私を呼びに来たのは、なまえが生き返ったことを知っている駐屯兵の幹部の1人だった。
昨日、リヴァイがそうしたように、愛馬に乗った彼が私の手首を掴んで引き上げた。
ひどく焦った様子で、駐屯兵の彼は馬を走らせて調査兵団の兵舎へと向かわせた。
恐怖と不安で、頭がどうにかなりそうだった。
リヴァイは、ただの散歩だって、そう言ったのにー。
どうして、大怪我なんかー。
どうしてー。

「もう調査兵団は帰ってきたのか？」
「あの巨人になる小僧を使って、人類を救うとか言っておいてなぁ。」
「今回はいつもより犠牲が多かったらしい。」
「行きの半分も帰って来てないんだとよ。ほとんどが巨人の餌だ。」

シガンシナ区の通り、至るところで調査兵団の噂話が聞こえてきた。
そのどれもが、私の恐怖と不安を煽る。
彼らの話している意味が、分からなかった。
だって、リヴァイは散歩だってー。
心配することなんてないって、そう言っていたのにー。
調査兵団兵舎の兵門に入ってすぐ、転げ落ちるように馬から飛び降りた。
兵舎には、続々と調査兵達が帰ってきていた。
馬に乗っている調査兵も、荷馬車の上に横になっている調査兵も、どこかしらに包帯を巻いている人達ばかりだ。
一体、彼らに何がー。
そのときふと、荷馬車の上に目を向けてしまった私は、思わず立ち止まってしまった。

「へ…？」

自分でも驚くくらいに、空気の抜けるような声が私から漏れたー。
荷馬車の上には、幾つも積み上げられている人のカタチをした白い布があった。
白い布に黒い滲みが出来ていて、それがまるで、血みたいでー。
それなら、その人のカタチをしたものは、もしかして、人の遺体なんじゃないかってー。
まさか、そんなわけないー、そう思いたいのに、白い布の下から覗いているそれは、どう見ても人の手でー。
血だらけの、人の手でー。

「なまえ！！リヴァイ兵長は医療棟だ！！こっち！！」

駐屯兵の彼が、立ち止まってしまった私の手首を掴んで走らせる。
いやだー。
何が起こってるのー。
調査兵団の兵舎が、数日前と全然違う。
まるでお葬式みたいに、みんな顔色が悪くて、真っ青で、傷だらけでー。
白い布が、黒く染まってー。血だらけの手がー。

(リヴァイ…っ、嫌だ…っ、死なないで…っ。)

必死に走る。数日前、リヴァイが場所だけ教えてくれていた医療棟へー。
恐怖と不安で震える脚は、縺れそうだった。