年上の彼
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空高く伸びるマストの途中に設けられた見張り台の中で、私は手摺に寄り掛かって静かな夜の海を眺めていた。
ペアを組んでる先輩は、夜食を探してくると降りて行ったっきり戻って来ない。
どこかで酒盛りをしている仲間を見つけて、見張りのことをすっかり忘れて楽しんでいるのだろう。
困ったな、くらいには思うけれど、いちいち腹が立ったりもしない。
思い出せば焦ったようにやってきて、新米の私なんかに頭を下げることも知っているし、海賊は自由で、私だってそういうところが良くてこの船に乗っているのだ。
今夜は、穏やかな波の音が僅かに聞こえるくらいに静かだ。
きっと、困ったことだって起きない。
先輩が戻って来るとも思えないし、そう信じるしかなかった。
眺める海は、昼間の透き通るような綺麗な青とは打って変わって、辺り一面を暗闇が覆っているみたいに真っ黒だ。
それでもやっぱり、とても綺麗なのに、吸い込まれそうになる。
このまま、落ちてしまいたくなるー。
(落ちたら、もう二度と上がれないんだろうなぁ。)
ポツリ、心の中で呟く。
夜になって雰囲気をガラリと変える海は、そこは無邪気に自由や夢を追うにはとても恐ろしい場所なのだと教えようとしているようだった。
「落ちんなよい。」
後ろから独特な語尾が印象的な声が聞こえてきて、振り返る。
眠たそうな目で気だるげにやって来たマルコさんに「お疲れ様です。」と頭を下げれば、軽く手を上げた。
「ロフの馬鹿野郎は裏甲板で酔い潰れてるよい。」
「ふふ、やっぱりですか。」
明日叱られるのかな、なんて思いながら、私はクスクスと笑う。
そんな私を見下ろして、マルコさんが苦笑する。
「1人で暇だったんじゃねぇのか。」
「海を見てると時間があっという間に過ぎていきますから。
大好きなんです、綺麗な青も、吸い込まれそうになる黒も。」
「そうかい。」
マストの上部に設けられた見張り台には、それなりに強い潮風が吹いていて、海を眺める私達の髪を靡かせる。
手摺に腕を乗せて寄り掛かったマルコさんは、どこか満足そうに口の端を上げていた。
「モビーでの生活はそろそろ慣れたか?」
「はいっ、みんな、優しいし、面白いし、すごく楽しいです。」
「それならよかったよい。
あぁ、そういえば、昼間、サッチのヤツが、今度名前を誘って飲みてぇと言ってたが、
誘われたら断っとけよい。」
「え~、なんでですか。」
サッチさんとすごく仲が良いくせに、いつもあたりが冷たいマルコさんを思い出して、私はまた笑う。
初めて会ったときは、白ひげ海賊団一番隊の不死鳥だと緊張と恐怖で身体が固まった。
でも、今ではそれが嘘みたいに、私はマルコさんの隣にいると笑顔になる。
話し上手で聞き上手のマルコさんと一緒にいると、いつも気づけば何でも話してしまっている。
今夜も、どんな話の流れだったのかも思い出せないけれど、私は海賊として生きていくと決めた不安を吐露していた。
「大丈夫だよい。夢を追って生きようって決めて行動出来た名前は強い。」
「そう、ですかねぇ~…。」
「心配する必要なんてどこにもねぇさ。
名前には俺達がついてる。そうだろい?」
マルコさんは、私を見て口の端を上げる。
視線を感じた私が、マルコさんの方を向くと、目が合った。
「それとも、俺がついてると言った方がいいのかねい。」
マルコさんは気だるげな目のままで、私の心を見抜いてる。
私を見つめるマルコさんの視線に、耳まで熱かった。
カチリと重なってしまった目を、私が反らせないことだって、きっとバレてるのだ。
居心地のいい風が、私とマルコさんを生温かく包んでは流れていく。
