見つけてくれたイケメンはいかがですか?~Erwin~
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「やっぱり、私の服は大きかったね。」
紅茶も残り少なくなってきた頃、スミス部長が少しだけ眉尻を下げて困ったように言う。
濡れてしまった私の服は、洗濯機で洗って、乾燥までかけてくれている。
それも、もうそろそろ終わるはずだから、もう少し待っていてくれと申し訳なさそうにお願いされて、こちらの方が恐縮してしまう。
「それで…、さっきはどうしたのかな?
会社で、何か辛いことがあったのかい?」
スミス部長が、少し聞きづらそうにしながら訊ねてきた。
あぁ・・・。
聞かれてしまうのかな、とは思っていたのだ。
でも、会社の上司に恋人に振られたショックで過呼吸になっていたなんて恥ずかしくて言えないし、だからと言って上手い誤魔化しも思いつかない。
「えっと…それは…、」
「言いたくないのなら、言わなくてもいい。
ただ…もし、会社で何か嫌なことがあったり、辛いことがあったのなら、
君の気持ちが落ち着いた時でも構わないから、聞かせてくれないかな。」
スミス部長は、とても心配そうにしながら、優しい言葉をかけてくれる。
勘違いされているのだと気づいて、罪悪感に襲われた私は、慌てて否定をした。
「ち、違うんです!会社のことではありません!
本当にただ、ちょっと…プライベートのことで…っ、
うまくいかないことがあって、それで…っ。」
「———そうか。」
必死に否定をした私に、スミス部長は少し考えるように間を置いた後に、小さく頷いた。
僅かに視線が下がると、彼の長くて重たいまつげが青い瞳を隠す。
憂いを帯びたその表情は、とても大人に見えた。
きっと、彼こそが本当の〝強い大人〟と呼ぶべき人なのだろう。
私みたいに、無理をして〝強い人〟のフリをしてる、周りの目ばかりを気にしてる弱虫じゃない。
「君の社内での頑張りは、とても評価しているよ。
素晴らしいと思っている。」
顔を上げたスミス部長が言う。
それが、何度も何度も言われてきたセリフと重なって、胸をナイフで刺されるような痛みに襲われた。
褒められているのにツライと感じるなんて、私の心はもう、無理がたたって、ほとんど壊れているのかもしれない。
「ありがとうございます。
これからも部長の期待に応えられるようにもっと頑張って———。」
「頑張らなくていい。」
「え。」
急に遮られた否定に、私は言葉を失った。
驚く私に、スミス部長は少しだけ焦ったように首を横に振る。
「いや、君の頑張りを否定したいわけじゃない。
君はとてもよく頑張っていると思う。頑張りすぎるくらいだ。
だから、前からとても心配していてね。」
スミス部長はそう言うと、両ひざの上で軽く手を握りしめた。
そして、さらに続ける。
「君は本当に努力家だ。皆がやりたがらない仕事も積極的に受け入れてくれるし、
常に新しい情報を入れていられるように勉強も欠かさないし、必死に努力している。
だからこその成果も出して、会社によく貢献してくれている。
いつも、君は本当に素晴らしい社員だと、感心しているんだよ。」
「いえ…、そんな…。当然のことを、しているだけなの、で…。」
途切れ途切れに、謙遜の言葉を押し出す。
驚いたのだ。
誰も、私の努力や頑張りなんて、見てくれていないと思っていたから。
私は、何だって出来る〝強いコ〟だから出来てるだけだって思われてるんだと、思っていた。
私が、隠れて勉強をしていることを、知っている人がいるなんて、思ってもいなかったのだ。
「でも、あんまり無理はしないで欲しい。
君が、いつか壊れてしまうんじゃないかといつも不安なんだ。」
「そんな、私は壊れるなんて、ないですよ。
無理もしていませんし、これからも頑張れます。」
上司を心配させていたことが、恥ずかしかった。
頑張っているつもりで、上司に迷惑をかけていたのだと思ったのだ。
でも、スミス部長は、無理をして嘘を吐く私に柔らかく微笑み返した。
「君は本当に優しい女性だね。
そうやっていつも、誰かの為に、無理をしてでも頑張ろうとしてくれる。」
スミス部長が私を褒めた。
皆とは違う。いつもとは違う。
初めて、私は頑張ってるって褒めてくれた。
驚いて、何と答えればいいか分からない私のことなんて、気づいてもいないのか、スミス部長はさらに「だから、ついついみんなが君を頼ってしまう。それが困ったところなんだけれどね。」と続けた。
