美しい月よ、臆病な心を守って
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「さぁ、僕達も踊ろうか。」
差し出された手に、あの人が私に伸ばした手がオーバーラップした。
気づいたときにはもう、触れるべきだった手から逃げるように離れてしまっていた。
驚いた顔をした彼と怪訝な顔の彼の両親を前に、私の両親が、婚約者に対してなんて失礼なことをするのだと怒りだす。
本当に私は、なんてひどいことをしてしまったのだろう———。
「ごめんなさい…っ。頭を冷やしてくるわ…っ。」
まだ怒りのおさまらない両親に私は頭を下げて、逃げるようにパーティー会場から飛び出した。
ドレスの裾を踏まないように持ち上げ、階段を駆け下りて向かった先は、古い洋館をぐるりと回った奥にある裏庭だ。
あの人と、初めて出逢った、想い出の場所。
あの夜のように、噴水は夜空に向かって咲き誇り、透明の美しい花を散らしている。
その向こうで、目を奪われるほどに美しい月が、堂々と光り輝いていた。
噴水の縁に腰を降ろし、私は月を見上げる。
今夜も、どこまでも深く続きそうな暗闇を、柔らかい月明かりが優しく照らしてくれている。
愛する人から逃げ帰った翌日、私は、両親が勧める男性とお見合いをした。
追いかけてくるのを待っていた、なんて言わない。
私はただ、あの人を拒絶した罪悪感と、あの人を拒絶するしかなかった不安から逃げる為に、愛のない婚約を受け入れたのだ。
一度だけ、あの人から届いた手紙がある。
封も切らずに、机の引き出しに眠っている理由を、あの人はきっと勘違いしているに違いない。
こんなに勝手な私のことを、あの人は許してくれているだろうか。
私が零してしまった悲しみもすくい上げて、とても丁寧な返信を贈ってくれていたあの人は、今———。
「綺麗…。」
無意識に、声が漏れる。
あの夜と、同じだ。
同じだったら、よかったのに———。
「綺麗だね。本当に君は、綺麗だ。」
それは、聞いたことのある台詞だった。
でも、その声を聞いた瞬間に、私は、あの夜の続きはもう二度と訪れないことを知ったのだ。
差し出された手に、あの人が私に伸ばした手がオーバーラップした。
気づいたときにはもう、触れるべきだった手から逃げるように離れてしまっていた。
驚いた顔をした彼と怪訝な顔の彼の両親を前に、私の両親が、婚約者に対してなんて失礼なことをするのだと怒りだす。
本当に私は、なんてひどいことをしてしまったのだろう———。
「ごめんなさい…っ。頭を冷やしてくるわ…っ。」
まだ怒りのおさまらない両親に私は頭を下げて、逃げるようにパーティー会場から飛び出した。
ドレスの裾を踏まないように持ち上げ、階段を駆け下りて向かった先は、古い洋館をぐるりと回った奥にある裏庭だ。
あの人と、初めて出逢った、想い出の場所。
あの夜のように、噴水は夜空に向かって咲き誇り、透明の美しい花を散らしている。
その向こうで、目を奪われるほどに美しい月が、堂々と光り輝いていた。
噴水の縁に腰を降ろし、私は月を見上げる。
今夜も、どこまでも深く続きそうな暗闇を、柔らかい月明かりが優しく照らしてくれている。
愛する人から逃げ帰った翌日、私は、両親が勧める男性とお見合いをした。
追いかけてくるのを待っていた、なんて言わない。
私はただ、あの人を拒絶した罪悪感と、あの人を拒絶するしかなかった不安から逃げる為に、愛のない婚約を受け入れたのだ。
一度だけ、あの人から届いた手紙がある。
封も切らずに、机の引き出しに眠っている理由を、あの人はきっと勘違いしているに違いない。
こんなに勝手な私のことを、あの人は許してくれているだろうか。
私が零してしまった悲しみもすくい上げて、とても丁寧な返信を贈ってくれていたあの人は、今———。
「綺麗…。」
無意識に、声が漏れる。
あの夜と、同じだ。
同じだったら、よかったのに———。
「綺麗だね。本当に君は、綺麗だ。」
それは、聞いたことのある台詞だった。
でも、その声を聞いた瞬間に、私は、あの夜の続きはもう二度と訪れないことを知ったのだ。