マルコさんの長い指が、ユラユラと靡く私の髪に触れて絡む。
あぁ、またー。
1番隊に所属が決まって一緒にいることが増えると、思わせぶりな態度が、私を何度も惑わせた。
でも、私も分かっているのだ。
さっきから鼻の奥にツンとするキツめの香水で、今夜、マルコさんがここに来るまで何処にいたのか。
ナース達に愛されるばかりのマルコさんのことを、私はもう知ってる。
それでも、彼女達は綺麗だからいい。
白衣を纏って凛と立っているだけで、その場の空気を変えてしまうくらいの彼女達は、マルコさんと一時の情事を楽しむ余裕があるかもしれない。
でも、私にはない。ないのにー。
マルコさんの手が私の腰を引き寄せたとき、静かな夜の海で全てが崩れて落ちていく音を聞いた。
さっきまで違う人に触れていた手で、何を思って、私に触れるのだろう。
白髭海賊団の船の上で、ナンバー2として家族を引っ張って、どんなに手強い敵にも最前線で突っ込んでいく情に厚い男だと思ったら、気まぐれに愛想を振りまいて何人もの女の人を泣かせてる。
私は、目の前にいる男が分からない。
きっと、一生分からなくて。
だから、一生、知りたいと願いながらそばにいるんだと思う。
もし、どうしても答えが欲しくなったら、それは自由な海賊だから仕方がないのだと納得すればいいのだろうか。
マルコさんの手が、私の頬に添えられた。
そのまま、拒まれるなんて想定もしていないズルい唇が、私の唇に重なる。
初めて触れたマルコさんの唇は、とても柔らかくて、優しくて、閉じた瞼から涙が零れて落ちた。
そっと唇が離れて、マルコさんは私の頬に伝う涙の筋に気づく。
でも、気だるげな表情は、1ミリだって変わらない。
「名前は涙も綺麗だねい。」
マルコさんはそう言いながら、好きだと思い知らされて流れた涙をあっさりと拭った。
年上の彼は、私が泣いた理由にすら興味がない人です
それでも私は、あなたに落ちていくのー
ペアを組んでる先輩は、夜食を探してくると降りて行ったっきり戻って来ない。
どこかで酒盛りをしている仲間を見つけて、見張りのことをすっかり忘れて楽しんでいるのだろう。
困ったな、くらいには思うけれど、いちいち腹が立ったりもしない。
思い出せば焦ったようにやってきて、新米の私なんかに頭を下げることも知っているし、海賊は自由で、私だってそういうところが良くてこの船に乗っているのだ。
今夜は、穏やかな波の音が僅かに聞こえるくらいに静かだ。
きっと、困ったことだって起きない。
先輩が戻って来るとも思えないし、そう信じるしかなかった。
眺める海は、昼間の透き通るような綺麗な青とは打って変わって、辺り一面を暗闇が覆っているみたいに真っ黒だ。
それでもやっぱり、とても綺麗なのに、吸い込まれそうになる。
このまま、落ちてしまいたくなるー。
(落ちたら、もう二度と上がれないんだろうなぁ。)
ポツリ、心の中で呟く。
夜になって雰囲気をガラリと変える海は、そこは無邪気に自由や夢を追うにはとても恐ろしい場所なのだと教えようとしているようだった。
「落ちんなよい。」
後ろから独特な語尾が印象的な声が聞こえてきて、振り返る。
眠たそうな目で気だるげにやって来たマルコさんに「お疲れ様です。」と頭を下げれば、軽く手を上げた。
「ロフの馬鹿野郎は裏甲板で酔い潰れてるよい。」
「ふふ、やっぱりですか。」
明日叱られるのかな、なんて思いながら、私はクスクスと笑う。
そんな私を見下ろして、マルコさんが苦笑する。
「1人で暇だったんじゃねぇのか。」
「海を見てると時間があっという間に過ぎていきますから。
大好きなんです、綺麗な青も、吸い込まれそうになる黒も。」
「そうかい。」
マストの上部に設けられた見張り台には、それなりに強い潮風が吹いていて、海を眺める私達の髪を靡かせる。