あぁ、気づいてくれていたんだ。
だから私は困っていたことも、全部、知ってくれている人がいた。
「だから、会社の外で君が雨に打たれて座りこんでいる姿を見て
ついに壊れてしまったと思ったんだ。
いつ壊れてしまってもおかしくないくらいに華奢な身体で、いつも必死に立っていた君が、
もう立てなくなってしまうくらいに無理をさせていたんだと、反省したよ。」
もっと早く、君を守ってあげないといけなかったのに。申し訳ない———。
スミス部長が謝る。
彼は、何も悪くないのに。
あなたのせいじゃないのだと、そう言ってあげないといけない。
今こそ、私は頑張って、声を出さなくちゃいけない。
でも、涙が溢れて、喉の奥が熱くて、苦しくて、声が出ないのだ。
口を開いたら、私は子供みたいに、嗚咽を上げて泣きじゃくってしまいそうで、怖いのだ。
「彼が…っ。」
「彼?」
「君は…っ、強いからひとりでもっ、大丈夫だって…っ。
守ってあげなきゃ、ダメな彼女の…っ、そばにいてあげ、あげたいって…っ。
たった…っ、たった一本の、電話で…っ、振られても…っ、平気じゃ、ないっ、違うのに…っ。」
気づいたら、私は一番したくないことをしていた。
両手の甲で涙を拭いながら、子供みたいに泣きじゃくって、少女みたいに失恋をぶちまけていたのだ。
本当に情けない。ダサい。
子供じゃないんだから、凛としてなきゃいけない。
上司の前で、こんな姿を見せるなんて、社会人として正しくない。
でも、そんな私にも、スミス部長は優しかった。
「そうか。それはとてもつらかったね。」
ふわりと香ったのは、甘く優しい木の温もりだった。
大きな腕が私を包み込んで、広い胸板が私の涙を受け止める。
「強い姿が…っ、好きだって、言うから…っ。頑張った、のに…っ。
もっと、愛して、欲しかった、だけなのに…っ。どうして…っ。」
私は、スミス部長の胸で泣きじゃくった。
何が悲しいのか、もう自分でも分かっていなかった。
彼に振られたショックなのか、彼にも私を見つけてもらえなかった悲しさなのだろうか。
ただ、虚しくて、哀しくて、寂しくて、たまらなかったのだ。
誰かに甘えたくて、抱きしめてもらいたくて、ただただ、私の弱さ毎すべてを包んでもらいたかった。
「その男は大馬鹿者だね。君みたいな美しい女性が、自分の為だけに頑張ってくれていたのに
そんなことにも気づけないなんて。愛されているから、寂しくても、
泣きたくても、君は我儘を言わずに、ずっと頑張っていただけなのにね。」
「…っ。本当は…っ、もっと会いたかった…っ。
甘えたかった…っ。寂しいって…っ、言わせてほしかった…っ。」
自分でも気づいていなかった本心が、スミス部長の腕の中にいたら、まるで催眠術にかかったかのように零れ落ちていった。
優しい手が、私の頭と背中を撫でる。
それだけで安心して、私は私になれた。
弱い私を、恥ずかしいくらいにさらけ出せてしまったのだ。
「こんなときに、こんなことを言うのは卑怯なのは分かっているんだが、
私は本当は、浅ましくて狡賢い人間なんだ。だから、我慢できない。
どうか、言わせてくれないかな。」
「なん…っ、ですか…?」
「私なら、努力家な君も、泣き虫な君も、抱きしめてあげるよ。」
「…っ。」
驚いてビクッと肩を振るわせれば、スミス部長は、私を逃がさないみたいに、強く抱きしめた。
「君を泣かす男のことなんて、もう想わないで欲しいんだ。
私が、どんな時も君を抱きしめるよ。
どうか、私に、君を守らせてくれないかい。」
どうか———。
痛いくらいに強く抱きしめる腕とは対照的な、零れ落ちるように懇願する掠れる低い声。
今まで、彼のことを男性として見たことなんてなかった。
とても頼れる上司で、どこか近寄りがたくて遠い人だった。
でも私は、気づけば、必死に頷いていた。
だって、思ったのだ。
あぁ、この人がいいって。
抱きしめてくれるのも、守ってくれるのも、私が抱きしめてあげるのも、守ってあげるのも、私を見つけてくれた、この人がいいって———。
紅茶も残り少なくなってきた頃、スミス部長が少しだけ眉尻を下げて困ったように言う。
濡れてしまった私の服は、洗濯機で洗って、乾燥までかけてくれている。
それも、もうそろそろ終わるはずだから、もう少し待っていてくれと申し訳なさそうにお願いされて、こちらの方が恐縮してしまう。
「それで…、さっきはどうしたのかな?
