関の扉を開けるそのときまで、確信していたのだ。
いつものように、扉が開ききる前から、家からはバタバタと廊下を走る音が聞こえていた。
ハンジ達に背中を押し込まれるように玄関に入れば、いつものようにリビングから走って来た様子の名前が目の前に立った。
俺が帰ってくると、名前はいつもとびきりの笑顔を見せるから、俺にはいつも、その尻の向こうに尻尾まで見える気がする。
そのときも、名前は、御主人の帰りを待ちわびていた仔犬のように、俺に尻尾を振っていた。
「おかえりなさいっ!よかった~っ。
帰りが遅いから事故にでもあったんじゃないかって心配してたんですよ~。
同僚の方達と一緒だったんですねっ。」
「…あ、あぁ。」
いつもと何も変わらないー、いやむしろいつもよりも嬉しそうな笑顔に戸惑った。
正直、拍子抜けだった。
露骨ではなくとも、絶対に嫌な顔をされると思っていた。
事故の心配だとか、帰ってきてくれてホッとするとか、そんな優しい反応があるなんて、俺は知らなかったのだ。
「女?」
「え…女?」
「若い女ですね、しかもめっちゃ可愛い。」
俺の背中でモブリット達の戸惑いの声が聞こえていた。
だが、ただ一人、ハンジだけは反応が違った。
驚いた素振りは全くなく、興味津々な様子だった。
俺の肩を掴んで強引に自分の後ろに押しやったハンジは、ズイッと名前の顔に自分の顔を近づけて、観察を始めた。
そして、長く感じた数秒後、不思議そうに首を傾げる名前に自己紹介を始めた。
「やぁ、はじめまして。私はハンジ。リヴァイの職場の一応社長ってことになってる。
帰りが遅くなったのは私が彼を呑みに誘ったからなんだ。心配をかけてごめんな。
そこで君の話を聞いて、是非、会ってみたいと押しかけてしまったんだよ。」
「えっ、リヴァイさんが私の話をしたんですかっ。」
「あぁ、もちろん、してたとも!可愛いと言っていたよ。」
「私のことを!?」
「言ってねぇ。俺は興味ねぇが、世間一般的には可愛い部類に入るかもしれねぇとー。」
「名前を聞いてもいいかい?」
「はい!名前です!リヴァイさんのこいー。」
「仔犬ちゃんか。へぇ、君がねぇ。」
面白い玩具でも見つけたような顔でニヤけるハンジの顔は、俺に背を向けていたから見えなかった。
でも、玄関を向いていた名前の顔なら、ハッキリ見えた。
仔犬だと、ハンジに言われたその瞬間、ほんの一瞬だけ、名前の顔は悲しみに染まった。
俺に何を言われたって、全く気にする素振りもなく無邪気に笑っていた名前が、初めて見せた傷ついた表情だった。
それなのにー。
「私がリヴァイさんの仔犬だワンっ♡」
軽く握った両手を鎖骨の辺りまで持ち上げた名前は、片足まで軽く上げて、とびきり明るく笑った。
可愛いだとか、キュンとしただとか騒いで、ハンジとニファは名前を抱きしめだしたその横で、俺はそのとき、罪悪感でいっぱいだった。
だって、気づいてしまったのだ。
俺は、名前を怒らせたかったんじゃない。
追い出すきっかけを作ってやろうという気持ちがなかったと言ったら嘘になる。
でも、本当の目的はそれじゃない。
俺は、何を言っても笑ってくれる名前に、許してほしかったのだ。
そうすれば過去の俺も、救われる気がしてー。
名前になら、何をしたっていいと、俺は思っていたー。
俺はまだ君にちゃんと謝れてないのに
君を傷つけたことすらなかったことにするの?
どうしよう、日記さん。
リヴァイさんが帰ってこないの。
残業はあまりない仕事だって言っていたのに…
もしかして、事故に巻き込まれたんじゃないよね…?
せめて、明日が休みだからハメを外してるとか
私のいる家に帰りたくないとか、そんな理由ならいい。
あぁ、それがいい。そうでありますように。
無事でいてくれますように。
とても、心配です。