手摺に腕を乗せて寄り掛かったマルコさんは、どこか満足そうに口の端を上げていた。
「モビーでの生活はそろそろ慣れたか?」
「はいっ、みんな、優しいし、面白いし、すごく楽しいです。」
「それならよかったよい。
あぁ、そういえば、昼間、サッチのヤツが、今度名前を誘って飲みてぇと言ってたが、
誘われたら断っとけよい。」
「え~、なんでですか。」
サッチさんとすごく仲が良いくせに、いつもあたりが冷たいマルコさんを思い出して、私はまた笑う。
初めて会ったときは、白ひげ海賊団一番隊の不死鳥だと緊張と恐怖で身体が固まった。
でも、今ではそれが嘘みたいに、私はマルコさんの隣にいると笑顔になる。
話し上手で聞き上手のマルコさんと一緒にいると、いつも気づけば何でも話してしまっている。
今夜も、どんな話の流れだったのかも思い出せないけれど、私は海賊として生きていくと決めた不安を吐露していた。
「大丈夫だよい。夢を追って生きようって決めて行動出来た名前は強い。」
「そう、ですかねぇ~…。」
「心配する必要なんてどこにもねぇさ。
名前には俺達がついてる。そうだろい?」
マルコさんは、私を見て口の端を上げる。
視線を感じた私が、マルコさんの方を向くと、目が合った。
「それとも、俺がついてると言った方がいいのかねい。」
マルコさんは気だるげな目のままで、私の心を見抜いてる。
私を見つめるマルコさんの視線に、耳まで熱かった。
カチリと重なってしまった目を、私が反らせないことだって、きっとバレてるのだ。
居心地のいい風が、私とマルコさんを生温かく包んでは流れていく。
マルコさんの長い指が、ユラユラと靡く私の髪に触れて絡む。
あぁ、またー。
1番隊に所属が決まって一緒にいることが増えると、思わせぶりな態度が、私を何度も惑わせた。
でも、私も分かっているのだ。
さっきから鼻の奥にツンとするキツめの香水で、今夜、マルコさんがここに来るまで何処にいたのか。
ナース達に愛されるばかりのマルコさんのことを、私はもう知ってる。
それでも、彼女達は綺麗だからいい。
白衣を纏って凛と立っているだけで、その場の空気を変えてしまうくらいの彼女達は、マルコさんと一時の情事を楽しむ余裕があるかもしれない。
でも、私にはない。ないのにー。
マルコさんの手が私の腰を引き寄せたとき、静かな夜の海で全てが崩れて落ちていく音を聞いた。
さっきまで違う人に触れていた手で、何を思って、私に触れるのだろう。
白髭海賊団の船の上で、ナンバー2として家族を引っ張って、どんなに手強い敵にも最前線で突っ込んでいく情に厚い男だと思ったら、気まぐれに愛想を振りまいて何人もの女の人を泣かせてる。
私は、目の前にいる男が分からない。
きっと、一生分からなくて。
だから、一生、知りたいと願いながらそばにいるんだと思う。
もし、どうしても答えが欲しくなったら、それは自由な海賊だから仕方がないのだと納得すればいいのだろうか。
マルコさんの手が、私の頬に添えられた。
そのまま、拒まれるなんて想定もしていないズルい唇が、私の唇に重なる。
初めて触れたマルコさんの唇は、とても柔らかくて、優しくて、閉じた瞼から涙が零れて落ちた。
そっと唇が離れて、マルコさんは私の頬に伝う涙の筋に気づく。
でも、気だるげな表情は、1ミリだって変わらない。
「名前は涙も綺麗だねい。」
マルコさんはそう言いながら、好きだと思い知らされて流れた涙をあっさりと拭った。
年上の彼は、私が泣いた理由にすら興味がない人です
それでも私は、あなたに落ちていくのー
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