会社で、何か辛いことがあったのかい?」
スミス部長が、少し聞きづらそうにしながら訊ねてきた。
あぁ・・・。
聞かれてしまうのかな、とは思っていたのだ。
でも、会社の上司に恋人に振られたショックで過呼吸になっていたなんて恥ずかしくて言えないし、だからと言って上手い誤魔化しも思いつかない。
「えっと…それは…、」
「言いたくないのなら、言わなくてもいい。
ただ…もし、会社で何か嫌なことがあったり、辛いことがあったのなら、
君の気持ちが落ち着いた時でも構わないから、聞かせてくれないかな。」
スミス部長は、とても心配そうにしながら、優しい言葉をかけてくれる。
勘違いされているのだと気づいて、罪悪感に襲われた私は、慌てて否定をした。
「ち、違うんです!会社のことではありません!
本当にただ、ちょっと…プライベートのことで…っ、
うまくいかないことがあって、それで…っ。」
「———そうか。」
必死に否定をした私に、スミス部長は少し考えるように間を置いた後に、小さく頷いた。
僅かに視線が下がると、彼の長くて重たいまつげが青い瞳を隠す。
憂いを帯びたその表情は、とても大人に見えた。
きっと、彼こそが本当の〝強い大人〟と呼ぶべき人なのだろう。
私みたいに、無理をして〝強い人〟のフリをしてる、周りの目ばかりを気にしてる弱虫じゃない。
「君の社内での頑張りは、とても評価しているよ。
素晴らしいと思っている。」
顔を上げたスミス部長が言う。
それが、何度も何度も言われてきたセリフと重なって、胸をナイフで刺されるような痛みに襲われた。
褒められているのにツライと感じるなんて、私の心はもう、無理がたたって、ほとんど壊れているのかもしれない。
「ありがとうございます。
これからも部長の期待に応えられるようにもっと頑張って———。」
「頑張らなくていい。」
「え。」
急に遮られた否定に、私は言葉を失った。
驚く私に、スミス部長は少しだけ焦ったように首を横に振る。
「いや、君の頑張りを否定したいわけじゃない。
君はとてもよく頑張っていると思う。頑張りすぎるくらいだ。
だから、前からとても心配していてね。」
スミス部長はそう言うと、両ひざの上で軽く手を握りしめた。
そして、さらに続ける。
「君は本当に努力家だ。皆がやりたがらない仕事も積極的に受け入れてくれるし、
常に新しい情報を入れていられるように勉強も欠かさないし、必死に努力している。
だからこその成果も出して、会社によく貢献してくれている。
いつも、君は本当に素晴らしい社員だと、感心しているんだよ。」
「いえ…、そんな…。当然のことを、しているだけなの、で…。」
途切れ途切れに、謙遜の言葉を押し出す。
驚いたのだ。
誰も、私の努力や頑張りなんて、見てくれていないと思っていたから。
私は、何だって出来る〝強いコ〟だから出来てるだけだって思われてるんだと、思っていた。
私が、隠れて勉強をしていることを、知っている人がいるなんて、思ってもいなかったのだ。
「でも、あんまり無理はしないで欲しい。
君が、いつか壊れてしまうんじゃないかといつも不安なんだ。」
「そんな、私は壊れるなんて、ないですよ。
無理もしていませんし、これからも頑張れます。」
上司を心配させていたことが、恥ずかしかった。
頑張っているつもりで、上司に迷惑をかけていたのだと思ったのだ。
でも、スミス部長は、無理をして嘘を吐く私に柔らかく微笑み返した。
「君は本当に優しい女性だね。
そうやっていつも、誰かの為に、無理をしてでも頑張ろうとしてくれる。」
スミス部長が私を褒めた。
皆とは違う。いつもとは違う。
初めて、私は頑張ってるって褒めてくれた。
驚いて、何と答えればいいか分からない私のことなんて、気づいてもいないのか、スミス部長はさらに「だから、ついついみんなが君を頼ってしまう。それが困ったところなんだけれどね。」と続けた。
あぁ、気づいてくれていたんだ。
だから私は困っていたことも、全部、知ってくれている人がいた。
「だから、会社の外で君が雨に打たれて座りこんでいる姿を見て
ついに壊れてしまったと思ったんだ。
いつ壊れてしまってもおかしくないくらいに華奢な身体で、いつも必死に立っていた君が、
もう立てなくなってしまうくらいに無理をさせていたんだと、反省したよ。」
もっと早く、君を守ってあげないといけなかったのに。申し訳ない———。
スミス部長が謝る。
彼は、何も悪くないのに。
あなたのせいじゃないのだと、そう言ってあげないといけない。
今こそ、私は頑張って、声を出さなくちゃいけない。
でも、涙が溢れて、喉の奥が熱くて、苦しくて、声が出ないのだ。
口を開いたら、私は子供みたいに、嗚咽を上げて泣きじゃくってしまいそうで、怖いのだ。
「彼が…っ。」
「彼?」
「君は…っ、強いからひとりでもっ、大丈夫だって…っ。
守ってあげなきゃ、ダメな彼女の…っ、そばにいてあげ、あげたいって…っ。
たった…っ、たった一本の、電話で…っ、振られても…っ、平気じゃ、ないっ、違うのに…っ。」
気づいたら、私は一番したくないことをしていた。
両手の甲で涙を拭いながら、子供みたいに泣きじゃくって、少女みたいに失恋をぶちまけていたのだ。
本当に情けない。ダサい。
子供じゃないんだから、凛としてなきゃいけない。
上司の前で、こんな姿を見せるなんて、社会人として正しくない。
でも、そんな私にも、スミス部長は優しかった。
「そうか。それはとてもつらかったね。」
ふわりと香ったのは、甘く優しい木の温もりだった。
大きな腕が私を包み込んで、広い胸板が私の涙を受け止める。
「強い姿が…っ、好きだって、言うから…っ。頑張った、のに…っ。
もっと、愛して、欲しかった、だけなのに…っ。どうして…っ。」
私は、スミス部長の胸で泣きじゃくった。
何が悲しいのか、もう自分でも分かっていなかった。
彼に振られたショックなのか、彼にも私を見つけてもらえなかった悲しさなのだろうか。
ただ、虚しくて、哀しくて、寂しくて、たまらなかったのだ。
誰かに甘えたくて、抱きしめてもらいたくて、ただただ、私の弱さ毎すべてを包んでもらいたかった。
「その男は大馬鹿者だね。君みたいな美しい女性が、自分の為だけに頑張ってくれていたのに
そんなことにも気づけないなんて。愛されているから、寂しくても、
泣きたくても、君は我儘を言わずに、ずっと頑張っていただけなのにね。」
「…っ。本当は…っ、もっと会いたかった…っ。
甘えたかった…っ。寂しいって…っ、言わせてほしかった…っ。」
自分でも気づいていなかった本心が、スミス部長の腕の中にいたら、まるで催眠術にかかったかのように零れ落ちていった。
優しい手が、私の頭と背中を撫でる。
それだけで安心して、私は私になれた。
弱い私を、恥ずかしいくらいにさらけ出せてしまったのだ。
「こんなときに、こんなことを言うのは卑怯なのは分かっているんだが、
私は本当は、浅ましくて狡賢い人間なんだ。だから、我慢できない。
どうか、言わせてくれないかな。」
「なん…っ、ですか…?」
「私なら、努力家な君も、泣き虫な君も、抱きしめてあげるよ。」
「…っ。」
驚いてビクッと肩を振るわせれば、スミス部長は、私を逃がさないみたいに、強く抱きしめた。
「君を泣かす男のことなんて、もう想わないで欲しいんだ。
私が、どんな時も君を抱きしめるよ。
どうか、私に、君を守らせてくれないかい。」
どうか———。
痛いくらいに強く抱きしめる腕とは対照的な、零れ落ちるように懇願する掠れる低い声。
今まで、彼のことを男性として見たことなんてなかった。
とても頼れる上司で、どこか近寄りがたくて遠い人だった。
でも私は、気づけば、必死に頷いていた。
だって、思ったのだ。
あぁ、この人がいいって。
抱きしめてくれるのも、守ってくれるのも、私が抱きしめてあげるのも、守ってあげるのも、私を見つけてくれた、この人がいいって———。
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